王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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十一 謀に根回しは必須

 

 

 ディアボロス教団と名乗る宗教団体。

 王国内の騎士団達の認識は大体こんなものである。

 これまた何度も語っているが、ミドガル王国内ではディアボロス教団の脅威がほとんど認知されていない。

 だがこれは王国内に数多くの教団員が紛れ込んで裏工作を実施していたことが原因であり、真っ当な者達が知らないのも無理ない事である。

 

 現国王であるクラウス・ミドガルという男はアイリスとアレクシアの父親であるのだが、彼女達からは『事なかれ主義』と言われ、明確な証拠を提示しなければ取り合うことすらないだろうとのこと。

 だがこれは実はそうではない。

 彼は彼女達の負担を無くすことはできずとも少なくできるよう、隠れて対抗している漢であった。

 教団に関わってほしくないという父親としての不器用な気づかいではあるが、国王としての立場から考えるとこれまた難しい問題を抱えている。

 それが自国には教団に対抗できる戦力がないということである。

 

 先日行われた『シャドウガーデン』による教団への襲撃もそうだが、すでに数多くの教団員が紛れ込んでいる現状、高らかに教団への調査や討伐を命じようものなら相手も国王の命を率先して狙ってくることだろう。

 そうなれば彼を守る戦力は極少数であることを鑑みれば、結果がどんなものになるのかは火を見るよりも明らかだ。

 

 だからこそどこに教団が潜んでいるのかわからない現状、表向きは事なかれ主義の無能を演じつつも、裏では本当に信頼できる者達を密かに動かして如何にか対抗できないかを模索し続けているのである。

 

「…うむ」

 

 そんな彼、クラウス・ミドガルは目の前で行われている現状を見て、うまく言葉を口から出せなかった。

 クラウスがいる場所は城の中にある一室。

 書斎として活用しているものの、分隊ぐらいは入れるぐらいの大きさがある小部屋であり、信頼できる者達と腹を割って話す場所として重宝していた場所である。

 

 そこで普段の業務とは別に資料を取りに来た―――体で教団の情報整理を行おうとしていたところに、予期せぬ訪問者がやってきたということだ。

 

「そろそろ決断していただきたいミドガル王国現国王 クラウス・ミドガル陛下」

「うむ…うむ。わかっている…わかっているのだ…。だが、…」

 

 彼は訪問者が提示した内容が信じきれずに呻くことしかできない。

 それも仕方がない。

 教団の強大さと厄介さを理解している彼らからしてみれば、この内容は藁にも縋るものである。

 これが真実であれば、これまで必死に対抗してきた者達にとって報われるものだ。だが今まで見てきたものが全部偽りなのですと言われて、納得できるはずもないのである。

 

「我が娘が…アレクシアが、教団幹部を打倒しているなどとは…未だに信じられぬのだ…」

「ですが陛下、これが(まこと)であれば王国も非常に明るいですぞ」

「話を聞けばアイリス王女も同様の実力を有しているとか…!手を組めば今まで苦汁を飲まされてきた奴らにも…!!」

 

 それが“凡人の剣”などと蔑んでこられてたアレクシア王女は実は王国最強と名高いアイリス王女と同等の実力があって尚且つすでに幹部クラスを撃破できてますよー報告である。

 

 これまでそのような所作を見てもいない彼らにとって、全くと言っていいほどに信用の無い情報なのであるが、実際に教団を捕え、そこから抜き取られた情報が並んでいる。

 それもアレクシアのサインと指紋の押捺(おうなつ)まで添えられており、紛れもない本人が認めたものであることを示していた。

 

「埒が明かないわね」

「まぁまぁ、王国側も色々厄介事が多いということですよ。彼らはアレクシアの実力を見たこともないので、寝耳に水でしょう」

「貴方があの王女様を連れて来れば話がもっと簡単になっていたのではないのかしら?」

「流石にそれは教団にバレる可能性が高いので控えました。結構監視に来る奴らも多いもので」

 

