王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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二十七 偽る強者

 

 

 『武神』と呼ばれるエルフの女性が復活を果たしたご先祖様相手に困惑を見せたりしている中、本戦はどんどん進行していく。

 

『勝負あり!!

 勝者!ローズ・オリアナ!!』

 

 第一試合はローズ・オリアナVSツギーデ・マッケンジー。

 本戦最初の試合ということもあり、どんな試合展開が行われるかに注目が集まった試合。

 結果として勝利を手にしたのはオリアナ王国王女 ローズ・オリアナであった。

 司会からもバランスの良いと評されたツギーデ・マッケンジー選手の剛剣を真正面から受けて立ち、見事打ち払ってみせたことで勝利を収める。

 

 第二試合ではガイアス・クエストVSボンコ・ツーマン。

 こちらは素手VS剣であるものの、愚直に斬りかかってきた相手の腹に一発拳をぶち込んだことで相手が失神。

 そのまま試合続行不可能と判断されてガイアスに軍配が上がる。

 

 ブシン祭では基本的に魔剣士が出場するためか、メディア陣には素手で戦っている姿が随分と興味をそそられたらしい。

 色々と聞かれそうになったが、クラウス国王陛下が手配していたスタッフ達によって余計な追及から免れることに成功。無事に控えに戻ることが出来たのであった。

 

「一回戦の勝利、お疲れ様です。ガイアスさん」

「ありがとうございますローズ王女。そちらこそ見事な受け流しでした」

「これもアレクシアさんの指導と鞭撻のお陰です。ツギーデ選手も強い選手でしたが、アレクシアさんの指導と比べればだいぶ遅く感じましたので」

 

 ローズの言には確かな実感が籠っている。

 事実、剣術大会時点での彼女であればツギーデ選手の攻撃を防ぐことに意識が行ってしまい、そのまま体格差と膂力で敗北していた可能性があった。

 しかし今のローズはそこで燻っている状態ではない。

 極めた魔力制御と剣も用いた体捌きであれば、相手の力を利用することも可能である。

 まだローズはその領域までは辿り着いてはいないものの、剣術大会からしっかりと成長を続けていた。

このまま研鑽を積んでいけばオリアナ王国最強の地位も不動のものにすることだろう。

 

『勝者!

 リヴィ・ハイリア!!』

 

 そんな会話を続けていれば試合がテンポよく消化されていく。

 ガイアス達の後にも試合が行われたが無事に終了。

 その次に行われたオリヴィエの試合は彼女の動きについてこれずにあっと言う間に終了することになる。

 

「ん。勝った」

「おめでとうございますリヴィさん!」

「見事な一撃だったよ」

 

 対戦相手を降したリヴィはVサインをしながらガイアス達と合流。

 表情はあまり動かないオリヴィエ(彼女)だが、雰囲気から喜んでいるのが感じ取れた。

 彼女が生きた時代ではこのような催しは行われていなかったのかはわからないが、ブシン祭を楽しんでくれているようで何よりだ。

 

「私の試合、次が、鬼門」

「ジミナか…」

 

 ジミナ・セーネン。

 『シャドウガーデン』創設者であり、シド・カゲノーのもう一つの姿であるシャドウが変装をして大会に出場した姿。

 雰囲気はあまりにも弱そう。動きも素人でありながらも本戦に出場している彼が次のオリヴィエの対戦相手になる。

 

 本当は次の試合でアンネローゼ・フシアナスという元ベガルタ七武剣が相手なのだが、相手が如何せん悪すぎた。

 ベガルタは『剣の国』と呼ばれる程に剣客が揃っている国家らしいのだが、彼女はその銘を捨てて修行の旅をしている武者らしい。

 他の者達が話していた会話を聞いただけであるためそこまで詳しくはないが、彼女は『女神の試練』でも古代の戦士を呼び出して見事勝利を飾っていたとのこと。 

 アイリスが彼女の事も褒めていたので、彼女も十分強者(つわもの)なのだろう。

 

「ジミナの動きは未熟な私では完全に見切ることが出来ません…。ガイアスさん、リヴィさんは彼をどう見るのでしょうか?」

「強い。でも現状、それしか言えない」

「ガイアスさんは…?」

 

