王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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 一人称が間違ってたのでちょっと修正(3/20)

 
【雑感返】
・杙々角活による7本の柱ギミックは7本の柱全て壊れると空間が維持できなくなります。
 裏を返せば一本でも死守すれば維持し続けられます。
 柱一本一本には莫大な魔力が練り込まれているのはシャドウが考察した通りですが、正攻法は7本の柱を同時に破壊する事となっております。
 これは柱が壊れると内部に込められた魔力が空間に流れる事で巨躯&雑兵達が強化されるバフ効果内臓だからですね。
 大切なのは空間を最初に創るために7本必要なことであって、維持自体は意外と一本でもやりくり出来たりします。
 一応周囲を覆ってる流砂を完全撤去出来れば空間維持ができなくなるんですが、柱が自動修復するので非現実的です。
 
 柱を壊すのが脱出方法なのに壊すたびに千人全ての全行動が強化されていく空間と考えれば、どれだけガイアス君が本気なのかわかるかもしれない。
 
 
 




四十五 頂⑤

 

 何かを忘れている気がする。

 

 理解した訳ではない。

 

 実際に見れた訳でもない。

 

 顔も思い出せないその少年と、怪我するのも厭わずに拳を交えていた。

 

 自分についてこれるのが嬉しくて、思いっきりはしゃいでいた。

 

 いつあったのかもわからない。

 

 でも別れるときに、何か約束したような…。

 

 自分の肉体に大量の魔力が込められた刃が突き刺さる感覚がある。

 

 あぁ、そうだ。

 

 僕はこの魔力を、その持ち主を知っていたんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を凝らせば僅かに見える流砂による球体。

 触れようと思えば触れてしまえるその球体の中で、これまでの歴史をひっくり返す戦いが行われていた。

 

 魔力電池を利用して操作される軍隊の召喚。

 観客達がその仕組みを理解できる事はなかったが、一定数の実力者達はその下準備とその難易度に舌を巻きながら、手に汗握る戦いを観戦していた。

 

 しかしそれを遥かに上回る衝撃が再度襲い掛かる。

 たった一人が齎した衝撃。

 それが魔力の具現化による世界創造。

 勿論そのままの意味ではないが、特定の範囲に限定していたとしても、己の思うがまま操る事が出来る空間を確かに創りだしたその事実は変えられない。

 

 その世界に一人放り込まれた男は、観客達の衆目に曝されている中で、幾多の刃によって確かにその身を貫かれていた。

 口から血を流し、動くこともない。

 誰が見ても息絶えている様に見えているだろう。

 

「…どういう…ことだ…?」

 

 だがその状況を創り出した男 ガイアス・クエストは違う。

 圧倒的に自分が有利の状況下にいる中で、明らかに困惑の表情を浮かべていた。

 

「魔力操作に問題はない…俺の魔力が尽きた訳でもない」

 

 魔力操作に長けている自分がそんな初歩的なミスはしない。

 そのために魔力電池を用いて戦いに挑んでいたのであり、“魔力の具現化”の使用に踏み切った際には己の魔力のみで展開していた。

 極度の疲労に襲われている訳でもない、倦怠感があるわけでもない。

 それなのに自分が考えていた結果とは異なる状況になっている事が混乱を誘う。

 

何故使える(・・・・・)?」

 

 その問いを投げかけるは戦っていた相手。

 動く気配はない。

 

 ―――否。

 

 確かに口角が動いた。

 

「ッ!!“埋めろ”

 

 相手が疑問に答えるはずもない。

 ガイアスは即座に質量で押しつぶす選択をした。

 

 流砂を動かす必要はない。

 その空間では対象の数センチ先に物質を創りだせば完了だ。

 

 串刺しになった状態で大量の土砂に襲われる事になったシャドウだが、その直後にそれら全てが吹き飛ばされた。

 

「ククク…クハハハハハハハハ!!」

 

 観客達全員の耳に届くほどの大きな笑い声。

 先程まで必死に抵抗を続けていた状況とは一変、嬉々とした感情を感じ取れる。

 

「見事だ…ガイアス・クエストよ。我をよくぞここまで追い込んだ」

 

