王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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五十七 私は生きています!

 

 

「ふんふんふ~♪」

 

 彼女は最高の環境で、最幸(さいこう)の気持ちを抱いていた。

 これまでの彼女は表舞台でも相応の活躍を見せている有名人であるのだが、それはあくまでも本来の目的であるディアボロス教団の情報を集める為に作り上げてきた虚構の姿に過ぎない。

 

 全ては自分を救ってくださった主の為に。

 全ては自分達の拠り所となってくれた組織の為に。

 

 自らを追いつめるように強迫観念から殺人に手を染めながらも心が砕けなかったのは親愛する主から寝物語として様々な文学作品を聞くことが出来た為だ。

 そこから小説家として多くの国から認知される存在となり、それに伴って築かれてきた人脈で数多くの情報を集めることに成功する。

 

 時折その過程で主たるシャドウ様と過ごすことが出来たり(尚シャドウ本人は売れている小説を見て失望に近い感情を抱いていたが…)、憎きディアボロス教団の影響力を大幅に削る事が出来たりと順風満帆に事が進んでいる。

 シャドウ様が表舞台に姿を現し、その御力を世界へ示した『ブシン祭』をリアルタイムで見ることが出来なかったため、イプシロンと血涙を流しながら珍しく共に悔しがった事もあったもののあの行事があったからこそ『シャドウガーデン』は“ディアボロス教団と敵対する”以外の道筋を見つけることが出来たのだ。

 それを否定するなんて出来るはずもなく、させる気もない。

 

 自分の腕の中で心地よく眠る乳児(・・)を視界に収めるだけでも多幸感に包まれるというのに、この子が主様であるシャドウ様とベータ自身の子であるとくればそれはもう…最高なのだ。

 

「だぁ~」

「ふふっ、いい子ね~♪」

 

 先手をまさかのデルタにとられたのはシャドウ様を求める全シャドウガーデン構成員が多大なショックを受けてしまったものの、今はこうして比較的落ち着いて(尚シャドウの負担)いる為にアルファと並んでベータも育児を優先して活動を行っている。

 取材で出かける事はあれども、基本的に室内で執筆活動を行う小説家という立場は育児と仕事を両立させるには非常に助かるものだ。

 彼女とは深い関わりは無いものの、ベータが結婚して子宝に恵まれたことを知ったベータファン達がいたるところで漢泣(おとこな)きを披露したらしいとは後に新聞社から聞いている。

 あまり認知されていない育児に関する本なども執筆してみるのも良いかもしれない。

 

「…あら?」

 

 そんなことを考えていたベータであるが、背後から聞こえる慌ただしい足音を耳に入れたことで何かが起こったことに気づく。

 今ベータが居る場所は親愛なる主と共に暮らすカゲノー家の豪邸に設けられている一室。

 デルタが突然出撃したことで報告を受けていたアルファ達が騒動を感じ取った様に、ベータも何かが起こったことを感じ取った。

 

(主様だけでなくアルファ様達もいるこの場所で何かが起こった…?そんなまさか…)

 

 ゆっくりと身体を動かして立ち上がり、自室の扉を開放する。

 もしディアボロス教団がカゲノー領に攻撃を行っているのであれば『シャドウガーデン』の面々が即座に行動を始めるので今の騒動レベルではその心配はない事は分かっている。

 ただ育児に集中しているとは言えど、ベータも“七陰”の一柱なのだ。

 非常事態が発生したときに自分だけ何も知りませんでしたというのは許されない。

 

(こんなことならば私にも通信用ゴーレムを付けてもらう様にアルファ様に伝えるべきでしたか…)

 

 勿論伝令係を担う人員がしっかりいる為、彼女にだけ情報が行き届かないという事例が発生する事はない。

 ただ今騒がしくなってきている今の状況から、少し後悔しているだけである。

 

 屋敷で暮らす人数が人数なだけに廊下もかなり広めに幅を取られているが、今は歩いているのはベータのみ。

 キャッキャと嬉しそうに両手を伸ばしてベータの頬をペタペタと触る愛おしすぎる我が子に最高の笑みで返しながら、シャドウガーデンの面々は普段情報共有の為に設けられた広間にて集まっているのだろうと考えて向かっている。目的地では彼女の考え通り、扉の奥から団員達の声が聞こえていた。

 ゆっくりと扉を開けて中に入ると司令塔の役割を一任しているガンマと“ナンバーズ”の面々、そしてそれ以外の団員達が深刻な表情で連絡を取り合っていた。

 扉を開けたというのに、彼女達がベータに気づく様子はない。…いや、扉の傍で待機していた団員がベータの姿を見て驚いていた。

 

「あのー、大丈夫な状況でしょうか…?」

 

「「「 !! 」」」

 

  バッ!

 

 一斉に全員の頭がこちらを見る。

 ベータの一声。

 そんなに大きな声を出した訳ではないというのに、広間内にしっかりと響いたその声を聴いて一斉に彼女達の目がベータへ向かう。

 皆の行動に驚いたベータはたじろぐが、それを逃がさないと言わんばかりの勢いでガンマが口を開いた。

 

「…ベータが生きてるわ!!」

 

「いやどういうことですか!?」

 

あまりの言い分に大声を出してしまった影響で我が子が泣き出してしまったために、あやすまでに多大な時間を有したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イプシロンが突如現れたベータと交戦を始めた頃。

 首謀者が居る戦場以外でも異変が起こっていた。

 

 それは明らかに可笑しいと肌身で感じ取れる程の濃い赤黒い魔力が複数の場所から感じ取れたことである。

 ミドガル王国でイプシロンが戦っている国境沿いとは別。首都に近しい場所やそうでない場所でも発生し始めたソレ。

 ディアボロス教団が事前に何らかの細工を施しているのかと事態を重く見る者達は考えたが、ミドガル王国には普段から国敵を監視しているガイアスの警戒網がある。

 自分達に一切覚られず、そしてガイアスの監視からも映らずに細工を施せるとは到底考えられるものではなかった。

 

