「ば…馬鹿な…お、オリヴィエが…」
溢れんばかりの歓声の中、来賓席で立っていた司祭ネルソンは現実を認めきれなかった。
オリヴィエが出てきた。
これだけでも一大スキャンダルなのだ。
教団の情報操作によって彼女が三英雄の一人オリヴィエであるという認識は彼らにはないだろう。
数年前にオリヴィエを呼び出した実力者はいたが、それは教団で用意していた男性のオリヴィエなのだ。
裏で情報を消していたはずのオリヴィエ本人が出てくるはずもないし、来れるはずもないとネルソンは長年の経験からそう思っていた。
それが覆されたのだ。
混乱するのも無理はないだろう。
更に重ねてオリヴィエが敗北した。
実力や勇名を馳せている第一王女であることは当然把握していた。だがそれはあくまでも表で活躍するに収まる実力であると考えていたのだ。
世界に巣食うディアボロス教団。
そこで活動するセカンドチルドレンやファーストチルドレンですら、並の騎士団員相手であれば
幹部である“ナイツ・オブ・ラウンズ”に位置する者であればそれらも遥かに凌駕する実力者が集まるのだ。
だが彼らがオリヴィエ達三英雄と
(まさかここまでアイリス王女に実力があったとは…、これは厄介なことになるぞ)
オリヴィエはネルソンが隠し持つ武器の一つだった。
まだまだ手数はある。そして己にとっての絶対領域も持ち合わせているとしても、大抵の相手ならオリヴィエ一人で蹴散らせる強さを持っているとわかっていたのだ。
しかし今目の前でそれが覆されてしまった。
司祭ネルソンとして『聖教』で活躍する表の顔は完全に隠れ蓑としての役割しかない。
ネルソンが裏の顔として持つ立場が“ナイツ・オブ・ラウンズ”。現在進行形で世界中で暗躍する教団幹部の一人だ。
教団幹部になるにはある程度の実力と教団への利益貢献度が極めて重要になる。
そんなネルソンは武力は多少あるもののあくまでも降りかかってくる火の粉を払う為のもの。研究者として活動し、魔人ディアボロスを研究活用する研究者気質なのがジャック・ネルソンという男。
武力一筋の玄人を相手取るには荷が重い。
故にオリヴィエを打倒したアイリスがこちらへ刃を向けた時、非常に不味いことになるのである。
「司教様?」
「っ!?」
「オリヴィエ…。その名は男性としてリンドブルムに伝わっている筈の名前ですよね?どうして司教様は彼女をオリヴィエとして呼ばれたのでしょうか?」
「た、確かに…一体どういうことなのでしょう」
(し、しまった…)
ネルソンは小説家ナツメ・カフカに問われたことで失態に気づく。
オリヴィエは男性であるとして広め、銅像も男をモデルに作らせたもの。歴史を調べようにもオリヴィエという名の女性は闇に葬っているために存在していない事になっている。
故に司祭の口からオリヴィエという言葉が出てきたことに興味を持つのは当然であり、小説家であるナツメが知りたがるのも当然と言えるのだ。
さらにオリアナ王女のローズ・オリアナにまで興味を持たれてしまえばはぐらかすことも難しい。
どうやって上手く言いくるめるべきかを脳内で算出するネルソンだが、すぐに中断することになる。
「まぁ喋っていただかなくても構いませんよ。すぐにわかることになるでしょうから」
「へ?…それはどういう」
ゴォォオ…
一体なんの音なのか。
音がする会場の方へと目を移せば結界が崩壊し、赤色の紋章が中央へ浮かんでいる光景であった。
それは聖域の扉と呼ばれるものであり、選ばれた者に呼応して開くものとされている。
ネルソンは勝手に聖域の扉が開いた事に驚きながらも、信徒を巻き込まない様に慌てて団員達へ避難させるように指示を送った。
幸い開くことで古代の戦士が際限なく呼び出されるといったアクシデントは発生しなかったものの、近づけばどうなるのかはわからない。
観客たちは誘導に素直に従って会場を後にしていくが、来賓席で待機していたナツメ・カフカことベータとローズ・オリアナは誘導に従うことはない。
元々が裏で行われている事を調べに来たのだから当然だろう。
困惑するのはネルソンのみである。
「ほう…。これが“扉”か」
「?!き、貴様!一体どこから…なっ!」
扉をどう対処するかを考えていたネルソンの背後から聞きなれない男の声。
慌てて振り向けば黒いフードを深々に被ったコートの男。
その周囲には同じく黒コートを身に着けた集団が、男を崇拝するように片膝を立てているではないか。
ネルソンの護衛として待機していたはずの者達は全員気絶させられており、その役割を放棄してしまっていた。
周囲には黒コートの集団と、ローズ王女と文豪ナツメのみ。
ネルソン一人で対処できる程余裕は存在しなかった。
