ハイスクール・フリート ~深海の乙女たち~   作:みん提督

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第10話 航洋艦でピンチ

4月22日正午。硫黄島3番ドック。

 

 

「ドック注水完了、コントロールいただきました」

「了解。ドック前扉解放。固定アンカー解除」

「出航よーい」

3番ドックに出航ラッパが響く。

「出航管制接続。センター発令待て」

「こちら機関室。シャフト始動、バッテリー接続よろし、モーター回転数良好」

「かんちょ、出航準備順調だよ」

「了解。引き続き焦らず準備をお願いします」

注水された3番ドックに浮かぶのは、1週間の修理を終えて公試に出航する潜水直接教育艦『伊126』だ。

修理が長引いたのは潜水艦特有のシステムの複雑さと、ホワイトドルフィン技官の協力も受けながら実戦に合わせた改修も行われたためである。

「センター発令、出航許可。ドック内および発進航路障害物ナシ」

「……各部問題なし。すべて正常」

副長のひばりと記録員のツバメの報告を受け、翼は艦長帽を正す。

「『伊126』、出航!」

「出航!」

司令塔に詰めるクルーの復唱が艦内に伝達される。どう直してもキーキーと音を鳴らすベアリングから伝達されたエネルギーがスクリューを回す。艦の奥底から響くディーゼルの音が艦をゆっくりと振動させる。

「センター管制、R3水道へ進入せよ」

「センター管制了解。前進微速、赤黒ナシ、取り舵135」

「前進びそーく。赤黒ナシ、取り舵135ヨーソロー」

艦はゆっくりと前進しドックから離脱する。

「ドック離脱。R3水道進入航路」

管制員の響の報告を聞き、翼は次の号令をする。

「航海長操艦」

司令塔、発令所の各員が復唱する。

「航海長操艦!」

航海長の春雨の腕の見せ所だ。

「いただきました、航海長。両舷前進微速、赤黒ナシ、針路135ヨーソロー」

ドックを出た『伊126』は速度を上げ、浮標によって分けられた航路を進む。硫黄島管制が見届けた『伊126』は要塞近海で各種のテストで修理後の確認を行う簡単な航海を行う予定だった。

 

 

 

要塞を出航して3時間後。艦は水上航行を続けていた。

「電探感度良好。付近に艦影なし」

「ソナー感度良好。変温層で死角多いけど」

「無線機正常、ちゃんと繋がるの久しぶり」

「機関室異常なーし」

「発射管室問題なし!」

艦内から聞こえる報告。翼はチェックリストを片手にそれぞれの報告を受ける。

「ようやく航海に出れたね、一時はどうなるかと」

ひばりはいつも通り明るく振る舞う。上陸規制があったこの1週間もこの元気で乗り切っていた。

休養を兼ねたドック入りでいつも元気なひばりはともかく、クルーたちは元気を取り戻していた。が、『伊126』クルーは1人だけ欠けていた。

空の水測長席がそれを表していた。

「……ぬいぬいは大丈夫だよ、きっと。お医者さんも重傷ではないって言ってたし」

ひばりの励ましの言葉に翼はなるべく笑顔で返す。

「はい……うん、そうですね」

ひばりは翼の背中をさする。彼女のスキンシップには人を落ち着かせる効果がある。この数週間で何度もそれに助けられていた。

「ぬいぬい復帰までは、私が責任を持って、『126(イニム)』の目となります!」

不知火の復帰を願って水測長席に座ることは拒否していた岩渕。水測室から頼もしい声が聞こえた。

「水測もそうだけど、『126(イニム)』も色々変わったね。水雷盤が更新されたのはいいけど、主砲が10サンチ速射砲になっちゃった……」

潜水艦乗り(サブマリナー)のくせに砲にこだわる橋本は14サンチ砲のロマンが消え去ったことをぐちぐちと呟いていた。

「まぁ、10サンチの方が速射できる分多くの弾突っ込めるしいいじゃないすか。これで飛行船が来ても怖くないっすよ」

と、作戦艦の予備パーツで修理された水準操作盤をチェックする白雪。洗練された配置はこれまでよりも直感的な操作が可能になっていた。

「静音タイルの増設にデコイ射出装置追加、各部補強材の追加……改造点はたくさんあるけど1番は照明が明るくなったことかな」

「細かすぎるけどこういうの大事。ほんとに」

発令所はいつも通り賑やかだった。

 

