この話もだけど、かなり長くなります。
(間違いない…彼は僕と
ブシン祭第三回戦。
ジミナとして大会に参加しているシド・カゲノーは眼前の男が自分と同郷であることに確信した。
元々違和感を感じていた。
予選ではわずかにしか見ていなかったが、本戦で彼が使用した動きは前世にて地球で学んできた物が多数存在したからだ。
この世界に転生して彼なりの『陰の実力者』を目指して盗賊狩りに勤しんでいた期間がある。
地球にて様々な技術を取り込んできた彼だからこそ、この世界の技術力の拙さを最も理解しているのだ。
そんな場で自分と歳が同じぐらいの少年が自分に追いつくレベルの技術力を独自に開発した?
そんなものありえない。
技術とは一朝一夕で身につくものではないからこそ、ガイアス・クエストという異常さを最も理解できる。
一子相伝で受け継がれてきた技術があったとしても、それが一切世界に広まっていない事はあり得ない。
であれば、これまでの高みを見せたガイアスの技術は彼の代で生み出したことになってしまう。
(武術を学んでいる動きは解る。僕にはわからないけど、空手に近い武術を身に着けているんじゃないかな?)
ジミナとして戦っているシドの考えは正しい。
ガイアスはシドと同じ地球で生まれ、そして転生を経験した同郷だ。
シド程の情報量を取り込んできているわけではないが、武に費やした時間は影野実の学生時代よりも長い。
シドが身に着けてきた武術もボクシングや空手など日本でも認知されているものが多いが、世界中の武術を取り込んだわけではないのが今回ガイアスの武術を把握できなかった理由である。
(肘の使い方が異様に巧い…これが厄介だな)
ジミナとして斬りかかろうにも肘の小回りによって剣の攻撃が上手く往なされるのだ。
肘は人体の中でも硬い部位の一つ。
本来拳が人を殴る事に向いていないと言われる所以は脆いからだ。
しかし肘は違う。
拳と比較すると鋭くて硬く、打撃に使用する部位としては非常に優れているのだ。
そこに魔力による身体強化を用いれば
ガガガガガガッ
剣と拳がぶつかり合い、鈍い音が鳴り響く。
普通ならがイカれるはずなのにも関わらず、鉄の塊と衝突しても壊れる様子はない。
こちらが剣を振ろうとも、ガイアスは間合いを上手く管理しているために武器が振り辛い。
素人の動きをするジミナとして継続して戦うのは非常に不利であることはシドも察する。
そもそもシドがジミナ・セーネンに変装する事を選んだのは誰が見ても非常に弱そうであり、シドがブシン祭でやりたいことが出来る可能性の高い人物だったからだ。
誰が見ても弱い。
そう判断したからこそ、大会で活躍すれば観客達が「一体何者なんだ!?」と自分が求める反応をしてくれる。
それはつまりシドが求める『陰の実力者』に近づけるということ。
故に戦術も始めはあくまで弱そうに、動きも素人の動きが大前提で戦う事を選択したのだ。
『閃光』リヴィ・ハイリアとの試合では気の起こりを読むことになったものの、あの速度をまともに見れる相手は早々いないだろうと考えた結果、選択したものになっている。
ガッ!!
