王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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十三 王女VS王女

 

 

 剣術大会は順調に進んでいく。

 恋人相手に剣を向ける訳にはいかないと言って辞退した者や格上を倒した者、掛け金(オッズ)通り勝ち進んでいった者など、色々な試合があったものの優勝候補と言われているアレクシア・ミドガル、ローズ・オリアナ、クレア・カゲノーの三人は特に危ない場面もなく勝ち上がっていた。

 その結果に阿鼻叫喚となっている賭博側の顧客もだいぶいるのだが、誰も気に掛けることはない。

 結局は賭け事は自己責任なのである。

  

「調子はどうだ?」

「最高ね」

 

 ガイアスとアレクシアはそんな怨嗟の絶叫が聞こえない控え室で待機していた。

 普通に考えればガイアスは部外者なので控え室に入る事は出来ないのであるが、そこはアレクシア第二王女。権威を以て笑顔でごり押していた。運営の皆様申し訳ない。

 

 控え室で待機している者達は精神を落ち着かせたり、素振りしたり、ストレッチしたりと様々な行動を取ると思われるが、アレクシアはそのどれも行わずにいつも通りガイアスと会話を楽しんでいる。

 

 ミツゴシ商会から仕入れた珈琲を優雅に嗜むその姿はまさに美麗であった。

 

 いや今はそこは重要ではない。

 彼女の対戦相手はローズ・オリアナ。

 現時点での学園最強と語られる魔剣士である。

 現学園最強と戦いに挑む者として彼女は最高のコンディションで挑もうとしていた。

 

「戦いそのものを毛嫌いしているオリアナ王国で生まれた最強魔剣士…ローズ会長はほぼ独学でそこまで辿り着いているんだから相当努力したんだろうな」

「ローズ会長はすごい努力家よ。実技の授業を見たこともあるけど、他の生徒達と比べても遥かに向ける熱量が違ったわ。何度か手合わせしているけど、悪かったところとかすぐに確認してくるのよ。

 勝ち負け関係なく教えを乞いに来れる。ローズ会長は本当に強くなれる方ね」

「なるほど…ってことはアレクシアもローズ会長の師匠ポジションにいるってことか」

 

 意外だとガイアスは思った。

 ローズ会長とアレクシアは仲が良いとは考えていたが、アレクシアが教える位置にすでに座っている事にだ。

 ガイアス個人はアレクシアの戦いはだいぶ独自性を兼ね備えたものであると思っているが、彼女自身はまだまだ改良余地があると日々修行に勤しんでいた。

 ローズ会長がそこまで貪欲なタイプだったこともだが、アレクシアもローズ会長に塩を…それも結構高級な塩を送っているとは考えてもなかったのである。

 

「聞かれたところは、になるけどね。ローズ会長の動きは独学で学んでいるから、今の私が彼女に教えられる事はそこまでないわ」

「それは謙遜じゃないか?」

「そう考えておかないと、慢心しそうな気がするの」

 

 そうは言うが、アレクシアはそんなタイプではないことを知っている。

 もしかしたらこの話をガイアスにするのが、彼女にとって気恥ずかしいのかもしれない。

 

「アレクシア様。そろそろ時間になります。ご準備の程、宜しくお願いします」

 

「わかったわ。それじゃガイアス、行ってくるわね」

「行ってらっしゃい」

 

 ドアを軽くノックされ、スタッフからの呼び出しがかかる。

 それに軽く答えたアレクシアは手早く身だしなみを整えた後、ガイアスに一言告げて控え室から退室したのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

『 それでは皆様大変お待たせいたしました!

  今大会でもおそらく注目度は1位2位を争うものでしょう!!

  優勝最有力候補である二人の魔剣士が今ここで相まみえます!!

 

  それでは入場していただきましょう!

  ローズ・オリアナ選手とアレクシア・ミドガル選手!! 』

 

 

 うぉおおおおおおお!!!

 

 

 司会のアナウンスにより、観客のボルテージは一気に上昇する。

 最優勝候補の内、二人。その二人がこの場で勝者を決める。その瞬間を自分の眼に焼き付けることが出来るのだ。これに昂らずにどうするというのか。

 

 そんな熱狂を背に二人の王女が入場を終える。

 どちらも真剣。だが表情が硬いわけではない。むしろ他の試合と比べれば自然体であった。

 

「アレクシア王女。貴女とは決勝で折角なら当たりたかったですが仕方ありません。勝たせていただきますわ」

「それはこちらのセリフですローズ王女。負けられない理由が私にもありますので、手は抜きませんよ」

 

「 両者、構えて!! 」

 

 互いに定位置へと移動し終え、剣を構える。

 審判の合図と共にこの戦いの火蓋が切られることになる。

 

(――っ。アレクシア王女…貴女は…)

 

「 始めェ!! 」

 

「「―――っ!!」」

 

 合図と同時に剣戟の音が会場に鳴り響く。

 振り、薙ぎ、突き、払い、ぶつけ合う。

 斬れると思ったら、すぐに相手の剣がこちらの攻撃を防ぐ。

 

 他生徒達から見ればすでに絶景。

 二人の実力者が全身全霊で斬りあい、その剣戟による火花が周囲を散らしている様に見えるだろう。

 

 だがその光景を生み出している一人、ローズはその中ですでに確信していた。

 挨拶程度の軽い会話。それだけでローズは感じ取った。

 

(やはり貴女は、私よりも遥かに強い――っ!!)