 スライムで押しつぶされた時は事前に魔力を貯めていたから何とかなった。

 だが今回に限って言えば賭けに勝った。それだけだ。

 事前に考えていた訳ではない。

 試した経験があったわけでもない。

 ただ…自分の中で、確信があっただけだ。

 

「認めよう。貴様の魔力操作能力は我と同じ高みに位置している。場合によっては我を凌ぐかもしれん」

 

 その発言に『シャドウガーデン』に動揺が奔る。

 自分達の主が、自ら明確に断言したのだ。

 それはガイアスを同格にいることを認めた証。

 

「だが、もう理解できた(・・・・・)

 

 剣を掲げ、魔力が溢れだす。

 それは最初にスライムの牢獄から抜け出した時よりも遥かに増大した魔力量。

 これまでの攻撃が霞む程の圧にガイアスは目を見開いた。

 

「!!(まさかこいつ…!?)」

 

 ガイアスは即座に7体の巨躯を前方へ展開。

 それぞれの魔力を解放すればあらゆる障害を防ぐ防塞となる。

 

 

縮小版(スモール) Atomic(アトミック)

 

 

 放つは極光。

 それは第一回戦にてアイリス・ミドガルが魅せた自分をも巻き込む爆発を思わせる程の威力。

 しかしそれは彼女が放った一撃とは異なる技。

 その理由がシャドウ自身その技を使用して被害を負っていないことである。

 

 縮小版として攻撃を放ったシャドウ。

 その光は会場内を薄く覆いつくしていた流砂を全て吹き飛ばす程の威力を見せながら、観客席に座る者達へは一切被害を与えていない。

 それは彼が攻撃範囲を完全に制御出来ている証拠であり、彼もまた卓越した魔力制御能力を持っていた事を証明していた。

 

 ボロボロと崩れ落ちる自分の世界。

 しかしガイアスはそれを一瞥もせずにシャドウを見ていた。

 シャドウが攻撃を放つ直前になり、ガイアスはシャドウがこちらの攻撃を凌ぎ切った理由が分かったからだ。

 

「シャドウ、お前まさか…俺の魔力を…!」 

 

「それに気づくとは流石、と言っておこうか」

 

 ガイアスの問いに答えるようにニヤリと笑う。

 反対にガイアスは「まじか…」と頭に手を置いてため息をついた。

 

 魔力で創り上げた世界が崩壊していく。

 シャドウが考察したように、後方の柱たちは創り上げた空間そのものを包み込んで持続させるための装置としての役割を担っていた。

 流石のガイアスであっても魔力が体外に出れば霧散する性質そのものを根底から覆すことが出来なかった。

 

 その対策として用いていたのが物質化させた流砂にも制御を割いて持続させることで内部に莫大な魔力を満たすことだった。

 例えるなら事前に型を創ってそこに金属を流し込むようなもの。

 満たされた魔力を決められた形に流し込むことで余計な操作を無くし、多くの兵士や獣たちを創りだすのが根幹となっていたのである。

 

「何が魔力制御能力で凌ぐ…だ。人の魔力を(・・・・・)利用できた(・・・・・)お前が言うと嫌味にしか聞こえねぇよ」

 

「否。誇るべきだ。何せ前例が居たのだからな(・・・・・・・・・・)

 

「普通はそれで真似できねぇんだよ…ッ」

 

 ガイアスは苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、シャドウは実に満たされた表情だ。

 

 それはそうだろう。

 自分が考え、創りだした世界を最悪な形で利用されたのだ。

 創る側からしてみれば、只々悪用されただけ。

 いい気分になれるものではなかった。

 

 シャドウがやったことは実にシンプル。

 ガイアスの魔力制御権をほんのちょっと(・・・・・・・)奪って自分の魔力として活用しただけ。

 必要な大技を使用するにしても、シャドウも少なからず溜めを必要とする。

 それは魔力を爆発させる一連の流れが必要ということもあるが、何よりそのための魔力を収縮して使用する必要があるためだ。

 そのために片目に魔力を溜め込んだり、本来の威力を出す際に少し語る時間を有している理由でもある。

 

 だがもしその魔力を集める時間と魔力を凝縮出来る時間を無くすことが出来ればどうなるのか?

