王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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 燃え尽き症候群なり




四十七 開き直り

 

 

 

 ミドガル王国全土を騒がせる結果になった今年の『ブシン祭』。

 表向きには王国内で最高の戦いが行われたという今回の催し。

 しかし裏ではディアボロス教団の連中がちょっかいをかけてきたり、オリアナ王国国王を救出したりと、ミドガル王国にとっても無視できない事態になっている。

 しかしここ最近で友好関係を築くことに成功している『シャドウガーデン』の面々がミドガル王国側について活動を行ってくれている事で被害はほとんど出ていないと言っても過言ではない。それどころか金銭面においてはシャドウの奥義によってほぼ崩壊状態のスタジアムを修復するのに費やした費用が一番大きかったりする。

 

 結果的に見れば資金的には打撃を受けている今回の催しだが、政治的観点から見ればミドガル王国はオリアナ国王救出をしたことにより大きな借りをオリアナ王国に作ることが出来た。

 この情報はオリアナ王国内にて魔剣士達を束ねているオリアナ一族のご息女(そくじょ)であり、ローズの妹であるクララ・オリアナの耳にも入っているため、国内勢力図が更に良い方向へと変わっていくことが予測されている。

 ディアボロス教団の重要拠点としての役割もあったために抵抗が更に強まってくるのは予想されるが、そこは『シャドウガーデン』とミドガル王国が協力して対処に当たれば如何にかなるだろう。

 

 なおスタジアムの国民の税金が投入されることになっているのであるが、あの光景を観れた国民達からは決勝戦を早く見せてくれと多額の金銭が寄付されたという。

 ミツゴシ商会は兎も角、さりげなく雪狐商会もスタジアムの復旧に資金を提供してくれたこともあって急ピッチで復旧作業が行われ続け、なんとか運営が出来るようにまで完成に漕ぎ着けていた。

 

 ここ最近の中で一番大規模な公共事業であり、どうせなら内部もこの世界において最新の設備をついでに作ってしまおうと誰かが発したことで魔改造されてしまった。*1

 それもあって今や王族たちが暮らす場所よりも便利な設備が揃ってしまう結果になってしまい、一部貴族達が騒いだことで緊急会議に発展。

 いっその事少額で一般開放することで国の財布を潤した方がお得じゃね?という意見により、ブシン祭が無事に終わった後はお試しで開放することが決まった。

 最新鋭のトレーニングルームや娯楽施設、飲食店諸々を考えれば金に目敏い商会メンバーが反応しない訳がない。

 色々あったものの、仲良く運営していこうということで話が纏まったことで着々と準備が進んでいっている状況だ。

 

 ミドガル王国で配られている新聞の見出し記事『スタジアム開放時期決定!!』を眺めながら、ガイアス・クエストは大雑把に入れたお茶を啜る。

 彼がいるのはミドガル魔剣士学園、その校長室であった。

 

「…いつまでここに軟禁状態なんだろうか」

 

 学生は勉強する事が本分。

 特にガイアスが『ブシン祭』に出場してからは王国が話をつけてくれていた事もあって、出席できなかった授業などは全部免除されていた。

 色々と後始末が終わったこともあって、ガイアスは復学するかーと暢気にやってきていたのだが、ガイアスの顔を見た教員が慌ててガイアスに声を掛けて校長室へと連行していったのである。

 なおその時に教師らしからぬ奇声を発しながら詰め寄ってきたので普通に怖かった。

 

「…ねぇガイアス。貴方がやってきた事、本当に理解しているのかしら?」

 

 そんなガイアスと対面して座る美少女はアレクシア・ミドガル。ミドガル王国の王女様。

 ガイアスの愚痴に対して心底呆れた表情だ。

 

「理解はしているが…ここまで教員たちに変な目で見られる事はしてないだろ。具現化以外で」

「確かに“魔力の具現化”もだけど、それ以上に徒手格闘で決勝戦まで勝ち上がってくること自体が偉業であることを理解しなさいよ。ほんと貴方って情報収集に優れているのに、そのあたりは適当なのよね…」

「そりゃ一々気にしていたら大変だしなぁ」

 

