本当に難産だった。
そんな感じの決勝戦です。
互いに気の起こりを読める域に到達している者同士の戦い。
相手の行動を読み、そして最適解を選び取って勝利を手繰り寄せる。
両者が近しいレベルで読みあいを起こせば二人の王女が激突した第一回戦のように、両者動かずに機を図っていることもあっただろう。
しかし今回は違う。
レフェリーの合図と共に両者同時に駆けだした。
剣と拳の性質上、リーチを生かすことが出来るのは剣だ。
アレクシアはガイアスのリーチ外から居合斬りの要領でガイアスの腰から左肩を狙い、逆袈裟斬りを放つ。
ガイアスは迫ってくる剣戟を身を捩る事で躱して左手刀。
アレクシアの右わき腹を狙って放たれた攻撃をバックステップで避ける事で、ガイアスの手刀は空を切った。
追撃に向かおうとするが鼻先をアレクシアの回し蹴りが通りすぎたことで、ガイアスは追撃を断念した。
『開始早々ハイレベルの駆け引きだァ!』
すでに観客席では拍手が起こっていた。
開始の合図と共に行われた僅かな時間の中での攻防が、両者のレベルを物語っている。
武装の間合いを生かすアレクシア。
拳の小回りで立ち回るガイアス。
武に魅入られる者達であればよりこの戦いを歓喜の目で見ることが可能だろう。
(アレクシアの動きに違和感を感じる…)
距離を潰しにかかるガイアスはアレクシアとの攻防で僅かに違和感を感じ取る。
彼女の戦いはどちらかと言えば『王都ブシン流』を主体とした剣術が基本。
徒手格闘もある程度扱えるように修行を行っているものの、彼女の戦い方は剣術と魔力主体だ。
だが今の攻防でこれまで見せていた剣に傾倒した戦いでは無い様に感じ取った。
なんというか…少し動きにムラというか困惑に近い何かを感じるようなもの。
その違和感に意識を割かれそうになるが、ガイアスは現在アレクシアと試合中。
余計な事を考えて戦っていては手痛い攻撃を受けかねないと合理的に判断し、浮かんだ疑問を無理やり脳裏へと押し込んだ。
事実アレクシアの攻撃はガイアスが知っている武とは変化…否、進化している。
高頻度でアレクシアとあっているが、それは日常の場面などが大半であって修行場面ではなかったのも大きいだろう。
「流石ガイアスさん…アレクシアさんの攻撃を綺麗に捌いていますね」
「…ん。流石、強い」
「アイリス王女も言っていたが…本当に彼が二人の師、なのだな…。私も手合わせ願いたいものだ」
指定席に座るはオリアナ王国王女のローズ、『閃光』リヴィとして大会に出場していたオリヴィエ、そして『武神』の名を冠する武芸者ベアトリクス。
ジミナに扮していたシャドウとガイアスの戦いを見ていた以上、彼女達がガイアスの実力を疑うような事は無い。
だが何度見ても、彼と彼女の技量の高さには舌を巻いてしまう。
同じ立場に、そして追いつきたい彼女達からしてみれば、この戦いは最高品質の映画に近い。
各々が自分達であればどう動くのかを脳内でシミュレーションしながら観戦していた。
「ですがやはり近接戦闘ではガイアスさんが有利ですか」
ローズの呟き通りだ。
ガイアスは剣の才が無かったこともあって、武術に特化して鍛えあげている。
対武器戦闘の経験値は誰よりも多いだろう。
「ん。でも問題ない」
「そうですねお祖母様」
だが彼女達は冷静に分析した。
アレクシアがその段階でやられる賜物ではないと。
「!!」
アレクシアの剣戟を防ごうと動いたガイアスは何かを察知して頭を後ろへ下げる。
先程まで頭があった位置をアレクシアの蹴りが過ぎ去ったため、あのまま迎撃を選択していたらおそらく直撃だった。
「随分と足癖が悪くなって…」
「あら?ガイアスはこういうのはお嫌い?」
「大好きだが、ミニスカートで使用するものじゃないだろう」
軍服でもない。
学園で着こむチャイナドレス風の体操着でもない。
彼女はシンプルな制服であり、ミニスカートにサイハイソックスという恰好は変わらない。
そのため蹴りを放つ度にガイアスの視界には色々と映ってしまうのだが、そこは計算高いアレクシア。確信犯だろう。
絶対領域は至高。いいね?
