「呼びかけに応じてもらってすまないねガイアス君」
「いえ、クラウス陛下のお声かけとあっては断る理由などございません」
場所はいつもの王城内の一室。
渡していた連絡用の通信ゴーレム君によってクラウス・ミドガルからお呼び出しがかかったガイアスはまるで自宅に帰ってくるように城内へと侵入していた。
これはあくまでディアボロス教団関係者にバレないようにするためであり、決して城内の警備がザルなわけではないことをここに示しておく。
「そう言ってもらえるとこちらも助かる。今回呼んだのは君に頼みがあるからなんだ」
「頼みですか?」
湯沸し器のスイッチがOFFになったことを見届けたクラウスは、そのまま用意していた二つのコップにお湯を注ぎながらガイアスに話を切り出した。
国王が好んで消費しているとはいえど、国王にコーヒーを作らせるなんて所業を周囲の使用人達が見たら卒倒不可避な光景だろう。
ありがとうございますと言葉を返してコップを受け取るガイアスに座るように促し、クラウス自身も対面になるように別の椅子へと移動した。
「このミドガル王国にてブシン祭が行われることは知っているかね?」
「はい。世界中から腕に自信のある者達が一堂に会し、実力を競い合う王国屈指の一大イベントですよね」
「うむ。数年に一度行われるブシン祭は国を挙げて行われる重要な行事だ。これは個人の武力を競うものでもあるが、自国の権威を示せる場でもある。ガイアス君。君ならばこの意味は理解できるだろう」
「他国の実力者であればヘッドハンティングも狙え、自国の実力者であれば優勝出来るほどの実力者を有しているのだと他国に教えて牽制に繋げることが出来る。シンプルでありながらも魔剣士としての実力を示すことが出来る貴重な催しのお陰で国の経済も円滑にすることが出来るといい事ばかりですね」
互いにコーヒーを喉に流し込みながらブシン祭への意義を語る。
これは実力者個人の話ではなく、ブシン祭を開催するにあたって動く人材と物流が国家を潤すことに繋がるのが最も重要な意味を持っているのだ。
「ですが、良い事ばかりではない」
「その通りだ。流通に乗じて甘い汁を吸おうと軽率な行動をする者達も多い。
特にここ最近は我が国内部のディアボロス教団員の粛清が高頻度で行われている以上、奴らの工作員がブシン祭に乗じて増加する懸念がある」
これも実際に何度も国家で苦い経験をしているのだ。
王都内は騎士団員による警備増強は容易なのだが、地方の…それも田舎と呼ばれる位置に存在する町や郡は逆に警備の眼が緩みやすい。
ブシン祭を見に来るためにわざわざ王都へやってくる人がいるということは、それを悪用して運賃を騙したり強盗を行う機会も増えるということ。
年々盛り上がっていくのは良いが、そんな裏事情を御しきれる程の機動力をミドガル王国はまだ持ち合わせれていなかった。
「つまり今回呼ばれたのは、私に各都市部を含めた警備強化を行う為、というわけですね」
「それも本来は頼みたかったのだが、違うんだ」
「え?ではどういったご用件で…?」
ゴーレム包囲網をリアルタイムで操作しているガイアスは公式発表はされていないものの、国家内ですでに治安維持と防衛を担う重要な立場であると関係者からは認識されている。
ガイアスにはその事実は伝えていないが、彼自身自分が扱うゴーレムがどれだけ治安維持の観点から有用性があるのかは自覚していた。
だからこそクラウスが今回のブシン祭で裏方に徹するように伝えるために呼んだと考えていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
クラウスはコップを置いて手を組み、語った。
「ガイアス君。ブシン祭に出場しないか?」
「えぇ…」
「君が目立つことを避けている事は
国からのまさかの出場要請。
ガイアスは思わず困惑の声が漏れてしまう。
「これはまだ誰にも伝えていないのだが、ガイアス君。君は教団に対する牽制を常に行ってくれているが、教団との戦いが終わったら君はどうするつもりなのかね?」
「これをしたいという職種はないですが、ある程度貯蓄を備えたら一般国民として慎ましく生きていきたいとは考えています」
「いやすでに君を一般のカテゴリーに加えることは不可能だろう?」
失礼な事をおっしゃるクラウス。
王女達のような立場を考えれば厳しいだろうが、こちらは目立ってなければ可能なのだよ。
