王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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 どんなに原作キャラを超強化しても、シャドウを上回るイメージがほとんど湧かない。
 まさに陰の実力者の鏡。
 
 
大雑把返信コーナー
・ローズの教団関係情報云々
 『シャドウガーデン』の変装が得意なニュー(ジェバンニ)が一晩でやってくれました。

・ハーレム云々
 そういえば陰実の二次創作で明確に一夫多妻制に言及している作品をあまり見かけない気がしますね。
 
 それでは本編どうぞ。
 
 


三十五 高みを知る①

 

 

「お父様と、クララは…!私が護る!!」

 

 彼女がガイアスへと向ける目は先ほどまで怯え、逃げ出そうとしていた目ではなかった。

 恐怖を前にしても、己を保つことが出来る芯。

 ローズ・オリアナはソレを再確認したことで迫り続ける恐怖を乗り越えることに成功したのだ。

 

(恐怖を越えたか)

 

 ガイアスもローズの意志を感じ取る。

 もしあのまま試合から逃げ出そうとしたのならば、いくらオリアナ王国の王女であったとしても見捨てるつもりだった。

 ローズ(彼女)を悪魔憑きから治療を施したときは協力する旨を伝えはしているものの、恐怖に怯えて選択肢を誤るのであればミドガル王国にとっても不利益になりかねる為だ。

 

 だがガイアスとローズの間には接点が少なく、日常的に出会う頻度は想っているより少ない。

 基本的にアレクシアが彼女を鍛えている事が多く、ガイアスは王国に入り込む教団()の始末に勤しんでいるため時間が嚙み合いづらい所も災いしているだろう。

 

 このブシン祭で行う行動ではないかもしれないが、ドエム・ケツハットが腹の中でどこまで考えているかわからない以上、このブシン祭を火種として教団との全面戦争が始まる可能性を考えれば多少強引な方法を取らざるを得なかった。

 

「ローズ王女の動きが戻った!!」

「さっきとは比べ物にならない程の速度だッ!!」

 

 動きのキレが戻り、本来の速度を存分に扱うローズは舞っているかのような美しい剣技だ。

 身に着けている籠手(こて)で剣を弾いている間にも彼女から放たれる戦意はより鋭くなっていく。

 

(魔力はまだ十分にあるッ!アレクシアさんに教わった通り、全身に流し込みながら練り上げる!!)

 

 ローズの背を押すように全身に練り上げられていく魔力は、これまでの彼女では持っていなかったもの。

 悪魔憑きを治療したことで体内に眠っていたディアボロス細胞が身体と適応し、魔力総量が増大していた。

 そこに加えて、元々有していた才能と努力で伸し上がってきたアレクシアの経験則から来る制御知識が噛み合った結果、ローズも相応の実力者に仕上がってきているのだ。

 

(更に速く…!もっと速くッ!!)

 

 そしてこの試合で戦いに対する意識が変わったことで、優しい…戦場では甘い考えを切り替えることに成功。

 知り合いとしてではなく、命を賭ける相手として相対することを選んだローズの剣はより実戦的に振るわれるようになっていた。

 

「勝つッ!」

 

 剣を振るうたびに余計な雑念が削ぎ落され、動きに無駄が無くなっていく。

 それに比例するように魔力制御と身体能力が研ぎ澄まされていく様を見るのは、オリアナ王国の未来を想えば実に頼もしい限りであった。

 

 

 トンッ

 

 

 だがしかし、相手はガイアス・クエスト。

 

「お見事です」

 

 首筋に添えられるは手刀の一撃。

 剣戟の隙間を縫って与えられた衝撃で、ローズの意識は途切れることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりすぎ」

 

 試合が終わり、席へ戻ろうとするガイアスの元へアレクシアがやってくると同時に一言注意された。

 

「だが必要な事だ」

「それは分かってるわよ」

 

 だがアレクシアも理解していた。

 ローズが持つ戦いへの考えを矯正しなければ、教団相手に大きな隙を見せることになることを。

 いずれ自分もローズに対して実施する予定ではあったのだが、この場で始めたのはガイアスの気遣い、というやつなのだろう。

 

「ローズさんには悪いけど…精神的支柱が無いと、戦場では生きていけないから」

 

 ディアボロス教団がオリアナ王国国王 ラファエロ・オリアナを傀儡にすることが成功したのは、ローズの母親であるレイナ・オリアナとドエム・ケツハットが手を組んでいる事まで把握されている。