(わかってる。このぐらいじゃ貴方は越えられない)
普段見せない蹴りを見せながら剣を振るうアレクシアは至って冷静だ。
日常であれば多少の色仕掛けに反応があるだろうが、戦闘スイッチが入ったガイアスは余計な情報・感情を割り切れる。
多少目移りする事を期待しての身嗜みであるが、効果はいまひとつと言ったところ。
拳と蹴り以外にも肘を最大限活用できるガイアスの手数は多い。
付け焼き刃では易々と対処されるだけだろう。
「ハァッ!!」
魔力を脚部へ全集中。
溜めながら解放を繰り返しての脚部の強化を重ね掛け。
魔力操作に秀でているガイアスを前にして暢気に魔力を貯めるような行動がとれるはずがない。
ならば溜めながら強化を使用する。
――駆ける。
ガイアスはアレクシアが選択した行動を即座に把握。
左腕を前面へ構えて盾とする。
ガキィィンッ!!
腕の手甲と剣がぶつかり合う。
拮抗は一瞬。
視界に映っていたアレクシアの姿が消え、側面から気配を感じ取った。
(!…まさかアレクシア…)
(まだ…!まだいける!!)
息つく間もなく、あらゆる位置から繰り出される攻撃。
かなりの速度を持った連撃を往なしながらもガイアスは思い至る。
この攻撃は見覚えがあったからだ。
それは『閃光』。
『こ、この動きの速さは『閃光』リヴィ・ハイリア選手が魅せた速度を思わせます!一体どういうことでしょうか!?』
『色々アレクシアも鍛えていたということでしょう。速度は確かに目を見張るものですが、『閃光』と比べると流石に遅い。ガイアスでしたら容易く対処してくるでしょうね』
実況も、観客達もその光景を鮮明に思い出せた。
それは『閃光』と『予測不可能』が魅せた超速戦闘。
圧倒的速度から生み出される剣戟の嵐が、眼前の光景と重なって見えたのである。
(スタジアム修復までの時間、そんなになかっただろうに…よくここまで仕上げてきたなッ!)
(動揺はしない。私の動きはオリヴィエさんと比べたら圧倒的に遅い。ならガイアスは当然対処してくる!)
だが完全再現とはいかなかった。
オリヴィエは全身がスライムで形成されているゴーレム仕様だから可能なのであって、肉体を持つアレクシアでは再現は不可能だ。
幅広く高めようとも、ガイアスとの力の差は彼女が誰よりも理解している。
だがそれでもアレクシア・ミドガルは準備を重ねてきたのだ。ガイアス・クエストへ一矢報いる為に。
そのうちの一つがガイアス以外に教えを乞う事。
自分よりも勝る部分があるならば、それを取り込めば己の成長へ繋がると理解しているが故にアレクシアは頭を下げる事に躊躇わない。
『閃光』と称される程の速度を有するオリヴィエに、アレクシアは頼み込んだ。
彼女が速度を生み出すために用いている事を。どんな意識で魔力を巡らせているのかを。
洗練する程の時間は無かったものの、一つの手数として利用するならば充分だ。
そしてアレクシアが教えを請うた人物は当然一人ではない。
オリヴィエではまだ用いることが出来ない武術の動き。
それを実戦級に持ってこれている者は、身内以外では一人だけ。
『武神』の名を冠するエルフが頷いたのは同じ武芸者として必然だった。
確かに『閃光』と称されるほどの速度は脅威だ。
しかし直線的であるが故にジミナとの試合では完封されたと言っていい。
『閃光』が持つ速さに対しての欠点を挙げるのであれば、その直線的な動きとなる。
となれば、その欠点である直線的な動きを改善できればどうなるのか?
(!?動きが――)
『閃光』の速度は脅威。しかしその明確な弱点が直線的な動きであること。
アレクシアの速度をすでに見切っていたガイアスは彼女の攻撃先に攻撃を置いていた。
そうすれば彼女が勝手に被弾してくれるためでもあり、生み出された速度によって放つ威力が大幅に増加するためだ。
当然それをまともに喰らえばそれだけで試合が終わらせられるほどの威力になる。
しかしガイアスの予想とは異なり、拳がアレクシアを捉える直前で、直線が
ドゴッ!!
