王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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二十六 本戦前に…

 

 

「言われた通りに特別席に来たはいいけど…学園カースト上位だらけのゴージャスVIP席じゃないか!!?」

 

 試合順が掲載されて数日後、シド・カゲノーは姉たるクレア・カゲノーから渡された特別席チケット片手にVIP席へやってきていた。

 彼女は今回のブシン祭に出場しても今の自分ではアレクシアにまだ勝てないと考えたのか、ブシン祭予選に出場する事はせずに鍛錬を続けていた。

 アイリスの働きもあってチケットを得たクレアと共に会場にやってきたのだが、クレアは交友のある知り合いと話し合っていたため、シドが先にVIP席へやってきたというわけである。

 

 だが名前の通りVIPが集まる会場。

 彼の驚きであるカースト上位が集まるというのは現場に行かずとも察する事が出来るはずであった。

 

(でも下手に離れると姉さんから追及があるだろうし、むやみに会場から離れるのは得策じゃないかな…)

 

 特別席では明らかに着飾った者達や相応の立場にいるのがわかる貫禄を持った者達しかいない。

 モブとして日常生活を謳歌するシドにとっては水と油の関係であり、ものすごく居心地が悪い。

 

(下手に話しかけられる前に部屋の隅で空気になっておいた方がいいな)

 

 そしてシドが取ろうとした策は『部屋の空気と同化して誰にも気づかれない作戦』である。

 周りからの死角を巧く活用してその場をやり過ごそうとするシドであったが、その作戦が完了するよりも先に声を掛けられてしまったのである。

 

「あら、あなたは」

「(まずい…カースト上位に話しかけられる!)僕はシド・カゲノーです席を間違えましたすみません一般席で泥水をすすっておくのでお構いなく」

「クレアさんの弟さんですか?チケットを譲ってもらっていたのですね。彼女に渡したチケットは私の隣になりますのでどうぞ」

「あ、はい(王族に話しかけられたら流石に無視できない…)」

 

 流石のシドと言えども公の場で王族の声かけを無視するようなことは流石にできなかった。

 内心ものすごい敗北感を感じながら、素直に隣の席に腰かける。

 周囲の者達への興味関心が希薄な彼でも、流石に王族は知っていたようだ。

 

「クレアさんとは仲良くさせてもらっています。シドさんの話もよく聞いていますよ」

「それはそれは」

 

「あら…アイリス様、すでに着席されていたんですね」

 

「えぇ。クレアさんの弟さんともお話が出来て楽しいですよ」

 

「そうでしょうそうでしょう!」 

 

 上手い事話しを受け流しつつ時間を潰していると姉たるクレア・カゲノーも入室してくる。

 これで完全にシドがVIP席から逃れる術を失ったことを意味していた。

 クレアは野生の勘が優れている女傑だ。うまくこの場を抜け出したとしても、彼女はすぐに気づいてシドを探しにやってくることだろう。

 

(こうなればやることは一つ…『椅子と同化して空気になる作戦』!)

 

 なのでシドはその場で空気になることを選択した。

 こうすれば下手に話題に触れられなければ、話しかけられる確率が極めて低くなるのである。

 

「アイリス様…今年もついに本戦が始まりますね…」

「アイリス様の注目選手は誰ですか?」

 

 アイリスとクレアの会話に自然に混ざる者達もいる。

 シドも日頃から“陰の実力者”を目指して活動するに当たって、独自に情報も集めたりしている。

 彼の情報は彼らが現役魔剣士団長の娘さんと侯爵家のイケメン次男ということが分かった。

 VIPにも相応しい主人公オーラギラギラな存在である。

 

(しかしこれはいい機会だ…!なぜならジミナの印象を探ることが出来るのだから)

 

 ジミナ・セーネンはシドが変装した姿である。

 会場では常に弱そうな雰囲気を出しつつ、予選内でも目立った行動を取っていない(本人基準)。

 故にここで周囲から雑魚認定されることが出来れば、これまでの彼の行動は報われると言っても良いだろう。

 クレアもアイリスの注目選手に興味があるのか耳をすませているが、当のアイリスは顎に手を当てて少し悩んでいた。

 