 オリヴィエが持つジミナの評価は変わらない。

 純粋に強い。

 戦士としての経験則か、彼女はジミナが持つ戦闘能力の高さを感じ取っている。

 ローズは真剣な彼女の表情を見て、それほどの強さなのだと改めて実感しつつガイアスにもパスを投げた。

 

「もし試合で戦うことになれば…」

 

 ジミナとして戦うのであれば色々出来るため問題は少ない。

 しかしもし彼が仮初の姿を捨てるのであれば…

 

「文字通りの全力で、挑んでいくしかないだろうな」

 

 ローズへの返答を行いつつ、ガイアスは自分のこめかみを一回指で突くのであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「これはこれはご機嫌麗しゅうアイリス様。観戦をご一緒してもよろしいですかな?」

 

「…ドエム・ケツハット殿」

 

 リヴィことオリヴィエの試合が終了して会場と選手入場の準備が行われている時間、特別席で試合を観戦していたアイリスに声がかけられる。

 オリアナ王国の宰相ドエム・ケツハット卿だ。

 アイリスの隣に堂々と座るドエムだが、彼が座っている席はシドが座っている筈の席。

 アイリスがそれを指摘するも、意に介さない様子でそのまま世間話へと移行してなぁなぁにしていた。

 

 その様子に一言申そうかと喉元まで出かかっていた言葉を何とか飲み込むのはクレア・カゲノー。

 折角シドと観戦できる貴重な機会を胡散臭いおっさんに邪魔されているのだ。

 彼女の弟に対する重さからも口撃をかまさなかったことは奇跡に等しい。それを成したのは状況を理解する前にアイリスの口から出た人物の名前が、クレアでも知っている人物の名であったことが大きいだろう。

 

 クレアは将来有望な魔剣士としてアイリスから厚遇(こうぐう)されている立場であるが、一国の宰相に口を利ける立場ではない。

 もし彼女が一言申していれば国際問題に発展する可能性もあったのである。

 

「いやぁ本来なら婚約者と見るべきなのですが、選手として出場しておりましてね」

 

「え…えぇ。お噂はかねがね聞いています。それよりオリアナ国王のお加減はどうですか?」

 

「残念ながら王は今日も体調が優れず欠席です。明日は必ず出場するとのことですが…ミドガル国王も明日は来られるのでしょう?同盟国としての親睦が一層深まることを楽しみにしておりますよ」

 

(ドエム・ケツハット卿…この人はいつも目が笑っていない。一体裏でどんなことを考えているのやら…)

 

 『シャドウガーデン』内では脳筋と思われているアイリスであるが、彼女も王女としての責務を果たしている女性だ。

 政治的な繋がりを持つことも多い彼女であるが、ドエムに対する印象は良いものではない。

 それも全てドエムの目が問題であった。

 人と話している筈なのに一切の抑揚を感じさせない彼の目は、自分以外の人を人とは思っていないかのように感じさせる。

 まるで人形と会話している様に感じてしまい、話していて疲れてくるのだ。

 

(最も王国への不利益を考えているのであれば、ガイアスが対処してしまいそうな気がしますね…)

 

「それはそうと次の試合はアイリス様から見てもアンネローゼで勝ちは決まりでしょうか?」

 

 ドエムから振られた試合予想。

 本来であればアンネローゼを推す場面。

 

「いえ…私はジミナ選手が勝利するとみてます」

 

「ほう…?」

 

 しかしアイリスはジミナが勝つと予想した。

 アンネローゼの実力は素晴らしいものだ。

 しかしそれ以上にジミナの異質さが際立って見える。

 予選で魅せた動き、そして絶対の自信が彼の目に宿っていた。

 

「少なくともジミナ選手の目には“揺るぎない勝利”が見えている。相手が誰であっても勝利出来ると確信を持っているのは、間違いなく彼の方です」

 

 王国最強から語られる勝利予想に内心困惑を感じ取りながら、ドエムも試合がどんな流れを見せていくのかを見届けるのであった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

(ジミナ・セーネン…彼の実力は見切っている。彼の強さはその圧倒的な速さ…!)