「~~ッ!」
『ひ、被弾ッ!!ガイアス選手がアレクシア選手の攻撃をまともに喰らったァ!!』
『…いえ、あれは自ら後方へ跳んで威力を軽減する事に成功しています。ダメージはありますが、アレクシアが想定しているダメージより軽微でしょう』
剣攻撃から突然の掌底攻撃への移行。
アレクシアはガイアスが軌道上に攻撃を置いている事を理解。攻撃に移行していたところをスライムソードを消すことで空気抵抗を減らし、足捌きで速度を維持しながら軌道を変えた。
目まぐるしい速度を維持しながらの流動的な動きによって、ガイアスの攻撃を躱しながら自身の一撃を加える。
眼前で見れば相手が消え、煙と戦っている様に感じたことだろう。
直前の転換による攻撃はガイアスでも読み切れなかったのだろう。
アレクシアが一気に間合いを潰し、その速度のまま脇腹へ掌底を叩き込んだのだ。
(感触が軽い…!)
(まさか先手を取られるとは思わなかったぞ…!!)
ガイアスも只では食らわない。
攻撃を躱されたことを察知した瞬間後方へ跳躍。アレクシアの速度で放たれた衝撃を後方へ受け流したのだ。
そのためアイリスが解説したように、見ている光景だけで言えばガイアスはかなり吹き飛ばされた。だがダメージ自体は軽微で済んでいることを証明する様に、両足で着地して即追撃に備えて構え直していた。
だが吹き飛ばされたダメージ以上に、ガイアスは衝撃で満たされていた。
「素晴らしい…剣での対決をしたとき以来か。先手を取られた経験は…ッ!」
それは歓喜。
シャドウ戦とは異なる戦いで、初めてガイアスが経験した感情。
アレクシアの実力はガイアスだって把握している。
これまでの彼女であれば避けられないはずだった。置いた攻撃に被弾して、そのまま決着に至る可能性も有していた。
だがアレクシアはガイアスの予想を上回った。
ガイアスの予想を超えられたのはこれで三回目。
一度目は彼女がスライムを操作し始めたタイミング。
二度目は免許皆伝となる最終試練での一太刀。
そして今回が三度目だ。
どれだけ差があろうとも、どれだけ険しい道のりであっても、アレクシアは持ち前の才と努力、そして根性でガイアスの下へ迫ってくる。それが嬉しくてたまらない。
「まだよ!」
一回の攻撃で終わらせない。
『閃光』を目指した速度を使えば、吹き飛んだガイアスとの距離などあってないようなもの。
即座に距離を潰しながら、攻撃タイミングをずらしつつ攻撃に移行する。
「だがまだまだ粗削りだな」
ガイアスはアレクシアの速度を体感しても尚、腰を落として
それは『シラット』を用いるガイアスとしては異質な構え。
普段より小さく構えながらも腕を盾に見立てている様にも見える。
『ガイアス選手が小さく構えています!』
(的を小さくして剣での攻撃を躱しやすくしている…。だけど守りの考えはないのでしょうね)
それを見たアレクシアはガイアスの性格から分析。
この現状で一番受けたくない攻撃は…
(おそらく狙いは組み技。どこかを掴まれでもしたら、そこで試合終了ね)
『見たことが無い構えですね…アレクシアの速度を考えれば組み技を狙っている様にも見えますが、流石にそれだけではないでしょう』
アレクシアとアイリスは共に同じ判断をしていた。
ガイアスの技術で寝技にでも持ち込まれたら、アレクシアは為す術もないまま締め落とされることだろう。
いくら魔力強化で身体能力を補強できるとは言えども、性別による体格のアドバンテージは変わらない。
そこに組み技となれば敵う要素は無いだろう。
(ならいつも通りね。組ませず、ダメージを溜めさせる)
完全再現とはいかないものの、アレクシアが生み出せる速度はかなりの速度。
更に独自の歩法を用いて方向転換する事によって、直線的な動きを流動的な動きへと切り替える事が可能。
更に縮地の歩法と『虚実』を用いた気当りを併用する事で、相手を翻弄する事が出来るようにまで成長していた。
小さく構えるということは、当然その分間合いが小さくなる。
であればスライムソードで戦うアレクシアが圧倒的に間合いで有利。
スライムが伸縮自在である以上、ガイアスが取った戦法は悪手と言わざるを得ない。
しかしそんな事はガイアスだって百も承知のはず。何か考えがあってあの構えを取っていると考えた方が自然だ。
ならば馬鹿正直に正面から攻撃を繰り出す必要はない。
そう判断して即座に剣を伸ばして背後から攻撃を仕掛けるが、片足を軸に回転するように体勢を動かすことにより、正確に攻撃を防ぎ始めた。
(流石すぎるわよ!)
