王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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 次回から不定期で前書きか後書きにて感想などの一部を返信出来たらと考えてます。


 


三十一 決着ッッ!

 

 

 光の柱が生まれた。

 空が墜ちてきた。

 

 王都で生まれ、学び、働いて生きいく中で、こんな光景を目の当たりにする機会が生涯一度あればいい方だろう。

 こんな光景はいくら闘技場狂いであってもお目に掛かれるものでもない。

 

 観客達は固唾を呑んで見守っていた。

 『女神の試練』にて“魔力の具現化”という前人未到の領域を見せたアイリス王女が優勝候補筆頭として槍玉に挙げられていた経緯から、いくら腕が良くてもアレクシア王女ではアイリス王女には敵わない。そんな予想をしていた者が多かったのは事実である。

 

 しかし現在はどうだろうか。

 観客達の反応が王女達(彼女達)の耳には届かなかったとはいえ、先にアイリス王女が大きく負傷したことは観客達に動揺を奔らせるのには十分すぎるものだった。

 そこからアイリス王女の具現化の解禁。

 それで興奮が高まったが、アレクシア王女も同じ頂にいることを示すように嵐を自らの手足のように扱ってみせる。

 今までアレクシア(彼女)を評価していた者達はなんだったのか。

 互角にやり合う彼女を見て、この試合はアイリス王女側の一方的な試合にならないと皆は確信を持った。

 

 それでもアイリス王女は強かった。

 アレクシアを捕えての自爆。

 自らの負傷すら厭わない一撃は確かに試合の行く末を決めるに相応しい規模と威力を誇っていた。

 だがそれですら試合を決着させるには至らなかった。

 

 誰が見ても試合続行不可能なレベルの大怪我を負いながらも、未だに戦意が衰えなかったアレクシア王女。

 そんな彼女が最後に見せた乾坤一擲の大勝負は、これまでのアレクシアの評価を180度改めざるを得ない程であった。

 

「…ど、どうなったんだ…?」

「いやわからねぇよ…」

 

 試合を見逃して堪るかという意志でこれまでの戦いを見届けた観客達であっても、現在の状況が把握しきれていない。

 アイリスが使用した大爆発でただでさえ会場内が滅茶苦茶になっていた。

 それを輪にかけるように天より墜ちた嵐龍が大地を穿ったのだ。

 先ほどよりも土埃が辺り一面に舞い、会場内を完全に閉ざしてしまっている。

 

 魔力結界が残っていれば観客席まで届かず、より簡単に状況を把握できたかもしれないが、残念ながら魔力結界はアイリスの覚悟によって破壊されてしまっている。修復にはまだ時間を要する事だろう。

 

「どちらも、お見事」

 

 では嵐龍と評する程の嵐槍(らんそう)の一撃が観客達へ被害を齎さなかった理由。

 それは彼女達の会場を見据えながら呟いた男が原因だった。

 

 ガイアス・クエスト。

 第一王女アイリスと第二王女アレクシア王女を10年近く傍で鍛え続けてきた男。

 嵐が大地を抉り飛ばす直前で魔力結界のシステムを利用して防御陣を再展開していなければ、ここまで被害が落ち着いていなかっただろう。

 それもすぐに破壊されてしまったが、被害が出ていないだけマシだと思っていただきたい。

 

「どうなったのだ…?」

「それは自分でもわかりません。あとは煙が晴れた後の彼女達次第です」

 

 ガイアスの隣で観戦していたクラウスも魔剣士としての実力を持っている。

 だが彼女達の領域は彼の遥か先であり、この戦いを見て追いつくので精一杯であったクラウスには“とてもすごいこうげきをしたふたり”ぐらいしか理解することは出来なかった。

 しかしそれは会場で見ていた大多数が同じ感想であるだろうから、彼を馬鹿にすることは出来ないことだ。

 

 

 

 

 

 

(アイリス…アレクシア…、すごかった)

 

 入場ゲートでアイリスを見送ったオリヴィエは感嘆する。

 英雄と呼ばれ、魔人と戦った経験もある三英雄の一人オリヴィエ。

 彼女から見てもこの戦いは素晴らしいものであった。

 勝つ意志と負けたくない意地。生き死にを厭わずに互いの全力をぶつけ合える関係。それでもなお死ぬことはないと信じている信頼。

 自分では経験する事ができなかったことを彼女達はやり遂げてみせた。

 

