王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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十四 脳内弟と悪魔憑きはどちらがヤバいのだろうか

 

 

 私には二つ年下の弟がいる。

 普段から訓練をしてあげているんだけど、全然成長が見られない不出来な弟。だけど私にとって大切な家族。

 

 そんな弟は剣術大会に出場して、敗退した。

 対戦相手は学園最強と言われていたオリアナ王国の王女 ローズ・オリアナであり、正直に言えば弟が勝てるとは考えていなかった。

 私との訓練でほとんど成長できていないのに、私と同じぐらい強い彼女相手に勝てるはずがない。なのでその敗退に関して思う所はない。

 だがそれでも確かに成長しているところを見ることが出来た。

 

『まだだッ!!』

 

 幾度倒されても奮起し、立ち上がる精神性。

 肉体的にも悲鳴を上げているだろうに、学園最強を相手に笑みを浮かべて戦意を失わない意志。

 昔から見てきた私だからこそわかる弟の成長に、思わず涙が零れそうになってしまった。

 

 審判に止められたことで試合は終了してしまった。そのため結果は弟の敗北として終わってしまったが、あそこまで男の子としての意地を見せたのなら私的には満点だ。

 しかしそれこれは別の話。

 弟をあそこまで一方的に痛めつけてくれたローズ王女に対して、私は相応の礼(・・・・)をしなければならない。そう奮起していたのだけれど―――。

 

 

『 勝負ありッ!!

 

  勝者!アレクシア・ミドガル!! 』

 

 

 学園最強が、私の目の前で敗北した。

 

 信じられなかった。

 ローズ・オリアナという魔剣士の実力は私だって認めている。

 剣術実技でだって何度も剣を合わせてきた仲だった。故に彼女を倒すのは私なのだと考えていたのに…だ。

 

「アレクシア王女…なんなのよ…その強さ…」

 

 その彼女が一方的に負けた。アレクシア・ミドガルに。

 周囲の評価なぞ大して気にしない私ではあるけれど、彼女がこれまでどんな呼び方をされて過ごしてきたのかは知っている。

 実技中だってそこまで突出している剣技ではなかった。

 確かにローズ王女だって何度も自身の動き方なんかを話し合っていたし、私もやり取りしたことがある。

 

 でもだ。眼前の光景に対して脳が理解を拒んでいる。

  

 自覚がなかっただけで、私はアレクシア・ミドガルという剣を見下していたのかもしれない。

 そのせいで絶対勝ち上がってくると思っていたローズ王女が敗北した結果を受け入れられていないのかもしれない。

 きっと偶然が重なって起こった幸運なのだ。

 

 そう現実逃避が出来れば今、私はこんなにも悩んでいないだろう。

 

「見えなかった…」

 

 途中…否、最後以外は全部目視で追えていたのだ。

 どう動いて剣を相手に当てようとしているのか、どんな動きをすることで無駄なく回避できるのか。

 弟との訓練で何回も感じた違和感と似たようなものであるが、相手の行動を先読み出来ることがある。先ほどの試合でもその先読みは発揮されていた。

 

「なんなのよ…アレは…」

 

 それにも関わらず、見えなかった。

 アレクシアの行動が、ではない。魔力の流れ(・・・・・)がである。

 

 ローズ王女が最後に見せた全力の肉体強化のように、膨大な魔力を使用して発生させる事象には魔力の波動や波長のようなものが可視化されることがある。

 クレア自身も全力で魔力を回せば、己の身体から魔力が漏れ出てくる。

 それは人が空気を吸わないと生きていけないのと同じように、魔力を持つ者からすれば当然の理だった。

 

 それが見えない(・・・・・・・)

 

 魔力自体は使用している。そうでなければ打ち合えている証明が出来ない。だが魔力の流れが見えなかった。それなのに、暴風が生まれた(・・・・)のだ。

 

 クレア・カゲノーの視点で見てみれば、波紋もない池から突然滝が出現したようなもの。

 そんな技術は聞いたこともないし、そんな芸当が出来る人間が居たなんてのも当然聞いたことがない。

 それなのに彼女はやってのけた。魔力で最大強化された剣を消滅させる程の威力を制御しきってだ。

 

「…ッッ!やってやろうじゃないの…!!」

 

