やだ…皆の期待力高すぎ…?
いや違うんすよ…元々この話で戦い終わらせるつもりだったんです。
でも期待されたからにはもっと押し付けなきゃ…って思ったんですよ。
それで考えればこうこうできるなぁと思って書いたら文字数が増大したんですよ。
なのでもうちょっとだけお付き合いください。
でも流石に観音様は出てきませんよ…?
シャドウを拘束し、圧殺すべく圧縮を続けていたスライムの牢獄。
投入した質量を考えれば決着がついている筈。
その球体が内部から溢れんばかりの魔力によって、その全てが吹き飛ばされた。
「…あれから逃れるのか」
動揺を表に出すことはない。
しかし完璧に決まった拘束からの圧殺行動に対する解答があまりにも力押しであったことに驚愕する。
何度かディアボロス教団の団員相手にお試しで使ったことがあるこの技は、その誰もが拘束から逃れることが出来ずに小さな球体へ存在を変化させてきた。
使用すれば確実に葬る、まさに一撃必殺。
それが真正面から破られたことはガイアスにとっても初めての経験だ。
見上げる。
魔力を利用しているのか、宙に留まるシャドウの姿がガイアスの視界に映る。
シャドウは両目を開いていた。
「片目を閉じていたのは魔力を蓄える役割だったか…」
「その通りだ」
ガイアスの読みが正しい事を告げるシャドウは心底から嬉しそうに哂う。
『ブシン祭』に出場してからというもの、シャドウたるシドにとって、新鮮な体験を多く経験できた貴重な大会だ。
自分といい勝負が出来そうな者、速度で勝る者、そして己と並ぶ者。
思いもよらぬ好敵手の出現にシャドウは嬉しくて堪らない。
「素晴らしい。素晴らしいぞガイアス・クエスト!」
両腕を挙げて高らかに叫ぶシャドウ。
明らかに今までシャドウと相対してきた者達とは異なる対応を取っていることは明白だった。
フッ
姿が消える。
ガイアスがその場から前方へ跳躍。離れた数瞬後にはシャドウが振るった一閃が通り過ぎた。
「そして謝罪しよう。出し惜しみしていた事をな」
「そりゃどうもッ!」
質を有した圧倒的な数で攻め立てていた先ほどまでと異なり、シャドウがガイアスとの距離を完全に潰しに掛かる。
確かにガイアスの武術は接近戦をするにあたって非常に厄介であるが、あの大軍を相手に一人でやり合う方が面倒だと判断したが故にシャドウはガイアスから距離を離させない。
シャドウが握るは一本の片手剣。
しかしスライムで構成されている一振りは伸縮性に富んでいるために、間合いを変化させることは朝飯前。それどころか振った剣の形状を変えて踵へ流して暗器として振るうことも可能な万能武器は大多数のスライムを吹き飛ばされる結果になったガイアスにとって対処しづらい。
対するガイアスも潜ませていた武装をすでに展開している。
それが
手甲の中でも腕まで覆うその装甲は長手甲と呼ばれる装身具である。
剣を扱うことが出来ないガイアスにとって、余計なダメージを抑えるのに必要な武装。
ただの魔力持ちならば素手でも対処可能であったが、相手は出し惜しみを止めたシャドウ。
魔力による身体強化を越えられれば斬られるのは道理である以上、防御用として武装手段を用意しておくことは当然の帰結であった。
だが得物を握るシャドウが剣のリーチを駆使して果敢に攻める。
ガイアスはシャドウよりも勝っている小回りを駆使して反撃へ転じる。
一歩も引かず互いに攻撃を実行し続けるのは、両雄が負ける気が微塵もない事を示している。
距離を取らない
気の起こりを読みあうのは当然、魔力での誤認、スライムの妨害、武による受け流し。
様々な攻防が目まぐるしく行われ、第二回戦における『閃光』との試合を彷彿とさせる勢いだ。
だが前回との違いは両者共に躱し、被弾し、攻撃を当てている事だ。
皮膚が裂けて血が溢れようが即座に治して攻撃に移行する。
かつてのコロシアムで行われた剣闘の様に、息つく間もなく行われる駆け引きが再度民衆達を魅入らせた。
剣を巧みに扱ってガイアスとの間合いを支配していたシャドウだが、ガイアスが踏み込んできた事を利用して剣を消して打撃へと切り替えた。
(何の躊躇いなくボクシング…!本当に厄介だな)
(不意を突いて打撃に切り替えたのに即座に反応してくるのか!)
