ハイスクール・フリート ~深海の乙女たち~   作:みん提督

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百合回。オリジナルキャラCPいちゃコラさせるの楽しい。


第11話 休息でハッピー

4月22日、18:30。硫黄島要塞、司令官執務室。

 

情報保全室(キミら)まで動いていたとは……コトは思ったよりも深刻だね」

デスクにかけているのは硫黄島要塞司令官青木彩。傍らには副官の神余久美が控える。秘匿化された専用回線で通信する相手は情報保全室(内外(・・)情報管理部門)室長の宗谷真霜一等保安監督監(ヴァイス・アドミラル)だ。

「えぇ、今回のRATs騒動は何かウラがあると思っています。内部勢力によるなにかが……」

画面の向こうにいる真霜は毅然としている。しかし、まだ不安を抱えてもいた。

「信じたくはないけどね……。ただ、現状は何があるかわからない。こっちもまずは人事から洗い流してみるよ」

彩の言葉に、真霜は少しだけ笑みをこぼす。

「助かります、先輩。では……」

通信が切れる。ため息をついて考えるが、良い考えはすぐには浮かばない。

「まいったね」

右腕があった場所の傷口を擦る。ナルガ海戦以来、考え事をする彼女の癖になっていた。

「要塞司令官どのがそんな弱気でどうするのよ」

久美は笑顔で励ますが、仲間にも裏切り者がいるかもわからない状況でまもなく大規模作戦も始まる。そもそも彩が不安な表情を見せるのは久美の前だけだった。

「弱気ではないさ。ただ、入港した第1護衛隊群と第1任務部隊、それぞれの乗員のデータも洗わなきゃならないのかなと思うと……気が滅入る」

ごまかすように苦笑いをする。上質な革製の司令官専用椅子の上でくるくる回る。忙しすぎて逆に暇になっている。

「滅入ってる暇はないよ、司令官どの。さ、仕事に戻りましょ」

デスクにまとめてある書類を取り、仕事に戻ろうとする久美。仕事はなんでもそつなくこなす彼女は彩が右腕を失ってからも公私共にその生活を支えていた。それ故に。

「久美」

彼女を呼び止めて顎を寄せる。

「ん? どうしたの、あ……や…………?」

顎に添えた手で、久美の唇にキスをする。

一心同体とも言える2人の関係は、恋人へと発展していた。

「……あ、ちょ、仕事中!」

あまりの不意打ちに手に取った書類を落としてしまった久美。しかしそんなことよりも仕事中に突然彩の方からキスをしてくるのは珍しいことだった。

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、彩の頭を軽く叩く久美。彩はさっきまでの難しい顔とは違い、柔らかくて可愛らしい少女のような笑顔を見せていた。

「ごめん、急に。なんか落ち着かなかったからさ、こうすれば落ち着けると思って」

悪びれる様子はなく照れる様子もなく、爽やかに笑顔で言う彩。

そんな彩を可愛いと思ってしまう度、突発的な彼女の甘えを受け入れるのがいつものパターンだった。

「あ~……もう、次からはちゃんと時間と場所をわきまえて!」

恥ずかしさで顔を真っ赤にする久美だが、彩にとっては恋人の恥ずかしそうな顔はよりそそられるスパイスでしかなかった。

「時間と場所をわきまえればいいんだね?」

彩の方がテンションが上がってきて、久美の腰に手を回そうとするがしかし、久美に手の甲を摘ままれ阻止される。

「イテッ! ……まったく、急に恥ずかしがっちゃって。昨夜なんか…………あ」

残念そうにする彩。しかし変わらず真っ赤な久美。彼女の恥ずかしさがどこから来るものなのか、久美の影で見えなかった人物を確認しようやく理解する。

そこには頼んでいた書類を持ってきた硫黄島要塞副司令官国分隆一三等保安監督監(リア・アドミラル・ロウア・ハーフ)が立っていた。彼はまったく気にも留めていないかのように淡々と書類提出を求めた。

「入港してきた統合部隊の乗員リストです」

「あ……うん、ありがとう。そこに置いといて」

書類を提出し、敬礼して部屋を出ようとする国分。ドアノブに手をかけた所でお互い恥ずかしさで真っ赤になって固まっている司令官とその副官にお節介なアドバイスを残していった。

