間違いなく今の私では殺される。
そう確信出来るだけの実力差がこちらとあちらに存在する。
だから、まだこちらの脅威があっちに伝わる前に会話で時間を稼ぎつつ、あの地面に倒れている大魔族2人を吸収する。
それが生き残るための唯一の手段。
それにしても、最初に見たときから思っていたが、あのエルフ……何処かで見た覚えがあるような?
多分、この世界ではない、私の前世の記憶の中にあるような……っ!?
「
とっさに魔法が飛んでくる気配を感じ、地面を隆起させてエルフが撃ち込んでくる魔法を防ぐ。
どうやら、あちらはこっちと会話する気が一切ないようだ。
さらに続けざまに2発3発と大魔法といえるレベルの魔法が飛んでくる。
だが、まだ対処できる範疇にある。しかし、このまま時間を掛けていればあの大魔族の死体は完全に消え去ってしまう。
「ここは攻勢に打って出るしかないか。
狙いを定める必要はない。目くらましと足止め程度の役割さえ果たせれば問題はない。
それでも、効果は精々が数秒もあるかどうか、走って間に合う距離ではないな。
「
走って間に合わないのなら、魔法使いらしく魔法で解決すればいい。
一瞬で大魔族の死体の傍まで飛んだ私はそのまま即座に
それと同時に、上空から雷と炎の合成による魔法が落ちる。
♦︎
「……死んだか?いや、これは……」
高威力の魔法が着弾した為に、その場には大量の砂煙が舞い踊っているため目視では確認できないが、その砂煙の中で確かに魔力を持って動く存在がいるのを感知する。
追撃で更に魔法を撃つか?いや、まずはあの魔族の正体を明らかにせねばならない。
これは理屈ではなく、今まで数多くの魔族を殺してきたが故の自身の勘によるものだ。
反撃がくるのを警戒して、いつでも魔法を撃てる準備をして待ち構えていると、砂煙の中から多少汚れてはいるが、無傷の状態の魔族が姿を現した。
「今のは死ぬかと思ったよ、流石は大魔族3人を相手にして勝ち残ったエルフと褒めるべきかな?」
上から目線の言葉に頭にきそうになるが、小さく息を整えて、冷静さを取り戻しながら、ごく自然に会話を始めることにする。
まず最初の会話の糸口はどこか探るかと考えて相手を観察すると、魔族がする筈も無い魔力を制御して弱く見せる偽装をしているのがすぐに分かった。
「不思議だ、お前は魔族だろ?なのに何故お前は魔力を制御して自分を弱く見せている。それも、そんなバレバレで下手くそな偽装を……?」
「はははは、下手くそなのは勘弁してくれないか。私たち魔族は君の知っている通り、こういう小細工はしない種族でね。誰かに教わる事なんてないから、ご覧のとおり不細工な出来になってしまうのだよ」
本当に何なんだこの魔族は?今まで出会ってきた魔族の中で最も人間味が強い。
こちらに対する警戒心もそうだ。さっきの奴らもそうだが、魔族というのは基本的にこちらを警戒はしていてもその眼はどこか見下しているような、無感情な瞳をしている。
だがこいつは違う。こちらに対する警戒はしているものの、その眼は対等な者と話をする人間のものと同じ。
まるで、魔族の皮を被った人間を相手にしているような錯覚に陥る。
「魔力による上下関係のみが絶対であり、誇りとしているお前たちが魔力を包み隠す。これは明らかな異常だ」
「まあ確かに、私は特別……というより特殊な存在だから異常と言えば異常なのだろう。だかね、私はこう考えているのだよ。敵を知り己を知れば百戦危うからず、ならば逆に己を知り敵を欺くのもまた百戦危うからずとなるのではないかとね」
くっくっく、と笑いながら得意げに語るこの魔族に苛立ちを覚えるが、会話に乗ってくれるというのならばこのまま相手の情報を引きずり出すことを優先するとしよう。
「お前のような魔族が他にもいるのならば脅威だな」
「いやいや、先程も言ったように、私が特殊なだけで他の魔族ならこのような行為は唾棄すべき卑怯者の手だと吐き捨てるだろうさ」
ひとまず、この魔族以外は魔力の隠蔽を行わない?いや、魔族の言葉など信じることは出来ない。
これは後で弟子にでも命じて調査を行うことにしよう。
「さて、これ以上の会話はもういいだろう。君もいい加減こちらに隠しながら魔法を構築するのも疲れただろう」
「お見通しか……」
隠蔽魔法を同時展開しながら、背後で静かに準備していた魔法を発動させる。
それにより、数十もの数の雷、炎、氷、石礫が魔族に襲い掛かる。
「塵一つ残らず消し飛ばしてやる」
静かな殺意が乗った一言が魔法と共に魔族へと飛んでゆく。
♦
ようやく会話をしてくれたと思ったら、その背後から静かな
ここに突っ込む前に発動させた魔法によるバフを受けていなければ気が付かないレベルの高次元の隠蔽魔法。
喰らえば確実に大ダメージは避けられないであろう魔法の数に背中に冷や汗が流れる。
これ以上会話を伸ばしたところであちらの殺意は薄れることはないだろう。というか、むしろ会話を続けていくうちに向こうの警戒心と殺気がドンドン高まってきているような?
そんなに可笑しなことは……言ったな。
油断や慢心が常である魔族が小細工に走る。危機感が余程欠如していない者ならばその危険性は語るに及ばずだろう。
いかんな、私も種族特性に引っ張られて油断していたか。
まあそれもアインズ様も原作で時たまやっていたし、これくらいのポカならば逆にセーフというやつではないだろうか?