左ジャブを肘で迎撃しつつ、首目掛けて回り蹴り。
それをシャドウがスウェーで躱しながらガイアスの軸足を薙ぎに掛かる。
薙ぎ払われる前に宙へ跳んで身を翻しながら振り下ろし気味に蹴りを放つものの、シャドウは回し受けで蹴りを往なす。
「ハハッ!まだまだ上げれるだろう!」
「馬鹿正直に付き合う奴がいるかよ!」
接近戦を仕掛けてきたシャドウがその場から離れ、ガイアスの目の前をスライムによる攻撃が襲い掛かる。
「(スライム?)…吹き飛ばしたスライムか!」
「活用しないなんて勿体ないだろう」
攻撃に移行するのはシャドウの攻撃によって魔力核が全て吹き飛ばされ、会場の端に追いやられていたスライムだ。
シャドウも解説していたように、相手にバレないように魔力で遠隔操作を行うのはガイアスにとって朝飯前。
シャドウとの殴り合いに移行しても尚、遠隔操作でスライム達を自分達の下へ移動させていた。
「しかし先ほどとは違って魔力核が無い。それら全てを操作するとなれば、消費する魔力量が莫大になる筈だ」
スライムを身に着けるシャドウも把握している。
それも大軍を生み出す程の膨大なスライム達を全て自分の魔力で操作するとなれば相当な負担になる。
だからこそガイアスも魔力電池を用いてなるべく消費を抑える事にしていたのだ。
「それは使い方次第だな」
「どういう――…なるほど、擬態か。先ほどの攻撃は目くらまし。その他のスライムを地面と同化させて踏み込んだ脚部を拘束する…辺りか?」
「どうだか(ホント強敵だなこりゃ…)」
シャドウが指摘した内容通りだった。
シャドウやガイアスが用いるスライムの色は基本的に黒い。
それは暗闇の中、艶消しの要領で暗器になりやすいというのもあるが、元々の色合いが黒に近かったためである。
それを魔力によって色を変えて操作すれば地面と同化させることも可能なため、ガイアスはゆっくりと会場の地面にスライムを薄く広げていたのだが、シャドウの眼相手には即座に看破できる戦略だった様子。
「ガイアスよ。先ほどのやり取り、そこまで高め上げた魔力制御。見事としか言いようがない」
距離を稼げれば軍勢を生み出せるガイアスに分があるのは事実だ。
そのためのスライムによるトラップ。時間稼ぎを行いたい魂胆がわかる。
「だがまだ足りない」
そこで敢えてシャドウはそのスライムの地面へ踏み込んだ。
一歩でも足を踏み入れれば反射的に起動するスライム。地面に風穴を空けるべく形状変化させようとする前に、シャドウは持ち前の魔力で強引に吹き飛ばす。
「!」
ゴォッ!と渦巻く魔力渦に呑まれて地面と擬態していたスライム達が一斉に巻き上がる。
それによって魔力制御を離れ、そのまま動かぬ物体と化していった。
「流石に手詰まりか」
シャドウの周囲を取り巻いている魔力を突き破って左拳を捻じ込ませるガイアスだったが、その拳が手甲と共に切り裂かれた。
「 !? 」
ブシュゥッ
「…チッ」
左拳がスライムの手甲ごと切り裂かれた。
それはつまりスライムに練り込ませていた魔力量がついにシャドウ側が上回った事を意味する。
更にその試合内容を把握できている実力者たちは気づいた。
ガイアスの傷の治りが明らかに遅くなっていることに。
「ガイアスさんの手が…!」
「…ん」
この戦いでガイアスを応援していたのは王女達だけではない。
オリアナ王女であるローズ・オリアナと『閃光』リヴィ・ハイリアことオリヴィエもその一人。
そんな彼女達はガイアスが即座に左拳を治さない事に気づいたのである。
二人ともガイアスが王女達を鍛えあげた存在であることを知っている。
片や“悪魔憑き”の治療。
片やスライムによる肉体を。
どちらも彼の実力を理解しており、恩人であるが故にこの試合を見届ける。
だがここで差が生まれてしまった。
ガイアスが持つ魔力量よりも、シャドウが有する魔力量が多い事だ。
「ガイアスの魔力量、魔力電池で補ってたけど、それでも足りて…ない?」
「あれが『シャドウガーデン』のシャドウ…まさかこれほどとは…」
ガイアスの魔力量を案じる二人だが、拳を斬られたガイアスは軽く舌打ちをしただけでそのまま構えた。
