今更だけど『シャドウガーデン』にここまでスポットを当てない作品も珍しいですね
ライフルから放たれる銃弾を思わせるほどに、リヴィ・ハイリアが駆け抜けた一撃は大気を叩くほどの衝撃を生み出した。
第一回戦で見た王女達の魔力によるものとは異なり、リヴィ自身が弾丸となって生み出した威力を観客達も肌で感じ取ったことだろう。
しかしそれでも彼には届くことはなかった。
未だ会場に二本の足で立つはジミナ・セーネン。
攻撃をした方であるはずのリヴィは地面に倒れ、そのまま起き上がれる状態ではなかった。
(不味いな…)
ガイアスはその光景を見て危惧した。
それはオリヴィエの現在の状態が原因である。
彼女が先ほど放った一撃は、アイリスやアレクシアが魅せたモノとは別ベクトルの大技。
スライムの形態変化は当然であるが、その状態で速度を生み出すための魔力制御と魔力放出、そして攻撃に転じる為に必要なスライム全体の硬質化。
これらを並行で行いながらジミナへ放ったのだ。
彼女にも相当な負荷が掛かったことは、未だに魔力制御を安定させることが出来ずに起き上がることが出来ていない現状を見れは明らかだろう。
試合の終了が宣言されない限り部外者の侵入は不可。
で、あればオリヴィエ側の魔力制御が完全に途切れてしまえば彼女は人の形を維持できずに元のスライムに戻ってしまう。
それは
そうなれば王国内は大混乱だ。
「オリヴィエさんが…!」
隣で観戦していたアレクシアも彼女が置かれている状況を理解して動揺している。
オリヴィエの魔力制御が途切れることがどれだけ不味い事かを即座に把握したのだろう。
「今は何とか耐えれているようだが…本当に不味いと判断したら、入るしかないな」
「っ…、だったら私が…!」
「それはダメだ。ルール違反で王女が反則負けなんてなれば王国側にとって不利益しか起きない」
その点ガイアスはまだ王国政府関係者であることは大衆に知られていない。
であれば自身が反則により退場することになっても被害は極めて軽微のはずだ。
アレクシアもそれを解っているため何も言うことはしない。ただ、彼女は俯いて強く拳を握り締めているだけで留まっていた。
「何にせよ…もう少し耐えてくれよオリヴィエさん…」
試合終了まで、彼らに出来ることは状況を見極めることだけ。
オリヴィエの魔力制御能力を信じて、彼らは待つのである。
見事だと言わざるを得ない。
ジミナに扮したシドは言葉には出さないが、リヴィへ賞賛を送る。
スライムで身体を構成するだけでもかなりの魔力制御を要求されるというのにも関わらず、彼女はそこから身体を変形させてみせた。
「貫く」という一点。
彼女が自分を倒すために選んだ選択肢に全てを動員してみせたその
意図してあの姿になったわけではない。
しかし地球にて現代科学の知識も膨大に取り込んでいるシドにとっては見慣れた形状。
それをこの世界で人間サイズというまさに砲弾と呼べる一発を再現し、独力でぶつけてみせたリヴィの姿は喜ばしいものだ。
その速度から生み出される威力は何の準備もなく受ければ大きな風穴を作っただろう。
しかし砕けた。
ジミナが構え、突き出した剣との衝突。本来ならば剣が敵うはずがない。
相手は超速で飛んでくる突起物。
それも魔力伝導率がほぼ100%に近いスライムでガチガチに硬質化した物体だ。
剣先が触れた瞬間、剣が砕けて役に立たなくなるのは解り切っている。
だがシドは陰の実力者。
魔力を扱わせればこの世界でも追随を許さないレベルの実力者だ。
的確に弾丸と化した
髪の毛一本の誤差で失敗する神懸かった迎撃が齎した結果が今の状況。
ジミナとしての彼は怪我一つ負うことはなく、五体満足で立っている。
攻撃を仕掛けてたリヴィの弾丸部分は完全に砕け、形状がぷるぷるとしたスライムに戻りかけている。
全力で挑んだ影響で内部魔力も底をつきかけているのか、砕けて無くなった髪や一部の四肢が戻る様子もなかった。
無言で近づく。
無造作に歩みを進める姿は隙だらけのはずなのに、この状況を作り出した男であるというのだから分からないものだ。
彼がリヴィを見下ろせる位置まで近づけば、リヴィは何とか魔力制御を維持する事で人型を何とか保てているというのがジミナから見ても分かった。
「戻せないのか?」
一言。
考えていた訳ではない、ふと零れた言葉。
その言葉の中に、ほんの少し落胆した気持ちが籠っていた様に感じたのは彼自身だけなのか。
「…正直、しゃべるだけでも、厳しい」
地面から見上げるリヴィは何とか言葉を捻りだした。
彼女もこの場でスライムに戻ってしまうのは極めて宜しくない事は理解できる。
それでもリスクを取ったのは、勝ち上がって仲間と競い合いたかったから。
ジミナに勝つためには保身を考えていてはいけない。そう理解したが故に、彼女は魔力操作が