 それはつまりローズが教団と敵対することは自ら肉親へ手を掛ける必要性が出てくるということ。

 

 これまでの彼女は心優しい性格だ。

 だが今のままでは母親が敵側にいると分かっていても、母親を信じて自ら敵の元へ身を投じる可能性もあった。

 それでは何も解決にならないのだ。

 そのため彼女には過剰な恐怖心を与えることで、戦いに身を投じる理由を見つけて欲しかったという理由があったのである。

 

「でもそれとこれは別。一国の王女にする所業ではないわよ。見に来た人達からの評価は『王女の実力を警戒した結果』みたいな捉え方されてるけど、説明もなく行うことじゃないわ」

 

 ごもっともである。

 オリアナ王国関係者が部屋に引き籠っていたから良かった(?)ものの、関係者が見ればあまり良い顔をしないだろう。

 そして当人のローズは外傷はほとんどなく、今は疲労でベッド行きだ。

 

「今回の件が無事に終わったら、謝っておくよ」

「そうしなさい。そして、始まるわね」

 

 ガイアスの言葉を聞いたアレクシアは溜飲(りゅういん)を下げ、話題を変えた。

 これから行われる試合は第二回戦の決勝と言っても良いだろう。

 

 三英雄のオリヴィエと『シャドウガーデン』総帥のシャドウ。

 

 両雄が今から衝突するのだ。

 これまでシャドウことジミナは対戦相手と絶対的な戦力差があったこともあり、彼の一端すら見ることが出来なかった。

 アンネローゼ戦で見せた動きもあれば彼にとって本気ですらないだろう。

 

 だが今回戦うのはオリヴィエだ。

 スライムの身体であることは魔力制御という点では不利かもしれないが、肉体的な意味では逆に利になる。

 彼女がやるかはわからないが、身体の一部を伸縮させることでリーチを伸ばすなんてことも可能だ。

 戦闘センスも光る彼女なら、ジミナことシャドウの力を観衆に曝け出せるだろう。

 

「どちらが勝つにせよ…次に戦うのは俺だからな。この試合で色々解れば儲けものってところか」

 

 腕を組みながら会場を見据える。

 すでに会場内には二人の魔剣士が互いを見据えて静かに戦意を滾らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『双方出揃いました!

 どちらもスピードに自信を持つ剣士です!!』

 

 二人の魔剣士が会場にて相対する。

 

 試合でもその俊足を生かして相手に一切攻撃をさせずに勝ち上がり、かつての『武神』を彷彿とさせる容姿を持ち、金髪を靡かせながら迅速に戦場を駆ける姿からすでに『閃光』と称されるエルフ。

 名をリヴィ・ハイリア。

 

 片や会場内の者達がノーマークだった予想を上回る男(ダークホース)

 剣の国ベガルタの出身であり、ベガルタの象徴ともされる『七武剣』の一人にも数えられたことがある女戦士 アンネローゼ・フシアナスを一方的に撃破した活躍を見せた。

 まさに『予測不可能(アンプリディクタブル)』。

 名をジミナ・セーネン。

 

 どちらも得物を携えて、静かにその時が来るのを待っている状態だ。

 ジミナは相も変わらず全身から弱そうなオーラを出しているが、対するリヴィは一切隙を見せない真剣な表情。

 ジミナ側から齎される情報ではなく、彼女自身の経験と本能から強敵であると理解していると言ったところか。

 

『両者、準備は良いな!?』

 

「貴方の強さ、見させてもらう」

「…面倒だな」

 

 警戒の色を隠さないリヴィを見て、一言だけ答えるジミナ。

 彼女が居合の構えを見せても眉一つ動かさず、武器もダラリと下げた腕に倣う様に刃先が地面を向いていた。

 

 それを見て、怒りの感情が湧くことはない。

 怒りを抱いているようでは決して彼には敵わない。

 

『始めェェエエエ!!』

 

 彼女が抱くは一つだけ。

 『勝つ』

 その思念、そして自らが用いる最高初速を以て、ジミナの首筋に刃を奔らせる――。

 

 

 速いッ!!