拳は握れなくなっているものの、ガイアスが用いる『シラット』は肘を多用する武術。
例え片手が欠損しようとも、腕が無事なら扱いようがある。
戦意は落ちない。落ちるはずもない。
まだまだガイアスは戦えるからだ。
「ご自慢のスライムも吹き飛ばし、身に着ける装甲も裂いた」
シャドウはトッ…と静かに着地して現状を見る。
「鍛えあげた拳は縦に割け、治す魔力に限りが見えた」
余裕を見せているわけではない。ただ現実を語っているだけ。
その場から動かず、スライムソードを鞭の様にしならせガイアスを襲う。
鞭の先端は音の壁を超える速度で叩き込まれるが、この剣先は鋭く尖って音の壁を切り裂く物。
ガイアスが即座に右腕で受け流そうとするが、その手甲部分を切り裂いた。
「――…」
「すでにその手甲を維持するほどの魔力が無くなったか」
本来ならば斬られてもすぐに修復するはずのスライムがそのまま地面に落ちる。
魔力制御が出来なくなったか、魔力が無くなってきた証拠なのかはわからない。
そこから数度振るって確かめるが、ガイアスが上手く受け流せずに左太ももやわき腹に被弾し、出血する。
シャドウの眼にはガイアスが纏う魔力量が先ほどよりも小さくなっている事がはっきりと見えていた。
だがそれでもなおガイアスの目は死なない。
その目は明確にシャドウを見ており、戦意が落ちる気配は微塵もない。
ただ一回、深く呼吸を入れただけだ。
「そうか」
それを見てシャドウは決めにかかる。
眼前の男は自分と同じ陰の実力者。
決して自分から敗北を選ぶことは無い。
周囲のスライムは吹き飛ばした。
眼に映る魔力量は減ったまま変化なし。
拳に刻まれた傷口は治っていない。
辺り一帯の魔力もない。
更にしならせた剣の一撃を防ぐことが出来なかったことから、すでにガイアスの魔力は枯渇しかけていると判断したシャドウは大地を蹴る。
これまでは眼前から姿を消して背後を狙った攻撃を多用していた。
しかし今回は一旦姿を晦ませた後、ガイアスを正面から切り崩す。
「
抵抗する暇も与えない超高速の一閃。
この一撃を手向けとし、シャドウは未だに反応しないガイアスの右肩から袈裟斬りを放つ。
「ガイアス!!」
漆黒の刃がガイアスに届く直前、会場内にガイアスを呼ぶ声が響いた。
ガキンッ
「…え?」
無意識に言葉が出た。
その言葉の主はガイアス目掛けて刃を振るった張本人シャドウ。
人体程度であればバターの様に切り裂くことが出来る彼は、決着をつけるべく振るった自身の刃が止められた経験がなかったのである。
スライムソードはガイアスの右肩に直撃したはずだった。
しかし現実は彼の右肩に赤色の壁が生まれ、ガイアスはシャドウの左手首を右手でがっしりと掴んでいた。
「やっと捕まえた」
(マズッ…)
捕まえられた己の左手首に気を取られたシャドウの意識外。
右顳顬に衝撃を受けたシャドウはそのまま体幹が崩れ、ガイアスは未だ治っていない左手を用いて掌底で追撃を敢行。
不意をつかれたシャドウは上手く受け身が取れないまま、地面に後頭部を強打させられることになったのである。
『!?た、叩きつけたァッッ!?』
「ガハッ!?」
完全な意識外からの攻撃に上手く受け身が取れなかったシャドウ、ここで初めて即座にダメージを回復させることが出来なかった。
後頭部が地面に叩きつけられた事で脳が揺れ、一瞬だけ意識が飛んだためだ。
更にガイアスは左手首を掴んだまま。
スライムを皮膚を通じてガイアスの手に風穴を空けても握られた拳が解かれなかった。
(なんだ…何で防がれた?)
だがシャドウも身体改造を実施してきた男。
すぐに立て直しに掛かっており、ガイアスが先の攻撃を防いだ手段を分析に掛かる。
その間にもガイアスがシャドウの頭を踏みつぶしにかかるが、即座に身体を立ち上がらせて反撃に移行した。
両者とも片手が使えない状況の為、超接近戦で応戦するしかないのだが、その過程でガイアスの身体に付着している赤い液体が動いている事に気づく。
「血液を使ったか!」
「気づいた所で遅い」
スライムの魔力伝導率は脅威の99%を誇る超高性能。
それならばそれを上回る素材は何なのか?