その結果は最後の攻撃すらも通じずにこうして地に伏せていることになっているのだが。
「―――」
リヴィの発言を受けてジミナは彼女を改めて見る。
魔力が視認できる彼から見ても、確かに彼女を構成しているスライムに流れる魔力が段々小さくなっている。
魔力が届かなくなってきている箇所からすでに身体がただのスライムへと変わっていっていた。
このままではすぐに制御も解けてスライムが維持できなくなるだろう。
「そうか」
ジミナがリヴィに向けて手を翳す。
それが何を意味するかをリヴィが理解するよりも速く、彼女の身体を魔力が包み込んだ。
「…!これは…」
「楽しませて貰った礼だ」
先ほどまで枯渇しかけていた魔力が問題ないレベルにまで満たされた。
それほどの魔力を譲渡したというのに、彼は意にも介さない表情。
スライムの維持すら出来なくなっていたリヴィに対して情けで魔力を渡したのではない。
彼が言った言葉はおそらく本心。
純粋な善意で彼は魔力を渡したのだと、リヴィはそう判断した。
「――…」
ジミナから譲り受けた魔力を素早く巡らせ、散らばっていたスライムを自身の元へ回収する。
これで観客達から見ても違和感は発生することはない。
しかしリヴィはジミナにやられた部分はそのままに立ち上がる。
魔力が満ちたことで魔力操作も支障はない。
もしこのままジミナに剣を向けたとしても大会としては問題なく進むことだろう。
だがそんな行動を起こす気はリヴィには一切無かった。
「…完敗。私の、負け」
「まだやれそうだが?」
「施しを受けた以上、私の負けは揺るがない。だから、降参する」
両手を挙げてこれ以上は戦わない意志を示すリヴィ。
自分が持てる最大打点を完璧に防がれただけでなく、形の維持が出来なくなりかけていた状態を助けてもらったのだ。
これで斬りかかってしまえば救いようのない存在に堕ちてしまうと理解していた。
それを見てジミナは「そうか」と呟き、静かに踵を返した。
『しょ、勝者!ジミナ・セーネンッ!!』
『閃光』を飲み込んだ『予測不可能』が勝者として駒を進める。
状況を把握した審判からの合図でジミナが勝ち上がったことを宣言。
その一声により、『閃光』対『予測不可能』の戦いは幕を閉じたのである。
「…本当に強かった」
「こちらも楽しめたぞ」
試合後、リヴィはジミナに会いに関係者通路を速足で駆けた。
ゆったりとした佇まいで歩みを進めるジミナにすぐに追いつくことが出来たため、歩調を合わせて進んでいく。
先ほどの試合で圧倒的な実力者であることが周知されているジミナであるが、どうやら彼はまだ擬態を続けるつもりの様子。
リヴィが傍に来てもド素人に見せる体捌きや反応が変わることはなかった。
(彼が、アルファの言っていた想い人…)
明確に言われたわけではないが、内心でオリヴィエも確信している。
アルファを救ってくれたという男――シャドウがジミナに扮して大会に参加したということを。
というよりもそうでなければ、文字通り一切情報を流さずに自分すら圧倒できる正体不明の実力者になってしまう。
左目と左腕を包帯とギプスで固定したまま大会続投をしているアレクシア王女相手に小鹿の様に足を震わせながら相対している人物がシャドウであったとするならば、相当な演技派であろう。
というよりもそんな実力者がポンポンと現れたら堪ったものではない。
「貴方なら、心配…要らなさそう」
「?」
強さは申し分ない。
シャドウの人柄は自分では判断が出来ない要素であるが、孫があそこまで信頼しているのだ。彼女を利用してどうこうするつもりはないのだろう。
であれば、自分は
そうオリヴィエは決めた。
なんのことかわからないジミナ――シャドウは少し首を傾げるだけであったが。
それでも構わない。
部外者である自分が、二人の関係を妨げる訳にはいかないから。
「アルファの事、よろしくお願いします」
これ以上自分が彼を邪魔するわけにはいかない。
だがこれだけは言わせてもらう。
「…言われるまでもない」
言われた事に虚をつかれたのか返答に少し遅れたジミナであるが、リヴィは訝しむ事無く会釈してその場から離れた。
そうして残されたのは一方的に
「…アルファの知り合いだったんだ」
リヴィの姿が見えなくなって呟いた。
確かにアルファに似ているなとは思いはしたものの、それは前に自分に話しかけてきた『武神』と呼ばれているらしいエルフにも同じ感想を持ったため、そこまで気にすることはなかった。
しかし彼女は自分とアルファが関わりを持っていることを知った上で先のは発言を述べてきたのだ。
その言動は娘を託す母親のようなモノ。
武芸だけでなく、文学にも精通しているシドはその発言に含まれたものがあることを理解したのである。
(ひょっとして…教団とかの設定を聞いて、色々と理解してくれているのかな?)