「一体なんのつもりだ!?貴様らのような得体のしれない奴らが来る場所ではないわッ!」
声を張り上げるネルソン。
聖域に関する情報は教団関係者しかもっていないはずだ。
ネルソンは
こんな怪しい集団はネルソンの耳にも目にも入ってきたことはなかったからだ。
「我々はその扉に用がある」
「ネルソン司祭。貴様もついてきてもらおう」
「ぬぅ…」
「シャドウ」
「あぁ。行くぞお前たち」
『 ハッ!! 』
「!?やめろ!聖域に近づくんじゃぁない!」
男の言葉を合図に、3人を除いた全員が一斉に赤く染まっている聖域の扉へと近づいていく。
ネルソンはいくら孤立無援の状況であるとは言えども、何もせずに見逃すわけにはいかない。
必死に言葉で制止するものの全く影響がなく、彼らは扉の中へ吸い込まれるように入っていった。
「聖域に入って何をするつもりだぁ!?」
「何をするか、ではなく何があるのか。それを知るためにここまでやってきたのよ」
蒼い髪をフードから出している女性が語る。
聖域に眠るナニカを探しにこの場に集結していることを。
聖域の中で眠っているものに思い当たる節があるのか、ネルソンは苦虫を噛み潰した表情を浮かべつつも、抵抗すれば死ぬだけであることは理解できている。
そのため残った二人の団員の拘束を素直に受けるしかなく、そのまま聖域の中へと入っていった。
「ではローズ王女、私達も行きましょう。真実を知るために」
「…えぇ。ディアボロス教団…一体彼らが何を行っているのか。ナツメ先生…いえ、ベータさん。行きましょう」
スライムで衣類を構築している『シャドウガーデン』の面々は、その鍛え抜かれた魔力制御と操作力を駆使して変装も得意とする。
表向きの顔であったナツメ・カフカの姿は瞬きの間もなく存在が無くなり、裏の顔である『シャドウガーデン』の“
「本当に来るのね王女様は」
「はい。イプシロンさんもこの同行に協力してくださり、ありがとうございます」
「感謝される筋合いはないわ。この同行もアルファ様が決められたこと。私はそれに従っているだけに過ぎないわ」
「それでも、です。経験が不足している私は、貴女方にとって足手まといでしかない私の護衛のために人手を割いていただいたことに感謝します」
「随分と物好きな事。…その言葉、アルファ様に伝えておいてあげる」
本心から話すローズの態度に少し居心地が悪そうにしながらも、口元を隠しながらイプシロンはローズに返答する。
彼女なりの気遣いだったものの、面と向かって礼で返されるとは思っても見なかった様子。
普段の彼女では見慣れない表情にベータは驚いていた。可愛いね。
「いくわよ」
「はい!」
少し時間が経ってしまっている影響で聖域へ繋がる扉がどんどん姿を消していく。
彼女達は渡り遅れないように、素早く扉へ向かって飛び込んだのであった。
「…ローズ王女にナツメ先生は無事に避難できたでしょうか」
一方そんなことが起こっているとは思ってもいないアイリス王女。
彼女は誘導員と協力して避難誘導を手伝っていたのだった。
・ジャック・ネルソン
またの名を《強欲》のネルソン君。
オリヴィエが負けるとは予想できずに狼狽する。
『シャドウガーデン』に拘束されてそのまま聖域内へと連れていかれた。
『なんてことだ。もう助からないゾ♡』
・『シャドウガーデン』の皆様方
主と共に活動出来て多幸感に包まれているが、表情には出さないプロフェッショナル。
悪名が広まっていないから非常に動きやすくなっている。
・シャドウ
太った宗教のおっさん相手に堂々と語りかけ、アルファ達が素晴らしい演出をしてくれたことで実力者ムーブが出来て満足。
ちなみに試合を観戦してたらいつの間にか隣に座っていたアルファに連れてこられた模様。
・アイリス・ミドガル
試合後に外の空気を吸おうと出て、帰ってきたら観客達を避難させてるではありませんか。
王族として誘導するしかねぇ!
誘導完了、ヨシ!
…なにこの赤い紋章…扉?
【興味本位】挿絵があったら見るのか
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見る
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どちらかと言えば見る
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どちらかと言えば見ない
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見ない
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ちくわ大明神