王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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二十八 王国最強①

 

 

「アイリス」

「オリヴィエですか」

 

 これから行われる試合。

 本戦一日目でも最も王国内の注目を集めている一戦が行われる。

 

 アレクシア・ミドガルVSアイリス・ミドガル

 

 ミドガル王国国民で知らぬ者は一人もいないと言っても過言ではない程のBIGネーム。

 それもアイリス・ミドガルと言えば若くして王国最強の魔剣士と言われる程に知名度が高く、強い。

 一国の第一王女という重要な出生に加えて、自ら設立した《紅の騎士団》を率いる団長。

 生まれ持った魔力総量と武の才能。

 それを見た者達は彼女を“天賦(てんぷ)の剣”または“天才の剣”として褒めたたえた。

 今回のブシン祭でも優勝候補筆頭として名が挙げられる程の存在。

 それが国民が知るアイリス・ミドガルだ。

 

 片やアレクシア・ミドガルと聞けば王国の第二王女としての認知度はあるものの、実績という観点で見れば全くと言っていいほどに存在しない。

 とある剣術大会で敗北を喫して“凡人の剣”という蔑称を陰で言われていたこともある第二王女。

 そんな彼女が頭角を現してきたのは魔剣士学園の剣術大会であった。

 基礎を高めた堅実な剣である彼女は学園内でも評価は高かったものの、突出した魔力は確認されておらず、強いけど最強ではない。

 そんな評価を彼女に付与されていた中での学園最強を倒してそのまま優勝することで観客達を驚愕させた。

 

「緊張、してる?」

「…当然していますよ。私にとって…いえ、私達にとっては、この一戦は事実上の決勝戦ですから」

 

 “天賦の剣”と元“凡人の剣”

 

 真逆の意味の剣の名をつけられた二人の王女が、これからブシン祭という大一番でどちらが上なのかを競い合う。

 それも二人ともガイアスの教えを受けて実力を伸ばしあってきた仲だ。

 故にアレクシアの実力はアイリスもよく知っている。

 それはアイリスの相手となるアレクシアも同じこと。

 

 これまで鍛えあげてきたもの全てが公式戦となるこの一戦に掛かってきている。

 更に師匠たるガイアス・クエストがこの戦いを観戦するとあっては情けない戦いにすることなど出来やしない。

 

「ですがその緊張を遥かに凌駕する程、私はこの戦いを楽しみにしています」

 

 アイリスは震えていた。

 それは怯えから来ているものではなく、武者震いだ。

 

アレクシア()の努力を、私は知っている。同じくアレクシア(好敵手)も私を知っている」

 

 これまで見せる機会など訪れることはなかった己の実力。

 一端を見せたのも自分の隣にいるオリヴィエと『女神の試練』で戦った時のみ。

 

「私が持つ全てを、(てっぺん)から指先(末端)まで…流れるモノ全てをぶつけることが出来る相手。それが私の知る、アレクシア・ミドガルです」

 

 だからこそ、アイリスはこのブシン祭を誰よりも心待ちにしていた。

 この大会に出場する者達の中で誰よりもだ。

 

「オリヴィエ」

「ん」

「最後まで見ていてください、この戦いを」

 

 振り返ってオリヴィエに伝える。

 貴女が『女神の試練』で戦った相手はこれほどの強さを持っているのだと。

 王国の未来を担うに相応しい王女なのであると。

 

「勝つのは私です」

 

 国の未来を背負う第一王女は歩き出す。

 自分達の全力をぶつけ合うために。

 かつて誰も知らない場で行われた衝突、その時の約束を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 会場は異様に静かだった。

 会場に誰もいないから静かなのではない。

 先ほどまで観客全員がこれから行われる試合に湧き立ち、勝敗を予想し、提供される品々に舌鼓(したつづみ)を打ったりと今まで以上にない熱気に包まれていたのだ。

 それどころか入場が行われる前から互いの名で大規模なコールまで行われていた。

 

 しかし両者が入場したその瞬間、会場は一斉に言葉を発する事が出来なかった。

 観客側の“騒ぎ方”が“変化した”。

 そう表現したほうが正しい。

 互いのコールを行うのではなく、これから行われる激闘を一瞬たりとも見逃さない。

 そんな“熱”を観客達の目に持たせたのだ。

 

(武に精通していない観客達でも、察せるほどに高められた剣…すごいな。彼女達は)

 

 『武神』と呼ばれた者は彼女達を見て、素直に誉め讃える。

 

(…二人とも、頑張れ)

 

 『英雄』と称された者はこれから戦い合う二人に応援を掛ける。

 

(アレクシアさん、アイリスさん。ご武運を)

 

 『学園最強』であった者は祈りを捧げる。

 

 

『準備は、いいんだな!!?』

 

 

「…愚問ですね」

「…同感よ」

 

 互いに持つはこれまで持っていた剣。ではない(・・・・)

 

(っ!あれは…スライム!まさか彼女達もシャドウのスライムソードを…!?)

