王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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 もう逃げられないゾ 
 

 


三十八 もう逃がさないゾ

 

 

「お…お父様?お気を確かに」

 

「アイリスよ…これは王国の未来を決める選択なのだ。正直に答えてほしい。ガイアス君の事が好きなのか嫌いなのか…どっちなんだい?」

 

「い、いや突然何を言い出すのですか!?」

 

 アイリスからすれば聞き違いであって欲しかったのだが、どうやら彼女の耳は正常に機能していたようだ。

 クラウス国王陛下としての威厳を出しながらも、聞いてくるのは自身の色恋沙汰という正気を疑う会話始めであるのだが、自分達の父親は本気で…真剣に聞いているようである。

 

 アレクシアはその光景を見てにこやかに笑っているのだが、彼女も同じ質問をされたということなのだろう。

 

「そもそもガイアスはアレクシアがずっと慕っていた相手ではないですか!なぜ突然私がガイアスをし…慕っているという話になるのです!?」

 

 色恋沙汰や夜事情関係の知識は非常に疎いアイリスであるが、ミツゴシ商会にてアレクシアから語られた想いは知っている。

 そのため彼女がガイアスに寄せる好意に対して色々と介入するつもりもなかったのであり、妹の恋路を邪魔したくないという思いもあって少し距離を置いていたのだ。

 試合後に彼の方から距離を詰められたものの、それはアイリスの抱えたモノを吐き出させるためにされたこと。

 確かに思う所が無いと言えば嘘になるが、アレクシアがガイアスと婚姻を結ぶことになるのだと考えていた。

 

「だって姉さまもガイアスの事が好きなのでしょう?」

「へぁっ!?あ、アレクシア!??」

 

 さも当然の様に指摘をしてくるアレクシアに動揺を隠しきれないアイリス。

 そんな事は一言も言っていないはずなのに、妹は確信を持って断言していた。

 

「お硬い姉さまだから今までは気づかなかったのかもしれないけど、この前お見舞いに来てくださった時…明らかに雰囲気変わってましたよ?」

「え…そ、そんなはず…」

「今日だって姉さまはガイアスとまともに目を合わせられていなかったじゃないですか」

「そん…な…ことは……」

 

 もじもじと人差し指を合わせるアイリス。

 好きな人と目を合わせることすら恥ずかしがる初心(うぶ)な女性がそこにいた。

 思い当たることがあるのか、自分の気持ちに対して確信を持ったのかは本人にしかわからないものの、頬を赤く染めながら如何にか反論しようと言葉を探している。

 その姿がまさに正解ですと言わんばかりに解答を全身で表現しているのだが、アイリスは気づいていない様である。

 

「だから言ったでしょうお父様。姉さまもガイアスに想いを抱いているって」

「うむ…。幼い頃からしっかりとしていたから想像もしていなかったが…、これを見れば認めざると得ないな」

 

 クラウスは温くなったコーヒーを一気に飲み干して一息ついた。

 しかしその一息は現状を憂うものではない。むしろ安堵に近いものだった。

 

「でもあの堅物な姉さまがここまで“女”らしくなるなんて…」

「…アレクシア。年頃の娘がそんな言い方をするものではない」

「お父様。ここには私達しかいないから大丈夫です。それに感想を抱いているのは同じではないですか」

「それは…うむ」

 

 クラウスも確認のために聞いたのだが、あのアイリスが顔を真っ赤にして自分の世界に入る程だとは考えても見なかったようだ。

 本来ならば王族に生まれた女として房中術の一つでも教育するべきだったのだろうが、教団相手に水面下でやり合っていた間に機会を失ってしまっていたことが幸い(?)…したのだろう。

 しかし20歳になっても一度も浮ついた話すらアイリスに出てこなかったことは頭を抱えそうになったのだが、その問題も解決に繋がるとなればとても喜ばしい事だ。

 

「ハッ!?そ、それよりも私がガイアスとこ…こん、婚姻を結ぶことはあってはならない事ではないですか!?」

「どうしてかしら?」

「そうでなければ王女としての役目はどこに行くというのですっ!同じ殿方に嫁ぐなんて聞いたこともありませんし、王女の立場であるからには他の貴族と契りを交わすのが通例ではないですか!!」

 

 王女は王家の血筋を遺す役目も担っている。

 武力面で王国最強の名を冠するミドガル王国の王女達であるが、本来武力があろうとなかろうと、国内で力を持つ貴族達と契りを結んだり、他国との関係強化のために嫁いでいくことが一般的だろう。

