ディアボロス教団所属のゼノン・グリフィが現状に対して立ち尽くしていたのにも関わらず、即座に行動出来たのは偶然と言っていい。
どの立場に身を置いているのかは取り払っても、彼は学園の剣術指南役を務める戦闘力を有する人間だ。
剣気が己の首を斬りおとす。
そんな錯覚をしたと同時に本能で剣を抜いて斬り上げた。
ガキンッと剣と剣がぶつかり合う音が鳴る。
そこで彼は拉致対象者のアレクシア王女が自分に斬りかかってきた事を理解した。
「なっ!?」
「敵を目の前に放心なんて、生ぬるい環境に身を置いてきたのね」
アレクシアの振り下ろしからの横薙ぎの動作から突きに派生した動作は錯乱して斬りかかってきたものではない。
至極冷静に、そして綺麗な動作で己の首を取りに来ている。
「しょ、正気か!?ガイアスがどうなっても構わないというのか!!」
「お生憎様ね。そんなことで気を散らしてしまったらこれまでの日々が無駄になってしまうのよ!」
そのまま4回ほど剣戟が行われ、そこでようやく雑兵たちが我に返って動き出す。
慌ててゼノンに加勢してアレクシアに斬りかかるものの、一瞥すらされずに斬りおとされた。
(馬鹿な…!アレクシア王女は“凡人の剣”と呼ばれているぐらい平凡な実力のはずだ…。ブシン流の生徒と比べれば確かに強いのは認めていたが…此方はファーストチルドレンではないとは言えど、並の騎士団員相手なら圧勝できる強さだぞ。それなのに…何故!?)
「貴様!何者だ!!」
「何者とは酷い聞き方をするじゃない。貴方が私をここに呼んだのよゼノン・グリフィ?」
「ふざけるな!アレクシア王女が…“凡人の剣”と蔑まれているアレクシアがこれほどまでの実力を持っているはずがない!確かに私が相手をしても手がかかるだろうとは理解していた!だが、多対一だぞ!?なぜ一方的にこちらがやられる!?」
周囲から現れるは教団の増援。
ゼノンは念には念をいれて教団の者達を配置しており、すぐに対処に当たれる母数を増やせるように準備をしていた。
だがその悉くを斬り伏せられている。
彼女に一太刀でも届いていいはずなのにも関わらず、一方的にこちらの被害が大きくなっていくばかり。
流石のゼノンでもこれ以上の被害は許容が難しく、故に眼前の彼女が影武者なのではないかという思考に辿り着いたのである。
「なぜ?そんなの簡単なことじゃない」
だがそんなゼノンの慟哭に対し、アレクシアは残酷な事実を突きつける。
「アンタ達がいくら集まっても、総合的に私の方が実力が上。それだけよ」
「ふ…ふざけるなぁ!!」
全身にどす黒い魔力を纏い、ゼノンはアレクシアに斬りかかる。
ゼノンは己を次期ラウンズと自称しているが、それは自分を見ていないわけではない。むしろ生まれ持った魔力量と王都ブシン流の実力を併せ持った彼は並大抵の相手では太刀打ちできない実力者だ。
その人生に裏付けされた強さに彼は自信を持っていた。
これからはディアボロス教団の幹部に位置する人間として、さらに上を目指す向上意欲も有していた。
だがそれらが一切通じない。
それも相手を己よりも下だと見下していた相手によってだ。
認めない。
認められるはずもない。
もしこの現状を認めてしまえば、これまでの学園生活内で彼女はあえて実力を隠す真似を行って自分達を欺き続けたことになる。
探りを入れても周囲の者達からの評価は同じだった。
それが“凡人の剣”。
とある剣術大会に出場したときも、目ぼしい戦果を挙げることが出来ずにそのまま敗退していたのだ。学園に入ってから急激に実力を伸ばしたなんてことも聞いたことがない。
ましてはディアボロス教団に関することは彼女達王族貴族たちは関係者以外誰も知られていない。故に自分を守るためにしたとしても、周囲を欺くような事をする意味がないのだ。
認めたくない。
それが今のゼノンの胸中だった。
教団の目から逃れる。つまりは20にも満たない少女が、教団を出し抜いているなど認められるはずがない!