試験航海の工程を半分ほど終えた辺り。再び不穏な影が『伊126』に近付いていた。

「発令所、電測室。小型艦が接近中。方位2-8-0、距離20km」

「近……くない?」

緊張度が上がる艦内。戦闘を何度も経験しその空気感に敏感になっていた。

「全艦警戒体制。電測、水測は直ちに不明艦の特定に当たれ。全艦急速潜航に備え」

翼は艦橋(セイル)に上がりながら命令を伝達する。そばに控えたひばりがすぐさま復唱し、慣れた手付きで各自が慌ただしく動き出す。学生として戦闘に慣れているのは異例のことだが。

艦橋(セイル)に昇ると、観測員の響が探知した方向を指差していた。

「艦長、おそらく航洋艦。艦形からして松型!」

翼が双眼鏡で覗くと同時に電測と水測の両方から報告が入る。

「こちら電測室、探知状況不良、不明艦の特定不能!」

「こちら水測室、不明艦は1000トンクラスの航洋艦と推定。まっすぐこちらに近づく!」

電測員田野辺と水測員岩渕の報告と照らし合わせる。

「確かに航洋艦……でも要塞への入港予定はなかったはず」

航洋艦はゆっくり近付いてきている。判断が少しでも遅れれば艦の安全に関わる。慎重ですばやい判断のため情報が欲しかった。

「電信室、航洋艦に呼び掛けて下さい」

「はい了解~、回線オープ……ンできない! 無線も不調~!」

皆最悪の可能性しか考え付かなかった。

「不明航洋艦接近……」

「電測、無線も不調……」

「発光信号と信号旗も反応無し!」

響が揚げた信号にも反応しない航洋艦。もはや1つしか可能性がなかった。

 

「急速潜航!」

翼の命令の直後、航洋艦は発砲した。

 

「か、間一髪……」

衝撃と急激な動作で揺れる艦内。砲声が聞こえる度に照明が明滅する。

「各部被害報告!」

各部から報告と共に悲痛な叫びが聞こえる。

「機関室異常無し!」

「発射管室異常無し! 発射管全管注水済み!」

「兵員区画軽微な浸水、今度はなんなの!」

「こちら食堂、小さなショート起きるも火災はなし! 簡単な航海じゃなかったの?!」

「各部から報告と悲鳴……」

ツバメの一言で翼は歯ぎしりする。

またしても戦闘になってしまった後悔だ。

「ダメージコントロール、被害を最小限に! 深度120、めいいっぱい潜れ、機関20秒だけいっぱい、取り舵20!」

だが、後悔ばかりで進めないことは知っている。即座に指示を出し、『伊126』は滑るように海中へ潜っていく。

「かんちょ、新装備のアレ(・・)使う?」

ひばりの提案に翼は頷く。

「もちろんです。後部デコイ射出!」

機関室に新たに設置された外部パイプ、射出口から音響デコイが射出される。本来はソナー魚雷を撹乱するための装置だが、『伊126』はこれを艦の特定位置をずらすのに使った。作戦艦も装備するもので、改修の際に取り付けられていた。

「デコイ射出完了!」

「機関てーし、舵もどーせー」

『伊126』はジェットコースターのような機動とデコイの効果で海中の雑音を生み出し、航洋艦の目をくらまそうとしていた。

行き足がかかりゆっくりと海中を滑る『伊126』。大音響でかき乱されたが岩渕は水測を続けいた。

「……艦の特定完了。長浦の航洋艦『葛』。行方不明艦の1隻です。ジグザグ航行をしている模様。本艦を見失ったと思われます」

「やっぱり……」

「感染してるのは確定か」

ツバメがパッドで情報を出す。

「……標準的な航洋艦……、ただし耳が良い」

『葛』の水測員は予備学校時代に常に水測成績トップクラスで潜水艦コースにも推薦されていた実力を持つ。

感染して身体能力が向上していれば果たしてどれほどの精度を見せるのか。

「今の機動で『葛』の予測位置と現在位置は大きくズレたはず。でもこれじゃ時間稼ぎにしかならない……」

助けを呼ぶ必要があった。

「潜る直前に送信しようとしたけど、ダメだったよ~……。水中じゃ無線は使えない~」

通信員海月の報告が上がる。

「警備艦隊に通報できれば……。単艦で航洋艦とじゃ勝負にならない」

「……20サンチがあればな……」

「水雷長、『スルクフ』じゃないんだから」

深く潜っている『伊126』に海面にいる『葛』を攻撃する手段はなかった。ゆっくり離脱を図るか静止してやり過ごすかしかなかった。

「……」

翼は策を考える。『葛』は大音響の中で『伊126』を見失っているし時間はある。

静寂に包まれる艦内。『葛』に探知されないように極限まで音を消した『伊126』はひたすらに見つからないことを祈っていた。

 