(もし私が、あの場に居たら…)

 

 どちらとも親しくさせてもらっているオリヴィエだが、どちらを応援しているかと言われればアイリス王女だ。

 アイリスと『女神の試練』で戦わなければ、彼女が聖域で剣を持ち出してくれなければ、自分は今この場に立っている事はなかったことを理解している彼女にとってアイリス・ミドガルは恩人である。

 

 アイリスが見せた大爆発。

 オリヴィエも自分が直撃してしまえばそこで試合が終わっていたことを確信している。

 そこでもなおアレクシアが一矢報いたことは驚愕に値するのだが、オリヴィエも『ブシン祭』に出場する選手。

 順当に良ければ決勝戦で戦うことになるのだから、どう動くべきなのか。どんな対策を取ればよいのかをシミュレートするのは至極真っ当なことだろう。

 

「“魔力の具現化”…、魔力制御、循環…」

 

 オリヴィエを形成している身体はガイアスが使用していたゴーレムの素体である特別なスライムだ。

 元々液状に近い性質を持っている生物を魔力制御によって人間に近い動きを再現している都合上、かなり繊細な魔力制御能力を必要とされる。

 そう言った意味ではオリヴィエも具現化を扱えるだけの下地があるだろう。しかし彼女は魔力電池で日常生活も賄っている関係上、過剰な魔力使用は自分の身体構成を阻害する可能性がある。

 戦いの最中に片足の形を維持できないだけでまともに動くのは困難を極める以上、そんな分の悪い博打を打つことは出来ない。

 だからこそオリヴィエは彼女達を少し羨ましく思った。

 

「次、ジミナ…、強い」

 

 2回戦でオリヴィエが戦う相手はジミナ・セーネン。

 初出場ながら実力者として名が挙げられていたアンネローゼ・フシアナスを一方的に撃破した素性不明の謎の男。

 もし王女達が彼と戦ったら結果がどうなるのか、それは実際に見てみないと判断はつかないものの彼女の好奇心を刺激するには十分だろう。

 

 魔力を大して使用しない状況でアンネローゼを翻弄する実力はオリヴィエの戦闘スタイルと似通った所がある。

 そしてジミナは強い。

 オリヴィエがジミナと相対すれば、全力で挑まねばならないことは理解している。それで勝てると断言できないことも。

 

 しかし彼女も勝ち進みたいのだ。

 自分がどれほどの強さなのかを知りたい。そのために戦う。

 オリヴィエが知る親しい強者は現状ガイアスとアイリス、そしてアレクシアだ。親しくない強者としてその中にジミナが入ってきている。

 ならばそのジミナに勝ち、次に当たるであろうアイリス達と戦いたい。

 そのためにはまずジミナに勝つ必要がある。

 

 今も会場のどこかでこの試合を見ているであろう。

 そんな無名の実力者とどう戦うかを考えながら、土煙が晴れるのをオリヴィエは待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

『ど…どうなったぁっ!?』

 

 視界が隠れた会場を見て司会が叫ぶ。

 辺りに浮遊する土埃。静寂に支配される会場。結果が見えない試合。

 それに焦れる者達の声を代弁するように叫ぶ司会の声が響く。

 平たい地面であれば動く影が見えたかもしれないが、すでに抉れている地面内ではそれも判断が付きづらい。

 そして会場内を部外者が侵入する事は出来ない規律(ルール)な以上は落ち着くのを待つしかない。

 

(後少しで晴れる…)

「アイリス…アレクシア…」

 

 腕を組みながら状況を冷静に分析するガイアス。

 クラウスも娘達の試合結果を見届けようと身を乗り出す勢いで見つめていた。

 

 アイリスがアレクシアに先に与えたダメージは極めて甚大。

 しかしアレクシアが鬼札として放った一撃を受けて、アイリスも無事ではない。

  

(アレクシアさん…アイリスさん…)

 

 ローズは胸の前で両手を握った。

 二人の無事を祈りながら、両者に祝福をかける。

 

「どうなったのよ…」

 

