王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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十五 陰の実力者、認知する

 

 

『 ついにこの時がやって参りました! 

  ミドガル王国魔剣士学園剣術大会決勝戦っ!! 

 

  実況は最後まで(わたくし)ツギモ・カイセツがお送り致します!!』

 

 

 うぉぉぉぉおおおおおおッ!!

 

 

 剣術大会最終戦。

 決勝進出したのは二人の猛者。

 

 クレア・カゲノーとアレクシア・ミドガル

 

 片や試合中でも負け知らず。危なげなく強敵たちを撃破して決勝まで駒を進めた豪傑 クレア・カゲノー。

 

 片や最優勝候補ローズ・オリアナを破り、決勝への権利をもぎ取った王女 アレクシア・ミドガル。

 

 どちらも観客たちから見れば己より遥か上に位置する実力者であり、彼女らの試合がどのような運びになるのかを期待している者達が多かった。

 だがどちらかといえば勝敗予想はアレクシアに分がある。

 それはローズを撃破したという大金星を挙げた事と、その試合で見せた暴風かと思う程に風圧を感じ取った事である。

 

 どちらが勝つのか。

 その結末を楽しみに、彼らの目の前で二人の剣士が入場を終えた。

 

 

『 クレア選手とアレクシア選手!どちらも学園屈指の実力者!両者向かい合い冷静に相手を見定めている!!開始前からバチバチにやりあっているぞぉ!! 』

 

 

 顔見せの時間であるが、両者一言もしゃべらない。冷静に、相手を見定めている。

 審判が位置につくように促して漸く、クレアが口を開いた。

 

「アレクシアさん。貴女の強さ…聞きたいことがありますが今は置いておきます。

 ただ一つ、負けないわよ」

 

「望むところですわクレアさん。ですが私が勝ちます」

 

「~ッ、言ってくれるじゃない」

 

 クレアの宣誓にアレクシアは笑みを浮かべながら鋭く返す。

 挑発と受け取ったのかはわからないが、クレアはすぐに踵を返して定位置へと移動した。

 アレクシアが位置についたことを確認してから鞘から剣を抜き、正面に構えるクレア。

 対するは剣を右下へゆっくりと構えるアレクシア。

 

 

「 始めぇッッ!! 」

 

 

「ッ!」

「―――」

 

 全身全力。

 そう表現してしまいそうなほどに、クレアは魔力を開始の合図と共に練り上げて斬りかかった。技巧のローズですら撃ち負けたのだから、それに倣ってもこちらが負ける。

 それを理解しているからこその初手での全力。一直線にアレクシアの元へ駆け抜けてそのまま防御ごと斬り伏せる。

 その気概で振るった轟剣だったのだが、アレクシア相手には通じなかった。

 

(澄ました顔…!こう来ることがわかっていたってことねッ!)

 

 クレアがアレクシアの事をある程度理解している様に、アレクシアもクレアの性格をよく知っている。

 ローズが正面からの戦いで負けた以上、彼女であれば開幕と同時に試合を壊しにかかる事も予想出来ていた。

 

 流れるような剣捌き。あれは王都ブシン流の剣技だけではない。

 明らかに別の技術も扱っている事がクレアにも理解できた。

 お返しと言わんばかりのカウンターをクレアは避けつつ、攻め手を作らせないように多少強引な行動であっても躊躇いもなく選択する。

 臆さず選択できる事がクレア・カゲノーの強みでもあった。

 

(っ…予想よりも遥かに威力が高い。剣を弾き飛ばされないようにしないと)

 

 アレクシアはクレアの攻撃が予想よりも強いことに驚きつつも、すぐに情報を上書きした。

 今までのクレア・カゲノーだと舐めてかかれば、すぐに上回ってくるだろう。

 それほどにクレアからは鬼気とした気迫を感じ、そしてその想いに応えるように剣の重さが増していく。

 実戦とは明確に異なるルール。

 それが剣を手放した状態で一定時間経つと敗北扱いになることだ。

 

 剣術大会である以上、剣を手放すような状況に陥っている事自体が両者に明確な力量差を示す事に繋がるためこのようなルールが存在している。

 それが今回クレアにとって有利に働いているのだ。

 

(常に全力で打って出てくるクレアさんはそんな事考えてもいないでしょうが…こちらが剣を正面から弾くのは困難ですね…。アレ(・・)を使えば出来ますが…)

 