 

 予選でもジミナを特に気にしていたアンネローゼはジミナと対面しつつも冷静にジミナの戦闘力を分析していた。

 試合を含めた行動の節々から見える動きの拙さ。それがジミナが持つ剣の技量が低いと思わせるものであるが故。

 事実彼は予選でも一度も対戦相手と剣を交えずに勝利して本戦に勝ち進んできている。

 普段の動作から考えれば自分の低い技量を予選で露呈させないために一撃で終わらせてきたのだと考えさせるのには十分だった。

 

(ならば一手を繰り出す前に潰せばいい。重りを外したことで俊敏性が上がり、速さにより磨きが掛けられているとしても、一瞬で間合いに入ってしまえば不意を突くことは可能!)

 

『試合、開始(はじめ)ェェェエ!!』

 

「―――!!」

 

―――駆ける。

 

 ベガルタでも速さに自信がある剣客達を打倒してきた経験がアンネローゼにはある。

 そんな相手には自由にさせてはいけない。

 そんな事をしてしまえば速さに翻弄されてこちらに不利な状況が作られてしまうがために、彼女が選んだ初手は全力疾走。

 間合いを詰めてしまえばご自慢の速さを活かさせることなく、押し切れるという判断からの思い切りであった。

 

 ガキンッ

 

 振り下ろされた一撃は己が組み立てていた流れ通りジミナに防がれた。

 だがここまでは狙い通り。攻撃を防いでいる事で力んでいる今は彼の動きを止めている状態だ。

 そこを狙う。

 

 振り下ろしからの切り上げ、横薙ぎ、突き、袈裟。

 ジミナの速度を利用させないまま押し切ることを選択したアンネローゼは躊躇わない。

 

(速度を殺してしまえば、いずれ押し切れる――!!)

 

 幾度と続く連撃に、ジミナは段々と態勢を崩していく。

 そこを逃すアンネローゼではなく、ガードが崩れたその隙目掛けて、刃を振り下ろす。

 

(勝った――!!)

 

残像だ

 

「ッ!??」

 

 だがその刃は虚空を切り裂いた。

 残像を生み出す程の速度を、ノーモーションでみせるジミナ。

 それによって彼が持つ本来の速度が自分の想定よりも遥かに上回っていたことに驚愕を受けるアンネローゼはそのままジミナに高く打ち上げられると共に、振り下ろされた一撃によって地面へと叩きつけることになった。

 

「くッ…先ほどの攻撃に、魔力が乗っていたら…私はすでに死んでいる」

 

 彼女が立ち上がれたのはジミナの攻撃が魔力を纏ったものではなかったために、彼女の身体強化を抜けなかったためだ。

 アンネローゼが語るように、一連の攻撃で彼女の防御を抜けれいればそれで試合が終わっていたことだろう。

 

「認めましょう。貴方は強い…理不尽なまでに!!」

 

 彼女が立ち上がって構えるまでの間、ジミナは彼女に追撃を加えるような真似はしなかった。

 まるで彼女が敵ではないと言わんばかりの立ち振る舞い。

 剣士として屈辱を感じるべきなのだろうが、アンネローゼは彼の行動を素直に受け入れた。

 

「力も、速さも全てが上回られている以上…私に残された手は…」

 

 アンネローゼは動くことを止め、構えた。

 

「カウンター狙いか…それしかあるまい」

 

 観客でもわかるカウンター狙い。

 彼女が一矢報い、そして勝利を狙える唯一の一手。

 客席から観戦しているドエムも彼女の狙いを正確に把握していた。

 

 どんなに早くても、剣で攻撃するのならば必ず接近してくる必要がある。

 であればそこを狙って一撃で仕留める。 

 

「ッ!そこぉ!!!」

 

 両者睨みあう状況から、瞬きの間でジミナの姿が搔き消える。

 突風を発生させるほどの速度から繰り出される一撃を、反撃で合わせなければ、確実にアンネローゼの敗北で決まる。

 だが彼女は優れた剣士であった。

 周囲に余計な気を散らすことはなく、冷静に、彼がどこから攻撃を加えてくるかを判断していた。

 

 ジミナの狙いは―――背後!!

 

 そうして己の背後へと渾身の力を込めた一撃を振るい放つ!

 

(獲った!!)