「司令官。休憩(・・)なさるなら仮眠室でお願いします。失礼します」

扉が閉まった後、ベテランとして現場では粛々と、部下の前では堂々としている2人のブルーマーメイドは、恥ずかしさを紛らわすために女子高生のような言い合いをするほかなかった。

 

陰謀渦巻く事件の中でも、誰もが青春を過ごしていた。

それはもちろん、『伊126』も同じだった。

 

 

 

同日、20:20。硫黄島から北へ約280km。小笠原諸島父島沖、統合任務部隊仮泊地。潜水支援教育艦『剣埼』艦内。

 

「あぁ~~……極楽だぁ」

翼は『伊126』にはない大浴場につかり、艦長の責任感と戦闘の緊張感から解放されていた。

「その声は艦長か?」

そばには機関長の望月も入っている。瓶底のように厚いメガネをかけていない彼女は至近距離でも顔の判別ができなかった。

成長期の来ていない(自称)彼女の小さな体とそれに見合わないほどに長い髪をまとめて頭上にもう1つ頭が出ているようなシュールな格好の望月が近くに来る。

「望月さん?」

翼が声をかけると、ようやく誰か確信がついたらしい。

「やっぱり艦長か。アンタも風呂か、そりゃそうだよな、『126(イニム)』じゃ5分制限のシャワーしかないし、こないだの要塞寄港もなぜか知らんが上陸制限なんてついてまともに陸に上がれなかったもんなぁ、やっぱ風呂だよなぁ、風呂しかないよなぁ!」

「相変わらず元気ですね」

「おう。元気がなくちゃぁあんな油と熱で人権剥奪される最高にハッピーな機関室で働けねぇからな。な! みんな!」

皮肉たっぷりに、しかし元気よく高らかに言う望月。

その言葉を待っていたかのように大浴場の奥から5人の機関員の返事が聞こえる。

「おう!」

「わ、いつの間に!?」

静寂の中でわずかな音も見逃さない潜水艦長でも、気を計らう機関員たちの襲撃には気付けなかった。

女子専用の入浴時間である21:00頃まで、機関員と艦長の長風呂は続いた。『剣埼』の乗員と、ようやく休息時間が訪れた男子生徒たちからすれば歯がゆい夜だったろう。

 

 

風呂上がりに『剣埼』の艦尾甲板。海を眺めながら夜風に当たる翼。さっきまでの賑やかさとは打って変わり、夜の波音と風の音だけが静かに響いていた。

火照った体を冷ますぬるい風。

静かな波の音。

ゆっくり波に揺られる艦体と軋む係留索。

懐かしさも感じられる音の中に、聞きなれた足音が混ざっていた。

振り返るまでもなく、足音の正体に声をかける。

「真冬さんの話はもういいの? ひばりさん」

足音の主、副長のひばりはやっぱりといった表情で翼の横にスムーズに移動する。手には2本のラムネ瓶が握られていた。

「もっとお話したかったのは山々だけど、迷惑もかけられないし。でも良い話が聞けたよ」

笑顔で翼のことを見つめるひばり。月明かりに照らされた彼女の笑顔は月のそれをはるかにしのぐほど眩しかった。

「でも、バレちゃったか~。かんちょに気付かれないように近付いてたつもりなのに!」

悔しそうに地団駄するひばり。かわいらしい怒りの表現方法に思わず笑みがこぼれる。

「ここ2週間ずっと隣にいてくれてるんだもん。そりゃすぐわかるよ」

当たり前でしょ。との枕詞にひばりは頬を赤らめる。

「いやぁ、それほどでも~。かんちょも幸せ者じゃないか、こんな献身的な副長がいてくれて!」

鼻高になって得意気に言うひばり。その様子がさっきからコロコロ変わって、航海中とはまた違う彼女の姿が見えている気がした。

「しかし……まだ(・・)2週間か。……あんなに色んなことがあったのにね」

ひばりは酒保で調達してきたラムネを手渡す。翼は礼を言って受け取り、ラムネを一口飲む。

「2週間……本当にいろいろあったね。『平安丸』に砲撃され、航洋艦から追尾され……『U-2501』と水中戦になり、要塞に逃げ込み……と思ったらまた航洋艦に襲撃され……こうして今、ひばりさんとラムネを飲んでいることがまるで奇跡みたいに感じられる……」