 

 

 その試合を見ている者達は一様にその感想が脳裏に浮かんできただろう。

 文字通りの目にも止まらぬ速さ。

 瞬きの間に距離を瞬時に詰めて、最速の一太刀で斬り伏せるという最適解。

 如何なる武装、魔力を持っていても、使わせなければ意味はない。

 それを体現したかのような動きで、一撃でジミナの意識を刈り取りに走る。

 

「いい動きだ」

 

 対するジミナ、ここで初めて明確に回避行動を取る。

 僅かな身のこなしと剣での防御で試合を制してきたジミナ・セーネンが明確に躱すことを選択した。

 首元に到達しようと迫る刃と同等の速度を自身の後方へかけることで、身体全体を反らして躱したのである。

 それに加えて初撃を躱されることを想定していたリヴィの回し蹴りを防ぐように剣を置いていたことで追撃も未然に防ぐ所業までやってのけていた。

 

 リヴィは速度の反動を殺すために地面をわずかに削りながら方向を修正。

 真正面から斬りかかるだけでは無理と判断。即座に攪乱戦法へと切り替えた。

 

 

『速い!動きが速すぎるッ!!これが『閃光』の全速力かッ!?』

 

 

 すでに彼らの目では追うことが出来ない速度になっているリヴィ。

 二つ名に恥じぬ速度を見た観客達もより歓声を大きくし始めた。

 

 リヴィ・ハイリアこと英雄オリヴィエ。

 彼女の身体は人間やエルフとは全く異なるスライムを素体にしている身体だ。

 そのため彼女の身体には骨や臓器という器官は存在していない。

 あるのは魔力制御で動く柔軟性を備えたスライムと、彼女を構成するコアたる聖剣。

 それをフル活用すれば、人には到達できない領域まで機動性を跳ね上げることが可能!

 

「ッッ」

「―――」

 

 エルフの時代から身体強化、そしてその体捌きに優れている彼女はアイリスとアレクシアの戦いを経てから、独自に成長を続けている。

 “魔力の具現化”という技術はまだ彼女には到達する事は出来ない。

 これは空想能力(イメージ)が乏しいということも起因しているが、彼女自身がその力とは別ベクトルで自身を強くするための道を見つけたからであった。

 

 駆ける。駆ける――!!

 

 その間にも放たれる斬撃の数が数えきれない程に増えていく。

 彼女の有する速度が更に高まっていっているのも相まって、まるでゲリラ豪雨を斬撃に変えて対象の全方位から攻撃している様にまで感じ取れた。

 

「…面白い」

 

 そのジミナはその場から無理して動くことはしなかった。

 迫る攻撃を躱し、防ぎ、往なす。

 それを最小動作でこなすことでありとあらゆる攻撃を防ぎきっているのだ。

 

「…ッ!(これでも、まだ届かない…!)」

 

 剣戟の音は間を置くこともなく鳴り響いている。

 リヴィとて直線的に攻撃を繰り返しているわけではない。

 タイミングをずらして斬りかかったり、気迫だけをぶつけて防御を誘ったりと手を尽くしている。

 しかしそのどれもが通らない。まさに堅牢と呼ぶに相応しい防御力だ。

 

 肉体疲労というものが存在しないリヴィの身体であるが、これを続けてもジミナを墜とせるまで消耗させられるとは思えない程の強さを持つジミナ――シャドウに感嘆を覚えていた。

 

(すごいな。さっきよりも更に速くなっている)

 

 ジミナに扮しているシャドウことシド・カゲノー。

 彼もオリヴィエが持つ速度に感心していた。

 

 陰の実力者を目指して肉体改造までやってのけた実力者にとっても、これほどまでの速度を持った相手と出会うのは初めての体験だった。

 

 

 

 オリヴィエがそこまでの速さを持つ理由が二つある。

 

 一つ目は先ほども述べたスライムの身体。

 人の身体は内臓という揺れ動く臓器がある関係上、いくら筋肉に覆われて護られているとは言えども衝撃は浸透していく。

 速度も極めれば大気の壁を叩くことが出来るほどの衝撃を生み出す。

 それを常人が耐えきることは不可能であり、魔力で身体強化が出来る魔剣士達であってもその壁を超えることは出来ない。

 

 だがスライムの身体には臓器というものはない。

 あるのは全身が魔力で制御できる軟体器官であり、いくら衝撃を受けて千切れようとも魔力で補強できる万能器官である。

 故に人では再現する事が出来ない動きもスライムを活用すれば問題なく扱え、魔力制御により急加速からの急停止と言った無茶苦茶な動きにも支障が出ない。

 身体にかかるであろう莫大な負担すらも克服しているオリヴィエは、すでにこの時点で圧倒的優位にいると言っていい。

 