 

 

潜航から1時間。ジグザグ航行を続けていた『葛』が動き出した。

「艦長、『葛』に動き。ジグザグ航行をやめて本艦の方へ直進を始めました。8ノットから15ノットへ急増速、的針は1-7-0」

水測員岩渕の報告に発令所は緊張する。

探針音(ピンガー)は?」

「出てません」

ひばりもにわかに焦り始める。

探針音(ピンガー)がないってことはまだ正確な位置は見つかってないわけだね。でも、もし、探針音(ピンガー)を打たれたら……」

翼は艦長帽を正す。覚悟を決めた時の彼女のクセだ。

「……水雷長、魚雷戦用意」

発令所に音もなく衝撃が走る。

「艦長、敵は海面です。この深度では魚雷の命中は不可能です」

橋本が反論するが、翼の意図はそこにないことは見抜いていた。

「もちろんわかっている。……6番に音響魚雷装填してますよね?」

橋本に確認をする。

「はい、6番は音響魚雷ですが……何を?」

翼の額に一筋の冷や汗が垂れる。彼女も必死だった。

「今から私が言う文言を魚雷弾頭のソナーにインプットしてください。合図まで発射待機」

翼の意図を掴んだのはひばり以外にもいた。橋本もその一人だった。

「了解、魚雷戦用意、発射管室6番のデータを変更する、指示に従いインプットせよ」

ここまで小声で、音を出さぬよう静かに静かに作業を続ける『伊126』クルー。その中で翼は『葛』にまで聞こえそうな心臓のうるささに耳を塞ぎたくなっていた。

(鳴るな……鳴るな、心臓! 『葛』に聞こえてしまう……! ここで聞こえてしまったら、皆が……)

制服のスカーフの上から胸を押さえつける。呼吸が荒くなる。何度実戦を経験しても、毎回のように耐えられないほどのプレッシャーが襲う。大きくはない彼女の背の震えを察知し、ひばりは静かに翼を抱き締める。

「ひばりさ……」

そこまで言ってひばりは翼の口を抑える。

「大丈夫だよ、かんちょ。深呼吸して?」

彼女と密着して、彼女の心臓の音が聞こえる。彼女の心臓は落ち着いた鼓動をうっていた。翼の心臓の音もゆっくりと同期していく。

「ね、ほら。大丈夫」

「うん……ありがとう、ひばりさん」

彼女の魔法でまた助けられた。

 

 

 