 アレクシアもガイアスと時期を合わせて復学していたのだが、彼女は色々騒がしくなることを理解して裏からこっそりと学園に入っていた。

 そんな中で突然騒がしくなる入口付近に見知った魔力。

 それはもう察した。

 すぐに教員に指示を出してガイアスを校長室へと連れてきてもらったという訳である。

 

「『ブシン祭』は王国を挙げて行われる大会なのよ?それに出場するだけでも名誉なのに、決勝戦に出場できて、あんな実力を隠していたなんて知られたら騒がれるのは当然に決まっているじゃない」

 

 そもそもガイアスは剣の才能がマイナスであったがために、何故か王女が懇意にしている一般男子生徒というのが学園内での一般認識だった。

 頭脳明晰という訳でもなく、剣の才があるわけでもない一般貴族の御子息。

 そんな男が突然『ブシン祭』に出場し、剣士相手に素手で勝ち抜いていたという話が新聞などを通して入ってくれば注目されるのは必然である。

 その情報の中には『学園最強』であったローズ・オリアナすらも倒している内容もあり、武術の教員らがガイアスを見て騒ぐのも仕方がないこと。

 おそらく生徒達から質問攻めにでもあっていたのだろう。

 

「そうですよガイアスさん。貴方は今や王国内で最も注目されていると言っても過言ではないのです。不用意な言動は避けねばなりません」

 

 ガイアスの隣から声がする。

 金髪縦ロールが美しい学園最強、ローズ・オリアナはガイアスの隣に座って注意する発言をするのだが、如何せん声音が嬉しそう。

 アレクシアが対面であるのに、なぜかローズは隣に…それも結構近い距離に座っていた。

 ついでにさりげなくガイアスの左手に自身の両手を添えている。

 

「言動もですが、私達とは言わずとも周囲を警備していた騎士団に一声かけて欲しかったですね。貴方の護衛であるというのに、何故全員置いて来ているのですか…あの後悲しそうに報告しに来られた私の気持ちを考えてください」

「すいませんでした。つい癖で…」

「どんな癖よ」

 

 ガイアスから見て右の椅子に腰かけるのは第一王女アイリス・ミドガル。

 どちらかと言えばガイアスから甘やかされる立場にいる彼女が珍しくガイアスを諫めていた。

 彼女も今回ガイアスとアレクシアが復学する事を考えて、騒ぎを最小限にすべく自身の騎士団を動かして状況収拾に努めようとしていたのである。

 なぜか当の本人は護衛の目を盗んで学園に一人でふらりとやってきたことで色々準備が台無しになったのだが。

 

「とりあえず生徒達と騒いでいる教員達は騎士団の皆が収拾をつけてくれています。ある程度落ち着くまでは貴方達はここで待機をしていてください」

「ああ言っているけど、姉さまも騒がれる対象だから一緒にこの場にいるってわけ」

「なるほど」

「あ、アレクシア!」

 

 王女三人に一般男子生徒が一人、同じ部屋で待機する。

 そう聞くと実に羨ましいと反応を零すか、なんとも場違いなと感想を零す者達が大多数であろう。

 しかしその一般男子生徒が一番強いというのだから、校長たちは頭を抱えているかもしれない。

 

「あ、そういえばガイアス。やっと『ブシン祭』決勝戦の目途が立ったとお父様が言っていたわ。スタジアム開放のイベントに合わせて実施されるんだって」

「そりゃまた合わせてきたな。正直なぁなぁで終わらせるのかと思ってた」

 

 アレクシアから(もたら)される情報にガイアスはちゃんと開催するんだ…と反応を零す姿にローズやアイリスは苦笑する。

 今回のブシン祭で超短期間に修繕修復を実施する羽目になったのは如何せん出場者の実力が高すぎる事に起因するのであるが、何とか直してくれていたスタッフの皆さんには感謝である。

 

「流石に決勝戦を行わないまま『ブシン祭』を終わらせる事は無理かと…。ミドガル王国でも大規模な祭典になるのですから」

「その通りだ!」

 

 バン!!と扉が開け放たれ、校長室に響く。

 そして入ってきた人物は彼らにとって実に馴染みある人物であった。

 

「お父様、生徒達の学び舎に国王が入ってくると余計な混乱を招いてしまいます」

「気にすることではないアイリス()よ。すでに学園では教員らがまともに授業できないぐらいに浮ついている。生徒達もそれに然りだ」

 