 そこをアイリスは指摘している。

 ガイアスはすでにアレクシアが予約を入れているようなものだというのに、態々(わざわざ)自分にまでガイアスに対する想いを聞く必要はない。

 もし他国に嫁がせるという話に持っていくのであれば不要なやり取りのはずだ。

 

 正論を言い放つアイリスは自分で言ってて胸に棘が刺さった感覚に陥った。

 自分の立場を考えれば、この想いが成就することはない。

 アレクシアよりも先に行動に移すことが出来れば話は変わっていたかもしれないが、そういった(・・・・・)内容に疎い自分では行動する事も出来なかっただろう。

 

 言い切ってから少し下を向くアイリス。

 それを見たアレクシアは…

 

「いや、姉さまが他所に嫁ぐのは無理でしょ」

 

 躊躇いもなくぶった切った。

 

「ウッ!?」

 

 試合中にも感じたことがない衝撃がアイリスを貫く。

 実の妹から放たれる言葉のナイフ。そのあまりの鋭さに思わず膝をつくことになる。

 言葉一つでここまでダメージを受けることもあるのだと、アイリスは一つ賢くなった。

 

「そ、そこまで言わなくても…!!」

 

 身体を動かすことを好むアイリスだって年頃の女性。

 そういうことが不出来であり、時世の女らしくないことは自覚している。

 でもそこまで言わなくてもいいではないか!

 

 涙目になりながらもアレクシアを睨むアイリスに、アレクシアはやっぱり覚えていなかったのかとため息をついた。

 

「姉さま…昔自分で言ったこと、やはり覚えていなかったのですね…」

「…昔?」

「国内の貴族たちが集まって立食パーティーを行った時、姉さまが言い放った一言ですよ」

 

 しつこいぐらい書いているがミドガル王国の王女だ。

 当然政治的な関わりを持つために貴族間での関わりや交流する機会は非常に多い。

 王族の心象を良くしようと国内外から相応の地位を持った者達による、将来についての話し合いも数多く行われている。

 

 しかしそこにいるは色恋沙汰とは無縁に近い人生を歩んできたアイリス・ミドガル。

 幼少期から天賦の才を発揮していた彼女にとって、腹に一物抱えたまま話しかけに来る者達は非常に面倒な相手であった。

 そこで彼女が言い放った一言が、効果抜群であったのである。

 

 

『私は…私より強い者と、婚姻を結びます!』

 

 

 始めはその宣言に湧き立った貴族達。

 手を替え品を替えて彼女に喜々として挑みかかった。

 

 しかし考えてみて欲しい。

 幼少期から大の大人を平然と打ち倒すことが出来ていたアイリス王女である。

 そこにガイアスによって超強化される道を歩みだしていた時期が運が良いのか悪いのか、重なってしまっていたのだ。

 

 魔力はすでに並を軽く越え、この世界で発展していない武術を嗜み、まだまだ粗い部分があったとは言えども魔力制御はすでに魔力の可視化まで手が届きかけていた。

 そんな人物相手に、生粋の戦士ではない嗜む程度の実力しかない貴族達が挑んで敵うのか?

 答えは当然“否”である。

 

 同い年は愚か、油の乗った大人たちが挑んでも一瞬で返り討ちにあう光景を何度も見てしまえば、一年も経たずに挑みにかかる猛者はいなくなってしまうというもの。

 すでに貴族間では第一王女は戦いと婚姻を結んだのだと囁かれていたり、こっぴどくやられた者達からは化け物を見る目を向けられていたりする。

 

 クラウスが何名かの貴族達にさりげなくアイリスの婚姻の話を持ち掛けた際、大量の冷や汗を垂らしながら必死に笑顔を作られてお断りされた時には、温和な国王も流石にブチ切れしそうになった程。

 アイリスが20歳でも伴侶がいないのはそういった背景があったりするのは本人にとって知らないほうがよかった事実なのかもしれない。

 

「……そ、そんな事…言った、ような…気が」

 

 一国の王女が貴族達から婚姻話をたらい回しにされていた事実にアイリスのショックも大きい。

 王女としてそういう役目を果たす必要があるのではないかと問いただした張本人がその役目を果たすことが出来ない状況を作り出していたのだ。

 両手と両膝を地面について落ち込むアイリスであるが、正直なところ自業自得であった。

 少なくともあの宣言が無ければアイリスにも婚約者が出来ていた可能性が極めて高いのだ。

 