 その疑問に答えた結果が先ほどの即座に発動した縮小版攻撃だった。

 

 目の前に大量の魔力が満ちているのなら、それを活用すれば良い。

 

 実際にそれが出来る存在が世界中を探して何人見つかるのかという話は置いておくが、結論からすればシャドウの技術吸収能力は、ガイアスが生み出した空間創造と相性が最悪であったということ。

 しかもシャドウの話を信じるに、あれを見せた先駆者は確実にアレクシアが使用したアイリスの魔力制御権を奪ったあの攻撃だろう。

 たった一度見ただけ、それも激戦区とは離れた位置で使用されていた技術を吸収して用いることが出来る才能は、まさに異次元と呼ぶに相応しい。

 

「我とて最初から考えていた訳ではない。思いついたのは串刺しにされた直後だ」

 

「普通はそれで死ぬんだよ」

 

「その程度、内臓をずらせば命を繋ぐことは容易い」

 

 シャドウに引導を渡すべく差し込んだ刃は確かにシャドウの、人間の急所を正確に狙った攻撃だった。

 しかしシャドウは幼少期から身体改造を繰り返してきた男。

 即座に内臓をずらして即死を防ぐ事が容易であった。

 その事実まで把握できていればガイアスとて対応方法を変えていただろうが後の祭りだ。

 

「それにその魔力は我も覚えがあって()。それが無ければ奪う発想すら出てこなかった」

 

 右手に青紫色の魔力を出現させたシャドウは嬉しそうに語る。

 先程までの話し方から感じ取れた威圧感や高圧的な感じは受けず、友人と接する時に見せる喜びに近い感触であった。

 

「あの王女が魅せた魔力制御を奪う技術…それだけ言えば誰が相手でも可能の様に感じるけど、それは違う。親しい者のように魔力操作能力を調べつくした相手のみに限り可能…だろう?」

 

「…ほんとお前の分析力はどうなってるんだよ」

 

 シャドウの指摘は核心に迫っていた。

 アレクシアがアイリスとの戦いで奪い続けていた魔力制御はアレクシア自身がアイリスの魔力を傍で見て、感じ、そして操作方法も切磋琢磨しながら研鑽を積んできたためだ。

 

 魔力が揺らぐ癖。

 制御が離れていく法則。

 そして制御を奪う際に消滅させない許容量。

 

 少しでもズレれば成り立たない大前提を乗り越えた結果として魔力の制御権を奪うことが可能になる。

 本人は一切語らないが、魔力制御権を奪うなんて所業はガイアスですら出来たことがないのだ。

 だからこそぶっつけ本番で成功させたアレクシア・ミドガルの努力を誰よりも認め、彼女を信頼出来ていると言える。

 

 そんなレベルの技術をシャドウは一度見ただけで身につけて見せた。

 まさに規格外の怪物と称しても問題ないだろう。

 

「何…一度だけとは言え、貴様…いや、()()は競い合った仲だろう“ゴーレムマスター”?」

 

「――!なるほど…思い出したわけか」

 

 先程とは一変して雰囲気が変わった。

 獰猛な笑みを浮かべていたシャドウとは違い、気さくに接する友好的。

 それはガイアスを前にしてシャドウではなく、シド・カゲノーとして接している事を意味していた。

 

「つまりはなんだ?あの時に俺の魔力を覚えていて、それを頼りに制御権を奪い取れた…と。冗談きついぜ“スタイリッシュ盗賊スレイヤー”」

 

「それに関しては偶然だよ。さっき言った通り、前例があったのと出来る確信があったから」

 

「その偶然で俺のとっておきが破られちゃ堪ったもんじゃない」

 

「まぁそう言わないでよ。これでもかなり驚いていたんだよ?」

 

 シャドウがシド・カゲノーとして語ることで友好的な雰囲気に変わってきたとは言えど、今は『ブシン祭』の第三回戦。

 久しく会えた友人と談笑している訳にはいかない。

 

 再び戦意を滾らせてガイアスが構えるとその意図を察して構えるシド。

 広い会場で話しているために会話の内容は観客達に聞こえない。

 つまり第三者から見れば双方やる気充分ということだ。

 

 空間創造をしたガイアスとガイアスの魔力を利用したとは言えどもそれ以前に大量の魔力を消費しているシャドウ。

 両者が再び拳を交じることになるのかと観客達が見守る中、突如男性の声が響き渡る。

 

 

「ぶちかましてやれぇ!!ガイアスーー!!」

 

