アインズ・ウール・ゴウンになりきる。そう決めたあの日から、その為に必要な強さを得る日々を送っていた。
その為に魔法の研鑽や開発、魔力を得るために同族である魔族を幾人も殺して吸収してきた。
今や私の力は誇張なしで最強に近しい位置にまで迫っている!そう確信していた。
「頂きに辿り着こうとも、更なる山の頂きは存在するか……」
「何の話?」
「いやなに、世界は思った以上に広大で、強大な力の持ち主は私以外にも案外多くいると改めて思い知っただけさ」
自らが絶対の強者であると驕り高ぶった者の寿命は短いだったか……?
今日の一戦でその言葉の意味をよく思い知らされた。
大魔族3人の死体の回収、相手がこちらと会話する意思があったこと、私が急激なパワーアップに慢心せずにアインズ様としてなりきり警戒して戦いを続けたこと。
どれか1つでも欠けていれば状況は最悪に陥っていたであろう。
「まあ、このまま指を咥えて現状を維持するなんて、甘い考えで戦えばその未来は確実にやって来るだろうな……」
「なに、急に?まさか、命乞いの準備かな?」
「いやいや、まだそれほどの窮地には立たされてはいないさ。ただ、そうだな。やる気が出てきただけだ」
命懸けの戦闘、前世では味わえなかった肌をヒリつかせるような独特な緊張感に、どうやら私はガラにもなく興奮しているのかもしれない。
そう自覚した瞬間、唐突に彼女の召喚したシルフィードが動きを見せた。
「迎撃せよ、ゴーレム!!!」
「──―ッッ!!!」
声なき声で叫びながらゴーレムはこちらに向かって飛んでくるシルフィードを迎撃する為に大剣を構えるが、愚鈍なゴーレムでは文字通り風の如く素早いシルフィードの動きを捕える事が出来ずに横からタックルをもらい吹き飛んでいく。
それを追ってシルフィードは無防備状態となったアインズを無視してゴーレムの吹き飛んだ先へ向かう。
「折角2対1になるチャンスだったのに残念だったな。まだ覚えたての魔法の操作に苦戦しているのかな?」
「いや、お前を殺すのなら私1人の方がいい……」
「それは、君1人で私を殺せると聞こえるのだが?」
「間違っているか?」
「質問を質問で返すなよ。だがまあ、君の問いに答えるならば……無理だな」
アインズ様になりきる為に強さを求めた自身の努力を笑われた。そんな気がしたからついムキになって否定と共に魔法を放つ。
「
アインズの周りに数十本もの青白い矢が出現し、それらが一斉に彼女を襲う。
数の暴力ともいえる魔法ではあるが、所詮はただの魔力で形作られただけの矢を飛ばすだけの単純な魔法だ。
それらが彼女に届く前に何かしらの魔法を使われたのだろう。
矢は彼女の目の前で動きを止め、一瞬の後に上から押さえつけられるように全ての矢が地面へと叩き落された。
よく見れば彼女の周りの空間が薄っすらと歪んでいる。
そして、その歪みは範囲を広げてアインズの元まで迫ってきた。
「っぐ!これは押さえつけられる!?いや、地面に引き寄せられているのか!!っっ、なるほど重力系統の魔法か!?」
これがどういう魔法かすぐに理解したアインズは即座にこれに抵抗する為の魔法を発動させる。
「
アインズにとって強力な魔法は?と聞かれれば、即答するなら4つ上げる。
1つは防御不能の即死系魔法、2つ目は同じく防御不能の消滅系魔法、3つ目は時間停止魔法、そして最後の4つ目は重力系魔法だ。
それらの危険な魔法をこの世界の誰かが修得している。そんな未知の可能性を考慮して、アインズはそれら4つの魔法に対抗する魔法を発明していた。
その1つが先程唱えた
これにより、敵からの重力攻撃を無効化することが可能となる。
「やれやれ、随分と厄介な魔法を使用してくれる。こちらに対抗できる魔法がなければ詰んでいたな」
「へぇ~、今のを無効化するとはね」
感心したように呟く彼女とアインズは互いに見つめあい、そしてどちらからともなく笑みを浮かべる。
恐らく互いに初めて出会ったであろう命懸けとなる強敵、その互いの邂逅に歓喜が沸き上がり、アインズはふと気になった彼女の名を尋ねる。
「そういえば、君の名はなんと言うのだ?」
「私か?私の名はゼーリエ、貴様の名も念の為に聞いておこうか?」
さて、これは素直に名乗ってもよいものか?今後の私の活動に支障をきたす可能性は大きいが、こちらが訪ねて相手が名乗ったのに無視するのがアインズ様か?
否、アインズ・ウール・ゴウンという名に誇りを持つアインズ様がそんな事をするはずがない!!
未来がどうなるか不安?私がその選択と取るようならば、アインズ・ウール・ゴウンを名乗らずにただひっそりと暮らしているさ。
ああ、いいだろう。ならば、とくと聞かせてやれ!今のこの私の名乗る名を!!!