 

 自分と相手。

 その二人には埋めようにも埋められない経験と実力差があることを。

 

 剣を交えてからそれが顕著に感じ取れる。

 ローズが隙を作ろうと幾多のフェイントを混ぜようと、それを意に反さず本命を防いでくる。今二人が拮抗している様に見えるのはアレクシアが率先して攻めてきていないためだ。

 当然アレクシアも勝つ気概で挑んでいるので、手を抜いているわけではない。

 むしろ逆。本気で勝つために、ローズの手の内を読み切る魂胆でいた。

 牽制の一撃で倒せるならそれでよし。だがそれを捌いてくるのであれば、相応の実力を持つことを示す。故に彼女は現在守り主体で戦っているのだ。

 

(彼女が攻めに転じて来れば、私は負ける――。それならばッ!!)

「はぁぁぁああああ!!!」

 

 

『 おおっと!ローズ選手が魔力出量を更に引き上げたァ!!

  あまりの速さに(わたくし)実況、正直理解が追いついておりません!! 』

 

 

 魔力で全身をより強化し、全力で倒す。

 シンプルで一番勝率が高い方法をローズは選択した。

 地面を踏み砕きながら先ほどよりも速く、鋭い剣技は見るものを惚れ惚れさせる美しさを有していた。

 

(貴女の剣技を見て、受けてみて、わかる。ローズ王女、貴女がここまで鍛えてきた人生(努力)が。そこまで一人で辿り着くまでに、どれほど己を痛めつけてきたのか…)

 

 だが相対するはアレクシア・ミドガル。彼女はすでにその領域を遥かに超越していた。

 彼女も才ではなく、努力にて今の力を手に入れた身。だからこそローズがここまで強くなれた理由(わけ)を噛みしめるほどに理解できた。

 

(私は彼――ガイアスと出会えた。だからこそここまで来ることができた。

 人生の中で、最も幸運な出会い。それが無ければ今私はこの場にはいなかったでしょう)

 

 “凡人の剣”と蔑まれていた過去。

 それに腐心して己の剣が嫌いになっていた未来もあったのかもしれない。そうなれば確実に今の自分は存在していない。だからこそ考えてしまう。

 ローズ・オリアナ王女。

 彼女にもガイアスのような存在がいれば、今自分がいる場所にまですでにいたのではないのかと。

 

 勿論そんな簡単な話ではない。

 だが彼女はその才もあり、精神性も有している事は幾度も合わせた剣から伝わってくる。

 時間にすれば数分かもしれない。だがそれで十分すぎる程に彼女の意志と想いが伝わってくる。

 彼女が攻めきれないこの状況に焦っている事も。己の胸の違和感(・・・・・)に気づいていることも。

 

 アレクシアはローズが違和感を感じている原因を察する。

 かつて自分も経験したソレは、世間的には治療不可能と呼ばれている病と思われているモノ。

 

(師――ガイアスであれば、なんていうのかしらね。碌に考えずに『王女は、いいぞ。』なんて言ってきそう)

 

 一度聞いたことがある彼の好み。

 途中で理解を放棄したので聞き流したが、もし彼が今自分の位置にいれば躊躇いもなく手を差し伸べるだろう。

 例えそれが敵対している相手であっても、後悔しない生き方のために。

 

(『やらない善』よりも『やる偽善』…か)

「―――スゥゥゥ…」

 

「ッ!?」

 

 ローズが短期決戦を選択してすぐ、アレクシアが行動を起こす。

 守りに徹していた彼女の剣が少しずつ攻めに転じてきているのである。

 

「くッ!」

 

 胴を狙えばそれよりも早く腕を狙われ、突けば背後を取られそうになる。

 こちらの剣を完全に見切られている。

 だからこそ、アレクシアは独特な呼吸をし始めたのだ。

 

(何をするかはわかりませんが、これ以上は確実に負ける――!!)