 

 それにいち早く感づいたのは『シャドウガーデン』のアルファ。

 スライムソードは魔力を流し続けなければならない関係上、並の魔力量では維持する事すらできない一品だ。

 それも魔力があれば良いわけではなく、緻密な魔力制御能力も求められる。

 『シャドウガーデン』では基本装備であるものの、それは彼女達の下地に莫大な訓練量とディアボロス細胞が適応したことによる魔力関係があるからこそ成り立っているのだ。

 

「アルファ様…あの二人、強いのです」

「これは…予想以上だな」

 

 アルファの隣に座っているデルタとゼータの二人も彼女達の強さに気づく。

 特に七陰の中でも戦闘センスはずば抜けているデルタも彼女達の強さを認める程、というのは偉業に近い。

 

「…この戦いを見届けましょう。今後の王国に対する考え、その根本を改める必要がありそうだわ」

 

 教団へ対抗する実力者が、自分達へ牙を向けないか。それを見極めるべく、アルファも余計な事を考えることを止めて試合に集中するのであった。

 

 

始めェェアアアアアッッ!!!

 

 

………。

 

……………?

 

 ブシン祭に参加する者達全員が固唾を呑んで見守る中で行われた開始の宣言。

 その合図と同時に両者は駆ける―――ことはなかった。

 

 それどころか両者は武器を構えているものの、あくまで自然に構えたままだ。

 動いてはまだいない。

 

見切り合い(・・・・・)か)

 

 ガイアスは彼女達の動きを見て納得する。

 武術の道を究めた達人は『気の起こり』を察知する事で相手が動こうと思ったその瞬間を叩く技術だ。

 それが可能な達人が相対したとき、相手の動きと『気の起こり』をどれだけ深く見切れるか。

 それが出来る者がこの拮抗に打ち勝つことが出来る。

 

 だがそれも長くなることはない。

 即座にアイリスが動いたからだ。

 

 リラックス状態から緊張への転換。

 その瞬発力と体内で練り上げた魔力を足に集めることで、瞬きで距離を詰める。

 振るうは大剣。

 アイリスの膂力から振るわれる一撃は大岩どころか大地をも割ることが出来る程の力を有する程になっている。

 それを最初の一手に選ぶ。

 

 

  !?

 

 

 大剣がアレクシアの頭蓋を叩き割らんとしたその瞬間、大剣がアレクシアの身体をすり抜ける。

 アレクシアは打ち下ろしを側面に横回転で避けて躱し、その勢いを使って剣を首元へ薙ぐ。

 しかしその横薙ぎも同じようにアイリスをすり抜ける。

 攻撃。すり抜ける。

 反撃。すり抜ける。

 追撃。すり抜ける。

 迎撃。すり抜ける。

 斬れば躱され、斬られれば躱す。

 観客達の目からは至近距離の斬り合いにも関わらず、攻撃が幽霊のようにすり抜けているように見えていることだろう。

 

 実際は『攻撃が来る前に回避をする』ことを極限まで正確に早く行動している結果なのだが、その理論を理解できるのはこの会場にいる者達では4人(・・)だけだ。

 

(久々に王国に来たが、まさかここまで高められた戦いを見ることが出来るとは…!!)

 

 体捌きと技量で言えばシャドウに迫る程の実力者『武神』ベアトリクス。彼女もこの戦いを理解できる数少ない一人。

 ここまで高めるために、どれほどの想いが費やされたのか。

 それは彼女もよく理解できる。

 これほどの戦いはずっと見ていたい程だ。

 

(しかし、均衡が崩れる――!)

 

 だがこれは戦い。

 均衡が崩れ始める。

 アイリスの斬撃が徐々にアレクシアを捕え始め、服を、肌を、少しずつ削り始めていた。

 

 グラッ

 

 互いの斬り合いと体捌きの戦いで、一瞬隙が生まれた。

 

(ここ――!!)

 

 その瞬間(・・・・)を、見逃さなかった。

 

 ズバッ

 

(!?)