『ガイアス選手の攻撃がクリーンヒットォォッッ!!』
ガイアスの掌底がジミナの顎を捉える。
それを受けて自ら後ろへ跳ぶことで衝撃を受け流したものの、即座に追撃へ移行するガイアスの攻撃を受け流すのに苦戦する。
ジミナとして動くことそのものがシドの戦闘方法を限定してしまうためだ。
「(ジミナ君はあくまでも素人の動きをするから良いんだけどな)…面倒だ」
「そりゃ結構。勝つつもりがないならそのまま倒れてくれ」
「なに?」
ガイアスが言い放った言葉に対してジミナは不快感を僅かに出した。
戦いとは対話を信条とするシドは解る。
ガイアスが挑発で言った発言ではないことに。
「勝つ気が無い…だと?」
「まだ実力を隠している時点でそう言われても仕方ないだろう?それともこう言ったほうがいいか?…いつまで他人を演じている」
「…!」
ガイアスの指摘に目を見開くジミナ。
しかしガイアスから見れば、ジミナ・セーネンの正体はシャドウことシド・カゲノーだと知っている以上、自分と戦っているというのにも関わらず素人の動きをするジミナで在り続けているのはこちらを舐めきっている様にしか感じない。
ガイアスが
「ダッキング、
「…そこまでわかるか」
「お前と
ジミナの素人染みた動きの中にも武術の動きが随所に散りばめられている。
シドがジミナとして活動するのはあくまで弱そうだと印象を与えてそれを布石にしたいためであって、何も考えずに好んでダメージを受けたいわけではない。
敢えて殴られる・斬られることはあれど、その受けた攻撃は最小限に変換して血糊を使って弱さを演出する。その後に力を見せつける事で『陰の実力者』としての評価を得ること。
それがジミナ・セーネンを演じる為の大前提。
しかしガイアスはその被害を抑えようとする動きを把握している。
ジミナが受ける衝撃を最小限に抑えようとする動きを事前に妨害し、ダメージを蓄積させることで今後の展開を有利に持っていけば勝利に近づくことは明白なために、ガイアスは現在それを徹底していた。
故にジミナとしては非常に戦いづらい試合を強いられている。
気の起こりの読みあいで互角に渡り合おうとも、対応する動きが素人そのものであれば彼には通じない。
「同郷で、似たような実力を持った相手に、そこまで他人に成りきれるのは才能の塊だ。だがそれで俺がお前に勝ちを譲るつもりは一切ない」
駆けるガイアス。
迎撃しようとするジミナ。
即座に状況を判断して剣を横薙ぎに振るうジミナであるが、剣が振り切られる前に右手首を掴んだガイアスはそのまま捻りこんで手首を折りに掛かる。
「チィッ」
黙って手首を折られる訳にはいかないジミナは膝蹴りを敢行。だがそれを読んでいるガイアスは身体を駒の様に回転させることで膝蹴りを受け流しながら左肩へ肘打ちを仕掛ける。
「ッ!」
甲冑から響く衝撃がジミナの身体にダメージを流してくるのを感じる。だがまだジミナとしての動きのままの為、受け身も上手く取り切らない。
距離を潰し、態勢を崩し、守りが追いつかない手数で相手に攻撃を繰り出し続けるその試合は、これまでジミナが魅せてきた試合とは真逆であった。
「シ…シャドウ様があそこまで…っ!?」
「そんなまさか…!」
「シャドウの行動…ガンマ。貴女は、彼をどう見る?」
「私から見れば…悩んでいる様に見えます」
構成員たちが一方的に殴られている状況に切り替わっているジミナとガイアスの試合を見て悲鳴に近い声を挙げている中、試合を冷静に見ているアルファはガンマへ冷静に問いかけた。
ガンマの解答はアルファも感じたモノ。
彼女達は武術をシャドウから習っていない。
それはシャドウから魔力操作や“陰の叡智”を授けられる過程で戦い方も習っているものの、それは付きっ切りで教育されたわけではない。
彼女達が才能の塊であったが為に、シャドウに追いつくべく独自に己を高めていったことにも起因している。
そのため気の起こりなどの技術は彼女達には使えない。
しかしこの世界で彼女達は有数の実力者。
優れた観察眼を持った彼女達だからこそ、当事者でなくともわかる物があった。
「もしかしたら、この試合で見れるのかもしれないわね」
「それはもしや…」
「えぇ。『シャドウガーデン』のシャドウとして、彼の全力が…」
予想しながらも試合から一切目を離さないアルファを見て、ガンマは言葉を一瞬失うもののすぐに我に返った。
ガンマとしても主様たるシャドウの実力が世界中に広まってくれれば非常に喜ばしい事。
自分達が今出来る事はその光景を目に焼き付けて後世へ語り継ぐことだ。
「主様、どうか御身の赴くままに」
ガンマの言葉が届いたのかわからない。
しかし彼女の言葉を皮切りに確かに変わっていく。
それが観客達が把握するのに時間はそこまで必要なかった。
攻め続けるガイアスと護りに徹するジミナ。
この二人の攻防は喧嘩殺法ではなく、技術の塊だ。
技術の根幹にあるものが分からずとも、極めて高度な駆け引きで成り立っていることがわかる。
『また当てたッ!ジミナ選手非常に苦しい展開に追い込まれてきているぞッ!!』
解説の言葉通り、ジミナ側の被弾する回数が明らかに増えている。
防御に徹しているというのに、意識の外から攻撃を受ける回数が増えてしまったことで動きに制限が発生し始めているのだ。
(このままジミナ君の動きで勝つのは無理だな…)
シドはこの時点でジミナとして勝つことを放棄した。
それはジミナとして動くことに執着すれば、これからガイアスへ攻撃が一切当たらなくなることを理解したからだ。
豪雨の如き連撃が的確に自身の身体にダメージを与えてくる。
今はまだ魔力による回復でゴリ押しする事で試合を成り立たせているが、それは事態を好転させるものではない。
この世界に転生して十数年。
ここまで自身に攻撃を当て続けた相手は一人もいなかった。
演出の為に敢えて攻撃を受ける事は多々あれど、それは彼が演じるためであって本気でぶつかり合う機会があったことは皆無と言ってよいだろう。
それは“七陰”の面々と模擬戦闘を行った時も同じこと。
(本気を出さないと勝てない…でもそうなればジミナ君の設定が死んでしまう。それならばこのまま上手く敗北する事が最適解なんだけど…それでいいのかな?)