それは自身に流れる血液である。
ガイアスは被弾した左拳、脇腹や太ももの血液をスライムと同じ要領で操作する事によってシャドウが振るった攻撃を防いだのだ。
100%の伝導率を誇るということはスライムよりも操作速度が速くなるということ。
シャドウが気づくよりも早く、身体に付着した血液を防御に回して不意打ちを狙ったという事である。
「だが貴様は魔力量が低下している筈…」
シャドウの眼は魔力を見抜く。
それゆえにガイアスが保有する魔力が枯渇しているのだと判断したのだ。
掌底と正拳。
先程とは異なり完全に殴り合いに発展した状況でシャドウは疑問を述べた。
「確かにさっきまで持ってた魔力は枯渇しかけてたよ。
「!!貴様…ッ!」
それは事実だとガイアスは語る。
だが正確ではない。
魔力を霧散させたように見せて遠隔操作できるガイアスの魔力制御能力はシャドウに迫り、勝る程に高い。
そんな彼が自前の魔力でなく、魔力電池の魔力を身体に纏わせ、そして身体強化に使用し、更には周囲に飛び散ったスライムの操作に用いていたのである。
シャドウにも見切れなかった要因がここにある。
そもそも『王国最強』とされるアイリス・ミドガルを撃破したアレクシア・ミドガルが緻密な魔力制御を行っていた様に、薄く魔力を纏わせる事で体内の魔力量を誤認させるやり方は非常に有効。
それも他人の魔力でなく、己の魔力で実行すれば魔力を見抜かれる危険性も低下させる事が可能。
使用者本人が魔力電池を創って使用するのも魔力の出所さえバレなければ本人が持つ魔力としか見えないものなのである。
幾多の被弾、攻撃を受けても本来の魔力で治さなかったのは敢えてであり、治療に使う魔力が無くなったと誤認させる為。
スライムを使用しなくなったのもシャドウの攻撃によって手持ちのスライムと操る魔力が無くなったと思わせる為。
戦意が途切れないのはまだ負ける気もなかったというのもあるが、
「離れろ!」
シャドウは振りほどこうとするが、シャドウがガイアスの右手に風穴を空けたことで発生した血液ががっちりと左手と繋がっており、生半可な攻撃では取れない域になっていた。
腕を切り落とそうとも、血液によって護られる。
腹や足から刃を生み出してガイアスを刺そうとしても、同じ要領で防がれた。
全身血濡れになっている事を利用して、ガイアスは血液で鎧を作り出した。
それにより通常よりも硬く、流動性がある外皮と化す。
(この世界で、
(クハッ!君も、大分イカれてるねッ!!)
「「オオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」
打つ。打つ打つ。
打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打!!!
「なんて打ち合いだ…」
「す、すげぇ…」
先程までガイアスが不利に陥っていたというのにも関わらず、殴り合いまで持ち込んだ両者は拳を止めない。
ただの打撃ではない。
一発相手の身体を殴るたびに客席まで鈍い音が響くほどの威力を、一切止まらずに打ち続けているのだ。
格闘試合を見たことが無い者達が魅入ってしまうのも必然と言える。
バキッ
ガイアスによって作られた血液の拘束具。
それが大気を打つ衝撃によって段々維持が出来なくなるのも必然だった。
シャドウの拳は重く、硬い。
そこに緻密に練られた魔力の衝撃が組み合わされば、一発で内臓を破裂させることも容易だろう。
そんな攻撃をいくら血の鎧があるとは言えども真正面から何もせず受け続けることは不可能だ。
となれば優先的に防御に魔力を回すことになり、拘束している血液が少しずつ…また少しずつ剥がれ落ちるのは仕方のない事であった。
バキリッ
ついに腕の拘束が解ける。
シャドウがガイアスの傍から離れたが、互いに無事とは言い難いダメージを負っていた。
ガイアスは兎も角、『陰の実力者』を目指すシャドウですらも、己が受けたダメージを即座に回復する事はしていない。
それは今のガイアスを前にして、下手に魔力を消費する事は失策だと理解しているため。
己の機動力を加味すれば、相手の出方を伺ってからでも充分間に合うと判断した。
陰の実力者を目指す者として、下手に息切れや情けない姿を曝すことは無い。
しかしガイアスが生み出した軍勢への迎撃、圧殺攻撃から脱出する為に解き放った魔力。そして幾度となく殴り合った現在、シャドウと言えども莫大な魔力を消費していた。
相対するガイアスはまさかの魔力電池のみでやりくりしていたこともあって、保有魔力そのものは変化が無いほぼ全快の状態だ。
それを示すようにシャドウの眼から見ても魔力量が初期と同じレベルにまで戻っている。
…否。
(本来の魔力を使えるようになったことから、最初よりも増加している…ハハッ!面白いじゃないか!)