「『葛』、間も無く直上を通過します」

艦内に緊張が走る。一瞬の判断で勝負が決まる。迷う暇はない。

スクリュー音がだんだん大きくなる。スクリューが水中をかき回す独特な音が近付いている。

「6番発射用意……」

翼の命令がゆっくり小声で伝達される。

甲板の向こうに『葛』の艦影が浮かぶ。直視する気分だった。

「直上を通過します……!」

一瞬だけ静寂に慣れた耳にダメージを与えるほどの音を響かせ、『葛』は直上を通過(・・)した。

「……ば、バレてない……?」

遠ざかる音に艦内で安心感が芽生える。しかし、その時だった。

「着水音多数……爆雷です!」

岩渕がヘッドホンを投げつけると同時に翼は反射的に大声で指示を出す。

「総員、衝撃に備え!」

直後、艦のすぐ後方で爆雷が起爆した。水中に発生した衝撃波が艦に突き刺さる。

「あぁ!」

照明が明滅し、自動的に非常電源に切り替わる。ショートと浸水でダメージを受ける船体。立っていられないほどの衝撃で容赦なく壁や床に叩き付けられる生徒たち。

衝撃で艦が揺れる中、翼は次の指示を出した。

「6番発射! 発射次第急速潜航、170につけろ! いそげ!」

この指示にひばりは顔を歪める。

「なに言ってんのかんちょ!170じゃ限界深度越えるよ!」

半ば叫ぶように反論するが、しかし翼は引き下がらない。

「かまわん、つけろ!」

「う、う……うぅ、了解!」

翼の本気の命令にひばりは従った。

「ちょ、副長!」

橋本が反論しようとするが、ひばりは橋本を睨み付ける。

「いいから、かんちょの言う通りに! あいも!」

航海長の春雨は即決だった。

「わ、わかったよ! 6番発射!」

「射ったな、よし潜るぞ、つぐ頼んだ!」

油圧員白雪もほぼ自棄だった。

「あぁーー! 了解っす!」

一気に潜航する『伊126』。爆発の衝撃と限界深度を越えた潜航で船体がきしむ。

艦内各所でダメコンを行いつつ、体制を立て直した『伊126』。

「魚雷は?」

「発射成功、航走中です。しっかりソナー出てます」

「よかった……」

翼は少し安堵する。

「これで助けは呼べた。あとは……」

額の汗をぬぐうひばり。上甲板を見つめる。

「はい……。『葛』から逃げ切るだけです」

「そんなさらっと……」

潜水艦を捕捉した航洋艦ほど、厄介な敵はない。簡単に逃げ切れない難敵だ。

あれ(・・)が最速で届いたとして一番近くのピケット艦が本艦を捉えるまで最短で3時間……。3時間も爆雷に怯えながら追いかけっこなんて……」

漏れ出た油とショートした配電の焦げ臭い臭いが気にならないほどの緊張。損傷した艦で少なくとも3時間を耐えきらなければならない状態だ。

「『平安丸』の時を思い出せば……たった航洋艦1隻。今の私たちなら……たぶん」

 

 

2時間後。

 

 

「洋上で動き。『葛』が対潜シフトを変えた……?」

音が出ないように慎重に修理を行っていた翼の手が止まる。

「方位は……?」

岩渕は困惑した表情を浮かべる。

「3-1-0。的速15ノット、なおも増速。……本艦を無視し、反対側へ逃げるような動きです」

ひばりと翼は顔を見合わせる。意を汲んだひばりは戦闘準備を指示する。

「くいなっち、魚雷発射管用意は?」

暑い艦内で滝のように流れる汗を気にせず橋本は答える。

「全管用意よし。6番も通常魚雷装填済みです」

不安な気持ちを隠せず、顔をしかめる翼。静かな艦内で思考を巡らす。

「かんちょ、もしかして……」

「いや……早すぎる気も……」

2人は同じ可能性、救援が到着したことを考えていた。しかしピケット艦が気付いたとしても到着するには早い。また別の感染艦が現れ、戦闘が起こっている可能性もある。

「とにかく、今動くことは出来ない。情報収集と検証を続けましょう」

翼は積極的に動けない現状を考えて次の指示を出す。

「岩渕さんは聴音を続けてください。機関室はいつでも全力を出せるように。発射管室は咄嗟発射に備え、他部署も警戒体制を維持し、戦闘に備え」

翼の指示にクルーが動く。静かに、しかし確実に。

そんな中、水測室から報告がくる。

「海面上で爆発音! 砲撃と思われます」

「やっぱり救援? どうなのよ」

舵をとる春雨の手に汗がにじむ。暑さのそれではない、緊張と不安が彼女を覆う。それは他のクルーも同じだった。

探知(コンタクト)! 大型艦1、中型艦4。『葛』を包囲するように動いています。音紋照合します」

水測室からの報告を固唾を飲んで待つ。考えてもわからない結論を出さず、翼も結果を待つ。

海面から響く爆発音で微かに震える艦内の空気。祈るような心境の中、水測室から上ずった声が聞こえる。

「音紋照合完了……。あ、現れた艦隊は……」

声が震えている岩渕。良くない予感がしてひばりは急かす。

「あれは、なに。なんだったの、かすみん!」

それは待ち望んでいた答えだった。

「お、音紋はひゅうが型、あさぎり型、もがみ型のものです。ホ、ホワイトドルフィンの艦と思われます!」

一瞬艦内は完全な静寂に包まれる。全員が息をするのも忘れるほどだった。各員は顔を見合せ、こぼれる感情を抑えられなかった。

 

「救援です! 間違いなく、救援です!」

 

艦内は一転、歓声に包まれた。

 

 

 

 