だが…
「どうしたのかしら、ずいぶんと荒っぽい剣ね。何か気が立つことでもあったのかしら?」
眼前の女はそれを肯定するように侮蔑の笑みを浮かべて語り掛けてくるのだ。
すでにゼノンは全力に近い魔力を回して己を強化している。それなのに押し通せない。
「ふざけるなよ…ふざけるなァぁぁぁあああ!!」
怒りを抱きながらも基礎を続けたことがわかる綺麗な太刀筋。
自画自賛できるほどの一刀であったが、それもあっさりと受け流された。
アレクシアはゼノンの剣劇に対して極めて冷静に対処していた。
重心の運び方、指や手首を含めた筋力と間接の緻密な操作。そして要所要所で用いる魔力操作。
そのどれもが圧倒的にゼノン・グリフィという男を上回っているからこそ為せる芸当であった。
(右、足払い、突き、タックル…見える。彼がどのように動くのか)
攻撃を往なすのは真っ向勝負だけではない。
周囲から“凡人の剣”と言われ続けても愚直に基礎から積み上げてきたその生き様が、姉以外は知らない修行環境という名の下地で培われた数えきれないほど戦ってきた経験が、才能で伸し上がってきたゼノン・グリフィをこれでもかと追いつめる。
すでに雑兵たちはこの戦いに参加することすら出来ない。
それだけ高速戦闘をしている証拠であり、それを証明するように周囲の木々は斬り落とされ、地面には数えきれないほどの罅が生み出され、土埃で周囲の把握も難しくなってきている。
だがそのやり取りもそこまで長く続くものでもなかった。
アレクシアの剣がゼノンの身体へ届き始め、少なくない切り傷を生み出していたのである。
「ぐあぁ!?」
剣の中で胴を蹴り飛ばされたゼノン。
地面に転がりながらも体勢を整えてアレクシアの追撃が来ないことを察知した。
「なるほどね。理解したわ」
「何が、を聞いてもいいかな?」
そんなゼノンを見て、アレクシアは目を細めながら一瞥する。
普段自分が内心振りまいていた見下すようなモノ。それを見て怒りを抱きながらも呼吸を整える意味も込めてアレクシアへと問いかけた。
「いやぁ、ね。貴方達は理解しているかもしれないけど私、貴方達の目的も組織の名前も知らないの」
それはそうだろう。
周囲の者達はそう思った。
「だけどね」
「!やめ」
だがゼノンは違った。
それ以上は言わせてはいけないと思ったのだ。
だが間に合わなかった。
「この程度で幹部になれるなら、大した組織じゃないわね」
教団への侮辱。
それは教団へ力を求めて入団し、己の実力は高位に位置するのだと信じてやまなかった本人からすれば…
「きっっさまぁあああああああ!!!」
怒髪天を衝く勢いで怒声を上げるゼノン。
胸元に潜ませていた赤い錠剤。
ビンに保管されていたソレを全て、何のためらいもなくゼノンはかみ砕いて飲み込んだ。
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
先ほどゼノンから放たれていた魔力が水滴の雫ではないかと思ってしまう程の魔力量。
それが彼から放たれたモノであり、彼が飲んだ薬が原因なのは明らかであった。
莫大な魔力の放出が続く中、アレクシアは得物を構え、いつでも対処できるように構える。
これからが本番かという様により真剣な表情だ。
「これが、覚醒者3rd…」
先ほどのゼノンとは違う。
筋肉も大幅にパンプアップしており、肌の色も浅黒く、瞳の白目部分は真っ黒に。物語に出てくる悪魔や魔人のような風貌に変わっていた。
「この力を制御できるものこそ、選ばれし者の証」
アレクシアが傷をつけた部分は膨大な魔力によって修復され、体力も全回復した状態になっていた。
ゼノンは剣を足元で軽く振るう。
それだけで剣圧が発生し、地面を穿った。
それを見ているアレクシアは何も言葉を発さない。
ゼノンは言葉を発さないのを怖気づいたのだと考え余裕を取り戻し、そのまま剣を構える。
「ラウンズの資格を得れる“最強”の力…」
赤黒い魔力が全身に、そして剣に集まっていく。
「愚か者に、見せてやろう!!」
放つは突き。
構えから狙いは丸わかりだ。
だがそれでも、ゼノンは問題にしなかった。
なぜなら彼が飲んだのは魔人ディアボロスから抽出した雫から生み出された薬。
未完成品ではあるものの、その薬が齎す膨大な魔力に適応することが出来れば常人では届かない頂きに立つことができるのだ。
魔力とは戦闘力にイコールだ。
この世界で武術全般が発展できていないのも、莫大な魔力でその身を強化して攻撃を加えれば受け手が耐えきれずにそのまま押し切れるためだ。
魔力こそが至高であり、摂理。
故にその魔力に適合して制御できている自分に敵う存在など、それこそ同じナイツ・オブ・ラウンズの幹部たちぐらいだろう。
圧倒的な力があれば小細工など不要。
だからこそ選んだ一手。
だからこその致命的な愚策だった。
「ふぅん…。心地よい
「…は?」
力に酔った自分の視界に映るは拮抗した王女の姿。
剣の腹で受けたものではない。
こちらと同じ突きで返した一撃が、覚醒者となった自分と張り合っている。
押し切ろうにも、変わらない。拮抗し続けた状態。
それはつまるところ手の上で自分が転がされているからに他ならない。
「な…なぜだ…」
「どうやら奥の手は今ので終わりの様ね」
ゼノンの声を遮るようにアレクシアは確信を持った反応を見せる。
本来の肉体を超越させる魔力を得ることができる薬。
確かに強力だ。
確かに脅威だ。
改良を加えられて雑兵が将と戦えるようになれば国家としてはかなりの脅威だろう。
それでもなおアレクシアは告げた。
その程度か、と。
「ゼノン・グリフィ。確かに私は貴方の事を嫌っていたわ。あらゆる分野において優秀である貴方だけど、腹の中で私や王国を好き勝手しようとしていると、ある種の確信を持っていたから…」
普段の彼女では絶対に相手に吐露することはないモノ。
「だけど、貴方の剣は認めていたわ。王都ブシン流の指南役としての実力も…」
それは紛れもない本音。
「だけどね」
突きを相殺し、そのまま顎を蹴り上げる。
相手の反応を待たずにアレクシアは拳を握り、上からゼノンの顔面へ振り下ろす。
「グギャッ!?」
ブシン流とは関係ない、感情に任せて振り下ろした握り拳。
その威力で殴られたゼノンの頭は地面に叩き落され、それでも威力が相殺しきれずに軽いクレーターを作り出す。
「その程度で、最強を名乗るんじゃないわよ!!」
眼下にて呻くゼノンを見下ろし、アレクシアは胸中の苛立ちを吐き出すのだった。
・主人公
空気
・アレクシア・ミドガル
魔改造ブートキャンプの結果。
これも全部王女スキーが悪いんだ。
・ゼノン・グリフィ
俺は天才だ。ファハハハ!
ばかめ、凡人がおれに勝てるかーっ!!
うわらば
【興味本位】挿絵があったら見るのか
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ちくわ大明神