「事態を理解してもらえたようだな。アイリス…今の現状のままであれば王女としての責を果たすことは、はっきりと言うが極めて困難だ」

「うっ…うぅ…」

「しかしここに例外が生まれた。それがお前たちもよく知る彼――ガイアス・クエスト君なのだよ」

 

 そう言われると確かにと思う。

 ガイアス()はアイリスとアレクシアをここまで鍛えあげており、そして強い。

 幼少期から親しいことも分かっているため、国を導いていく王女達を支えていくことだって可能だろう。

 

 そして何よりも、すでにミドガル王国として、ガイアス・クエストという男を逃がす選択肢は存在していなかった。

 

「ガイアス君は表立った功績は無いものの王国に多大な貢献をしている。教団関係然り治安維持然り…だ。

 アイリス。お前の騎士団にも教団関係者が居たというではないか」

「…はい…その通りですお父様」

 

 アイリスにとっても耳が痛い話。

 自分が選りすぐった仲間達に工作員が居たというのだから、アイリスが当時受けたショックも大きい。

 

「そういう意味でも彼には国としても褒賞を与えねばならない。しかし彼は金銭や地位などにはそこまで頓着していない…で、あるならば、だ。こちらも誠意を見せねば礼に失するというもの」

 

 そこでアレクシアだけでなく、アイリスにも白羽の矢が立った。そういうことである。

 王女二人を一人の男に嫁がせるなど、王国の歴史史上初めての試みだろう。

 だが王国内で彼女より強い男なんてガイアス()以外に知らないし、折角娘が嫁ぐというのであれば親しい男と共に人生を歩んでほしいという親心もあった。

 国王である以前に一人の父親として、娘達にも幸せになるように考えているのである。

 

 結果的に事が上手く運んでくれれば、娘達(王国最強)と娘達曰くガイアス(世界最強)が王国の未来を担ってくれるのだ。

 彼の人柄も大体把握している現国王としても、これ以上の安心感は無いだろう。

 

「で…ですが、そのようなことは前代未聞ですよ!国民だけでなく、他の貴族達が納得するとは思えません!」

「その件であれば心配いらない」

「え…」

「これを見てくれ」

 

 渡されるは一枚の用紙。

 羅列した文字を読み進めていけば、それは国家法案改正に関する内容が記載されていた。

 いくら王女といえども公開されていない重要機密を読むことは本来駄目なことなのだが、そこはご了承いただきたい。

 

「…な…、な、ななななななッ!?」

 

「良い反応ね」

「…まぁ、そうなるな」

 

「なんですかこれはッ!?」

 

 アイリスはこの内容を見て衝撃を受ける。

 確かにこれが通れば問題がないかもしれない。

 しかしこれまでの常識を覆すものだ。

 

「い…い、いいい一夫多妻制!??」

「あ、ピンポイントでそこに注目するんだ…」

 

 アイリスはその一単語に目を奪われていた。

 一夫…つまり先の話と照らし合わせればガイアスだ。

 そして多妻…これは自分達、アイリスとアレクシアを指している。

 アイリスでもそこは理解でき、そんな発想がどこから生み出されたのかと驚愕する。

 

 なお実際は『複婚』に関する記載の中にある一つであったのだが、今は重要ではない。

 そういうのもいいかなーと頭をよぎってしまったアイリスの頭の中はピンク色だ。

 顔を真っ赤にしながら「いっぷたさいせい…」と呟き続けるBOTになってしまっていた。

 

「でもお父様。よくこんなに早く纏められましたね。正直…もっと遅くなると思っていました」

「ふっ、私も本気を出せばこのぐらい訳ないさ…と言いたい所だが、ここまで迅速に進んだのは彼の功績の一つ…と言ったほうがいいだろう」

「ガイアスの?」

「彼が我々に対してどれほど貢献し続けてくれているのかを知らぬ者は、今の政権関係者内にはいないということだ」

 

 クラウスはアレクシアの疑問に答えるが、ここまで早く決まったのもガイアスが裏で活動を続けてくれたことが大きいのだと言う。

 

 ここでガイアス・クエストが約10年間で国が把握している活躍を明記しておくことにしよう。

 

・王国に巣食う教団工作員の情報リーク及び排除(報告だけ(・・・・)で四十件以上)