 

 試合に集中するが余り、沈黙に支配された会場内。

 そんな中で大声で投げかけられた言葉に観戦に集中していた観客達だけでなく、これから再度拳を交えようとしていた両雄すら意識が向いてしまう程。

 

「ちょっと貴方!突然何を」

 

 振り返ればガイアスにとって見覚えのある姿。

 がっしりとした体格を有するその男の名はアース・クエスト。

 ガイアスの実の父親であり、クエスト家の現当主だった。

 

 ガイアスの名を呼びながら右手に持ったタオルを思いっきり振り回しているのをその妻 ガイア・クエストが制止しようとしているが、その程度で止まるのであれば、そもそも大声を上げる事はしない。

 

「ガイア、お前も一緒に応援するんだよ!実力を隠していようがいまいがガイアスは自慢の息子!この大一番で俺達が率先して応援しないでどうするんだ!!」

 

 土地の管理や開拓を担うクエスト家。

 その仕事の都合上、領主であっても肉体労働に向かう頻度は多い。

 そのため一般の貴族よりも鍛え抜かれている肉体から発せられる大きな声は開放的な会場でも綺麗に伝わっていく。

 

「ガイアス!お前の雄姿はこの俺が見ている!!思う存分ぶつかっていけ!!」

「本当に貴方って人は…。ガイアス!私達は何があっても貴方の味方です!!」

 

 自分が言っても止まらないと察したガイアスの母 ガイア・クエスト。父であるアース・クエストの大きな声と比べると声量が小さいが、確かにガイアスの耳に届いた。

 

 実はガイアス、両親に『ブシン祭』に出場する事は一切伝えていなかった。

 そのため彼らがこの場で観戦している事自体予想外な事であったために、驚くほかない。

 

「愛されてるね」

「うるせぇよ、試合中だ」

 

「シャドウ様頑張って!!」

 

 シドがガイアスに茶々を入れ、それを受け流すと同時。

 今度はシャドウの名前を呼ぶ声。

 

「ちょ、ちょっと!」

「やっちゃってくださいシャドウ様!!」

「勝ってくださいシャドウ様ァ!!」

「あ…アルファ様!彼女達を止めてください!!」

 

 知っている者から見れば『シャドウガーデン』の構成員達だろう。

 ミツゴシ商会の店員も職務を放棄してでも応援する姿が見えたが、流石にそれはまずいと冷静な者が慌てて止めに入っている。

 ミツゴシ商会関係者が正体不明のシャドウを応援するのは怪しまれる可能性が大いにある。その判断は正しいだろう。

 

「シャドウ!」

 

 だがそんな建前はこの状況では不要なのだ。

 自分達が慕い尊敬する主と互角に戦っている状況を見るのが初めてな彼女達にとって、明確に彼が勝つと断言できる材料が無い事は不安を湧き立てる要素となる。

 そうなればその不安を解消するために自分達が出来ることは彼を信じて応援する事のみ。

 

 沈黙を破ったガイアスの両親の声援から、それに対抗してナンバーズ達が始めたシャドウへの応援。

 そこでバトンを渡されたアルファが取る行動となれば、一つしかないだろう。

 

負けないで!!

 

「アルファ様ぁ!?」

 

 大衆の面前で言うのは流石に恥ずかしいのか、赤面しながら声を張り上げるアルファを見て、流石のシドも面食らっていた。

 普段の姿を知っているシドからすれば、アルファが大衆の前で羞恥で顔を赤くしながらも応援するとなれば、流石のシドと言えどもその行動を茶化すような反応が出来るはずもなく…。

 

「愛されてるな」

「……ノーコメントで」

 

 ブーメランとして返ってきた言葉に対し、シドはそんな返答をするしかなかった。

 先程まで本気で殺し合っていたというのにも関わらず、アース・クエストが始めた応援から、会場を取り巻く雰囲気が一変。

 会場内のボルテージが別のベクトルで上がり始めたのだ。

 

「なぁ…どうする?」

 

 いつの間にか応援団の様に選手の名を叫びながら応援を始めた光景を見て、客席で観戦していた名もなき男が隣に話しかけた。

 