 

「油断大敵ですわ姉さま」

 

 見逃さなかったのはアレクシア・ミドガル。

 大剣の連撃に、態勢を崩すように見せたことで、アイリスはほんの僅かだけ力みを含んだ振り下ろしを行った。

 その力みによって発生したコンマ数秒の動作への遅れを突いてアレクシアが剣を左上腕部へと滑りこませたのである。

 

「流石ですねアレクシア。技術面ではやはり貴女の方が上手ですか…」

「謙遜だわ姉さま。機会は私の方が圧倒的に多いはずなのに僅差なんですもの」

 

 アレクシアがアイリスを大きく傷つけたことで両者の至近距離での斬り合いが一端治まった。

 その間にアイリスは魔力を操作することで少し深く入った傷を即座に回復させるが、アレクシアも同じだった。

 互いに全力で挑んだ斬りあいであるが、アイリスはアレクシアの技量の方が上なのだと公の場で認める。

 もしこれが他者に聞かれていれば大騒ぎになっていただろうが、試合中に会場内へ侵入する輩などいない。

 そのため気兼ねなく応えることが出来る。

 

「本当に困ったものよ。姉さまは追いついたと思ったらすぐに飛び越えていく。本当に挑みがいがあるわ」

「その言葉そっくり返しますよアレクシア。気を緩めるなんてしたらあっと言う間に突き放される。姉として、貴女の上に居続けたいと思うのは、可笑しなことではないでしょう?」

「全くその通りね」

 

 軽い談笑。しかし今は試合中。

 全力で行われた準備運動(・・・・)を終えた二人は再び真剣な顔を浮かべ、体内で魔力を一気に練り上げる。

 二人の王女(彼女達)は言葉にせずとも伝わりあう。

 ここからは身体強化と読みあいだけで行われる剣士の試合ではない。 

 全力で鎬を削り合う()剣士の戦いである。

 

 

満たすは劫火。語るは災害。龍炎を以て敵を討つ

 

 

 ッ!あの時のだ…ッ!!

 

 観客達がそこでアイリスが見せたものに気づく。

 あれこそが『女神の試練』で古代の戦士を打倒した魔力の具現化であると。

 練られ、凝縮され、そして解き放たれる魔力圧が試練の時とは比較にならない程の爆炎を放つ。

 空を切る要領で振られた大剣から炎が濁流の如くアレクシアへと襲い掛かる。

 

 

舞うは嵐。語るは災禍

 

 

 迫りくる劫火を前にして、アレクシアは極めて冷静。

 剣を眼前に天へと刃を向けて告げるは祝詞(のりと)

 

 

颶風(ぐふう)(まと)いて龍と成す

 

 

 劫火がアレクシアを飲みこむ直前、彼女の周りに嵐の柱が出現した。

 台風の目は無風空間であるのと同じように、彼女の手が届く範囲に侵入してくるものは何もない。

 まるで彼女を守護する意志があるかの如く、迫りくる劫火を天へと巻き上げることでアレクシアを莫大な熱量から守りぬいた。

 

 

 

(アレクシア…貴女は本当に変わった)

 

 嵐を従える彼女を前にして、アイリスは想う。

 幼少の時期に和気藹々としていた妹が、いつの間にかあらゆる知識を取り込まんと活動を行い、(わたし)が護る必要がないほどに強くなった。

 姉は妹を護るもの。

 そう思っていた私に、アレクシアは自分は護られるだけの存在ではないのだと示してみせた。

 同い年の少年を師と崇めて彼についていく彼女を止めるべく無謀にも挑もうとしたこともある。結局はアレクシアによって阻止されたものの、そこから私もガイアス()との接点を持つに至った。

 どこから学んできたのかわからない知識を用いて成長の手助けをしてくれる彼を信じ、鍛え続けた。

 

 その結果が目の前の光景だ。

 敵を屠る劫炎と災禍を生み出す嵐がぶつかり合って対消滅を繰り返す。

 その反動で会場内の地面が滅茶苦茶な事になってしまっているが、そんな事を気にしていては目の前の好敵手(・・・)に勝つことなんて不可能だ。

 

「(アレクシア…貴女は強い。だからこそ、私は全力の貴女に勝ちたい!!)