試合開始よりも扱う魔力量が明らかに増えていた。
それすなわち、互いにまだ己の底を見せていないと同義。
互角以上に渡り合う相手との戦闘経験が乏しいシャドウにとって、正念場に等しい状況に追い詰められていると言ってもいいだろう。
対するガイアスも有利な立場ではない。
スライムが無くなっている事は事実であり、すでに止血したとはいえども結構な出血量だ。
数の利が想定よりも通じなかった事実はガイアスも把握しており、まともにダメージを与えられたのは接近戦だけだった。
(本気で挑んで互いにダメージを与えれたのは近接戦のみか…)
思う所はある。
ここまで至った己の力が通用しているとは言えど、決定打になり得ていないその事実。
己の不甲斐なさではなく、そこまで強くなっているシャドウの…“スタイリッシュ盗賊スレイヤー”を名乗ったあの時の彼に賞賛を送りたいものだ。
(………。しゃぁない、使うか)
ガイアスは決断する。
脳裏に浮かんだその光景を見て、試さないのは機会損失だと判断したから。
互いの思惑は両者共にわからない。
しかし現状を加味すれば、どちらも長期戦にもつれ込むことは避けたいことだった。
そもそもガイアスが本気になったのも長期戦を避けて決着を早める為のもの。
ここまで食い下がられる事態が予想外に等しいのだが、現実に文句を言っても仕方がない。
いつの間にか止んだ声援。
両者共に立ち止まって睨みあい。
誰も音を発する事が出来ない程に、両者の気迫が高まっていた。
誰もが理解していた。
ここまで実力が拮抗している実力者同士の戦いで勝敗がつく、それ則ちどちらかが死ぬことになる可能性が極めて高い事を。
『 ………… 』
時間も忘れて目の前の光景にのめり込む。
審判解説、その他の職員らが職務を放棄してしまう程に駆け引き。
攻撃を仕掛け、それを乗り越える戦いをこんな間近で見る機会なんて早々来ないだろう。
見届けたい。
この戦いがどんな決着を迎えるのかを。
知りたい。
最強を冠する頂を。
ガイアスが動く。
しかしその動作は先ほどまで高速戦闘をしていたとは思えない程の速度。
自然体から両腕を大きく円を描くように動かして手を合わせ、告げた。
「
神仏に祈りを捧げるように両の手を合わせ、彼は静かに
それは王女達が魅せた具現化の技術、その応用。
「
ガイアスが立つ地面が変化する。
大地が隆起し、自由自在に形を変え、溢れんばかりの魔力そのものが質量となって創り出される。
それは王女達が成した“魔力の具現化”。
『女神の試練』にてその現象が確認され、『ブシン祭』にて使用者の圧倒的実力が解る一つの
アイリス・ミドガルは焔を生み出した。
アレクシア・ミドガルは嵐を生み出した。
であれば彼女達へその技術を伝えた男は一体何を生み出すのか?