「陛下。お言葉ですが、陛下がやってきた事で完全に授業どころではなくなってしまったことを理解されてくださいませ」

 

 クラウス・ミドガル。ミドガル王国の現国王。

 側近の騎士団を連れて、学園へ足を運んできたのだ。

 

 堂々と問題ない発言をしているが、それを部下に窘められている。

 国内で一番有名な学園とは言えど、一番の御偉い様がやってきたのだ。それは騒がれる。

 日本であれば有名学校に天皇陛下が御座(おわ)された*2ようなものなのだ。

 

「はははっ!もう過ぎたことだ」

 

 どうやらだいぶ機嫌が良い様子。

 普段人前には見せない態度の為かアレクシアやアイリスが慌てているのが分かる。

 

 魔力感知してみれば離れた所に魔力がかなり感じられる。

 どうやら生徒教員らが遠目で様子を伺っているようだった。

 

「本題に入りますが、陛下はどのような用事でここまで?」

「それは当然ブシン祭の決勝に関しての話だよガイアス君。君は王国に莫大な貢献をしてくれている。となれば私から出向くのが筋というものだからな」

 

 護衛から紙を渡される。

 彼女達も内容までは知らなかったのか、ガイアスの背後や側面からその内容を確認した。

 それは決勝戦を実施するにあたっての注意事項。

 そこに記載されている内容を見て、ガイアスは…

 

「“魔力の具現化”禁止。…これ、ある意味で批判が起きません?」

 

 疑問を呈した。

 あそこまで騒がれる事になったブシン祭。

 その決勝戦とくればあの場に居なかった観客達からすれば“魔力の具現化”を直に見たいと思う者達が大半だろう。

 

「観客達の批判と、具現化によって発生する被害。天秤に乗せた時に被害が少ない選択肢を取っただけだよ。批判するつもりは毛頭ないが、あそこまでスタジアムが崩壊する事になるとは思っても見なかった。今回の決勝戦の話を出したら、関係者から大泣きされながら説得されたものでね…」

「それは…ご愁傷様です」

「貴方が当事者なのよ」

「それを言えばお二人も同じことが言えるかと…」

 

 他人事のように返すガイアスに指摘するアレクシアであったが、彼女だって会場を滅茶苦茶にした当事者の一人。

 冷静にツッコミを入れるローズの反応に何とも言えない表情だ。アイリスも「あはは…」と乾いた笑みである。

 

「という訳で詳細はそこに記載してある。もし何か疑問があれば娘達を介してくれれば答えさせてもらうからよろしく頼んだよ」

「ありがとうございました」

 

 本当にそのためだけにやってきたのだろう。

 クラウスは言うべきことを伝え終えたらすぐに護衛を連れてそのまま城へと帰っていった。

 ガイアスとしては国王なのだから使いを出せばよかったのにと考えるものの、彼なりの誠意と判断して受け取った。

 

「それで…この空気、どうする?」

「…お察しの通り、だと思います」

 

 それで事が収まれば苦労しない。

 どんな話をしていたのかが非常に興味がある校長を含めた教員達に説明を要求され、対処に追われる事になる。

 漸く開放された時にはすでにランチタイムはとうに過ぎ去ってしまい、授業にならないという理由で本日のみ学園としての仕事を放棄する選択を取ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと…?」

 

 最小限の明かりが灯された一室にて、報告を聞いていた男はその内容に言葉をひねり出した。

 それと同時に普段では出さない圧が身体から溢れ、何とか機嫌を損ねないように丁寧に説明していた壮年の男はその威圧感に震えが止まらず、情けない悲鳴を挙げた。

 

「ガーター…俺が何故貴様を生かしているのか、傍で活動をさせているのか…忘れた訳ではないだろうな?」

「ももも勿論でございます!」

「だったらなんだこの体たらくはッッ!?」

「ひぃぃっ!?」

 

 拳を握り、机に向かって振り下ろされる。

 繊細な装飾を施された立派な机はその辺に転がっている半端物とは違って職人が一から作り上げた一品。

 耐久性も申し分ないはずであったのだが、拳の一撃を受けて粉々に砕け散ってしまった。

 

 男たちがいる場所はとある商会の一室。

 関係者以外は完全立ち入り禁止となっている場所だ。

 

