「失敗しただと?」
「はい。先ほど裏で殺された姿を確認しております。目標の姿も見つけられなかったためすでに逃げられたものと見られます」
「チッ、役立たずが…ッ!」
とある一室。
そこで部下から届けられた報告の内容に怒気を含めて舌打ちをした。
この場にいるのはディアボロス教団でもフェンリル派と呼ばれる集団のみ。部下も淡々と報告をした後、命が出るまで微動だにしていない。
机に置かれたコップの中身を一気に飲み干して頭を一旦リラックスさせる。今回貴族を攫ってくる作戦を考えて実行に移したのは彼であり、今回の首謀者である。
貴族の血を活用することで人工魔人を作ろうとしていた研究者と手を組んで陰で動いているというのに、肝心の実行者がぼんくらと来て少なからず怒りを感じてしまう。
「奴らも我々の動きを嗅ぎつけ始めている…。これ以上時間をかけてしまえば厄介なことになる…。そうなってしまえば“ナイツ・オブ・ラウンズ”の地位を得る算段が…」
腰につけた剣で音を鳴らしながら立ち上がる。
ミドガル王国の騎士団員に支給される鎧を身に着ける男の名はゼノン・グリフィ。
彼はアレクシアの婚約者候補の一人として表では活動を行っている侯爵家の男だった。
学園の剣術指南役に選ばれるほどの実力を有しているため、今後も安泰と言われるほどに表向きは優良物件な男。だが肝心のアレクシア王女からは嫌悪の目を向けられて一向に距離を詰めることが出来ない。
それもこれも入学して間もなく、アレクシアから近づいた一人の学生の影響が大きかった。
ガイアス・クエスト。
様々な功績を持つ己とは異なり、特別な実績を持っていない男。
確かに魔力操作や座学などは優秀よりではあるが、剣術に関しては一切の才能がないと断言できる存在。
そんな吹けば飛んでしまうような存在に対してアレクシア王女は何故か傾倒している。そしてそれを王族側は特に窘めるようなこともせずに静観しているのだ。
生徒間では王女が遊びのために手駒にしているだとか、男に何か脅されているのではないかなどと言われているものの、それは一部だけであって大半の生徒からは彼とお付き合いしているのでは?といった話もあるぐらいだ。
「ガイアス・クエスト…ッ」
怨敵を思い浮かべて拳を深く握る。
奴が現れなければもっと事が簡単であったのだ。
「…奴の動向はどうなってる」
「はっ!ガイアス・クエストは現在寮の自室へ帰っていることが確認できております。しかし買い出しに出かけるのか外出の準備を行っているようです」
彼に難癖をつけて突き放そうとすることも幾度となく考えた。
しかしそのたびに
王女を実力で誘拐することも考えたのだが、彼女の実力はゼノンも
事を起こすのなら自分が出なければならないということも理解していた。
だが今回は違う。
常に監視していたが、今は夜。街灯があり多少明るいとは言えどそれも完全ではない。闇討ちできるぐらいには月も雲で隠れており、程よい暗闇が存在することも大きい。
「よし。
『 ハッ!! 』
そうしてゼノンはアレクシア王女を呼び出すべく部屋を後にする。
事を終えて戦果を教団にもっていけば幹部の席も夢じゃない。
未来の人生設計を考えながら成功した自分を思い浮かべてほくそ笑むのであった。
だが悲しいかな。
彼が行おうとしている愚行は全て把握されていた。
防虫という概念が希薄なこの時代において、部屋に一匹二匹の虫や爬虫類がいたとしても誰も気にしない。そんなものが己の首に刃を突きつけてくるのだと考える発想すらなかったのだ。
天井の片隅。
そこに張り付いていたヤモリを思わせるフォルムの存在は、瞳に埋め込まれた水晶で彼らの一部始終を見ていたことに教団の関係者は誰一人気づくことはなかった。
◇
アレクシア・ミドガルは急ぎながら、内心はリラックスした状態で夜の街並みを駆けていた。
理由は婚約者候補であるゼノン・グリフィから呼び出されたから。それも内密に、だ。
夜中に王女を呼び出すなど常識外れにもほどがある。
故に一切話を聞かずに突っぱねる予定だった。
「ガイアス・クエストが貴族の一人娘を拉致しようとしていた」
そんな話を聞いてしまったからこそ、アレクシアは急いで現場に向かっている。
(彼がそんなことする訳ないじゃない。一体何を考えているのかしら…)
共に駆けるゼノンからは話は後で、急いでくれと一辺倒。目的地に向かいつつも一切の情報が得られなかった。
話すつもりもないのだろう。