シドから見ても完璧に近い働きをしてくれているアルファの事だ。
彼女の母親と戦っていたとは思いもしなかったが、アルファが色々説得してくれたのだろう。
試合中では変化に乏しかったジミナの表情が僅かであるが、驚きに変化していたことは彼自身も気づいていなかったことであった。
◇
コツ… コツ…
紅い髪を
ミドガル王国の第一王女であり、国の未来を担う重要人物。
今回の『ブシン祭』の第一試合において敗北という結果に終わったものの、その実力を世界的に大きく示してみせたアイリス・ミドガルは、試合中とは異なる緊張した面持ちである場所に向かっていた。
「アイリスです」
立ち止まった先は一つの扉。
そこは関係者が見ればミドガル国王であるクラウス・ミドガルがよく書斎として活用していた小部屋であることが理解できただろう。
人払いがされているのか、周囲にはアイリス以外誰も見当たらない。
そんな状況を作り出した自分の父親に呼び出されたアイリスは、これから何を言われるのかを考えたくない気持ちで一杯であった。
(騎士団長として第一試合で敗北したこと、…に関してなのでしょうか?)
思い当たることと言えばその件しかない。
本大会で隠していた実力を公にしたアレクシアを相手にして負けたことに叱責される可能性を考えたアイリス。
確かに彼女に敗北をしたとは言えども、すでに王女姉妹の実力は他国にも情報が渡っていることだろう。
王国最強の座を明け渡すことになったとは言っても、その相手が第二王女であるアレクシアであることを考えれば王国としても不利益は少ないと思ったのだが違ったのだろうか…。
「入りなさい」
「…失礼します」
そんな事を考えているとクラウスの声が扉越しに聞こえる。
一息ついて気持ちを整えた後に、アイリスは覚悟を決めて扉を開いた。
「アイリス・ミドガル、クラウス陛下の御呼び掛けに応じて参りました」
「そんな畏まる内容で呼んだわけではないわよ姉さま」
「――アレクシア?」
扉を開ければ真剣な表情で此方を見てくるクラウス国王。
それを見て相応のやり取りがあるのかと考えていたのだが、先に部屋に入っていたアレクシアがアイリスの考えを訂正した。
しかし父親であるクラウスは未だに真剣な眼差しで此方を見つめてくる。
結果は解り切っていると言わんばかりのアレクシアとは対照的だ。
一体これから何を話し合うことになるのかがわからないアイリスは喋らないクラウスの態度に困惑を浮かべることしかできない。
とりあえず座って一息ついたほうが良いとアレクシアに促され、一服。
最近では飲みなれてきたコーヒーを喉に流し込めば、少し感じる苦味と共に感じていた不安が流されていく感じがした。
「アイリス」
そしてクラウスが漸く口を開く。
クラウスから漏れ出てくるオーラに近しい何かによって、これから話される内容が重要なモノであることをアイリスも即座に理解する。
「ミドガル王国の未来を決める非常に重要な話になる。…アイリス、我が娘よ。正直に答えるのだ」
「――はいッ!」
背筋と伸ばし、真剣な表情でクラウスの声に応えるアイリスであるが、次の一言によってその真剣な表情は崩れ去ることになる。
「王女としてではなく…一人の女性として、ガイアス君の事をどう思っているのだね?」
「…………………………はい?」
・リヴィ・ハイリア
オリヴィエの仮の姿。
全力で挑んだけどジミナ(シャドウ)には通用しなかった。無念。
さりげなく魔力を分け与えられたため、身体を形成するスライムそのものが地味に強化された。
お祖母ちゃんとして孫娘の恋路を応援する。
「アルファの事、よろしくお願いします(娘の幸せ的な意味で)」
・ジミナ・セーネン
シド及びシャドウが変装した姿。
スライムを全面に活用して戦いに挑むリヴィの姿に好感度が上がる。
陰の実力者として観客達の反応も満足できる内容であったため、やはり『ブシン祭』に出たことは大正解だったと満足。
「…言われるまでもない(設定的な意味で)」
・アレクシア&クラウス
「準備は整った…」
・アイリス・ミドガル
またしても何も知らないアイリス・ミドガル。
気づいたら父親と妹が何か準備していた…。
戦闘における状況描写について
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理解しやすい
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まぁ解る
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普通
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ちょっと難しい
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難解