いつになく真剣に話を聞いているひばり。しかしフッと表情を緩ませ、星の海を見上げる。

「かんちょのおかげだよ。かんちょが頑張ってくれたから、私たちクルーはそれに応えて、ここまで来れた。それは間違いないよ、かんちょ」

その言葉に、翼は水面を見つめていた目線をひばりへ向ける。彼女の横顔はいつもの笑顔だった。だが、月明かりに反射する海面からの光を受け、キラキラと輝いていた。

彼女の横顔に見惚れていた。

「どしたの、顔真っ赤だよ?」

しまった、見つめすぎた。あんまりキレイだから見惚れてたなど言えず、ただ首を振ってごまかすしかなかった。

「う、うぅん! 湯上がりだから、まだちょっと暑くて……! だ、大丈夫!」

「ホント? ならいいけど……」

心配されるほどに自分の顔は赤くなってるのか、自問自答してもわからない。

しばらく2人で夜空を見上げるか海面に反射する月明かりを眺めていたが、話題を探していたひばりが質問をし始めた。

「そういえば、さ。かんちょはどうして潜水艦に乗ろうとしたの?」

急な質問に驚くが、確かに気になる話題でもある。ラムネを一口飲み、少し思案を広げてから答える。

「私は……おとうさんが潜水艦乗り(サブマリナー)だったから……かな。ありきたりだけど、一番大きな理由はこれかな」

目を細めて懐かしそうに言う翼。

ラムネ瓶の中のビー玉がコロコロと転がっている。

「じゃぁ、私と似てるね。私の場合はあにきだけど。……ところで……もしかして、だけど……かんちょのお父さんって……」

申し訳なさそうに話題を繰り出すひばり。ブルーマーメイド、潜水艦オタクな彼女にとって、翼に出会った当日から気になっていた話題を切り出すか迷っていた。

翼がひばりの方を見ると、踏み込みづらい問題だと察したひばりが目を背ける。今まで見たことがないほど彼女が悲しそうにしていた。

「ごめん。なんでもない……」

ひばりが言いたいことを察した翼。質問をされたからには。ひばりがほぼ気付いているなら。ここではっきりさせることにした。

手すりを握る手に力がこもる。

「……ホワイトドルフィン第2潜水隊群所属。潜水艦『はるなみ』元艦長、深海守…………そう、おとうさんは死んだ()潜水艦乗り(サブマリナー)……」

ひばりの表情が強張る。これまで彼女が見せたことの無い不安と、翼のデリケートな問題を掘り起こしてしまった後悔と罪悪感を表情に表していた。

「ごめんなさい、かんちょ! ……その、思い出させようとしたわけじゃなくて、本当にごめんなさい……!」

彼女の本気の謝罪だった。翼にとっては単なる過去の告白。謝られるものではなかった。

「いいの、謝らないでひばりさん……! もう、ずっと昔のことだから……」

それから翼は独り言のように父と自分のことを話し始めた。

父は自分にいろいろなことを教えてくれた。

難しい言葉、海の生物の見分け方、海の音、仕事のこと、母を怒らせた時の謝り方、……そして、海はずっとずっと広く、深い深海で世界は繋がっている。父はそんな深海で仕事をしていること。

父の背中を追って。当時は見えなかった父の見ていた景色が見たくて。ブルーマーメイド初の潜水艦乗り(サブマリナー)になる道を選んだこと。今はこんな状況だが、潜水艦乗り(サブマリナー)として父の見ていた景色が見えそうなこと……。

飲み終えたラムネ瓶のビー玉を見つめる。悲しそうに、しかし穏やかな笑顔の翼を見て、話を静かに聞いていたひばりがゆっくりと話す。

「それが……かんちょが潜水艦に乗る理由?」

「うん」

海に、潜水艦に父の姿を見ている翼。今は必死に父が見えていた景色を探していた。

しばらく2人は無言の時間が続く。波音を聴きながら、今度は翼が質問を返す。

「ひばりさんは?」

「え?」

急に質問され、面食らうひばり。

「私が答えたんだから、今度はひばさんが答える番。潜水艦に乗ろうとした理由!」

まだ口をつけていないラムネ瓶を遊ばせながら答える。

「うーん、……私は、明確にこれだ!ってエピソードがないなぁ。ウチの両親はプラントの技術者で、生まれも船上で、あにきは潜水艦乗り(サブマリナー)になって……小さい頃からずっと海で暮らしてて、気付いたら海のことに興味を持っていて、そこからブルーマーメイドや潜水艦にハマってた……って感じかなぁ…………ってわぁ、こぼれた!」