「クラウス様!国内各地から異常な魔力が観測されております!」

「周辺に暮らす国民達には迅速に避難する様に促している状態です」

「ガイアス殿下は事前に事態を重く見たのか、我々に指揮を任せて協力者と共に現地に赴いているとの報告がありました!」

 

「――…そうか」

 

 ミドガル王国元国王 クラウス・ミドガルは兵士達から矢継ぎ早に来る報告を耳に入れながら冷静に情報を整理していた。

 淹れたてのコーヒーをゆっくりと喉に流し込む姿を見れば誰もが「飲んどる場合かーッ!」と指摘したくなる場面であるが、報告内容とは裏腹にこの場にいる者達は極めて冷静で、そして落ち着いていた。

 

「ガイアスから私にも報告があった。この事態を引き起こしていると思われる下手人は『シャドウガーデン(同胞達)』」がすでに捕捉し、戦闘を開始している。今こちらから増援を送っても徒労に終わるだろう」

 

 クラウスはすでに状況がどうなっているのかを通信用ゴーレムによって把握している。

 彼がミドガル姓を名乗る前であれば一人で様々な事柄を済ませていただろうが、今現在はミドガル王国の現国王の座に就く責任者。就任してからすぐに彼は自分や王妃達(娘達)の身に何かが起こったとしても自分達で国を守っていけるように普段から教育に力を入れている節がある。

 そのため機会を見つけては率先して兵士達を動かしてい様々な経験を積ませるように動いていた。

 聖教との対立が表面化したときなども兵士達を動かして国家ぐるみで牽制をし合っていたのはそう言った側面もあるだろう。

 

 そんなガイアスが自ら動いた。

 それはつまるところ今発生している現状を見て、国内にいる兵士達では事態の解決に繋げることが出来ない。又は解決できるとしても我々が考えている以上の被害が出てしまうと判断したからに他ならない。

 

「故に我々は国民達に被害が及ばぬように徹底して護りに務める。決して警戒区域に立ち入れさせるな。親衛隊の者達も護りに回しても構わん。ガイアス達が動くのに妨げにならぬ様に行動せよ」

「「「ハッ!!」」」

 

 本当の事を言えば、城内にいる兵士達にクラウスがあーだこーだと言える立場ではない。

 情報の整理とその擦り合わせでこれまでの経験を生かして判断する事は出来るものの、実権で言えばすでに譲っている状況なのだ。

 内政はアレクシアの方が手広く把握して改善に向かっているし、外交に関してはローズが腹の探り合いを柔軟に躱しながら牽制出来るように成長している。

 国防は言わずもがなアイリスが眼を光らせている影響で兵士達の練度が他国と比べて強靭なモノに変化している。

 国内の情報収集という側面ではそれこそガイアスに敵う者はいないだろう。

 

 それでも彼がこうして指示を飛ばしているのはガイアス達が動く為に事前に明確な指揮系統を決めていたからである。

 元々『ディアボロス教団』相手に独自に仲間を集めて水面下で抵抗を続けていた(おとこ)だ。他国とのいざこざも当然経験している彼であれば、都度適切な判断が出来る可能性が高い。

 そういったこともあって表舞台で普通に活動を続けていた。

 

「クラウス様。奴らはこれを機に城内まで行動を移してくるかもしれませぬぞ」

「無論その可能性は理解している」

 

 側近の忠言を受け止めながら目配せすれば壁際で待機していた者が頷き、そしてその場から消える様に移動していく。

 音を立てずにその場から立ち去った姿を見て、側近はなるほどと理解を示した。

 

「彼女達が動いてくれるとなれば、不要な心配でしたな」

「うむ。我々は我々で、為すべき事ことを実行に移していくだけだ」

 

 椅子に座って報告を待つようなことはせず、要所要所で適宜動きながらも兵士達に指示を的確に飛ばしていくクラウス。

 彼を補佐するべく、側近は慌ててクラウスの背を追いかけるのであった。

 

 

 








・ベータ
 なんだかんだで主たるシャドウと色々励んでいた第二席。
 子を授かったことで前線から一旦身を引いて育児と表の活動に専念していた。
 敵に寝返ったと思われるベータ(?)の出現に一番驚いているのは当然彼女である。

・ガンマ
 アルファとベータが実質的に不在の中で組織を動かす頭脳明晰な第三席。
 描写こそそこまでしていないが、ガイアスと出会ったことで動作補助のスライムを作成して貰っていた。それにより階段などで踏み外してコケる回数が激減しているのだが、魔力操作次第で戦闘にも活用できる優れもの。鍛錬を重ねていけばまともな戦闘が出来る様になる日が来るかもしれない。

・クラウス・ミドガル
 ミドガル王国の元国王であり、ガイアスの妻であるアレクシアとアイリスのパッパ。
 ガイアスが国王に就任した後に魔剣士学園の地下にとんでもない代物が封印されている事が判明したり、『十三の夜剣』とかいうミドガル国内で幅を利かせていた秘密結社が壊滅した報告などもさりげなくされている。
 もうガイアスの報告に関しては驚くのは無駄にエネルギーを消費する事に気づく。
 来る未来で長きに(わた)るミドガル史の中で、最も判断力と決断力に長ける男と記録されるであろう偉人である。

【参考に】一話における文字数と投稿頻度

  • 3千字&①(毎日)
  • 3千字&②(2~3日)
  • 3千字&③(週一)
  • 5千字&①
  • 5千字&②
  • 5千字&③
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