 観客席で始まりだした応援の応酬。

 アース・クエストがガイアスを応援し始めた事を皮切りに、シャドウを応援する声が挙がり始め、それに負けじとクエスト家関係者がガイアスの応援に力を入れ始めている。

 そうなれば必然的に応援している者の名を呼ぶのに熱が籠ってくるわけで、その熱をお祭りが大好きな国民達が感じ取らないはずがない。

 

「どうするもないだろ。いけえぇ!ガイアス・クエスト!!俺はお前に全財産賭けてんだ!!負けたら承知しねぇぞ!!」

「あっ、ずりぃぞ!俺も賭けてんだ!勝ちやがれぇ!!」

 

「俺はジミナを応援してたんだ!!シャドウが本名なのか知らねぇが負けんじゃねぇ!!」

「そうです!!シャドウ様頑張って!!」

 

 一度その熱意が伝播してしまえば止まらない。

 先程まで固唾を呑んで見守っていた環境が一変。

 文字通りの頂上決戦となっている第三回戦が沈黙で終わっていいのか?

 答えは否!

 その答えに辿りついた者達の口から思い思いの欲望を乗せ、勝者と考える名前を叫びだす。

 

 

 ガイアス!!ガイアス!!ガイアス!!! 

 

 

 シャドウ!!シャドウ!!シャドウ!!! 

 

 

 オリンピックのサポーター達が一斉に応援するかの如く、応援する観客達の心は一つとなる。

 解説の声など聞こえない程に、その場にいた者達が二人の名を出して、声援と共に拳を握る。

 熱意が他人の熱意に火をつけて、燃え滾る炎の様に会場が熱気に包まれた。

 

 観客達の声が会場を震わせるほどの熱意をその中心で一身に受ける二人の男はその光景を見て笑った。

 

「まさかこんなことになるとは思わなかった」

「本当だよ。これじゃオリンピックだ」

「その割には楽しそうじゃん」

「お互い様だろう?お前だってちょっと楽しんでるだろ」

「思う所が無いと言ったら嘘になるね」

 

 元々目立つ事を避けていた二人。

 そんな二人の戦いがここまで観客達を湧き立てるまでに至っている。

 これまで自分を鍛え、高みを目指し続けた行動が認められている事と同義。

 それは『陰の実力者』を目指してきたシド・カゲノーとしても全方位から向けられる声援には心が躍る。

 

「ここまで期待されたら、情けない姿は見せられねぇな」

 

 周囲を見渡しながら呟くガイアスは武術の構えを解いて再び手を合わせる。

 空間創造は破られた。だが“魔力の具現化”はまだ止めていない。

 ここに来ても尚その動作を行うということは、武術よりも魔力で決着をつけることを選択したということだ。

 

「あの時の『約束』、思い出したか?」

「うん、しっかりと思い出したよ。…もしかして、待ってた?」

「期待2割、動揺を誘う8割だな。初対面と思っている相手が親友呼びして来たら困惑を誘うだろ?」

「何それ…結構姑息な事するじゃん」

「心理戦だよ。そういうのに不慣れに見えたからな」

 

 『約束』

 

 その単語をガイアスが出したことで、シドも彼が言いたいことを理解した。

 シャドウの時とは全く同じ見た目であるが、雰囲気は非常に柔らかく、そして歓喜に満ちた表情を見せる。

 フードを被っているために顔が周りにバレていない事が有効的に働いているお陰で、シドとしても会話がしやすい環境になっていた。

 

「『互いに夢に近づけた時、勝負しよう』…今思えば随分と大雑把な約束だよ。何時会うとかも決めてなかったし、あれ以降一切会わなかったしさ。忘れるのも仕方ないと思うんだ」

「そりゃそうだ。当時は互いにそこまで深く考えて会話していなかっただろ。まぁ結果的に今こうして相対しているんだがな」

「ホント嬉しいね。僕と戦える相手がいるとは正直思ってもなかった。あの時楽しくで拳を交わしていたけれど、色々隠していたなんてね」

「そりゃあお互い様ってやつだろ。当時の年齢を考えたらな」

 

 肉体的に全く出来上がっていなかったあの時に拳をぶつけ合っただけでも大概なのだ。

 魔力操作を集中して極めれる貴重な時間ということもあって、伸ばしていたステータスと互角に戦える相手がいることなんてガイアスだって思っても見なかった事。

 

 競い合う相手がいれば成長の幅も広がるという事実をあの時程実感したことはない。

 