自分はポーカーフェイスを貫いていると思い込んでいるのだろうが、ゼノンの口角が普段よりも少し上がっている。
自分を呼び出して何かするのだろう。それこそ先ほど彼の口から出た拉致、などだ。
(剣はいつでも抜けるようにはしているけど、それ以外には背後を特に警戒しておいたほうが良さそうね)
魔剣士は全身に魔力を巡らせることで素早い動きを可能にする。
騎士団に所属する程の者達であれば、ある程度の距離であれば片手間な時間で往復できるぐらいだ。故にゼノンが示す場所へ到着するのもあっと言う間であった。
「ア…アレクシア王女!?」
現場で彼女が見た姿はガイアスが捕縛され、騎士団と思わしき者達から幾多の暴行を加えられている光景だった。
そんな中でガイアスはこちらに気づいたのかアレクシアの名を呼ぶ。
そこで周囲の者達は隠す気もない笑みを浮かべてアレクシアを一瞥した。
「…これはどういうことかしら?」
眼前の光景は窃盗や殺人などの現行犯を捕える際には普通に行われている光景だ。
それに関しては構わない。だがガイアスがそんな光景を作っている張本人であることにアレクシアは問うた。
「見ての通りだよアレクシア王女。彼は王都から少し離れた場所でトラワレ家の娘を拉致しようとした。そこで警備に見つかり逃走。この場で捕えたんだ。抵抗が激しかったから多少の手心は加えさせてもらっている」
「私がそんな建前を聞きたいがためについてきた、と本当に思っているのかしら?」
「…どういうことだい?」
アレクシアの反応に、事前に予定していた言葉を紡ぐも一蹴されたゼノン・グリフィ。
明らかにこちらに嫌悪感を向けて、さらには腰の剣を抜いていた。
「ゼノン・グリフィ。アンタが私に対して如何わしい考えを向けていた事は知っていたわ。ガイアスに対して嫌悪の感情を抱いていた事もね。何がしたいのか察しはつく…だからこそ聞きたいわ。何が目的?」
「なるほど。どうやら私は君を甘く見ていたようだ。だが甘いね。ここは我々が用意した場所。邪魔者は誰も来ないよ」
ゼノンの発言と共にガイアスを監視する役目以外の者達は一斉に剣を抜いてアレクシアの退路を断つように囲んでいく。
下手に動けない、そう考えたゼノンは言葉をつづけた。
「さてアレクシア王女。我々と共に来てもらおうか。手間を掛けたくないんだ」
「その冗談はつまらないわねゼノン・グリフィ。私はミドガル王国の第二王女。そんな身勝手が通じると思っているの?」
「通じる通じないの話じゃないさ。君は今置かれている立場を見直した方が良い。余計な抵抗は自分を傷つけるだけだ」
カチャッ
音の方へ意識を向ければガイアスの首にナイフを突きつける監視役。
学園で親しく接するガイアスを人質に自分に言うことを聞かせる。断ったとしても厄介者を排除しつつ力づくで確保する。
わかりやすく、だからこそ厄介な一手だ。
「聡明な君だからこそ、自分の置かれた現状を理解できていると思う。だが無駄に時間を浪費するのは勿体ない。故にこれが最後の質問だアレクシア王女。我々と共に来てもらおう」
下種な笑い声を隠さない周囲の男たち。
アレクシアは顔を下へ向けて剣を鞘へと納める。
ゼノンとの距離は5m程離れていたが、アレクシアは表情を見せないままゼノンの方へ歩みを進めた。
それを見て作戦の成功を確信するゼノン達。
2mほど進んだところで歩みを止めたアレクシア王女。
「貴方達が言いたいことは理解したわ」
そう前置きを置いてアレクシアは顔を上げる。
その表情は沈痛な面持ちとは真逆。
相手を思いっきり見下すモノ。
三日月を思わせる口元は、誰が見ても加虐の笑みであった。
「お断りよ」
彼らの王女像では絶対に用いない表情に。
この状況下で敵対の意を示すことが出来る精神に。
ゼノン達は状況を理解するために硬直し、立ち尽くすしかなかった。
・主人公
コワイヨータスケテヨー(棒)
・アレクシア王女
(だ…駄目だ。まだ笑うな…こらえるんだ…)
敵対者死すべし、慈悲はない
・ゼノン・グリフィと愉快な仲間たち
ガハハ!勝ったな!第三部、完!!
この後ナイツ・オブ・ラウンズになってくる!
【興味本位】挿絵があったら見るのか
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どちらかと言えば見る
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ちくわ大明神