 更にはやってきた訪問者は一人ではなかった。

 一人は王国内でも顔が結構周知されていた人物 ガイアス・クエスト。

 アレクシア・ミドガルと懇意な仲であり、一般的には恋人であると噂されている。

 婚約者候補がアレクシアにはすでにいたというのに何をやっているんだと報告当初は考えていたが、今の報告では候補であるゼノン・グリフィが教団関係者であったことが記載され、クラウスは意識を飛ばしそうになった。

 そこに加えてアレクシア直々に撃破しましたなどと聞いて冷静に事態を受け取れるものは少ないだろう。

 

 そしてガイアスと共にやってきたもう一人。

 深くフードを被ってやってきたため怪しさMAXであったのだが、フードを脱げば金髪ロングの美しいエルフの少女であった。

 教団に対抗する地下組織『シャドウガーデン』の統括者。

 “七陰”の一柱 アルファである。

 

 最初にガイアスと出会った時に少し疲れた様子をしていたのも、ガイアスがシャドウの名をじんわりと出しながら国王に直接話をつけに行こうという頭のネジが数本飛んでいる内容の為であったのだが今はさほど重要ではない。

 

「教団に陰で対抗している組織『シャドウガーデン』…もしやと思うが、先日発生した複数の建造物破壊と殺傷は君たちの組織がやったものだということか」

 

「その通りよクラウス・ミドガル。彼らはディアボロス教団の手の者だった。貴方の娘であるアレクシア・ミドガルもその時に教団に攫われそうになったようね。結果は実力をつけていた彼女に返り討ちにあったようだけれど」

「騎士団が調査を進めている中でも教団員はまだまだいます。独自に何度も潰してはいるんですが、あまりにも数が多い。故に彼女達『シャドウガーデン』とは協力関係を結んでいます。最も個人的に、ですが」

 

「『シャドウガーデン』…今我々の前に姿を現したのは、ガイアス君のお陰…ということになるのだろう。今後君たちが教団へ攻撃を加え、影響力と戦力を削ってくれることは王国としても非常にありがたい事だ。

 ただ…何が望みなのかね?」

 

 アレクシアの報告は一旦理解することをやめたのだろう。

 紙を机に置いてこちらを見据えるクラウス国王。

 対するアルファとガイアスはあくまでも自然体。

 不敬だと周囲の騎士は言いたげであるが、クラウスの一声で何も言えなくなっていた。

 

 地下組織がわざわざ危険を顧みずこちらに接触してくる事がどれほどのリスクなのかを理解できないクラウスではない。

 そのため彼らの行動に遠まわしな感謝を伝えつつも、彼らが望む要求を問いただした。

 教団を潰しても別組織が同じような事をしてしまえば、何にも問題が解決しない。この問いは非常に重要なことだった。

 

「『シャドウガーデン』は陰に潜み、陰を狩るもの。我々の目的はディアボロス教団の壊滅一つのみ。要求を貴方達に告げるのであれば、余計な手出しは不要ということ。実力が伴っていない者達が彼らと相対したところで大した結果を生むことはないわ」

 

「ぐっ…」

「…言わせておけば、と言いたいが事実なのが情けないことだ」

 

 下手な正義感など持って教団に関わってくるなというアルファの一蹴。あまりにも正直な物言いに団員達は思う所はあるが、勝てるどころかいい勝負もできていない現実を受け入れることしかできない。

 国王もその事実を素直に受け止めた。

 

「…わかった。そちらの要求を呑もう。我々は今まで通り警戒と対策に専念することにしよう」

 

「ありがとうございますクラウス国王陛下」

「理解ある判断に感謝するわ」

 

「あぁ。先ほども伝えたがディアボロス教団(奴ら)の影響力を削いでくれるだけでも非常に助かるのだ。前までは今回のように隠れて会合を開くだけでも手一杯になっていた時期もあった。だが最近になって監視や警戒の目が杜撰になってきているのだ。

 おそらく君達の行動によって相当混乱が生じていると見える。今後君達に対して悪意ある行動を見つけた場合、可能な限りこちらでも対処させてもらおう」

 

 クラウスは告げると共にガイアスとアルファに頭を下げた。

 それに習って周囲の仲間たちも頭を下げる。

 

 非公式であるため良いものの、これが部外者や教団関係者に見られでもすれば失脚してしまうぐらいに追及と口撃を行う口実になってしまうだろう。

 そのリスクを負ってでも誠意を見せるクラウスに対してガイアスはポケットから複数のアクセサリーを取り出した。

 