 上から試合を見ていたクレアは呟く。

 二人の強さを知っているクレアだからこそ、先の一撃で結果がわからなくなった。

 

「がう…」

「……」

「侮れないわね」

 

 ゼータとデルタ、そしてアルファ達は本格的に彼女達を認識した。

 アレクシアの放った威力もだが、アイリスが誇る頑丈さにも気づいたから。

 

「や、奴らは…ば、化け物か…?!」

 

 ドエム・ケツハットは彼女達の力を知って腰を抜かす。

 こんな強者を教団が把握していなかったことに。

 

(決まる…)

 

 ベアトリクスは愛剣を握り、決着がつくことを確信した。

 一人の武人として、両者が死力を尽くし、それを出し切ったことを理解したから。

 

 

―――!!

 

 

 土煙が収まっていく。

 

 ぶつかり合った二人の王女。

 観衆の予想を遥かに超えた接戦を演じた両者。

 

(あれは…!!)

 

 確かに見た。

 姿はまだわからないが、凄惨な戦場の中で、確かに腕を掲げている、

 

 晴れる――。

 晴れていく―――。

 

 

「そうか。貴様が来るか」

 

 

 これまで感じ得なかった昂りを感じながら、少年は笑みを浮かべた。

 

 

『~~~っ!!』

 

 

 状況を理解し、司会が喋る。

 彼が放つ言葉を待ち、観客達は言葉を呑んだ。

 

 

 二つの意志が駆け、一つは墜ちる。

 

 より激しく、より輝く戦い抜いた。

 

 武の頂を決める年に一度の『ブシン祭』。

 

 次への挑む、その挑戦権を掴み獲ったのは――――

 

 

 

 

 

「ほんっと、つかれたわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝者…アレクシア・ミドガルッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 名を呼ばれるは嵐を従えた第二王女。

 地面に背を預けた状態であれど、明確に腕を伸ばし、握り拳を作っている。

 対する第一王女は地に伏せ、動く気配はない。

 

 明確に発せられた結果に、見ていた者達が一気に湧き立った。

 試合後も収まらぬ大歓声。 

 その中心で痛む感覚もないアレクシアはその大歓声を一身で受け、笑みを浮かべながら意識を失っていくのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 目が覚める。

 光輝く電灯が、暗闇から帰ってきた自分の視界を照らす。

 

「知らない天井ね…」

 

 見慣れない天井にアレクシアは呟いた。

 意識が虚ろになりながら放った攻撃、そして自身の名を呼ぶ声と歓声が聞こえたことは覚えている。

 

「ッッ…」

 

 寝かされていたベッドから身を起こした。

 感覚が無くなっていた左腕にはぐるぐるにギプスが填められて自由には動かすことが出来ない状態であり、自身の視界も左半分が真っ暗だ。

 動く右手で顔を触ってみれば包帯が巻かれている事に気づく。

 

「起きたか」

 

 聞きなれた声。

 右を見ればガイアスが丁度扉を開けて入ってくる所だった。

 

「調子はどうだ?」

「悪くないわ。そしてありがとう。治療してくれて」

「ホントだよ。無茶しすぎだ」

 

 礼を伝えると愚痴が返された。

 だがアレクシアはそれに対して笑顔でごめんと返す。

 無茶をした自覚はあったからだ。

 

「顔の治療は兎も角、左腕の炭化状態を治すのは骨が折れたよ。神経も修復出来たと思うけど、違和感はあるか?」

「指なら違和感なく動かせるわ」

「それはよかった。だが明日も念のため治療するからな」

 

 ほっと一息つくガイアス。

 実際アレクシアの容体は非常に不味い状態だった。

 試合後に気絶したことで完全に魔力制御が途切れてしまい、なんとか繋ぎ止めていた血管や筋繊維が断裂し始めたことで、その場でスプラッタ現場になりかけた程だ。

 ガイアスが慌てて応急処置に向かったことと、危険な状況を理解したオリヴィエやローズらが救急用具を使ってアレクシアの姿を民衆に見せないようにしてくれたことで何とかなった。

 後で彼女達にもお礼をしなければならないのである。

 

 そんな状況を何とか乗り越えて意識を取り戻したアレクシア。

 ガイアスはそんな彼女に「飲めるか?」とお茶を渡してきたため、アレクシアは素直に受け取って喉を潤した。

 