ブシン祭に出場する事を決めた『陰の実力者』としてのムーブ。
それはジミナとして戦った第二回戦までの動きにより、当初の目的は充分果たしている。
『閃光』のリヴィを撃破した時点で、多くの観客達から自分が求めていた言葉を聞いているために、これ以上交戦する必要はそこまでない。
かといってこのまま一方的にやられるのは陰の実力者として相応しいのだろうか?
その一点がシドの脳内にトゲの様に刺さっていた。
(いや、それは『陰の実力者』ではない)
確かにジミナは大勢の目の前で実力を示した。
しかしそこで敗北する姿を見せてしまえばそれは『陰の実力者』ではなくなってしまう。
ただの今まで頭角を現さなかったただの実力者として、他の者達から認識されてしまう。
「…それは困るな」
(むっ…)
最初の変化に気づいたのは攻撃を仕掛けるガイアス。
攻撃を防ぐとともに、明らかに動き方が変わったことでガイアスは攻撃の手を一旦緩める必要が出てきたのである。
(対応方法が変化した…)
先程まではガイアスの攻撃に合わせて身を引くか防ぐ事に注視していたジミナ。
だが今ジミナが取った行動はガイアスの攻撃を敢えて受けながら、鳩尾を狙って拳を突き出してきたのである。
「…簡単に勝たせてはくれないか」
ゆらりと体勢を整えるジミナを見て、ガイアスは独り
魔力がジミナの全身を巡り全身を無理やり癒しているが、そこには追撃出来る隙は無い。
どうやら完全に相手を本気にさせてしまったようであることを察した。
「すでに把握されているから言うが、この姿は偽りだ」
先程の面倒くさそうに話すジミナの喋り方ではない。
淡々としながらも、言葉の中に威厳を感じる尊大な言い方だ。
「本来ならば、試合を放棄しても問題なかった。だがしかし、それは俺が求める理想ではない」
ジミナはこれまで猫背で撫で肩という戦闘には明らかに不利な体をしていた。
だがゴキッと鈍い音を立て、ジミナは自身の身体を変化させている。
否、身体を元に戻しているが正しいか。
身体を整えた直後、音もなくジミナの姿が消えた。
「随分と、
「やはりこの程度であれば当然防ぐか」
右斜め後方から振り下ろされた一撃。
振り下ろしの動作もこれまで実行していた素人の動きではない。
一瞬でガイアスの背後を取って攻撃を行うその姿は同じジミナ・セーネンであれど、雰囲気は明らかに変わっておりジミナの面影は完全に無くなっていた。
目まぐるしく変化する戦場で対象を見失ってしまえばこの一撃は避けきることは出来なかっただろうが、ガイアスは手刀にて迎撃を選択。
元々手入れが雑に扱われていた中古品の剣であった影響か、刃こぼれしていた部分と手刀がぶつかり合った結果、耐久性がついに限界を迎えて中古の剣が真っ二つ。
斬られた刀身は宙を舞い、二人からある程度離れた位置に突き刺さった。
『~~ッ!?』
解説は動きを察知していた訳ではない。
だが動きが豹変したジミナと剣を手刀で斬る偉業を見せたガイアスという結果に驚愕して言葉を失った。
「「……」」
しかしそれで試合が決まるはずもない。
折れた刀身を一瞥した後に投げ捨てたジミナが無造作に歩みを進め、ガイアスも構えは取りながらも距離を詰めていく。
「どう見ますかアレクシア」
その試合を入場口から見据える王女が二人。
一人はミドガル王国第一王女アイリス・ミドガル。
第一回戦にてブシン祭を大いに盛り上げた王国最強の一角。
試合が始める少し前からアイリスはVIP席から最も近くで試合を見れる場所へ移動していた。
「それはまだジミナ選手が本気を見せていないからわからないけど…武術ではガイアスの方に分がありそう」
アイリスの質問に答えるはアレクシア・ミドガル。
彼女もガイアスを見送った後にアイリスと同じ考えの元、その場に留まって試合を観戦していた。
まだ試合が始まって互いに底を見せたわけではない。