 ハァァァァアアアアアアアアア!!!」

 

 “次”の事なんて考えない。

 そんな余裕なんてものは彼女を前に存在しない。

 自分を構成する全てをぶつけて、そして勝つ。

 だからここであらゆるものを動員して挑むのは当然の帰結。

 迷いなく全力を投じることが出来る決断力が、アイリス・ミドガルの強みなのだ。

 

 

 

(姉さまは本当にすごい人。妹として、姉さまが私の姉で居てくれて本当に誇らしい)

 

 炎を従える彼女を前にして、アレクシアは誇る。

 幼少期から大の大人を真正面から倒す程の力を持ちながら、決して驕ることなく自らを鍛え続けられる精神性に何度憧れたことか。

 妹である私を常に気に掛けてくれる優しい姉。それは今でも変わらない。それがどれだけ恵まれたことか、今の私ならよくわかる。

 妹は姉に護られるもの。

 それが嫌だった私は、姉さまを支える…支え合える存在になるべく意志を示した。

 そこで喧嘩に近い形になってしまい、勝つこともできなかったものの、その衝突があったからこそ姉さまも今の関係を受け入れてくれた。

 

 だからこそ今、目の前で姉さまが全力全開(すべて)をぶつけてこようとしている。

 あれは“次”なんて考えていない出し切る覚悟。ここで勝てるのならばその他全ては些事であると言わんばかりのその判断力。

 慎重に事を考えるアレクシアにとって、彼女の決断力は羨ましい。

 だが逆にいえばアレクシアは状況を俯瞰して判断する事が出来ることに他ならない。

 

(姉さまは私に勝つために文字通りの全力をぶつけてくる。好敵手(ライバル)として、全てを使ってくる)

 

 生半可な対策では全て一刀の下に斬り伏せられるだろう。アレクシアも全力を尽くす必要があった。

 だが彼女の目標は、ここ(・・)ではない。

 で、あれば。

 あればこそ!

 

「(全力で、この場で!限界を超える(・・・・・・)!!)

 スゥゥゥウウウ――――――ッッ!」

 

 “次”があるから今を生き抜ける。

 未来を想うからこそ考える。

 自分の全てを使い、勝ち上がって目指す。

 だからこそ全てを賭けた上で、彼女は歩みを止めることはない。

 どんな苦難の中でも成長すべく前に進み続けられる根気こそが、アレクシア・ミドガルの強さなのだから。

 

 

 

 互いに魅せた魔力の具現化。

 大地を焼き尽くさんと湧き立つ劫火と天を穿たんと巻き上がる颶風(ぐふう)

 観客を護るために張られている結界が、軋んで悲鳴を挙げる。まだ本格的にぶつかってないというのにも関わらずだ。

 

「…貴方から見て、彼女達はどう見えますか?」

 

 それを把握しつつも、ガイアスは隣に座る相手に語る。

 本来であれば相手はこのような場にいるべき存在ではない。

 だがこの試合は、この試合だからこそ。

 彼は最も近くで見れるこの場所で見る権利がある。

 

「ガイアス君…。私はね…国王に着任してからというもの、国の為に奮起してきたつもりだ。

 時には厳しく、立場もあって甘やかすことはできなかったが、それでも彼女達の未来になることをしてきたと思ってる」

 

 ミドガル王国国王であるクラウス・ミドガルだからこそ、試合の結末を見届けなければならない。

 

「教団が暗躍している事を知ってから独自に動いて長い時間が経った。

 同胞もその過程で何人も失ったし、拒絶したい要請を受けざるを得なかったこともあった」

 

 何度も甘い蜜を吸って腐る機会はあった。

 国民達に気づかれない様に教団と手を組んで好き勝手することも可能だった。

 だがクラウスは安易な道に逃げることをしなかった。

 

「本当に君と出会うまで、暗く、困難な道のりだった。だけどそこでも進み続けたから、君と『シャドウガーデン(彼女達)』の協力を得ることが出来たのだと考えている。

 だけど、その根底にあったのは、娘達が担う未来の為だったんだ」

 

 王としてだけでなく、父親としての矜持が、彼を今まで立ち上がらせた。

 娘達を想って行動を続けてきたからこそ、どんなに自分がつらい状況に陥っていても諦めることをしなかった。

 

 頬から涙が零れ落ちていく。

 試合に決着はついていない。

 しかしクラウスの瞳に映る娘達の逞しい姿が、彼のやってきた行動が間違っていなかったのだとそう理解させてくれたのだ。

 

「うまく、言葉が出てこないが…、アイリス、そして、アレクシア…本当に、立派になったなぁ…」

 

 未来を創っていく娘達の成長は早いもの。

 これまで背負っていた重責が軽くなるような感覚に陥りながら、クラウスはぼやける視界で彼女達の試合を見届けるのであった。 

 

 

 

 







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戦闘における状況描写について

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