 この時点でクレア自身、どれだけ自分に不利な戦いになるかを理解せざるを得なかった。

 この剣術大会の時期になって隠していた実力を見せ始めたのか、どうやってそこまでの高みに至れたのかは重要ではない。

 好敵手を眼前で破った魔剣士相手に、どうやって勝ち抜くかである。

 

「シド―――お姉ちゃんを応援してちょうだい」

 

『大好きだよ、クレア姉さん。大会優勝目指して頑張れ!!』

 

「~~ッ、やってやるわよォッッ!!」

 

 元々思い悩み続けるなんて自分の(たち)じゃない。

 強者であるというのなら、全身全霊でぶつかっていくのみだ。

 

 脳内で生き続けている最愛の弟からの告白(エール)を聞いて今日一の気合を全身に叩き込んだ女は歩む。

 どんな結果になろうとも、弟に胸を張って語れるように。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「どうだった?」

「やはり…という感想ね。同じだわ…昔の私と」

 

「あ…あの、それはどういう…?」

 

 ローズとアレクシアの試合後の事である。

 二人は試合終了と共にガイアスの元へ合流を図った。理由は試合中にアレクシアが感じ取ったローズ会長の違和感に関してである。

 

「胸の一部に魔力が集中し始めてる。ローズ会長、貴女は今まで何度か自分の胸元――心臓あたりに違和感を感じたことはありませんか?」

 

「え…、えぇ。すぐに収まるものですが、確かに感じ取ったことはあります。それがどうしたのですか?」

 

「“悪魔憑き”に関してはローズ会長も知っていると思いますが、悪魔憑きは治療法が確立されていない忌避すべき病気として扱われています。その病の前兆として発生するのが、心臓部に感じる違和感なのです」

 

「っ!?ま、まさか…私も…?」

 

「その通りです。今診させていただいて確信しました。ローズ会長に“悪魔憑き”の前兆があります」

 

 アレクシアが試合で感じ取った魔力の流れに関する違和感。それはローズ会長に“悪魔憑き”を発症する可能性が極めて高いということである。

 

 “悪魔憑き”は奇病として世間では認知されており、ある日突然女性の体が腐りだしていずれ死に至るもの。

 なぜか男性が発症した事例は見られておらず、女性――それも種族関係なく発生する事で悪い意味で有名な病だ。

 

 その悪魔憑きになっているのだと断言されたローズ会長の顔色は急速に悪くなっていく。

 当然だが、突然自分の身体が腐り落ちて死んでしまうと言われて冷静になれるものはいない。ローズ会長も例外ではなかった。

 

「そんな…それでは、オリアナ王国は…」

 

「落ち込まないでくださいローズ会長。その問題を解決するために、私はわざわざガイアスと合流したのですよ」

 

「それは…どういう…?」

 

 動揺が隠し切れないローズを落ち着かせるように、優しく声をかけるアレクシア。彼女の瞳を見て、ローズは少しずつ落ち着きを取り戻す。

 だいぶ落ち着いたところで切り出した話題はローズにとって重要な内容であった。

 

「ここからは国家機密レベルの話になる。一切の他言無用を守れるのならば続きを話そうと思うが、どうしますかローズ・オリアナ王女?」

 

「―――…聞かせてください。オリアナ王国王女 ローズ・オリアナの名に誓って、貴方方の秘密を守り通すと誓いますわ」

 

「了解しました。では結論から言いますと“悪魔憑き”は治せます」

 

「!!」

 

 そこからローズは天地がひっくり返るほどの衝撃と情報を受けた。

 自分の常識が崩壊するのを脳裏で感じ取りながらも、一国の王女として聞き逃してはならぬと必死に理解するべく喰いついたのである。

 

 話の最中にガイアスからの治療も受ける。

 誰にも話したことはなかった胸に宿る小さな違和感。

 動悸が起きたのかなと思うぐらいの小さいものであったが、これを放置してしまえば手が付けられなくなってしまい、教会に預けられることになっていたのかもしれないのだ。

 

 教会の治療は仕方のない事だと考えていたローズにとって、裏で行われている内容は信じられない事だろう。だがこれは協力関係になっている『シャドウガーデン』が集めてきたものであり、証拠もしっかり存在している真実だ。

 だからこそ国家機密レベルとガイアスは伝えたのだ。これが教会側に知られればいくら一国の王女といえどもただでは済まないのは明白だ。それほどに『聖教』と呼ばれる宗教派閥の力は大きいものになっている。

一国の運営にも関わってくる事もあるほどなのだ。下手に突くことが出来る国家は無いほどに。

 