しかし今に至るまでの長い間彼に指導を受けていた彼女達だからこそ、先のやり取りは全部把握している。
その上でガイアスが武術においては有利だと判断を下した。
「姉さまも分かっているでしょうけど、ガイアスの武に対して対応が遅れている様に見えたから」
「確かにガイアスの武術は初見で見極めるのは至難の業でしょうね…」
武器のリーチと魔力による身体強化でゴリ押しをすることがこの世界での戦いにおける基本だった。
しかしそれを遥かに凌駕してみせた記憶が蘇る。
全力で身体強化を用いて攻めかかる彼女達を必要最小限の使用と武術のみで完封してみせた男こそがガイアスだ。
その時に最も苦戦を強いられたのがガイアスが今も用いている肘を使った動き。
『シラット』
それがガイアスが使用する武術の名前である。
地球上では東南アジア発祥の武術であり、拳法だけでなく武器術も用いることがある総合武術だ。
東南アジア武術の一大勢力とされる『ムエタイ』であれば日本でも聞いたことがある者は多くいるだろうが、『シラット』が表立って言われる機会は非常に少ない。
シド・カゲノーの前世である影野 実の人生においても聞いたことが無かったのはこのためであった。
肘を攻撃だけでなく防御にも用いる為、攻防における多様性は他武術と比べても一線を画するのだ。
肘はリーチは短くなるものの前述したとおり拳よりも硬く、鋭く、小回りが利きやすい。
そのため王女達が何とか近づいてもガイアスが用いる間合い管理とその手数によって叩きのめされていたのである。
「でもブシン祭は武術の祭典ではない」
ここは地球ではない。
いくら武術に秀でていようとも、魔力が無ければ一方的に力押しされてしまう世界なのだ。
武術が対して発展しなかった理由がまさに“魔力”であり、ガイアスの強さを知っている彼女達はシャドウの強さは知らないのだ。
「魔力を含めた戦いで、どちらが強いのか…」
「そんな不安に思うことはありませんよ姉さま」
「アレクシア?」
ガイアスの強さは知っている。
しかしジミナがオリヴィエとの戦いで見せたあの余裕はアイリスにとって不安材料であった。
しかしアレクシアはそんなアイリスの不安を払拭するように、堂々と彼らの戦いを見据えている。
「いくらシャドウが強かろうとも、私達が知る
アレクシアは心底から信じている。
自分達の師こそが最強なのだと。
「アレクシア…。…その通りね。私としたことが、随分と弱気になっていたようです」
ガイアスの強さを一番理解しているのは他でもない自分達。
であるなら信じ抜こう。
ガイアス・クエストという男を―――。
「光栄に思うがいい。貴様に高みを教えてやろう」
これから見せるモノこそが、世界の頂なのだと。
両腕を腰辺りで開きながらジミナが言う。
「たまには下を見ねぇと足元掬われるぜ、
ガイアスは冷静に返す。
幾多の戦いを経験しているからこそ、実感の篭った一言だ。
審判の判断を仰ぐ必要もない。
剣が折れようと、意志が折れねば決着がつかないのがブシン祭だ。
瞬時に魔力を練り上げる。
それと同時に互いに大地を蹴った。
互いに選択したのは右拳でのストレート。
緻密な魔力制御によって無駄なく巡らされて強化された互いの拳。
両者の拳が重なり合うと同時に、試合会場全体に衝撃が満ちた。
『 !? 』
正拳、抜き手、肘打ち、裏拳、目つき。
凝縮された僅かな時間の中でそれぞれが攻撃を選択し、その悉くが防ぎ切られる。
王女達が魅せた互いの攻撃がすり抜ける場面とは異なり、近しい攻撃力で相殺し続ける光景は、観客達の息を呑んだ攻防へ発展するのに充分すぎるもの。
「ッ!」
このまま徒手空拳で決着をつけてしまうのではないかと思わせる攻防の中で、ガイアスの脇腹が切り裂かれた。
(スライムか…)
ガイアスは即座に被弾した要因を把握。
目を凝らしてみればジミナの甲冑部分が蠢いて形を変化させている。
身体とは異なった武装を用いた反撃によってガイアスがここにきて明確にダメージを負ったのだ。