 アレクシアは逆にクレアの剣を吹き飛ばすことは困難と判断。

 魔力で全身強化した相手の剣戟の威力で飛ばすのは相当な魔力差があって成り立つ。手段自体は持っているのだが、それを使うと決めている相手がいるので使わないと決めている。

 

 自分の技量のみで戦うには、クレアが行使する魔力のごり押しには分が悪い。

 それを確信したアレクシアはローズ戦で使用した技を即座に使用する決断を下した。

 

「――スゥゥゥ…」

 

「ッ!来たわね!!」

 

「参ります」

 

 その手札を切ってきたかと言わんばかりにクレアは獰猛な表情を表す。

 前の試合で魅せたその技を打ち破らんとする気迫がヒシヒシと感じるほどに、アレクシアの攻撃を見て構えたクレア。

 アレクシアも受けて立つと言わんばかりに宣言すると共に駆けだした。

 

「はぁぁぁあああああ!!!」

 

 眼前には一つの嵐。

 それを前に、クレアは今まで生きてきた中で最も眼前に集中し、最も魔力操作と剣の振り下ろしが出来たと確信する。

 岩をバターのように軽く切り裂く程に鋭い一振り。クレア・カゲノーが誇る最高の一撃は、どんな強敵も屠ることが出来るほどに洗練され、刃から解き放たれる嵐へと導かれていく。

 幾多の風の刃を斬り伏せて、その先に見た光景は――――。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「で、私は負けたってわけ」

「へぇ~」

 

 その日の夕方。シドはクレアから伝えられた結果に対して適当に相槌を打つ。

 シド・カゲノーも剣術大会に出場し、ローズ・オリアナ相手に奮起したものの一方的に叩きのめされたことで全身包帯で巻かれている姿だ。

 だが当然の如くシドにとってその怪我は怪我の内に入っておらず、ただ一般モブが即全回復するなんておかしいという理論でそのままにしている一般異常者であった。

 

「約束したのにごめんねシドぉっ!!お姉ちゃんを慰めてぇ!!」

「約束をした覚えはないけど、頑張ったね姉さん」

 

 特に応援した記憶もないし、事の顛末を自分から聞きに行ったわけでもない。だが突撃してきたヤベー姉に自室へ侵入され、一方的に愚痴を叩かれることに呆れながらもシドは一般弟を演じていた。

 ちなみにクレアはシドが医者から4日間は絶対に安静にしておきなさいと厳命されている事は知らない。シドの胴体へタックルをかましながらベットダイブしている時点で、悔過人を労わる優しさなぞどこかへ捨ててしまったのだろう。

 

 だがシドもすべてを聞き流しているわけではなかった。

 なにせシド・カゲノーという男が目指している頂は“陰の実力者”なのである。

 

(一般的な生徒の実力を考えれば姉さんは結構いい位置にいると考えていたけど…、その姉さんをここまで言わせる程に圧倒する王女か…。確かアレクシア王女、だったっけ。ヒョロとジャガに罰ゲームの告白対象に一度選ばれていたけど、彼氏がいるとかで別の生徒に変わったんだよなぁ)

 

 シドが思い出すのは友人ヒョロとジャガで交わした会話である。

 当時テストの点で一番悪かった奴がスクールカーストトップの女性に付き合ってください!と告白する罰ゲームを実行していた。

 この時に本来であればミドガル王国王女であるアレクシア・ミドガルに告白しようぜという内容を計画していたのだが、なんとアレクシア王女は入学して一か月でとある男子生徒と懇意な間柄を形成しているというのだ。

 情報通のジャガから聞いたところによると、位が高い男子生徒達なぞ一切眼中になしという態度らしく、告白しようと呼び出しても現場にすら現れないらしい。

 そのため自分達が彼女を呼んだところでそもそも来てくれない事が理解でき、居合わせた所を狙って告白しようとしても大抵懇意の男子生徒と共にいるので非常に困難だという。

 

 そんな経緯があって仕方なく、別の生徒に対象が移ったことで見事告白を失敗させたシド。

 その内心は非常に満足していた。

 だってそうだろう?トップ層の女子生徒に告白して、こっぴどく振られるというモブに相応しい立ち振る舞いをすることが出来たのだから。

 彼の学園生活で一度はやってみたいモブ生活において、重要な一つのピースを埋めることができたのだ。

 

(でもよく考えてみたら、王女と懇意になれるって何かなければ絶対無理だよな…。僕でもわかる。相手も貴族の生徒だけど、王女と釣り合う程なのかと言われたらそうじゃない。それなのに非常に仲が良い…うーん色々美味しい設定だ)