しかし、これ以上裏でコソコソとこちらを殺す為の魔法を準備されるのは心臓に悪いし、ここいらで会話を断ち切らせてもらうとするか。
「さて、これ以上の会話はもういいだろう。君もいい加減こちらに隠しながら魔法を構築するのも疲れただろう」
「お見通しか……」
会話が終わったと同時に、躊躇なく後ろで控えてあった魔法が一斉にこちらに飛んでくる。
いや、本当にいくらなんでも殺意が高すぎないか!?
だが、そちらが陰で隠れて魔法の準備をしていたように、こちらもなんの備えもしていなかったと思うなよ。
「《サモン・アースエレメンタル/大地の精霊召喚》」
アインズの背後に巨大な土で出来た重装歩兵のようなゴーレムが出現する。
この世界に魔力があるのなら、それに類似する精霊と呼べる概念があるのではないかと考えて編み出したのが召喚魔法という名の造形魔法だ。
これは自然の力を魔力によって物質化して形を造り上げ、召喚という形式を踏むことで自身に付き従うサーヴァントを作り上げる魔法。
この魔法の難点は発動して形になるまでに時間が掛かることと、魔力の消費が激しいという2点だが、どちらも会話による間の時間と大魔族3人の吸収によって得た魔力によって両方の問題は無くなった。
今回は大地の力、土のエレメントを利用して造り上げた正真正銘のゴーレムだ。
大剣と鎧を装備したゴーレムがこちらへ襲いくる魔法の雷、炎、氷、石礫を全て斬り払う。
「よし、上手くいったな」
召喚したゴーレムの強度は魔法に対する耐性に全振りしており、更に武器には同じく魔力を付与することで切れ味を極限まで高めている。
相手が放ってくる魔法の質も悪くはなく、むしろ最上級に近いものを惜しげもなく使ってきているが、そんなものはこのゴーレムにとってはそよ風と同じだ。
これで実質、2対1の構図となった訳なのだが、あのエルフからは焦りも緊張も感じ取れない。
ただ単純に顔の表情筋が死んでいるからというわけではないだろう。
きっと長い戦いの年月で積み重ねた経験で知っているのだ、勝負というものは冷静さを欠いた者が負ける。
それも命を賭けた勝負であれば尚更に……。
「やはり、強敵だな」
「なら、さっさと死んでくれるかい?」
「いや、生憎とここで死ぬ予定はないので遠慮させてもらうさ」
ゴーレムを前衛とし、後方から私が魔法による攻撃を行う。
基本的な戦術ながら、下手な小細工戦術よりも、こういったシンプルな策が一番打破しにくいというのを私はよく知っている。
現にこうして彼女はこちらに攻めあぐねている。
だが油断は禁物だ。彼女は大魔族3人を無傷で仕留めた紛れもない猛者だ。この間に何か企んでいるという可能性も無い訳ではない。
「少し派手にいくか、
天からの裁きともいえるような、無数の雷が落ちる地獄絵図が一瞬にして生み出された。
大地は砕け、空気は熱され、森の木々は轟々と燃え上がっている。
それが約1分程の時間、地上に降り注ぎ続けた。
常識的に考えれば、こんな地獄のような光景に変える魔法を受けて生きていける者は存在しない。
そう、常識の範疇にいる者ならば……。
「やはり、とんだ隠し玉を仕込んでいたものだ」
「見様見真似だが、中々便利でいい魔法だね」
辺り一体が焼け野原となった場所に、薄らと透けている風で出来た私のゴーレムとそっくりな代物が彼女を守っていた。
よもや、たった一度見ただけで私の魔法を理解し、風のエレメントを魔力で物質化して召喚でパスを繋いで使役させたというのか!?
私が言うのもなんだが、見ただけで模倣出来るとかチート能力過ぎないだろうか?
やはり彼女がこちらを攻めあぐねていたのは、こちらの布陣が強固だからではなく、彼女がアレを作り出す片手間で攻撃してきていたからか。
もしあのまま無駄な攻撃を続けていたら、より時間を掛けて強化したアレで私のゴーレムを破壊し、その間に無防備となった私は彼女の魔法によって重傷あるいは消滅していたかもしれない。
とはいえ、現状もそこそこヤバイ展開だ。こちらの複数ある切り札の1つをこうも簡単に模倣されてしまった。
あちらの手札もまだ把握しきっていないのに、こちらのカードを取られたのは痛いな。
これで2対1の構図が2対2の構図へと変えられてしまった。このままではジリ貧で先にこちらが力尽きる可能性が高いだろう。
さて、どう出るべきかな?
「とりあえずは、彼女が召喚したアレ……風を元に作り上げているのならばゴーレムではなくシルフィードってとこか」
「ふむ、シルフィードか……。いい名前だね」
「お褒めに預かり光栄だ」
シルフィードの名前の由来は前世のゲームかアニメの記憶だが、褒めてくれるならば素直に受け取ろう。
しかし、ゴーレムでは私の魔法で召喚したシルフィードには対抗しきれない。彼女のことだ、こちらの召喚したゴーレムの特性を未だに見抜いてしないという事はないだろう。
こいつは彼女の魔法への絶対耐性を上げるために物理攻撃には弱い構造になっている。
だが、単純に物理攻撃で攻めてこようとも、魔力によって切れ味や攻撃力を上げているゴーレムの大剣によって防がれる。
だからこそ、最も速度を叩き出せる風のエレメントを選択したのだろう。
最速で一撃を叩き込む。それがこのゴーレムを倒す最善手である。
(殺るのなら好きにすればいい、私の本命はこれではないのだから)
さあ、どう攻めてくる?
結構中途半端なタイミングで切ったけど、連続投稿だから許してくれるよね。