「上手く躱したな」
「躱せてねぇよ。死合いだったら負けてたなこりゃ」
もしスライムに毒が練り込まれていたら致命的だった。
傷口を魔力で治しながらも体調に影響はないことを分析しながら、ジミナの――シャドウの戦闘センスを褒めたたえたくなった。
「俺の攻撃に合わせて思考を分けて魔力操作を用いるか…。常人離れしてるな」
「わかったところでどうする」
ジミナとしての装備は中古品で固めていたとしても、彼がスライムを手放す事はない。
故に甲冑の内部ではスライムを上手く練りまわして被弾時の衝撃を抑えたり、先程の様に不意打ちや迎撃に用いれる。
現にガイアスもジミナの攻撃に合わせて行動をしようとしても、各部位から急速に伸びてくる棘によって被弾が増えていた。
「こうするさ」
「!」
一度被弾したことで毒殺の脅威は無いと判断したガイアス。
ジミナの挑発に対して、前へ出た。
今のジミナはスライムを巧みに用いて近づく標的を滅多刺しにすることも可能だろう。
武器を持たずに素手で戦うガイアスにとっては間合いの問題もあって苦戦する事が必須だろう。
最もそれは武術に固執すればの話だが。
「――ッ!?」
ガイアスが選んだ選択肢は被弾しながらの愚直な攻撃。
急所は避けながらも左腕や太ももにスライムが突き刺さり、大きな出血を発生させる。
しかしその程度であれば魔力操作を用いれば即座に戦線復帰できる程度だ。
その魔力操作のごり押しにて殴りかかってくる…そう誰しもが思った直後、ジミナが何かを察知して後方へ跳躍した。
「あれを避けるか」
「貴様も人の事を言える立場ではないな」
ジミナが回避を選択した理由は先ほどまでジミナが立っていた場所にある。
ガイアスの攻撃とは異なる位置で、地面が大きく穴が開いていたのだ。
それはガイアスがジミナと同じ様にスライムを地面へ忍ばせることで下から串刺しを狙ったからである。
魔力感知に長けていなければ判断が遅れて足に風穴が生まれると共にガイアスの拳が直撃していたことだろう。
「貴様は常に魔力を薄く体外に放出させる事で体内で練り上げた魔力を感知されることを防いでいるだけではない。体外で霧散している様に見せることで認識から外しながら遠隔でスライムを操作しているのか」
「一発で看破するかね普通」
「前例が居たものでな」
ジミナが入場口を一瞥する。
その視線の先にいるのはアレクシア・ミドガル。
第一回戦にて常識外れな魔力制御を見せた第二王女である。
「あれほどまで高めた魔力制御をお目にかかったのは久しぶりだ」
「ハハッ、お前程の実力者相手にアレクシアが認められたということは師として喜ばしい事だな」
「…ほぅ」
敢えてガイアスはジミナへ情報を与えた。
今までの彼の行動とは異なる行為だが、自分の弟子が認められて喜ばない者はいないだろう。
だがそれ以上に、ジミナがガイアスを見る目が一層鋭くなったことでほくそ笑む。
「貴様もあそこまでの魔力制御が出来ると言うのだな」
「じゃなけりゃ師を名乗らねぇよ」
すでに傷は互いに完治している。
「そろそろ本気でやり合おうか」
初回は魔力無し。
二回目は魔力有りでの殴り合い。
被弾はすれども致命傷に至らず。
そしてこのままやっても千日手になるだろう。
そんな塩試合は勘弁願いたい。
「全力で来ねぇなら、それまでだ」
であればどうするべきなのか。
それは簡単なことだ。
全身全霊を以て討ち倒す。
「顕現せよ」
ガイアスが人差し指を立て、
たった一言。
指を立てるだけのワンアクション。
それだけで充分だった。
『 ……は? 』
その言葉が出たのは解説か。それとも見ていた観客か。
否、ガイアスを知らぬ者全員が心中で抱いた感想だった。
ブシン祭の会場は広大な土地に建てられている。
観客席も万を超える人数を収容できる大きさであり、試合会場内はサッカーコートをイメージしてもらえるとわかりやすいか。