「注目選手…今回のブシン祭は非常に厳しい大会になります。アレクシアも当然ですし、アンネローゼさんやローズさんもいます。彼女達以外ではガイアス君とリヴィさんも挙げられますね…」

 

 今回のブシン祭に出てくる出場者は彼女から見ても実力者揃いである。

 そのため彼らの質問には非常に悩む内容なのだ。

 しかしそこは取り巻き。アイリス王女を持ち上げる。

 

「確かにアレクシア様もかなりの腕前とお聞きしておりますね!」

「でも今年も勝つのはアイリス様です!」

 

「ありがとうございます。ですがアレクシアの実力は私もよく知っています。必ず勝てるとは断言できない」

「アレクシアさんの強さは悔しいけど本物よね…」

 

(アレクシア王女は姉さんと同じ感想を持ってる人が多いのか。そして同級生のガイアス君…彼は間違いなく強いね。鍛え方が他とは段違いだ)

 

 歴代を見ても今回は実力派が勢揃いしている。

 シドはジミナとして予選に参加していた中で、友人のヒョロ・ガリと共に観戦も行っていた。

 その中で陰の実力者ムーブが出来る相手がいないかを探してもいたのだ。その中で特に気になっていたのがガイアスであった。

 周りが剣を用いる中で唯一拳で予選を通過した男子生徒。

 彼がアレクシア王女と恋人関係だと噂されていた人物であることをその時思い出していた。

 

(この世界で武術を伸ばしている人を見たのは初めてかもしれない。アイリス王女もいい動きをしていたけど、彼はそれよりも体幹の使い方が巧かったな)

 

 実際に彼からしても動きが非常に鍛え抜かれていたため、シドの御眼鏡に叶ったようだ。

 

(でもアイリス王女も結構気にしている選手が多いのか。ジミナに関心すらない、と考えれば予定通りと言っても過言ではない…!)

 

「ただ…注目とは別に、警戒している選手は一人います。ジミナという選手です」

 

「(ふふふ、そう!数多くの選手に目をつけている中で、その強豪達を打倒すことで『あいつは一体何者なんだ!?』と呼ばせることで圧倒的な実力者ムーブが出来る!今アイリス王女が呼んだ様にジミナの印象が薄ければ薄いほど…)……ん?」

 

 だが話はそう簡単に動かない。

 

「ジミナ?ボクも見たが、勢いだけで本戦の舞台に上がってくる実力は無いとみた」

「私も見たけど剣は早いけど構えは結構素人に見えたなー」

 

「えぇ。だからこそ警戒しています。明らかに素人の動きだとしても、彼は本戦に来ている。己を弱く見せているのかはわかりませんが、本当の実力を図ることが出来ないのは戦う可能性がある身としては非常に厄介、と言わざるを得ないでしょう」

 

(なんでそんなに高評価を得てるんだァ!?)

 

 シド・カゲノーここで致命的な問題を抱える。

 モブとして活動していたというのに、王国最強格から目をつけられているというのである。

 これは非常に不味い。

 陰の実力者ムーブをするために行ってきた下準備が破綻してしまう可能性が出てきてしまった。

 

(いや逆に考えるんだシド・カゲノー。王女様はミドガル王国でも最強として名が挙がる人物だ。それならなおさら陰の実力者として動けるんじゃないか…?)

 

 ここでシド・カゲノー、逆転の発想に至る。

 王国最強には察せられてしまうが、逆にいえばそれ以外の者達からは圧倒的な雑魚として認識されているのだ。

 そんな雑魚として見られているジミナが大会の強豪を打倒して「あ、あいつ何者なんだー!?」と反応を受けた後、王国最強がやはり貴様が勝ち上がってきたか…みたいな意味深な反応を零すのだ。

 しかもそれが今まで表舞台に出てこなかった謎の青年。

 これも一つの陰の実力者として出来るムーブじゃないか?

 

(うんうん。いける…いけるぞ!であればジミナ君はこれまで通り雑魚として見られるように続けよう。相手は予選で良い反応をしてくれた人だし、上手く合わせてくれそう)

 

 シドが思い浮かべるは青髪の女騎士アンネローゼ・フシアナス。

 予選にてシドが思い浮かべてた動きを文字通り体現してくれた存在のため、彼の中でも評価が高い。

 

(そうと決まればどう戦ってみせるのが一番実力者になれるかをシミュレーションしなければ…!!)