「私、勝ったのよね…」

「あぁ。見事な戦いだった」

 

 一息ついて、まだ信じられない現実を再確認する。

 アレクシア・ミドガルがアイリス・ミドガルに勝利した。

 これは彼女が生きてきた中で初めての体験だから。

 

「姉さまの容体は大丈夫なの?」

 

 そしてアレクシアは姉の状態が気になった。

 勝つためとは言えど、彼女はアレクシアと血のつながった家族だ。

 自分の攻撃で死んだとは思えないが、相当なダメージを負ったはず…。

 

「試合後終了後に自分で起き上がって自室に帰っていったよ」

「えぇ…」

 

 その解答はまさかの自力で帰宅。

 文字通りの全てをぶつけたというのに、その解答には困惑しか出せない。

 

「アイリスが意識を失っていたのは魔力の過剰使用とそれに伴う処理が追いつかなくなったことで脳が強制終了(シャットダウン)してしまったせいだからな。

 まぁ、身体強化のみであの攻撃を大怪我で済ませている耐久性がおかしいんだが」

「…なんかそれを聞いて負けた気がしたんだけど」

 

 試合で勝ったというのに、負けた気分になるアレクシア。

 

「そういうな。最後まで意識を保った方が勝者。それはどこでも一緒さ」

「それは分かってるけどぉ…」

 

 それは仕方ないと諫めるガイアスに対してアレクシアは悔しそうに口を尖らせる。

 王女としての姿ではなく、そこには年相応の少女がいた。

 

「アレクシア」

「?…どうしたのガイアス?」

 

 それに笑みを浮かべたガイアスはアレクシアの名を呼ぶ。

 彼女はまだ理解が追いついていない様子。

 

「決勝で会おう」

 

 ガイアスは拳を彼女の前に出して告げた。

 

「――っ!」

 

 そしてアレクシアは理解する。

 アイリスと戦う前に告げた内容。それを果たすために、ガイアスも本気で挑んできてくれることを。

 

 教えを乞い、鍛えてきたこの人生。

 まだ彼に追いついたとは思っていないが、それでも彼が認めてくれたのだとアレクシアは感じ取った。

 

「~~~っ」

 

 感極まって泣きそうになる。

 だがそれは今ではない。

 この『ブシン祭』が終わって、その後ある諸々(・・)が終わってからだ。

 

「当然!決勝戦、楽しみに待ってなさいよ!」

 

 見る者全てを魅了してしまうほどの笑みを魅せ、アレクシアは拳をぶつけ合うのだった。

 

 

 




 
 
 

・七陰達による王女の評価
 アレクシア・ミドガル
旧)悪くない。おそらく自分達と同格ぐらい腕前。でも魔力量を考えたら戦ったら勝つ。
新)同格かそれより上にいる実力者。イプシロンと魔力制御で良い勝負しそう。行ってこいイプシロン。君に決めた!

 アイリス・ミドガル
旧)脳筋。魔力も凄く、強いと噂だが『シャドウガーデン』ほどではないでしょ。
新)王国所属の“賢い”デルタ。要するに敵にすれば普通にどころか非常に厄介。

 二人の強化具合に賛否あるかもしれないが、出会ってから今に至るまでの十年程をほぼ付きっ切りで日々修行と矯正諸々を受け続けた分、七陰達よりも成長曲線が超高いと考えれば妥当と思ってます。
 むしろ七陰達の成長度合いがおかしいのでは…?
 
・クラウス・ミドガル
 娘達の成長に感涙を滝の如く流す。
 その後普通に大怪我を負っているのを確認して動揺することになるが、それを治療してみせたガイアスを見て、クラウスは覚悟を決めた。

 『皆の者、準備を行うのだ。迅速にな』

・ドエム・ケツハット
 悠々と試合観戦に来たら二匹の化け物が暴れ散らかしてて戦々恐々。
 これ以降アイリスに笑みをもって話されると泣いちゃうかもしれない。

ドエム 『わァ…あ…』
アイリス『泣いちゃった!!』

戦闘における状況描写について

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  • まぁ解る
  • 普通
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  • 難解
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