「水中電話接続します~!」

電信員の工藤が繋いだ水中電話の受話器を取る翼。まだ歓声止まぬ艦内で、翼も安堵していた。

「聞こえるか? こちらは対潜教導団所属、フリゲート艦『くろべ』だ。そちらは無事か?」

水中電話の向こうからはホワイトドルフィン隊員の声が聞こえる。

「こちらは潜直艦『伊126』です。救援に感謝します。本艦は損傷がありますが、航行に支障はありません。本当にありがとうございます」

だんだんと気持ちが高ぶり、最後の方は少し涙ぐんでしまった。『平安丸』の時とは違う、救援艦隊がなによりも心強く感じた。

すると、ガッツポーズを決めながら横で通信を聞いていたひばりが目の色を変えて翼の方を見る。

「かんちょ! 今、対潜教導団って言ってた?!」

オタクモードのひばりに色々察し、感涙が引っ込む翼。

「言ってた……けど……?」

「や、やっぱりそうだよね、てことはあの人が……ひゅうが型ってまさか……!」

対潜教導団といえば、ブルーマーメイドとホワイトドルフィン共同の対潜訓練部隊。各艦隊から選抜された隊員と艦が配置されるエリート部隊と言われ、その戦闘力は高い。

「でも、それが何か?」

ひばりが何に興奮しているのかさっぱりな翼は首をかしげる。ひばりの興奮は収まらない。

「浮上すればわかるよ! 浮上しよ、かんちょ!」

ホワイトドルフィン隊員からの指示をあったため言われずとも浮上を指示する翼。約3時間ぶりに浮上する『伊126』。浮上した途端に我先にと艦橋(セイル)に上がるひばり。2番目に上がった翼はここで彼女が興奮する理由を察することになる。

 

浮上した『伊126』の前にはスキッパーがとりつき、感染した生徒が制圧された『葛』と、それを包囲する艦隊。のうちの1隻、艦首から艦尾まで続くフラットな甲板を有する特徴的な黒い(・・)塗装のひゅうが型が見えた。

「あ、なるほど……そういえば対潜教導団って……」

翼が言い終わらぬ内に『伊126』の真横についたひゅうが型航空巡洋艦『さつま』(BPCV-185)の甲板から人影が飛び出す。

「ほっ、とっ、たぁ!」

軽い身のこなしで『伊126』の甲板に着地した人物は、ブルーマーメイド強制執行課のパーソナルカラーである黒い制服に身を包み、さらに黒いマントを羽織っていた。肩に光る階級章は金線4本(1等保安監督官(キャプテン))。紅い目と少年のような悪巧みをしてそうな笑顔、癖っ毛を直す気もないショートヘア。どれをとっても破天荒で豪快な人物だ。

 

「まさか……まさかこんな所で貴女にお会いできるなんて!」

助かった安堵より感激で涙するひばり、に少し引きながら直立不動の敬礼をする翼。突然甲板に飛んできた彼女に乗員たちは次々甲板に出てくる。

「えぇ、えぇ!」

「なんでここに!」

「伝説のブルーマーメイドが!?」

黒い制服のブルーマーメイドは気持ち良さそうに笑う。

「伝説はよしてくれよ! こちとらまだまだ現役だぜ」

敬礼をしたまま、翼は報告する。

「潜直艦『伊126』、艦長の深海翼です。救援に感謝します……。宗谷真冬1等保安監督官!」

 

 

黒い制服のブルーマーメイド、宗谷真冬はニヤリと笑う。

「遅くなってすまない。音響魚雷に救助要請の信号をインプットするとは、考えたな、深海艦長!」

アイデアを褒められ、赤面する翼。横ではひばりが生の真冬に感激していたが、ほぼ無視することにした。

「さて、ブルーマーメイド初の潜水艦乗り(サブマリナー)とあれば、さぞ自慢の根性持ちがいるんだろうな?」

指を鳴らしながら艦橋(セイル)に飛び乗る真冬。艦首発艦レールから艦橋(セイル)までひとっ飛びする彼女の跳躍力にまた甲板で歓声が上がる。

「深海艦長! 根性注入するか!?」

スルーされてしまったひばりはこの世の終わりのようなショックを受けている。後で恨まれ口でも叩かれそうだが、今は放っておくことにした。

「お、お願いします……!」

まさか断れるような空気感ではなかった。甘んじて彼女の根性注入とやらを受けるしかなかった。

「よし、回れ右!」

真冬の号令で体が動く。中学時代の予備訓練でも死ぬほどやっていた基本行動は病的に染み付いていた。

「いいなぁ、かんちょ……」

ひばりが羨む横で、他のクルーに見守られながら根性注入の儀式が始まる。

「根性! 注……入!」

独特の掛け声と共に、翼の尻に真冬の鍛え上げた屈強な掌が刺さる。

「ひぁあぁ!?」

翼はそのまま尻を揉まれた。好き勝手に。幼なじみにもこんな大胆に触らせたことはない自分の尻を。

「かんちょ、うらやましいよぉぉぉ~~~! 真冬さんに根性注入されるなんてぇ~~~!!」

羨ましさでこれまでにないほど変なテンションになるひばりに翼は渾身のツッコミをいれる他なかった。

「どこがよぉ!!」

 

 

まもなく日が沈むという時間。夕日に照らされた『伊126』艦上で、翼は忘れられない体験をする羽目になった。

 

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