「シド?お姉ちゃんから離れるんじゃないでしょうね?」

「そんなことないよ」

 

 そうと決まれば即行動。

 したかったのだが、姉なるものに止められた。

 下手に動いてもついてくる以上、シド的にどうすることもできやしない。

 

(…まだ時間あるし、隙を見て抜け出すことにしよう)

 

 表向きには決して逆らえない存在を前にしてシドは暢気に考えを巡らせるのであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「エルフの知り合いがいる?」

「エルフの知り合いはいますよ」

 

 シドがハイパーVIP席でそんなやり取りをしている頃、会場をなんとなく散策していたガイアスの傍を一人の女性が通り抜け、そして立ち止まった。

 どうやらエルフの知り合いを探しているエルフらしい。

 ガイアスは素直に問いに答えた。

 

「私とよく似たエルフを探しているんだ」

「そう言われても…フードで顔が見えないんですが」

「…そうだった」

 

 フードを脱いだことで彼女の顔が露わになる。

 ありきたりな感想であるが、とても美しいエルフの女性だとガイアスは正直に思い、そしてその容姿にはものすごく見覚えがあった。

 

「私とよく似た顔なんだ。心当たりはあるか?」

「すごくありますね」

「!?本当か!!」

 

 その返答に驚きながらも詰め寄ってくるエルフの女性。

 思いもよらない機会なのか、凛とした表情だったのが喜々とした表情に変わっている。

 

「一応断りを入れておきますけど、本当に貴女が探しているエルフなのかはわかりませんよ?」

「構わない。長年探しているエルフなんだ。少しでも手がかりになれば十分だ」

「わかりました。案内しますのでついてきてください。…あーそういえば名乗っていませんでした。私はガイアスです。貴女は?」

「私はベアトリクス。君は強いな。見ればわかる」

「ありがとうございます。まだまだ精進の身ですよ」

 

 話をしていると彼女はベアトリクスという名であることが分かった。

 しかし非常に似ている。アルファとオリヴィエに。

 もしかしなくても親族なのかもしれない。

 純粋な武人の雰囲気を感じ取ったガイアスは、彼女が自分たちに害を与える存在ではないと判断。彼女に合わせることにしたのだった。

 

「リヴィさん入りますよ」

「ん。どうぞ」

「失礼します」

 

 そうしてやってきたは控え室。

 今大会のブシン祭はその規模もあって、選手それぞれに個室が与えられている。

 大会内では頂を競い合うライバルであるものの、大前提として仲間であるオリヴィエには控え室を教えてもらっていた。

 そこに今お邪魔しているというわけだ。

 

「ガイアスから、珍しい。何かあった?」

「はい。自分に似たエルフを探している方とお会いしたんで、知り合いかと思って連れてきました。部屋に入れても大丈夫で?」

「大丈夫。いいよ」

「わかりました」

 

 そうして主の許可を得て外で待機していたエルフを迎え入れた。

 探し人かもしれない。

 

ご…ご、ご先祖様!??

 

「ん。貴女、私の子孫」

 

 そう考えてソワソワしていた彼女‐ベアトリクスであるが、相手の姿を見て驚愕の表情を浮かべるのであった。

 




 
 
 
・シド・カゲノー
 VIP席にやってきた原作主人公。
 なぜかジミナ君が王女に警戒されていて驚愕する。
 しかし冷静に考えると明らかに弱そうなのに勝ち上がって本選出場しているので、警戒しないほうがおかしい気がする。
 
・ベアトリクス
 初代ブシン祭優勝者であり、『武神』という超絶かっこいい二つ名を持つエルフの剣聖。
 原作達とアニメでは武装が異なっているが、個人的趣向によりアニメ版の片刃の剣を愛用していることになっている。
 彼女の年齢は約100歳らしいが、エルフの寿命がわからない。
 そのためオリヴィエと血は繋がっているが、関係はご先祖としている。
 だけどお祖母ちゃん呼びに変えられる日は近い。
 
「顔が似ていると言ったけど、ご先祖様なんて聞いてない…」

【興味本位】挿絵があったら見るのか

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