 男から感じる怒りの感情に壮年の男は何とかしなければ殺されるという判断。

 何とか対抗策を練らねばと思考を回していた。

 

「『ブシン祭』である程度の資金を稼いだのは良い。だがその後の対応が完全に置いていかれている!憎きミツゴシ商会だけなら兎も角、雪狐商会にまで出し抜かれているのはどういう了見だ!」

「そ、それがまるで分らないのです!これまで王国内で活動をしている様子などほとんど確認出来なかったのですが、ブシン祭から突然活発化しておりまして…どうやって王国側とパイプを持ったのかもわからず仕舞いで…」

「それは貴様の怠慢だろうが!」

 

 粉々に砕けた机の破片を踏みつぶして壮年の男に詰めよる。

 左手に握られた剣の鍔が動く。

 身の危険を察知した男は慌てて動いた。

 

「い、今すぐに準備していた計画を打たせていただきます!」

「早く動け。次失態を見せた場合は…どうなるかわかるだろうな…?」

「は、はいぃぃ!!」

 

 身を翻して無様な動きで部屋から退室していく男。

 慌ただしく聞こえる足音が小さくなってから、その部屋には男が一人とコナゴナに砕け散った残骸が残った。

 

 少しの間怒りの感情をその辺の壁にでもぶつけたい気持ちに駆られたがそんな事をしても事態を解決に導いてくれるわけでもない。

 何度か深呼吸をして何とか感情を落ち着かせた男は、すでに開くことが無い自分の瞼に感謝した。

 もし相手が見えていれば、その表情を見て更に怒りが沸き立って命を奪っていたかもしれなかったと判断したためだ。 

 

 男の名前は月旦(げったん)

 人間やエルフとは異なり、特徴的な獣耳を持つ大狼族の男。

 壮年の男が怯えていたが、鍛え抜かれた身体は見せかけでなく他の獣人たちからも認められる実力者だ。

 過去に襲撃を受けて集落が全滅してしまった過去があり、その過程で彼は両目を失うことになった。

 そのため彼にとって光を失った瞳は黒歴史そのものなのだが、その怒りすらも自身の糧としてここまで伸し上がってきた。

 

 先程無様に走っていった男はガーター・キクチ。

 月旦が実質的に乗っ取りに成功したガーター商会の元会長である。

 ガーター商会は元々王国内でも多くの市場を占めていた商会であった。その裏で暴力的な役割を担ったのが月旦だ。

 ミツゴシ商会が頭角を現してからは瞬時にシェアを奪われる形になってしまっており、ガーター商会は現在業界2位に収まっている。

 そのため何とかしてミツゴシ商会を潰して王国の市場を独占しようと画策していたのだが、ここでまさかの雪狐商会の名を、厳密にいえばそれを運営するトップの名を聞くことになるとは思いもしなかった。

 

「これまで姿を見せなかったと思っていたが、まさかここに来て俺の邪魔をしに来るとはな…ユキメッ!」

 

 怨嗟を隠さず名を告げる。

 かつて自分に反発して同志であることを捨てた女の名。

 それが自身の計画の邪魔をしに来るとは予想出来ていなかった。

 

「奪わなければ…奪われる…。貴様にも、ミツゴシにも、奪わせない…全て俺が奪いつくす…ッッ!!」

 

 言い捨てて部屋を後にする。

 その場に残ったのはコナゴナに砕けた残骸と、それを眺める水晶の瞳を持った一匹のヤモリだけであった。

 

 

 

 

*1
誰とは言わないが七陰所属の建築家である

*2
いらっしゃる




 
 
 
 
 
・ガイアス達
 結局授業を受けずに帰宅することになった。
 ローズのさり気ない距離の詰め方にガイアスは疑問を持ったがそういう時もあるかとスルー。
 
???『解らんのか!この戯けがっ!!』

  
・ミドガル魔剣士学園
 教員も気になりすぎて結局全授業自主学習という暴挙に出る。 
 そりゃ魔剣士という概念をひっくり返す男が傍に居れば気になるし、国王陛下直々にやってきたら授業どころじゃない。


・ガーター商会
 南無三。


・月旦
 雪狐商会にも出し抜かれている事に気づいて大激怒。
 なにやら動きを見せるようになったが…?


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