ガイアスを中心に円を描くように動きながら攻撃を繰り出し続けるアレクシアだが、最初の一撃以降攻撃が当たらない。
ジミナとリヴィが戦った時の様に、攻撃が当たりそうな所だけをピンポイントで防いでいるのだ。
(魔力感知と気配で判断している…そういうことね。ならば!)
「(――!魔力が…)チィ!」
身を固めていたガイアスは魔力を感知できなくなった瞬間に前方へ跳躍した。
その背後で刃が地面を裂く音がする。
「速度を出した後に魔力を完全に抑える事で感知させない方法を取ったか…。そして愛用の剣にスライムを纏わせておくとは…考えたな」
スライムソードを持っていたはずのアレクシアの手には普段用いる愛用の剣。
試合前からスライムソードを握っていたのはアレクシアが剣を持っていないと錯覚させるためのブラフであったということ。
もしあのまま魔力感知に頼っていれば、ガイアスの背中には大きく斬り裂かれていたことだろう。
「だがそれでは攻撃力は激減だ」
魔力を纏わせない剣の一撃とわかれば身体強化で事足りる。
だからこそ武術や剣術が成長する機会が少なく、魔力によるごり押しがこの世界でも主流なのだ。
だがそれはアレクシアも理解しているだろう。
魔力だけでは辿り着けないと認めたが故に、彼女は努力でここまで登って来れたのだから。
アレクシアも静かに剣を構えているが、魔力が少しずつ剣へと流れていくのが感知出来ている。
「フゥ~…(速度の出し方はオリヴィエさんから習ったって所か…。あの体捌きは誰のだ?俺が知っている中であの動きが出来る相手はいないはずだが…)」
だがそれ以上に気になる点はアレクシアが見せた動き方。
足捌きと体重の掛け方は相当武に精通していなければ為せないモノ。
ガイアスがこれまで会ってきた中で、あのような動きが出来る猛者はいなかったのである。
(まぁ、俺が知らない事なんて世の中五万とあるか)
しかし悩んでも仕方ない。
現在進行形でアレクシアは攻めかかってきているのだ。
何故を考えているかよりも、彼女がそのレベルにまで高め、己に挑みに来ていることを喜ぶべきこと。
表情には出さないものの、喜びを抱きながら対処する。
上段から振り下ろされる剣を円を描くように受け流しながら、その勢いでアレクシアの右腕を掴んで投げ飛ばした。
即座に受け身を取って追撃に備えるアレクシアも流石であろう。
「!」
「気張れよアレクシア。加減は無しだ」
だからこそガイアスは真剣に応える。
かつて師匠と弟子という立場収まっていた二人だが、今では同じ立場で戦いに赴く戦士となった。
長い間鍛錬を見てきた者にとって、その成長を喜ばない者はいない。
だが己も武芸者。
『武』という一つの道を進む先駆者として、
開始時と同じく、開手での構えであることは変わらない。だが雰囲気が違う。
明確にアレクシアを倒す意志を以て、相対したのである。
「上等!」
アレクシアも意図を酌み、剣を構えて即座に動く。
剣と手甲がぶつかり合い、会場内に甲高い音が響き渡った。
・アレクシア・ミドガル
決勝戦が始まるまでに色々と準備していたミドガル第二王女。
『閃光』の技ともう一つ学び、ガイアスへ戦いに挑む。
気持ちはレイドバトル。
・ガイアス・クエスト
先手を取られてウキウキの男。
アレクシアの成長を誰よりも喜んでいるのは間違いない。
戦闘中じゃなければ普通に絶対領域の視線誘導に引っかかり、ガン見することだろう。
「見せてきているならば、此方も見なければ…無作法というもの…」
クロスオーバー好きかい?
-
うん、大好きSA!
-
まぁ良いだろ
-
知らんな
-
クロスオーバー、お許しください!