 

 ローズはその瞬間、防御を捨てることを決めた。

 全魔力を両目と、腕と、脚、そして剣に廻す。

 相手の攻撃を、捨て身覚悟で受けて反撃することで勝機を見出そうというのである。 

 

 背水の陣の覚悟で挑みにくるローズに対して、アレクシアは周囲から音を消してしまうほどに集中していた。

 ローズが考えていたのと奇しくも同じ結論、一撃で倒す。その覚悟である。

 

 ローズは非常に優秀だ。何度も剣を交えて何度も理解できる。

 それゆえにアレクシア自身もこれ以上戦いを続けていると、抑えが利かなくなりそうだと察した。

 学園の一生徒ではない。未来を紡いでいく為に弟子を育てたかつてのガイアス()のように。観衆の面前で、一国の王女に対して不必要な対応をしてしまいそうになるのだ。

 

 だからこその一撃。

 剣に魔力が満ちていく。

 その技は秘密だぞと教えてもらった陰の叡智、その一端。

 

「ローズ会長」

 

 今より魅せるは、必殺の一撃。

 構想を聞き、独自に練り上げてきたのはこの場で使うには過剰すぎる火力。

 剣により具現化された薄い緑掛かった魔力は、まるで圧縮された嵐の様。

 

「アレクシアさん」

 

 一切の隙を見出すことが出来ないローズは、カウンターの構えを取った。

 このまま斬りかかるよりも勝機があると思ったから。

 

 アレクシアが言葉を出すと同時、自然とローズの口からも言葉が出た。

 

 

「「――――参ります」」

 

 

 地面を蹴るはアレクシア・ミドガル。

 大地を踏みしめるはローズ・オリアナ。

 

 邂逅は、一瞬。

 互いの刃がぶつかりあい、それをきっかけに最大にまで練り上げられた魔力が、留まり切れずに周囲へと拡散することになる。

 両者のぶつかり合いが魔力を更に高めあい、その奔流は激しい暴風となって観客席を駆け抜けた。

 その風の勢いに負けて多くの生徒達は視界を奪われてしまうが、その状態がすぐに回復していく。

 

 

『 こ、これは… 』

 

 

 あまりの暴風で一瞬視界が隠れてしまった実況は、目を開けた先に結末を見た。

 

「―――完敗ですわアレクシアさん」

「勝たせてもらったわローズ会長」

 

 ぶつかり合った場所よりも遥かに後方。

 そこでローズは大地に背を預けて立ち上がることが出来なくなっていた。

 ローズが握っていたであろう剣は柄から先は消滅しており、その攻撃の激しさが伺える。

 対するアレクシアは彼女の額へ剣先を突きつけ、明確な勝者であることを観客たちへ示していた。

 

「開始と共に確信しておりました。

 貴女は、私よりも遥か高みにいると…悔しいですわね。これまで共に高めあっていたと思っていた相手が、一歩二歩どころではない遥か高みにいることがわかってしまうのは…」

「貴女の血の滲むほどの努力、確かに感じたわ。一人でここまで高められるその精神力は私よりも遥かに強い…。だからこそまだまだ負けてられないの。今届かなくても、絶対に追い抜きたい人がいるからね」

 

 見上げれば、女性から見ても魅力的な笑顔を見せながら手を差し出してくるアレクシア。

 それほど高みにいても尚努力を続ける直向(ひたむ)きさに、ローズは目を閉じて笑みを浮かべながら彼女の手を取った。

 

「これからの目標が決まってしまいました。次は追いつき、追い越させてもらいますよアレクシアさん」

「切磋琢磨できるライバルは大歓迎よ。何時でも受けて立つわ」

 

 互いの健闘を称えあう。

 これからやるべきことができたが、今はこの戦いが出来たことを感謝しよう。

 競い合う好敵手()が出来たことに、アレクシアは喜びを抱いたのだった。

 

 

 

「 勝者!アレクシア・ミドガル!! 」

 

 

 

 これが“凡人の剣”と呼ばれていた彼女が、公の場にてその頭角を現した最初の一戦であった。

 

 




 
 

・アレクシア・ミドガル
 公の場でついに実力を見せた第二王女。
 ローズとの試合で彼女がどれだけ直向きに努力しているのかを直で感じ取ったことで、お節介をかけることに決めた。一体誰に似たんだろう。

 秘密ということで教えてもらった技は他にも存在するが、試合で使用したのはシンプルさが気に入っている。
 技量が上がれば刀身を隠して間合いを誤認させることもできるかもしれない。
 
・ローズ・オリアナ
 一人で頑張って学園最強になった強者。
 自分でもたまに感じる違和感程度のモノが、アレクシアに感づかれた。
 オリアナ王国は『芸術の国』と呼ばれるほどに芸術関連が盛んなため、ミドガル学園で活動を行っているベータことナツメ・カフカ先生の作品が大好き。
 
・??????
 猛者の匂いを感じた――――。
 

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