「でもいいの?君の“とっておき”はもう攻略しちゃったけど?」

「“とっておき”とは言ったが“全て”とは言った覚えはないぞ。お前こそ魔力が心許なくなってきてるんじゃないのか?」

「まさか、まだまだ余裕だね」

「なら問題ないな」

「そうだね」

 

 軽口を叩き合いながら互いの状態を確認する。

 これは駆け引きではなく、決着後に文句を言わせないための事前準備だ。

 問題ないと強がりではなく事実として認める事で、行動を起こす合図とする。

 

 先に動いたのはガイアス。

 “魔力の具現化”によって創造空間を創りだした男に好き勝手させるのは本来ならば自殺行為。

 しかし今は先ほどまでとは違う。

 先程まで風化していた『約束』を成すために、全力を尽くすと決めた。

 それはこの一撃で全てを決めると決めたが故に。

 

 

陸神(ろくしん)

 

 

 元々ガイアスが『ブシン祭』に出場することを決めたのはクラウス国王陛下の希望を酌んでのことだ。

 優勝する理由はない。しかし折角出場するからには優勝を目指す。

 そんな気持ちで参加を決めた自分()を棚に上げ、自分()の私情を優先する。

 クラウス国王陛下に申し訳が立たないが、『約束』に関してはシドの方が先約だ。今回ばかりは許してほしい。

 

 再び空間を創るわけではない。

 魔力で満たせばシドが利用してくる事を知った以上、あれを使う旨味はない。

 であれば素直に使用する。

 

 再度見せるは“魔力の具現化”。

 最初に王女達が魅せたように、ガイアスは大地を司る。 

 自身の周囲に大量の土石を創りだし、その全てを集約して大地の化身を創り出す。

 

「お前なら、意図は伝わるはずだ」

 

 『陰の実力者』を目指す男なら――核に打ち勝つ努力をした男なら(・・・・・・・・・・・・・・)、こちらの意図は解るはずだろうと。

 

 

 

「――参ったな」

 

 “魔力の具現化”だけじゃない。

 スライムの制御や遠隔操作、そしてそれらを複数並行して行う脳の処理機能。

 実戦で用いるにはどれも本来は非常に難易度が高いはずだ。

 しかし何度もそれを成し遂げ、苦でも無さげに展開して見せるガイアスにシドは感動を覚える。

 

 『約束』を思い出させただけではない。

 当時語った高みを目指して極め続けたのだろう。

 眼前の光景が見事にそれを成している事を告げていた。

 

 常人なら馬鹿にするかすぐに切り捨てる夢。

 それを目指して弛まぬ努力を続けたことが眼を介さずとも伝わってくる。

 そこまで高めた人生を見て、シドとしての反応。

  

 幼少期に語り合った『約束』。

 互いの夢を叶えれるようになったら、どちらが上か勝負しようというシンプルなもの。

 あれ以来出会う機会も無くなって、いつの間にか風化してしまっていた『約束』。

 

「君がそこまで見せてくれたのなら、こっちも見せないと失礼じゃないか」

 

 しかし現実はどうだ?

 具現化により大地を操り、創り出した男は自ら大量の土砂の中に身を投じた。

 会場内を覆いつくせそうな大きさで、それが人を模した姿に変わっていく。

 まさに大地の化身と呼べる存在感を放つその巨躯を見て、ソレを張りぼてだと断言できる者は誰一人として存在しない。

 

 ふわりと宙に浮かぶシド。

 魔力操作を極めれば宙に足場を生み出すことも可能。

 たった一人でその巨躯を見る男は手に持った(つるぎ)を高らかに掲げた。

 

 それを見たガイアスは笑う。

 シドも己の魔力を開放してその返答とする。

 

「かつて――核に挑んだ男がいた…」

 

 

 大地の化身を前にして自然にほほ笑み、シドは静かに語りだす。

 

 

「その男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた…」

 

 

 己がここまで至るまでの道のりを。

 これまで鍛えた生き様を。

 

 

「だが、それでも届かぬ高みがあった…」

 

 

 それが生物の限界だったから。

 それがあの世界での理だったから。

 

 

「しかし諦める訳にはいかなかった。男は修行を重ねたその果てに…一つ、答えにたどり着いた」

 