「私の名はアインズ……、アインズ・ウール・ゴウン!!いずれ、この世界で轟くであろう伝説となる名だ!!!」
「アインズ・ウール・ゴウン?まさか魔族が人間の貴族のような真似事をするとは思わなかった」
「ははは……、確かにこの名を聞けばそのように考えるのも無理はないだろう。だが勘違いしてくれるなよ。これは私が憧れた大魔法であり、死の支配者であるかの御方の名だ。この世界には存在せずとも、私が知る限り最強にして最凶のマジックキャスターだよ」
アインズのその整った顔が、まるで憧憬の背中を眺める子供のように輝いており、魔族でなければゼーリエももっと話しをしてみたいと思わせる程に魅力的だった。
「もっと君と話しをしてみたい気はあるが、魔族と会話をして情を湧かす程、私も愚かではないのでね」
おもむろにゼーリエが杖をアインズに向けて伸ばすと、地中から丸太サイズの巨大な根っこが出現し、アインズを一瞬のうちに拘束してみせた。
「これは……!?」
恐らくは魔法で強化もしているのだろう。身体強化の魔法をバフしているアインズの膂力でも即座には破壊出来ない。
っが、あと数秒あれば根っこを破壊出来る。
しかし、その数秒をゼーリエが黙って見ていることなど許さない。
彼女はアインズが即座に拘束から逃げられない事を確信して、一度に火・風・雷・土・水の5種類の属性魔法を放つ。
「拘束を振りほどいて逃げる時間がないのならば……」
パチン!
指を鳴らした音が聞こえたと同時に、ゼーリエの視界が全く別の光景へと移り変わる。
(これは!?拘束されている?それに目の前に迫るのは私の魔法だと……!?)
いきなりの状況に立たされたゼーリエは現状を確認するだけで手一杯となり、目前まで迫りくる自身の5つの属性魔法を無防備な状態で受けることになった。
「やはり、こういった搦め手のような魔法もいくつか習得していて損はないな」
アインズが何をしたのか、それは魔力を持つモノを自在に入れ替える能力を持つ
本来は手を叩くのが発動条件ではあるのだが、魔法に置き換えることでその条件をパスすることができ、術者の認識次第で発動できるのだ。
(まあ、指を鳴らしたのは相手にそれが絶対の必要条件だと誤認させるためで、呪術の原作でもあったように、指を鳴らして発動したと思い込ませる戦術も取れるからしただけだ……)
これで仕留められたのならばそのようなてまをかける必要もなかったのだが、どうやら手間をかけたのは間違いではなさそうだ。
──―ぶわっ、と風がふぶいたと思えば体のあちこちに決して小さくない傷を負ったゼーリエがこちらを睨んで立っていた。
「やられたよ、まさかこんな手も持っていたなんてな」
「こちらも通用してくれて一安心さ。あれを喰らっていれば私がそうなっていたからな」
「ふん、こんなもの……」
パァ~っと緑の光がゼーリエを包み込んだ。すると、血や汚れは消えていないが傷は全て無くなっていた。
今のは回復魔法の類か?だが、回復は女神の魔法、それを扱えるのは僧侶の職の者だった筈だ。
ならば、時間逆行系統の魔法の応用?しかし、それならばあの体に付着している血や汚れも一緒に消える筈?
だとしたら、魔法使いでありながら、女神の魔法も使えるゲームでの賢者のような才を持っているという事か……。
「本当に……つくづくと厄介だな。攻撃も回復も自分1人で事足りるか……」
「ああ、私が1人いればすべて事足りる。足手纏いは必要ないからね」
あれほどの実力と手数を持ち合わせているのならば、あの尊大な自信と態度も納得だ。
きっと、人生で挫折などしたことがないのだろう。全てを己の才で粉砕し、常に我が道を征く。
誰もが憧れ、誰もが現実という壁にぶつかり頓挫したその道を今もなお歩み続けている。
「ああ……、憧れるよ。その強さと屈強ともいえる意思の宿った瞳。出会いの順番が違えば、私はきっとアインズ・ウール・ゴウンではなくゼーリエの名を名乗っていたかもしれない」
「魔族といえど、お前の口からその言葉を吐かれるなら悪い気はしない」
僅かな時間の付き合いではあるが、私は彼女に認められたという事になるのかな。
それは、存外に嬉しいものだ。強者に認められるというのは、自分が認められたと同義だからな。
ふとアインズはそんな事を思い、笑みがこぼれてしまうのを感じる。
そんなアインズに対してゼーリエもまた笑みを浮かべると、再びアインズに向けて手を向ける。
その行為は攻撃する意思を示しているのだが……そこに込められた感情は殺意や敵意ではなく好奇心であった。
「今度もあの入れ替えの魔法を使うなら使えばいい」
「ふふ、君を相手にそう何度も同じ手を使う程、私も馬鹿ではないさ」
これは本音だ。先程の魔法も彼女が攻撃をする立場であるからこその深層心理をついた不意打ちのようなもの。
1度通用したものが2度通用するかは別の話。もしかしたら2度目も通用するかもしれない。しかし、下手を打てば回復が出来るあちらと違ってこっちは回復が出来ない不利が後に大きく響いてくるだろう。
ならばどうするか、初見殺しの技で攻めて叩き潰す。
そんなアインズの決意よりも先に、ゼーリエが先手を取った。
「────■」
何を口にしたのかは聞き取れなかったが、本能的に感じ取った危機感が即座に警鐘を鳴らしたことで、アインズは防御系統の魔法を唱える。
「っ、
7枚の光の花弁がアインズの目の前に展開され、その直後にゼーリエの掌から深紅の燃える棘が無数に生み出され、それら全てが弾丸のように撃ちだされ、アインズの花弁の盾とぶつかりあう。
一枚、二枚、三枚……花弁の盾は次々と砕かれ、最後の7枚目までも粉々に粉砕される。
「っく、いくら伝説の盾を模倣したとはいえ、所詮は魔法によるただの再現。性能までコピーは無理か」
こちらの盾を破壊し、なおも棘の数を増やし続けていくゼーリエに対して、アインズは手を掲げながら次の魔法を発動させる。
「大元を絶たねばこちらが負けるか。ならば、防御ではなく攻撃で防ぐ!