その答えが眼前の光景。
人が生きる上で欠かすことが出来ない
命が生まれ、繫栄し、そして眠る偉大なる星。
それ則ち大地そのもの。
「俺は…何を見ているんだ…?」
観客の一人がポツリと零したの言葉は、その場にいた全員の心境を代弁した一言だっただろう。
会場の地面が隆起しただけではない。
無から有を創り出すように、魔力から土石を創り出す。
それら一つ一つがただの砂利ではなく、しっかりと魔力が込められてガイアスの手によって操作される無機物だ。
王女達が魅せた光景とはまた違った異質なモノ。
一作品としての表現をすれば、ガイアスは創造主と記されることになっただろう。
「――フゥッ!」
ガイアスの周囲で土石が渦を巻いて集まり始めるのを見て、ただ見届けるはずもないシャドウがスライムソードの刀身を伸ばして攻撃に移行する。
しかしその攻撃は渦巻く土石達に阻まれる事になり、仕事が出来ぬままシャドウの手元へと戻っていった。
「随分と手癖が悪いな」
弾かれた事に驚く様子もないシャドウにガイアスが語り掛ける。
「…ただ魔力の塊という訳ではなさそうだな」
「そりゃそうだ。何せ“とっておき”という奴だからな」
すでに会場は平坦に整地された地面ではない。
谷が生まれ、丘が出来、生物の様に流動している。
一つの空間そのものを掌握したようにも感じ取れてしまうソレに、戦いを挑むことになるシャドウはどう思うのか。
「だがその程度の
「そう急くなよ。後悔無い戦いにしようぜ親友」
「先ほどから貴様は何を…」
途中から親友と呼ぶガイアスにシャドウは疑問を呈するが、当の本人はそれを無視。
そのまま魔力操作を高める事で本来の真価をシャドウに見せる。
「“
思い返すは先ほどまでシャドウが戦っていたスライムとゴーレムの一個中隊。
それらは各々がスライムを用いた武装を以てシャドウへ果敢に挑みにかかっていた。
「――――……」
しかし今回はそれとはまた異なるもの。
祝詞を唱えたガイアスのその後方に、7本の大きな柱が生み出されることになる。
そこまでなら何の意味があるのかと思うかもしれない。
だがその柱が出現したことにより会場の地面が波打ちながらシャドウへ迫る。
(あれほど啖呵を切ったというのに、地面を波打たせるだけではないだろう。足場が液状化しているように見えることを考えれば、一歩でも踏めば捕まりそうだ)
地面を跳んで躱すシャドウは魔力で足場を一瞬だけ作ることで宙を駆けながら考える。
先程までのスライム操作を加味すれば、地面が液状化しているようにも見えるそれに踏み込むことは危険だろう。
事実それは正しく、ガイアスが操作をし続ける限り、大地そのものを彼にとって有利な空間に組み替えるモノ。
相手の足場を奪う事で自分にとって非常に有利に戦況を進める為の一手だ。
「その程度で捕まることが無い事は充分理解しているよ」
パンッ!
両の手を鳴り合わせる。
それ以外の余計な動作は不要。
液体の様に流動していた地面が即座に固まり、そこからズモモモモッと音を立てながら土や泥、砂が集まり動き出す。
それを人と称するには雰囲気が違う。
それをゴーレムと呼ぶには精巧すぎる。
それを魔獣と呼ぶにはあまりにも神々しい。
神の
「ま、また…一体彼はどこまで…」
この場にいる中でも最も知能が高いエルフであるガンマでも情報処理が追いつけなくなっている。
かつて“陰の叡智”としてベータと共に教えていただいた物語がある。
そのどれもが彼女達に発想力を与え、価値観を変えるほどに衝撃を与えてきた。
その中にあった話の一つに、この星が生まれた経緯という事でとある話をされた事がある。
流石にベータもその話をうまく扱える事は出来なかったようで、小説として世に出してはいないものの、ガイアスが行っている事はそれに近しい様に思えてしまった。
それはまさに人が生まれたのかという疑問。
地球にて何故人類が生まれ、その優れた知能を持つに至ったのかという疑問。
現在では科学的にあれこれと調査が続けられているのにも関わらず、明確に答えが出されていない未知の世界。
それ則ち神話である。
魔力があるからと言ってそれを成そうと思わない。
魔力があっても創れるなどと考えない。
神話の物語を得る機会があり、それを成したいと心から想い、それを為せるまで高めた行動力があったからこそ、初めて成り立たせることが出来る。
「
とある島国に伝わる神話を語る時に出てくる名前でな…神の総称でもあり、その神々の時代を指すこともあるんだ」
宙を駆けるシャドウは剣に魔力を乗せ、その衝撃をガイアスにぶつけようとするが、先に創り出されていた存在に防がれる。
防いだ存在は無傷で済ますことが出来ずに身体が欠けるものの、柱から供給される土石によってその身を修復した。
「国を創り、大地を整え、そこで初めて生物が育つ事が出来るようになったことで始まった神話の原初。まさに創造の時代」