「いやいや何のために日頃から表立って行動することを避けていると思っているんですか」
「表立って行動していないだけで君はすでに我々や『シャドウガーデン』から認識されているのは事実。であれば君が望んでいなくても、他の者達が調べて来れば芋づる式に把握される可能性は極めて高い。
何よりも君はすでに
「……耳が痛い話ですね」
植物の心のような人生を…そんな平穏な生活を目標にし、ステージ外からカフェラテ片手に王女達の活躍を眺めておければ満足だった。
しかしクラウスの指摘がすでに破綻しかけている事を教えてくれたことでガイアスはどうしようかと考える。
今関係者以外でガイアス・クエストという男が成している事を知っている者はいない。
これはガイアスと血の繋がっている両親たちですら知らない真実だ。
王女との関わりがあることは知っていても、戦闘技術を指南している立場など両親は考えたこともないだろう。
『女神の試練』でもメディアからアイリス王女がなぜここまでの実力を有するに至ったのかを追求する内容が流れたりもしていたのだ。
今は王国側の防衛的問題もあって手を回している内容だが、アイリス王女やアレクシア王女がポロっと口を滑らせてしまえば一気に関心が集まってしまうことだろう。
「もし君が完全に無名であった場合、
「それで先ほどの件に繋がるというわけですか」
ブシン祭に出場するためには事前に数多くの予選を乗り越える必要がある。
そのため表彰状に立てなかったからと言ってそれ以外が全く評価されるわけではないのだ。
数多くの予選を勝ち抜いて本戦に出場できるだけの実力があれば、冒険者としても騎士団としても喉から手が出るほどに欲しい人材であることに変わりない。
これはつまるところガイアスがブシン祭で活躍すれば王国側がガイアスを取り入る動きを見せることは何ら不思議ではなく、彼らの保護下に入ってしまえばいくらメディアであっても王国に不快感を与えるような行動を取ることは非常に少なくなる。
言ってしまえば事前に牽制する事が可能なのだ。
これがガイアスにブシン祭に出場しないかと聞いてきた理由であり、優勝する事を彼に命じているわけではないのがポイントだ。
実際にブシン祭出場者が王国防衛に携わる職に就いた話も数多くあるため、ガイアスにしてみればただ出場するだけで国がメディアから守ってくれるという美味しい話だ。
「今は話してはいないが、娘達だ。時間が経てば自分達に師がいることを認めるだろう。
そうなる前に出場して王国側に来てくれれば、こちらも国防に関わることだから話せないと突っぱねることが容易なのだ」
「それは非常に美味しいお話ですね」
「うむ。だが君が危惧している事も理解している。君が監視の場から離れることによって発生する負担や監視網の緩みなどだろう?」
「はい。正直に伝えさせてもらえば自分以上に監視の目を持つ人材はいないでしょう。
監視するだけなら出場中でも継続する事は可能ですが、
そうなれば
ガイアスの指摘。
そこが今回一番難しいポイントだろう。
ミドガル王国の騎士団を今まで以上に王都外へ配置できる程、騎士団員を余らせてはいない。
むしろ王都内への配備を増強しなければいざこざが起きた時に対処できる人物が足りないなんてこともあり得るのだ。
「その問題点は把握している。が、今回は『シャドウガーデン』の者達にも警備可能か確認を取っている所だ」
「…それはまた思い切ったことをしましたね」
クラウスの解答にガイアスは驚いた。
いくら協力関係とは言っても『シャドウガーデン』は王国非公認の地下組織。
実力・武力共に圧倒的に上とはいえども、彼女達に王国側から依頼を飛ばすなど考えても見なかった。
それほどに今回の件は本気、ということなのだろう。
「教団側もブシン祭に紛れて動くにはうってつけのタイミングだ。実際オリアナ王国宰相であるドエム・ケツハット氏がディアボロス教団の者であることが『
そして今回のブシン祭にオリアナ国王ラファエロ・オリアナ殿と共に我が国へやってくることが確実視されているのだ」
「…それは初耳ですね。ちなみにそのことはローズ王女に話しても?」
「構わない。ローズ王女も教団と戦う仲間だ。だが扱いには気を付けてくれ」
「当然です」
「では話を戻すがドエム・ケツハット宰相が教団関係者である以上、ブシン祭を利用して教団が動くことが予想される。なので我々は『シャドウガーデン』と共に警備を強化していく予定だ。