話しながらラムネ瓶を開ける。吹き零れるラムネに翻弄されるひばりを見て翼は笑みをこぼす。

「慌てすぎ……! お兄さんが潜水艦乗り(サブマリナー)だったの?」

濡れた制服のシミを気にしながら答える。

「うん。うちのあにきさ、どういうわけだかある日突然、ホワイトドルフィンになるって言い出して……親にも相談せずに長浦校の試験受けたんだよあのあにき!」

ひばりの兄、草川はやて。彼女は持ち前のブルマーオタクとしての知識も交えながら、兄のことを紹介した。

昔から運動神経抜群の文武両道だったこと。

兄につれ回されて男子に混じって遊ぶ内に兄から色々なことを教えてもらったこと。

ホワイトドルフィンになると言い出した時、出きることなら同じホワイトドルフィンになって、兄と共に海へ出たいと思うようになったこと。

ホワイトドルフィンになったあとはどんどん功績を上げて、ナルガ海戦でも活躍したこと。

今は長浦校の教官であること。

硫黄島要塞司令官の青木とは戦友であること。

兄から潜水艦のことを聞き、自分も潜水艦乗り(サブマリナー)になりたいと思うようになった。

だから、ブルーマーメイド初の潜水艦乗り(サブマリナー)育成のための特別クラスにはすぐに飛び付いたこと……。

ラムネを飲み干すまで2人はこれまでの話に花を咲かせていた。

 

 

「……と、まぁ、あにきからは色々な話を聞いたけど、やっぱり潜水艦の魅力は乗ってみなきゃわからないね。ここ2週間でよぉっくわかったよ」

「間違いないね」

彼女とこれほど長く話したのは初めてかもしれない。

月明かりに照らされて、真っ暗な波間に反射してキラキラと光る。キレイな光景だった。

「潜水艦って想像の500倍は大変だったね。狭いし、臭いはキツイし、閉塞感……っていうのかな。正直キツくてやってらんないけど、でも、あの空間だからこそわかるものというか……みんなで一つ、ワンチーム! ってのが伝わってさ、そこがいいと思わない、かんちょ!」

ひばりはキラキラした目で潜水艦への愛を語る。オタクとしての眼光に少したじろぎながら首肯する。

「うん。……真っ暗な海の中で、密閉された空間で……本当はすごく心細くて怖いはずなのに、なぜか安心できる。ディーゼルの音や、海の音を全身で聞けて……。人の温もりが直に伝わるのが……ひばりさん、だからかな。いつも横にいて、支えてくれて……副長がひばりさんでよかった」

本心を伝える。何度彼女の温かさに助けられたかわからない。孤独なはずの潜水艦で、孤独を感じなかったのは彼女のおかげだ。仲間たち全員の力があって艦は動く。そして艦長である自分は副長であるひばりに支えられて動く。

「か、かんちょ……?」

副長として、友人として、ひばりに向ける感情は特別なものだと自覚していた。

そんなことを考えながら、全力の笑顔でひばりに一番伝えたい言葉を伝える。

 

 

「ありがとう、ひばりさん。これからもよろしく!」

 

 

呆気にとられるひばり。遅れて赤面する彼女が愛おしく見えてしょうがなかった。

「き、き、き、急に何! かんちょ! 恥ずいよぉ……」

赤面した顔を隠す彼女がなぜかおかしくて、翼は腹を抱えて笑った。

照れ隠しと笑われた恥ずかしさが相乗し、ひばりはよくわからない小さな叫び声をあげながら全身で感情表現するしかなかった。

 

たった15歳の若き潜水艦乗り(サブマリナー)コンビの月夜の逢瀬は、『剣埼』の当直生徒に発見されるまで続けられた。

 

『伊126』での航海中は得られなかった、2人きりの密な時間は、2人の心理的な距離を大幅に縮めることになった。

 

 

 




次回はまた戦闘。
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