遠距離では防がれると判断したシャドウは語るガイアスとの距離を潰そうとするが、別の個体によって道を阻まれる。
10メートルは超えるであろう巨体とは思えない速度だ。
「であれば俺自身が目指す頂はどこか、それを考え、日々研鑽し、時には他者から発想と道具を戴いて高めてきた」
それこそがガイアス・クエストが目指した原点。
ゴーレムの技術を求めたのもそれを成すために必要な技術が存在していたから。
命を創りたいのではない。
ただ彼はそれに近い現象を創ってみたかった。
砂浜で砂の城を創ることに憧れるように、彼は神話の創造に憧れたのだ。
「『
ガイアスの傍に立つは7つの巨躯。
百を超える軍勢と比べれば数は少ない。
だがそれを軽く一蹴出来てしまいそうな程に魔力量が込められていた。
「ただ俺は神じゃない。魔力を持った只の人」
ガイアスは手を合わせたままだ。
だがガイアスが動く必要もない。
巨体とは思えぬ程の速度。
袈裟に振り下ろされた剣の軌道を読んで防ぐシャドウだが、質量と魔力による重さを一身に受けたことで吹っ飛ばされることになり、地面へ叩きつけられることになる。
地面が隆起し、シャドウを地面へ取り込もうとするも魔力放出で周囲の地面を吹き飛ばして破壊。
追撃の大槌を側面に移動する事で躱すが、その軌道を読んで2メートルはある矢が飛来するがシャドウはそれを真正面から殴り潰した。
ここでシャドウもスライムソードとは異なる形状の武器を解禁。
スライムを細い糸へと変化させ、鋼糸として操りだす。
大槌を振るった巨躯に対して鋼糸を巻き付けて刻もうとするが、地面より出現した兵たちの刃によって防がれた。
「まだ来るのか…!」
「小細工も多用するが…卑怯とは言わねぇよな?」
流動する大地が止まり、軍勢が再び生まれた。
しかしその数が先ほどの比ではない。
次々に出現するその数は、ブシン祭会場その全てを埋めてしまうと錯覚してしまう程。
明らかに数が3倍以上多いのだ。
だがただ数を揃えた所ですでにシャドウの敵ではない。
鋼糸が土人形を微塵斬りにしていくが、先程とは異なることに気づいた。
(ッ!魔力核が無い…!)
最初に見せた軍勢は魔力核を軸としたスライム兵士が主軸だった。
それ故にシャドウがピンポイントで攻撃することで数を減らす事ができたのだが、今回は違う。
完全に
「そうか…そのために見せたのが先ほどの液状化かッ!!」
それが意味する事をシャドウは即座に看破する。
先程まで無意味に見せていた地面の液状化現象は、この土台を作るための布石。
会場内の地面全体に己の魔力を練り込ませることで、自分が絶対的優位を生み出すフィールドへと作り替えていたのだ。
シャドウの眼を通してみれば、大地全てがガイアスの魔力を有している様に見えており、まさにボス部屋と記せそうなほどに不利な盤面であった。
魔力核を用いられていたゴーレムとは異なり、大地そのものから魔力を得ることで形を維持しているのだ。
そして遠隔で自由自在に操ることが出来る魔力制御能力が組み合わさればどうなるのか?
幾ら壊そうとも止まらない最強軍隊の完成だ。
魔力核を使っていない以上、部位欠損させようが消滅させようが、無から地が創られる為にシャドウがその軍隊を止める手段は一つしかない。
それはその空間にある魔力そのものを消滅させること。
「雑兵として創り出す人形すら、我が速度に迫るか!」
当然ながらそんな隙は与えない。
空間そのものを掌握した今のガイアスは魔力消費と引き換えにありとあらゆる空間から兵士を創る事が可能。
自分の空間から一歩でも出れば消滅してしまうデメリットはあれども、そんなことを許すはずもない。
すでに会場内も細かい流砂で周囲を覆い、逃がさないように徹底していた。
いくら鋼糸で刻もうとも、打撃で飛ばそうとも、魔力で破壊しようとも。
この空間にいる以上、破壊という結果に怯える必要はない。
ガイアスの魔力で創られた空間は魔力の伝導率なんて関係ない。
空間に存在する物全てが魔力そのものなのだから当然だ。
スライムを介して操作しているのとは違い、直感的に操作できる現環境を生み出す事こそがガイアス・クエストが用いる具現化の真価。
まさに創造と言える力となっていた。
「さっきはごり押しで抜けられた。だが今回はそうはいかねぇ」
あれはスライム達の軍勢がそもそもシャドウに追いつけていなかったから準備する余裕があったためだ。
それならば全力で対処し続けることを強制させればそんな隙など生まれない。
「圧倒的“個”が相手なら、圧倒的な“質”と“数”で押し切るだけだ」
「チィッ!」
余裕ぶる機会など存在させない。
事前に備えた下準備とこれまで鍛えあげたモノを以て、最強の頂へ足を進める男を引きずり下ろす。