 

 そう振るうと共に確信するほど、完璧なタイミングで放った一撃。

 相手も攻撃をする瞬間であるが故に、ここからガードは間に合わない。

 ジミナを狙った一撃が、吸い込まれるように首元へ近づいていき―――、弧を描くように、空を切った。

 

「嘘…」

 

 アンネローゼは見誤っていた。

 ジミナが持つ強さは速度だけではない。

 極めて冷静に戦況を把握する観察眼、速度の緩急を生み出す魔力制御、実力者に相応しい戦闘技術。

 その全てを持つ男こそが、ジミナに扮した――シド・カゲノーという男なのである。

 

(あの速度で…間合いも読まれた…?)

 

 渾身の一撃を躱されたアンネローゼは致命的な隙をジミナに見せてしまった。

 だがその隙が生まれた全ての原因が一撃を躱されたことに起因するのではない。

 

(ああなんて…美しい剣――――…)

 

 完璧な間合いを維持する事で一方的に攻撃を往なす技術とそれを淡々と実行してみせる精神性。

 ソレに魅入られてしまったためである。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ジミナとアンネローゼの試合結果に観客達の動揺が隠しきれていない中、控え室で座禅を組んで映像には一瞥すらしていない剣士が一人。

 

 一回戦でどんな強者が勝ち上がってこようと些事であると言わんばかりに精神統一を行う姿は、これから死地に向かうと言われても納得してしまうほどの空気を醸し出していた。

 事実選手を呼ぶために控え室へやってきたスタッフが、彼女から発せられる剣気に軽い悲鳴を挙げてしまう程に鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「アレクシア」

「―――ガイアス。どうしたの?」

「時間だ」

 

 周囲の音すらも置き去りにしてでも禅の世界に入っていた彼女は、ガイアスの一言で現実へと浮上する。

 備え付けられた時計を一瞥、そしてアナウンスを聞いて漸くガイアスが自分を呼んできたことを理解したのだろう。アレクシアは「もうそんな時間なのね」と言いながら身だしなみを整えていく。

 

 普段の彼女は周囲に気を配れる優しい女性だ。

 だがそんな彼女が配慮を止める程に集中する理由(わけ)。次の試合相手であるアイリスが原因であることは明白だった。

 

「ねぇガイアス」

「どうした?」

「何も言わないのね」

 

 控え室から出て、アレクシアと並ぶように歩くガイアスに問いかけた。

 

「――俺は二人の試合前は何も言わないと決めている」

「ふふ。相変わらずね」

 

 そっけなく返される解答(反応)に少し雰囲気を柔らかくしたアレクシアは、試合が始まる直前までガイアスに話しかけることはしなかった。

 不機嫌になったわけではない。

 語らずとも、彼が考えている事がわかっているために、その彼なりの不器用な気遣いが今のアレクシアにはありがたいモノだったから。

 

『それでは入場をお願いします!』

 

「ねぇガイアス」

「ん?」

 

 故に多くは語らない。

 アレクシアにも意地がある。

 それでも一言、彼に伝えておきたかった。

 

 

「――決勝戦で、待っているわ」

 

 

 その背は“凡人の剣”と侮蔑されていたかつての彼女ではない。

 ガイアスと出会ってから紡いできた過去(人生)の集大成。

 

「強くなったな。……本当によ」

 

 彼の眼先にいる二人の王女。

 ミドガル王国の未来を担うに相応しい堂々たる姿を見て、ガイアスは呟かずにはいられないのだった。

 

 

 




 
 
 
・アンネローゼ・フシアナス
 ジミナの実力を読んていたのだが、事実は遥かに上回る差に敗北。
 一度母国へ戻り、一から修行をし直すことを決めた。

・ジミナ・セーネン
 無名の実力者ムーブを出来て満足したシド・カゲノー。
 試合後に席へ戻ろうとすると変なおっさんが自分の席を陣取っていたため、そのまま目立たない場所に移動する。
 なのだがすぐにクレアによって呼び戻されることになる。

・ベアトリクス
 『武神』と呼ばれるブシン祭初代優勝者。
 オリヴィエがリヴィという名で出場している事を知ってソワソワしながら試合を見ていた。
 彼女が勝ったことに喜びを感じつつ、次の対戦相手がジミナであることに危機感も感じている。
 
??『あいつ、ワシより強くねー?』
 

 

戦闘における状況描写について

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