「悪魔憑きにディアボロス教団…そしてそれに対抗する組織『シャドウガーデン』…そしてミドガル王国。オリアナ王国もご助力できれば良かったのですが、オリアナ王国は武力をほとんど有していない国。力になりたいですが、厳しいと言わざるを得ません」

 

「そちらの組織内把握も行わなければ動くことすらままならないでしょう。ミドガル王国でも漸く対抗できるようになってきたばかり。オリアナ王国に教団の奴らがいない保証はどこにもないわ」

 

「情けないことですがその通りです。お父様が国王の座にいらっしゃいますが、貴方方の話を聞けば聞くほどオリアナ王国が置かれている状況がどれほど危険なのかがわかってしまいます」

 

 国家運営において重要な事。それは自衛のための戦力保有。

 自分達の身は自分達で護る。

 これは国家という形式をとる以上必要不可欠だと考えている。

 どれほど技術や芸術、食料生産が出来たとしても自衛能力が欠けていれば体よく使いつぶされるか全て奪われるのみ。

 

 しかし残念な事だが、ローズの母国であるオリアナ王国は戦力をほとんど持っていない。戦力となるものを嫌う節があるオリアナ王国は、自国防衛すらも同盟国のミドガル王国に依頼することもあるほど。

 それはつまり自国内の問題を自発的に解決する手段が一つ削られていることを意味しており、悪意有る者達からしてみればこれほど活動しやすい国家はないということだ。

 

「帰国の予定はどの道有りました。なので今すぐ…とは言えませんが、私はお父様へ話をしてみようと思います。私が知らないだけで、独自に活動を起こしている可能性もありますので」

 

 ローズは話を聞くまで自国の教育環境に何の疑問も持っていなかった。

 だがそれは今までの話。なるべく迅速に、これから変えていけばいいのだと意志を固める。

 

「色々見方が変わっちゃったかもしれないけど、私達はいつでも手助けするわ。特にガイアスなら教団(連中)の行動も結構把握しているでしょうし、いつでも相談してほしいわ」

「同盟国からの頼みであれば協力する。これからはアレクシアから色々習う事も多いだろうし、悩みながらでも前にゆっくり進んでいけばいい。それこそアレクシアやクラウス国王も話をすれば理解してくれるだろうからな」

 

「ありがとうございます。アレクシアさん、ガイアスさん。

 これから…色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」

 

 ローズはアレクシアと握手を交わす。

 これにより内密に、今後の世界情勢にまで影響を与えていく約束が成された。

 ローズ・オリアナ王女が自国を救いに導いていけるのかは彼女の行動次第ではあるものの、改善の道へ第一歩を踏み出したことは間違いないだろう。

 彼女には頼もしい仲間が居るのだから。

 

 

 




 
 
 
・クレア・カゲノー
 イマジナリー弟の声援を受けてスーパーハイテンションになってるヤベー女。
 しかし才と努力に裏付けされた剣技と恵まれた魔力を扱う制御力は学園内でもトップクラスに位置づけされている。
 弟のシドを溺愛しているが、LOVEというよりLIKEよりな気もするものの、傍から見れば普通に感情が重い。
 ロースVSアレクシアの戦いを見てもめげずに立ち向かう覚悟を有している。

・ローズ・オリアナ
 会話中にあっさりと“悪魔憑き”を治療されたオリアナ王国王女。
 教団や聖教の話を聞いて自国の教育方針どうなっているんだ…?と気づくことが出来た。
 悪魔憑きが治ったことでローズが保有する魔力量が更に増大。それに追加で帰国までアレクシアの元で戦い方を学ぶようになる。

・アレクシア・ミドガル
 ミドガル王国第二王女。
 ローズに裏で動いているヤベー集団の事を伝えて仲間になるように促した王女。本当は彼女も悪魔憑きを治せるのだが、確実な方法としてガイアスと合流している。
 ローズが今後教団に対抗するように動くの出れば、率先して応援とフォローを行っていくつもり。
 ローズが実質的な弟子になる。

・ガイアス・クエスト
 対して出番がなかった男。
 ローズ王女との関わりも持てたので結構嬉しい。
 この後『シャドウガーデン』のアルファとクラウス国王へローズ王女も教団に対抗すべく行動する可能性があることを伝える。

【興味本位】挿絵があったら見るのか

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  • ちくわ大明神
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