 二つ目は彼女自身が魔人の細胞に適応し、それを十全に扱えるだけの魔力制御能力があったこと。

 他人に悟らせずにスライムを制御し、戦闘に回せる制御センスは王女達に並んで世界でもトップクラスだ。

 身体の構成に平行して魔力を集中的に回すことで即座に変速が可能になっており、時には身体の構成そのものを変えてジミナへ斬りかかっていた。

 背中や腰からも手足を一瞬だけ生やして不規則で流動的な動きを魅せつつも、瞬時に人型に身体を戻して攻撃を行うのは彼女にしか成すことが出来ない所業だろう。

 

 

 

 その二つを以ても攻めあぐねている。

 その事実にオリヴィエは内心で驚愕と共に納得。

 

 なるほど、アルファがあそこまで信頼しているだけはある。

 

 現状の速度において明らかに自分が上回っているにも(かか)わらず、今よりも深く攻めれば決定打を貰う。

 そう思わせる程にジミナには隙が無く、強い。

 

 現に薄皮一枚は裂けても、同じように自分にも攻撃を加えられているところが彼の神(がか)った強さである。

  

「でも“見切った”」

 

 そしてそれが証明される。

 

「ッ!!?」

 

 

 !??

 

 

 斬撃の嵐を放つリヴィが移動する先を完全に読み切ったジミナは、彼女が方向転換をする一瞬に合わせて距離を潰し、裏拳をリヴィの頬へ叩き込んだのである。

 拳が掠ったなどというレベルではない。

 明確な衝撃受けたリヴィはそのまま壁へと突き飛ばされ、大きな罅を作り出したのだ。

 そこの近くに座っていた観客達から悲鳴が上がるのは当然のことだろう。

 

「立て。まだ、出来るだろう?」

 

「…当然」

 

 ゆったりとした足取りで近づきながら語り掛けるジミナ・セーネン。

 それに応えるように崩れた壁面の一部があらぬ方向へと飛んでいき、殴り飛ばされた本人が立ち上がる。

 

 殴られた頬の跡が即座に治るのを見たジミナはそこでリヴィがどんな存在なのかを完全に把握した。

 

「なるほど“スライム”か」

 

「…うん。正解」

 

 シド・カゲノーという男は魔力制御が極めて高い人物である。

 魔力制御が高いということは魔力を感知する能力にも長けているということ。

 

 実際彼は『シャドウガーデン』の“ナンバーズ”の一人であるニューと呼ばれる女性が得意とする変装も、魔力色や波長などから即座に把握できる程だ。

 彼からすればオリヴィエの在り方は異質に映ったことだろう。

 

 血液やスライムは魔力をほぼ完璧に通す性質を持つ。

 魔力感知に長ければ、それを利用して血管を通して魔力が流れる姿を見ることが出来だろう。

 しかしオリヴィエは全身がスライムそのもの。

 巡るように魔力が流れるのではなく、まるで波紋の様に全身に時間差無く覆っていく様に感じ取ったはずだ。

 

 そして殴ったときの感触と、それを即座に治してみせたリヴィの肉体動作から、シドは彼女の肉体を構成しているモノがスライムであることを見抜いたのだ。

 

「スライムの身体で全身を形作るか…面白い事を考える者も居たものだな」

 

「私も、それには同意」

 

 肉体を捨て、精神を遺して全身をスライムに置き換える。

 正気を疑う所業を知ったジミナは(わら)った。

 自分ですらそこまでやろうと考えたことは無かった。

 

「ククク…。では続きと行こうか」

 

「…望む所」

 

 軽い会話を終えた二人は即座に動く。

 リヴィ側が見せた一方的な攻め手ではない、両者譲らぬ斬撃の応酬。

 

 その光景を会場にいる実力者は目に焼き付ける。

 その強さの頂、その高みを理解するために―――。

 

 

 




 
 
 
・ローズ・オリアナ
 自分の柱を明確にしたことで覚悟が決まる。
 今はまだ実力不足だが、今後の成長に期待。

・リヴィ・ハイリア
 英雄オリヴィエの表の姿。
 いつの間にか『閃光』の名がついていたけど、もし他のキャラについてたらどうしよう。
 全身スライムを余すことなく戦闘に活用することで、いつの間にかシャドウと張り合える速度を持ってた。

・ジミナ・セーネン
 シャドウの変装した姿。
 本大会のダークホースにしてバグ。
 アンネローゼを正面から倒しているのに弱い印象を植え付ける卓越した擬態能力はもう特殊能力なのよ。
 ある意味ブシン祭を一番楽しんでいる人。
 
 

戦闘における状況描写について

  • 理解しやすい
  • まぁ解る
  • 普通
  • ちょっと難しい
  • 難解
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