それは魔剣士同士の戦いで魔力を用いて縦横無尽に戦うことが想定される大きさになっているためであり、それを考えれば一対一の試合であっても広すぎるとは言えない。
ガイアスとジミナは先のやり取りによりガイアスは中央付近に、ジミナは中央よりも後方に立つ形となっているのだが、ガイアスの周囲とその後方が全てが
「えっ…なにあれ…」
陰の統括者が言葉を零すのも無理は無い。
その光景を見た者で、絶句する者が大多数を占めていたのだ。
ガンマ達も同じ反応であり、何とか胃を整えてVIP席に戻ってきたドエム・ケツハットに関しては脳が状況を処理しきれずに泡を吹いて倒れるほど。
驚愕・絶句の反応をしていないのはアイリス王女とアレクシア王女の二人のみ。
地面より生えてきたと言わんばかりの黒い人型。
その後方にはゴーレムと呼ぶに相応しい大きさと質量を有する土人形。
制空権すら獲りにかからんとする異形。
周囲に出現した
あまりにも異質。
あまりにも異常。
数にして百はくだらないその数に、一体一体に込められた魔力量は並を超える大きさだ。
それが示すは国家防衛を担う選りすぐりの精鋭騎士による軍隊がその場に現れたに等しい戦力。
槍を。剣を。鎚を。銃を。牙を。塊を。
その全てがガイアスを護るように、己の武器を手にして大地を埋める。
「――ハハッ」
その光景を見た陰の実力者は哂った。
ジミナという仮面でも隠し切れないその喜びが、表情から零れている。
すでに彼の目と耳は目の前以外の情報を完全にシャットアウトすることでこの戦いに全集中することを選ぶ。
この世界に生れ落ちて十数年。
『陰の実力者』を目指した少年は、人生で初めて最大の壁と向かい合う。
「貴様の名を、改めて聞いておこう」
「ガイアス・クエストだ。お前は?」
一人で軍隊と向かい合う男は笑みを絶やさず問い、軍団長は答える。
静かに、しかしこれまでの試合で始めてみせる膨大な魔力が会場内を支配し、徹底抗戦の構えであることは誰の目にも明らかであった。
現状を取り巻く環境があまりにも嬉しいのか、片手で顔を隠しながら高笑い。
一通り笑った後、ジミナの全身をスライムが覆いつくした。
驚く観客の反応を見せる前にすぐスライムから解放されることになるが、その場に立っているのはジミナ・セーネンではなくなっていた。
「ガイアスよ、我も改めて名乗ろう」
黒いコートを靡かせるその姿こそ、ジミナとなっていた男が持つ本来の姿。
世界に巣食う『ディアボロス教団』と対立する一大組織『シャドウガーデン』を作り上げた総帥。
「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者!」
大地を足場に、全力で駆ける。
それを合図に軍勢が一斉に動き出した。
それは長い歴史を持つ『ブシン祭』で最大規模の戦い。
これまで表舞台に上がることが無かった二つの頂が、公の場において初めて衝突した一大決戦として、王国の歴史で語り継がれる事になるのである。
・主人公が本格的に戦う描写をするのが四十二話になる小説があるらしいですよ奥さん。
かつて個の最強と群の最強と感想を記載した方、お見事です。
戦闘における状況描写について
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理解しやすい
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まぁ解る
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普通
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ちょっと難しい
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難解