アインズの手から放たれたのは、青白く輝く極光のような光線。それは迫りくる無数の深紅の棘を飲み込んで悉くを消し炭にして突き進む。
やがて、直線上にいたゼーリエの元まで到達するが、彼女はそれに対して生み出した棘を密集させ盾にして防いだ。
おおよそ10秒ほど、アインズの魔法が深紅の燃える棘の盾を削り、ゼーリエがそれを防ぎ続けるという光景が続いたがやがて魔法は終わりを迎える。
アインズの魔法に込められていた魔力を使い切り、光線が消えた後に残っていたのはボロボロになった棘の盾だった。
残った棘も攻撃に回せるような状態ではなく、ゼーリエは大人しく残った棘を消していく。
互いに譲らぬ一進一退の攻防は手に汗握る。後どれだけこの時間が続くのか、不安と期待が入り混じった感情のなか、アインズは次の手を考える。
一方で、ゼーリエもまた考えるのはアインズを倒す方法だが、それよりも早く状況が変化する。
「────―っ!!!」
森の奥へとゴーレムと共に消えていったシルフィードが舞い戻ってきた。
「ここにきてシルフィードが戻ってきたか。だが、ゴーレムを破壊するのに随分と力を使ったようだな。内包している魔力の底が見えかけているぞ」
どうやら、ゴーレムはちゃんと仕事を果たしたようだな。倒せはせずとも、全力で迎撃に回した結果、シルフィードの魔力は大きく失ったと見える。
あまり大した脅威にはならなさそうだが、数の優位をあちらがどのように利用してくるかによって今後の方針は変わってくる。
アインズはそう考えたが、ゼーリエはまるで違う結論に至ったようだ。
「うん、その通りだ。なら、こいつはもう不要だな」
本気でこちらとの1対1を望んでいたのだろう。ゼーリエは何の躊躇もなくシルフィードとのパスを切った。
すると、シルフィードはゼーリエとのパスが切れたことにより、魔力で形作られて肉体がまるで塵となったかのようにサラサラと風に乗って消えていった。
「随分と躊躇なく消すのだな。アレを使えばそちらが有利になるのは間違いないんじゃなかったか?」
「いいさ、さっきもお前が言ったように、もうアレには戦うだけの魔力の底は見えている。なら、下手に残しておけば足手纏いになる可能性もあるからな」
「はは、か細い見た目と違って、思い切りのよさは大したものだ」
強者らしい彼女の考え方にアインズは高笑いと共に手を差し伸べる。
「どうだ、私と手を組まないか?貴殿程の実力者ならば私は心から歓迎するぞ」
「まさか、魔族がエルフである私に手を組もうと言ってくる日がこようとはな。長生きはするものだ」
心底愉快そうに笑いながらゼーリエはアインズの差し伸べた手をはたき落とす。
「断るよ、アインズ・ウール・ゴウン。お前はここで殺す」
そう断言するとゼーリエは隠していた魔力の制御を解除する。
そして、その天にまで届きそうな溢れる力にアインズは僅かに目を見開く。
「驚いたよ。まさかここまでとはな」
膨れ上がる魔力と圧力を受け流しながら、アインズは心の底から賞賛する。
やはり、彼女は強い……。所有する魔法の数を除き、魔力と戦闘経験、それ以外でもあらゆる点で私よりも優れている。いや、もしかすれば魔法の数でも負けているかもしれない。
彼女が手を組んでくれたなら、今後の魔族喰ってでの魔力上げも格段に楽になるのだが、こうも完膚なきまで断られれば諦めもつく。
「それにしても、私に隠していた魔力を見せて良かったのかな?」
「ああ、お前は私の魔力制御に騙されないだろうし、どうせ最後までこちらが手札を温存していると考えて戦うだろう?」
「当然、勝つためにあらゆる努力を惜しまぬのが私の信条でね」
「そんなお前だからこそ、私はここで全力で戦う。誇れよアインズ・ウール・ゴウン。私が全霊をもって戦うべき敵と認めたことをな!!」
後1話で戦闘シーンは終了!!