全速力で駆けているのにも関わらず完全に振り切ることが出来ない。
突如眼前に岩の刃が創られるために、後方へ意識を向け続ける訳にはいかない。
「ッ」
しかし雑兵と妨害に意識を割き過ぎれば巨躯の攻撃が躱せない。
巨躯から放たれる攻撃はシャドウを以てしても脅威と言える。
最も魔力を保有しているとわかるのがガイアスの後方に建てられた柱であり、その次に柱を護るようにして配置されている巨躯だ。
(柱がこの空間を創っている要因なのは解るが…近づけん…)
それだけこの空間を維持する事が重要なのだろう。
(この空間そのものが魔力の具現化に等しいモノとして見るならば、あの柱によって創り出されている周辺の流砂が魔力の霧散するのを防いでいる役割…。問題はどうやって破壊するかだな)
シャドウはこの状況を生み出す種に気づいていた。
しかし時間が足りない。
魔力を練る暇すら与えない程に過激さを増していく攻撃にシャドウは頭を悩ませる。
跳躍して矢を躱すが、距離を即座に潰した巨躯の大剣がシャドウに襲い掛かる。
「…!いいだろう」
このままでは確実に押し切られる。
迫りくる刃を前にして、シャドウは何かを閃いた。
スライムを硬いだけでなく、軟性を付与させる。
防御動作によって発生する衝撃を増やすことで、一旦ガイアスとの距離を離した。
(まずは距離を…)
何とか時間を稼ぐ。
そのために相手の攻撃を利用しての距離稼ぎ。
それによって僅かでも時間を作り出そうとしたシャドウだが…
(雑兵がいない…ッ!?)
襲い掛かろうとしていた雑兵が先ほどまでの位置にいないことに気づく。
まるで霧の様に霧散してしまったように…。
「!!」
身体の動きが封じられた。
足は地面に埋まり、壁と思っていた障害物から腕が生えて肩を抑え、蛇の様に動く土砂が腕と腹へ巻かれる。
「してやられたな…」
己の失策を理解する。
無から有を創り出す。
その脅威をシャドウは完全に認識できていなかった。
魔力を操作し、魔力で構成出来るのなら、即座に消して別の箇所で再度生み出す事など造作もない。
なぜならシャドウを覆いつくす全てが、魔力そのものなのだから。
「仕留めた」
ガイアスとの距離はかなり離れている。
故に声までは聞こえない。
だがその口の動きが、ガイアスが告げた言葉を理解させた。
瞬く間に出現する兵士達。
凶刃が敵対者を屠るべく振るわれる。
周囲に満ちるは圧倒的な魔力量。
ガイアス・クエストが自分を仕留める為に躊躇いもなく選択したその技術。
今まで出会ったことが無い強敵との駆け引き。
直に感じ取るは刃が己の肉を貫いて命を奪いに来る感覚。
明らかに詰み。
どんな対処をすればいいのかわからない初見殺し。
それを一身に受けた『陰の実力者』は…
「ははっ!」
血が噴き出る事も厭わず、確かに
・血液操作
この作品にはまだ登場していないが、無法都市にある『紅の塔』に存在が確認されている吸血鬼の始祖が扱う技。
ただ吸血鬼と違う点は一度体外に出した血液に付着する汚れなどを考えれば、体内に入れて再利用する事が危険ということだけである。
・
日本神話に登場する神である
液状化させて自分の空間を創った後に、柱を打ち込むことでガイアスが操る泥土であった大地、それを固めて生物が育つ事が出来る環境に変化させるもの。
『杙』は地面から植物が生える様と打ち込む杭という二つの意味がある。
『角』は芽立ちや角の様に硬く突起している様を表す。
『活』は活き活きとしたという意味になり、つまり生命力を象徴される存在となる。
元々は神の原型となる杭を打ち込んで、神の形を生み出すというお話であり、それを具体的なイメージと繋げる事で正確に巨躯を生み出すことが出来る技。
魔力操作に集中するため動けなくなり、ありえない程の魔力を消費することになるが、その付属効果として一個大隊を魔力が尽きるまで創り出し続けて操作できる効果を得る。
もし状況を好転させたいなら一定の空間そのものを消滅させる力が必要になる。
わかりやすく言うならほぼ閉じない『領域展開』か、ほぼ閉じない『固有結界』。
・ブシン祭会場君
あぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!
クロスオーバー好きかい?
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うん、大好きSA!
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まぁ良いだろ
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知らんな
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クロスオーバー、お許しください!