 

 故に彼女達に興味を抱くことも早々なかったし、シドとしては学園生活はモブらしくあれるならそれで充分だった。

 だがクレアが試合の話をしているのを聞き続けていると興味が湧くところが存在したのだ。

 

「姉さん。そのアレクシア王女って人はそんなに強かったの?」

「そんなになのよぉ!魔力で強化している事は分かるんだけど、全く流れが読めなかったのよ…。突然剣先から暴風が出てくるし、ほんとどんな魔力制御してるのかわからないわ」

「へぇ…」

 

 魔力制御。

 それがシドの中で興味を持った一点。

 

 この世界では魔力は非常に霧散しやすい性質なのは周知の事実であるが、逆にいえば霧散させないように魔力制御を行えば斬撃を飛ばしたりすることは可能な事をシド・カゲノーは知っている。

 なにせこの世界で最も魔力操作に長けている一人であるからだ。

 更には技術というものが発展していないのにも関わらず、クレアが戦った王女様は身のこなし方も相当巧かったのだと聞き取れる。

 

 それが示す事はつまり、シドのやりたいことが出来る可能性が非常に高い事を示唆していた。

 

「ねぇ姉さん。そのアレクシア王女って人はブシン祭に出場する事は決まっているの?」

「ブシン祭に興味あるのシド?それなら一緒にお姉ちゃんと見に行きましょう!」

「うん、考えておくね。で、出場するの?」

「出場すると思うわ。よし!じゃあ色々と準備しなきゃ!お姉ちゃん帰るね!」

「いってらっしゃい」

 

 自己完結したクレアは先程の落ち込みようは何処へやら。すぐさまシドの部屋から駆け出して出ていった。

 それを見送ったシドは次に行いたい陰の実力者ムーヴの為に脳内をフル回転させる。

 

(王女が出ることはほぼ確定。そしてブシン祭は知る人ぞ知る大型イベントだったはず。各地から腕に自信がある実力者が集まる大会でも恐らく王女様は活躍するだろう。

 王女の快進撃を止める出生不詳の謎の男。そのまま互角以上に渡り合い、「それ程の実力者、貴様何者だ!!」と問われ「知りたければ実力で聞いてみろ」と言い放つ陰の実力者...!!!)

「いいね。すごくいい...!」

 

 今まで表舞台に上がって来なかった男が圧倒的実力者で数多の強敵を倒し、「あ、アイツ何者だ!?」と言われるその光景...!!

 想像しただけでとても魅力的じゃぁないか!

 

「そうなったら姿を変える必要があるかな...ガンマにちょっと聞いてみよう」

 

 シドとして出場するのは流石に無理な事はわかっているし、それはやりたいことではない。

 いかに正体がバレずに活躍できるかが大事なのだ!

 ガンマであれば頭も良いし、上手く出場出来る様に手助けしてくれるだろう。

 そうしてシド・カゲノーは協力者が待つミツゴシ商会へ足を運ぶのであった。

 

 





 
 
・クレア・カゲノー
 全力で挑んだが結果は敗北。
 いくら将来有望と言われようとも相手が悪かった。
 その後本物の弟に愚痴を零すものの、弟とブシン祭に見に行けることを知ってテンションが跳ね上がった。なおそんな事は言ってない。

 時にはバッサリと切り捨てる勇気が大事なんや。

・シド・カゲノー(シャドウ)
 陰の実力者になりたい原作主人公。
 告白イベントを無事(?)にやり遂げたが、部屋に装飾品を集める金銭が足りなかったので盗賊狩りに勤しんでいた。
 ガイアス達に関しては『シャドウガーデン』から何も報告を受けていないが、これはガイアスのスライムを教えてもらった発言を最近の事と受け取って彼なら自分達と関わっている事を知っていると勘違いしているため。 
 クレアの話を聞いて、アレクシアの実力に興味を持つ。

 原作主人公が初めて喋るのが15話になっている作品があるらしい。

・アレクシア・ミドガル
 クレアを降して無事優勝。ブシン祭の出場権を獲得した王女様。
 シドが実力者であることを見抜いているが、シド=シャドウであることまでは流石に知らないし、彼から強さに関して非常に高い関心を持たれている事も知らない。
 
・○坊主
 作者。投稿ストックが切れた。
 見てくださる方評価感想共に感謝を。

【興味本位】挿絵があったら見るのか

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