 

 それが“魔力”。

 彼の人生を大きく変える事になる重要な要素。

 

 

「核で蒸発しない為には、自分が核になればいい」

 

 

 それは影野 実が答えとして見つけ出し、シド・カゲノーが至った解答。

 核にも負けない実力者。

 

 

「ハハハッ!来いよ、最強!」

 

 

 ガイアスの声に共感するように、魔力陣が展開される。

 その範囲は会場内全域だ。

 

 

「最強へ至った我が友よ。我が最強をその身に刻め」

 

 

 当然ながら観客席には届かせない。

 しかし、眼前の彼にはそれでも足りない様に感じてくるのが不思議なところだ。

 会場を包むは青紫色の魔力。

 あらゆる負荷に耐え切る強靭な魔力回路を持つが故に可能な偉業。

 それを見たガイアスはニヤリと哂う。

 

 

母なる大地よ、集え

 

 

 それを黙って見届けるのは愚の骨頂。

 妨害はせずとも、来る脅威に備えるのは当然の権利。

 ガイアスは大地とその身を一体としながら、具現化を駆使することでシャドウの四方に柱が創られた。

 

 

 

「“創国甕星(そうこくみかぼし)”」

 

 

 

 手を合わせるは大地の化身。

 彼の意思に従うかの様に、手を合わせば何もない空間から土石が創られ、瞬く間にシャドウの周囲を覆いだす。

 そこから更に外殻を創るようにミチミチと音を立てて柱から生み出されるは強固な岩盤の層。

 より凝固に、より強靭に。

 たった一人を封じるために、無より小星を創り出す。

 

 一個人が成しているとは思えない現実離れしたその状況は会場外からも見えるためか、一瞥した者全員が漏れなく立ち止まって口が閉じなくなっていた。

 見上げる観客達の眼には一個の星が創り出される光景。

 それはまさに神話の一幕そのものだ。

 

 

I(アイ)

 

 

 自分の周囲を覆いつくされ、閉じ込められてもシドは慌てることはない。

 自分達は確かに戦っている。しかしこれは『約束』だ。

 互いが目指した頂が、どれほどの高みにあるのかを競うもの。

 彼から告げてきたモノを、彼が反故にすることはあり得ない。

 自分が全力を出すように、彼も全力を出すだけの話だ。 

 

 今日はいい日だ。

 目指し、そして歩き続けている間に忘れかけていた大切な原点を思い出した。

 

 

am(アム)

 

 

 範囲を決めた魔力の結界。

 それらが乱れる事はない。

 己の目指す高みは、何人たりとも止められない。

 向こうが人が創れぬ大自然で挑むなら、こちらは人智が生み出した技術の極致で迎え撃つ。

 

 全力で来い大親友。

 僕が目指した全てを以て、君の全てを凌駕しよう。

 

 それこそが、己が目指した頂だから――。

 

 

 

Atomic(アトミック)

 

 

 

 覆いつくすは星の殻。

 星と思わせるほどの質量で包み込んだ地殻の星。 

 一個人では到底破る事は許されぬその外殻から、僅かに光が溢れだす。

 

 音もない。

 

 衝撃もない。

 

 しかし変化が訪れる。

 

 殻が割れる。

 

 溢れんばかりの解放された莫大な魔力の波動が戦いに終わりを知らせる鐘声(しょうせい)となって鳴り響く。

 

 新たに照らしたその輝きは瞬く間に世界を輝かせ、その数秒後に国中を震撼させるほどの衝撃と爆音となって一気に伝播していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












創国甕星(そうこくみかぼし)
 ガイアス・クエストが“魔力の具現化”を行う事で使用可能になる大地創造の技。
 今回はシャドウを封じ込める為に使用したが、莫大な魔力量と超絶技巧の魔力操作能力があって成り立つものであり、魔力量が足りるなら大陸を創り出すことも可能になっているかもしれない。

 地球に存在する国家 日本国に古来から伝わる『日本書紀』に登場する星の神である天津甕星(あまつみかぼし)から名を拝借し、日本神話の一つである『国生み神話』と名前を合わせてつけた名前である。
 
 イメージしやすさで伝えるなら、やったことは周囲に危険が及ばない某暁リーダーが放った“地爆天星”である。

クロスオーバー好きかい?

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