「クラウス国王陛下。こちらを」

 

「…これは?」

 

 クラウスは渡された物を見つめる。

 大きさは手の中に納まるぐらいの小さな装飾品。

 長方形をした木彫りの板に、何やら丸い球体が埋め込まれている形をしたものだ。

 

 ガイアスに促されて球体に魔力を流してみれば、球体が淡い光を持った。

 観光のお土産などで販売されていそうな一品に見えるものの、この場で渡す理由がクラウスには理解が及ばない。

 

「これは魔力を蓄えることで展開できる非常用の盾、みたいなものです。一滴だけ血を垂らしてもらえば使用者登録を行い、対象の身の危険に合わせて盾が展開される。と考えて貰えれば」

 

「そんな貴重アーティファクトをこれほどまで…っ?!一体君は…いや、その件を追求する場ではないな。感謝する」

 

「魔力を込めた分だけ使用時間も伸びるので、時間があれば魔力を込め続けることを推奨します。教団関係者のリストは後日お渡ししますので、参考にしてください。それでは私たちはこのあたりで失礼させていただきます」

 

「協力感謝する」

 

 軽く説明された装飾品の性能に一同が言葉を失った。

 緊急時に魔力があれば展開できるのは、政治に関わる彼らにとって非常に貴重な物だ。

 見た目も小さく持ち運びやすい。誰が見ても武器の代わりになるものでもない為、仮に検査をされたとしても引っかからない。

 この一品は重役であればあるほど身につけたくなる貴重なアーティファクトだ。

 仮に市場へ出回れば金貨が何枚、何十枚飛んでいくことになるのかは想像に難くなかった。

 

「…とんでもない者達でしたな陛下」

「あぁ…。『シャドウガーデン』とガイアス・クエスト。娘が彼と懇意にしていたのは、ここまで見越していたのかもしれんな…」

「ですがアイリス様もアレクシア様もまだまだお若い。我々が未来への負担を減らしていかねばなりませぬ」

「わかっている」

 

 二人が退出したことでいつものメンバーになった王国関係者。

 お土産感覚で渡された品の性能に驚愕しつつも、今後自分達が行っていくべき方針が決まったことで開始前よりも全員表情が明るかった。

 あまり長引かせても教団に目をつけられるために、クラウスは一旦解散していく面々の背中を見送った。

 

 自分だけが残ったこの部屋で、クラウスは婚約者候補に関して自分の娘と話し合った事を思い返す。

 始めは何故そこまで固執しているのかと考えたものであるが、彼は今、納得した。

 そして国王としてではなく、一人の父親として思う。

 

 

アレクシア()も…、色を知る年齢(とし)か…」

 

 

 跡継ぎ問題も些細な事を無視すれば、既に安泰になっているのだな…と。

 

 




 
 
・ガイアス・クエスト
 実は裏で頑張ってた国王に防御用のアーティファクトをあげた。
 球体が魔力電池になっており、溜め込んだ魔力を消費して自動で身を守ってくれる優れ物。
 市場に流せば一財産築けるのだが、そんなつもりはない様子。
 後日そのアーティファクト片手に家に突撃される事になるのだが、今の彼が知る由もない。

・アルファ
 国王と裏で協力関係を築くことにした陰の統括者。
 今回の件により『シャドウガーデン』運営に当たっての負担がほんの少し減少した。
 国王と別れた後にガイアスが渡していたアーティファクトに興味を持ち、無理を言って一つ貰って帰ってきた。
 イータに見せたら少女がしてはいけない表情で詰め寄られたため、躊躇いもなくガイアスを売った。

??「これは所謂コラテラル・ダメージというものに過ぎない。私の身を守るために必要な致し方ない犠牲だ」

・クラウス・ミドガル
 実は裏で頑張っていたパパ。
 お先真っ暗どうしようと悩んでいたところに謎の組織が接近し、協力関係を築くことを決めた英断者。
 ガイアスからもらったアーティファクトの意図を理解して今後彼らの根回しをしていくことに決める。
 
 アレクシアがガイアスと関係を切らない理由を理解して察した。

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