・野盗の排除及び他騎士団への情報提供(数百件)

・貴族誘拐阻止(数件)

・貴重な防御型アーティファクトを十個以上寄与

・政府要人・関係者の護衛及び暗殺阻止(数件)

・王国最強を二人も鍛えあげる手腕

 

 そして

 

・『ブシン祭』優勝(予定)

 

 とここに加わってくるのである。

 これもクラウス達王国関係者が過去の報告書をひっくり返して事実確認を行った結果わかった内容だ。

 実際はアレクシアとアイリスに出会って10年もの間で、他にも陰から行動をしていたことを考えれば今以上の功績も出てくるだろう。

 

 盗賊狩りは王女達に出会う前から魔力制御の一環として行っており、暗殺阻止は教団側の工作をゴーレムを介して発見してそのまま阻止という形も多数あった。

 更に教団関係だけでなく、他国と賄賂で繋がっていた者達もついでに情報が流されたことで摘発される回数も増加。王国政府内が一時期騒然としたこともあったが、今ではクリーンな環境へと変わっている。

 クエスト家はミドガル王国の貴族の一つとはいえ、ここまで国の為に動いてくれる者がどれだけいるのかを考えれば、今すぐ爵位を一つや二つ繰り上げたいぐらいだ。

 

「『善は急げ』という格言もある。彼ほどの人材を逃せばそれこそミドガル王国最大の汚点となりかねん…が、幸い彼は我が王国に友好的だ。今の内に我々の姿勢を示すことが互いの為になることを彼らも理解しているのだよ」

 

 ちなみにガイアスが『シャドウガーデン』のアルファと共に初めてクラウス国王と対面した際、クラウス国王の下で現状にどうにか抵抗しようとしていた者達が居たと思う。

 実は彼らはクラウスの私兵や護衛などではなく、防衛や財務を担う大臣クラスの重要人物たちであったりする。

 そのため彼らにも防御型アーティファクトが各々の手に渡っており、それによって命が護られた経験をした者は彼を絶対に逃してなるものかとクラウスの方針に全面協力する姿勢を崩していない。

 そんな事も組み合わさって今回のスピード成立に繋がったのだろう。

 

「アイリス、アレクシア。この『複婚』に関する内容はガイアス君との繋がりを維持するためだけのものではない。我々が『シャドウガーデン』と友好的…そして共存関係になれるか。それに関わってくるであろう重要案件なのだ。

 …絶対に失敗は許されないことを理解せよ」

 

「「はいッ!!」」

 

 クラウスの口から語られる内容は実質的な王命だ。

 彼女達が王命に反することは許されることではなく、そもそも反する理由はどこにもない。

 アレクシアは漸く時が来たと悠々と笑みを浮かべ、アイリスは真っ赤に染まった顔ではあるが自身の中でも最重要案件なのだとクラウスの言葉で理解して緊張が声音として表れている。

 

 彼女達が退室してその背が見え無くなってから、クラウスは彼女達に見せた資料を片付け小窓から空を見上げた。

 

 その空模様は王国の未来を示しているかのように、晴天の青空であった。

 

 




 
 
 
・クラウス・ミドガル
 ミドガル王国現国王で国益と娘達の為に活動するパッパ。
 ガイアス君の功績を掘り返して洗い出してみれば出るわ出るわ。ガイアス本人から真偽確認も取れているために毛嫌いする要素皆無。
 ここまで来たからには突っ走る男。

・アレクシア・ミドガル
 ガイアスと正式に婚姻関係を結ぶために1メートルぐらいの外堀を地球最大のショベルカー P&H 4100C Boss(1回で100トンの鉱石を掬い上げる重機)で埋めに掛かっているぐらい本気の第二王女。
 後はガイアス本人に伝えるところまで来ている。

・アイリス・ミドガル
 気づいたら父親と妹に己の胸中がバレ、その上で未来の旦那まで決まった第一王女。
 否定するには色々気づくのが遅すぎたが彼女だって支えたい気持ちから、後は持ち味を生かして突っ走るだけである。

 『シャドウガーデン』とミドガル王国がそこまで懇意の仲になろうとしている事を初めて聞かされたが、彼女的にそれどころではなかった。

・ガイアス・クエスト
 出番ではないところで未来が決まった本作主人公。
 ブシン祭終了までが一貴族として生きていける最後の時間である。
 
 

戦闘における状況描写について

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