幸い君が事前に調べてくれた者達を排除出来ている。それに伴い教団の息がかかっていない優秀な者達をこちら側に迎え入れられたことで、これまで以上に活動の幅を広げられる機会でもあるのだ。
王国としてもガイアス君、君一人に負担を背負わせる訳にはいかないのだよ」
クラウス国王と最初に対面で話してから少し後、ガイアスは教団関係者のリストを渡していた。それを最大限有効活用した結果、ミドガル王国内部の勢力図がかなり変化していた。
実は今まで各部署に最低一人は教団員関係者が入り込んでいたのだ。
彼らが工作員として裏で暗躍していた結果、騎士団を含めた防衛費に回す予算が削減されたり、情報改変や中抜きなどやりたい放題な状態だったのだが、無事に排除に成功した。
これによって風通しが良くなり、これまで出来ていなかった事業管理や接触行動が出来るようになっていたのである。
それによって『ミドガル王国』と『シャドウガーデン』の接触機会も頻度が増えており、ミツゴシ商会を介して情報共有や今後の方針を練り合わせているのであった。
クラウスは『シャドウガーデン』に確認を取っている所なんて言っているが、本当はすでに手を貸してくれることは確定事項だろう。でなければここまではっきりと断言する事は普通しない。
「参りました。そこまで国王陛下に言われてしまえば断ることなど出来るはずがありません。ガイアス・クエスト、ブシン祭に出場させていただきます」
「感謝する。君程の実力者であれば本来不要だろうが、公正を期すために予選も行ってもらうことになるが構わないかね?」
「当然の処置だと思いますので構いません」
「わかった。では期日が決まり次第遣いの者を寄越そう。ガイアス君、君の健闘を期待する」
ガイアスの決断に内心ホッと一息ついたクラウス・ミドガル。
王国は
彼が裏で手を回してくれなければ、教団を相手にして関係者を処罰する大胆な行動をとることは不可能だった。更には娘達を鍛えあげてくれたことで、誘拐などの懸念点を解消する事が出来ているのである。
ガイアスはなんて事無い様に装っているが、この二つだけでも極めて高く評価することに異論はない。が、それはあくまで裏の事情での話。
彼が無名のままであれば、どんな功績を持っていたとしても表立ってミドガル王国が動くには限度がある。
それを改善するためにガイアスが公の場に姿を現してくれれば国民も認識しやすく、余計な工作を抑えつつも情報統制をしやすくなるというわけだ。
(ガイアス君。君には負担かもしれないが、出場するのならば優勝を狙って欲しいものだ)
優勝してくれればそれこそ文句の付け所がない。
初代優勝者である『武神』と呼ばれるエルフの剣聖も最初は無名であったが、ブシン祭の優勝を飾ったことで民衆へその勇名が認知されている程なのだ。
それを王国関係者が持っているとなれば、敵対勢力から見れば脅威に映るだろう。
(頼んだぞガイアス・クエスト。
王国の為にも、そして
やるだけの事はやったクラウス・ミドガルは、そのまま陰の叡智によってミツゴシ商会が生み出した『人をだらけさせるソファ』に身を投じるのであった。
・ガイアス・クエスト
防衛の任を受けると思っていたら国王自ら出場依頼を出された主人公。
国の益になるのならと了承する。
・クラウス・ミドガル
ガイアスへ『ブシン祭』出場を依頼した国王陛下。
本当は干渉する気はなかったのだが、
ミツゴシ商会を介して『シャドウガーデン』と接触し、警備を依頼するが“七陰”の条件に頭を悩ましながらも呑むことにした英断者。
ルーナ会長こと“七陰”ガンマの商品紹介により『人をだらけさせるソファ』を購入する事になるが、その威力によって手放せなくなる。
・『シャドウガーデン』
ミドガル国王の依頼を受けたことで“七陰”を収集して会議を行った結果、受けることに。
その条件はブシン祭会場とその周辺の警戒にすること。
本来なら騎士団が担う任になるが、彼女達の力を借りないと治安が悪化する事がわかっていたクラウスはその場で了承することになる。
なおシャドウことシド・カゲノーが姿を変えて出場することを知った“七陰”達は観戦するべくジャンケンで任務に励むか休暇をとるかを決めた。
【興味本位】挿絵があったら見るのか
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ちくわ大明神