「ば・・・ばかな…っ!!?」
覚醒者とはよく言ったものだ。
アレクシアが振り下ろした拳、それも魔力でかなり強化された拳だった。
それを受け身も取れずに被弾したというのに、意識を飛ばさずに済んでいるのは賞賛に値するものであるだろう。
だがそれは現状を悪化させることはあれども改善を促す物ではなかった。
薬によって全能力を遥かに高めた状態になったことで、最高にハイな状態になっていたゼノン。現状の厳しさを理解するに至る。
眼前にいる女はただの王女なんかじゃない。
あれは“化け物”だ、と。
「貴方如きで“最強”を名乗るなんて烏滸がましいにも程がある。文字通り“最強”への冒涜よ」
眼前に剣先を突きつけられたことでこれから自分の身に起こる末路を想起させた。
殺される。
そう思えば自然と呼吸が荒くなり、意識が混濁するような錯覚に陥る。そんな中でも己の脳内はこの状況を如何にして打開すべきかを計算していた。
目の前の化け物相手に不意打ちなど通じるとは思えない。
周囲にいる雑兵はあまりの実力差に得物から手を放して腰を抜かすものがいる始末。
(一体…一体どうすればこの状況を打開できる…!?)
「言い残す言葉はあるかしらゼノン・グリフィ?」
周囲を見渡して、ゼノンは思い出した。
現状に対しての一手を。
「ガイアス・クエストを殺せぇえ!!」
彼女が懇意にしている男はこちらの手中にいるじゃないか!
最初は有無を言わせない勢いで斬りかかってきたために指示することが出来ずに忘れてしまっていた事実。
一瞬で良いのだ。
一瞬でも良いから意識を自分以外に割くことが出来れば、この場から退避する手段がある!
大声で指示を飛ばしたゼノンは極限にまで凝縮された時間の中でほくそ笑んだ。
さぁどうする化け物!この状況でどう対処する!
「ハハハ!どうする化け物!あの男が死ぬことになるぞ!」
「ほんとに呆れた」
そんなゼノンの心境を把握したアレクシアが向けた表情は、ゼノンが予想したモノとは異なっていた。
アレクシアは心底呆れた表情を浮かべていた。
それは彼を見殺しにする決意の表情ではない。
そんな事をする必要があると思っているのかと、そう彼女の表情が語っていた。
「な…き、貴様!見殺しにするというのか!?親しくしていた学友だろう!!?」
ゼノンの視界には、アレクシアの背後では、確かに部下たちがガイアスを押さえつけて首を落とそうとしている光景。
それなのにアレクシアは微動だにしない。
その異常事態にゼノンは混乱した。
彼女の言葉の意味も、行動も、何一つ理解できなかったからだ。
「見殺し?そんな事するはずないじゃない」
男たちがガイアスの首を掴み、剣を振り下ろしている。
そうして剣が首筋に届く前に…首から上が、
「私の
『 …はっ? 』
「余所見厳禁」
予測できるはずもない。
先ほどまで人間と思っていた存在が人形――“ゴーレム”であるなど。
一般人と思っていた相手が、頭だけでしゃべりだし、そのまま胴体が複数の槍となって自分達を貫いてくるなど…どんな経験をすれば予測できるというのか。
結果は必然。
誰もその不意打ちに対処できずに串刺しにされて息絶えた。
液状の槍は人体を貫いた後、そのまま元の形へと戻っていき、独りでに立ち上がって頭を首に合わせてくっつけた。
知識が無ければ対応などさせない、初見殺し。
そのあまりにもあんまりな結果にゼノンは言葉を失うしかない。
「殴られているところを見て多少なり怒っている姿とか見たかったんだけどなぁ…」
「むしろ考えていたことが消し飛ぶぐらい、貴方を知っている程下手糞に見える芝居だったわよ…」
「えっ…悲しい」
「変顔するんじゃないわよ」
誰がどう見ても人間だとは言えない所業を行った男。
そんな彼を見て、アレクシアは何も思う所はないのか当然のように彼に対応している。
化け物と戦っていたと思ったら、捕獲していた男はそれ以上にバケモノだった…。
ゼノン・グリフィ、その胸中は如何に。
「な…なんなんだ貴様らは!?」
自分から目線を外して会話する二人を見ても、逃げる気力は起きなかった。逃げれないと理解したと共に、疑問を提示することしかできなくなっていた。
抵抗する意志など吹き飛んでしまうぐらいの劇物。
人間じゃない存在に対して、ゼノンはパニックを起こしていた。
そんな様子を見てガイアスとアレクシアは顔を見合わせる。
「ミドガル王国第二王女 アレクシア・ミドガル」
「自称専属戦闘指南役 ガイアス・クエスト」
「「お前らの敵
ただの王女と一般人だと思っていた。
教団が集めた情報が全て事実であり、自分達の脅威に成り得ることは一切ないのだと。
「そんな…、こんな…ことが…」
だが事実は異なっていた。
その実態は化け物染みた強さを持つ王女と、王女が師と仰ぐ指南役と名乗る化け物…
教団の情報網に引っかからなかったということは文字通り相手の方が上手であったことに他ならない。
今更ながら手を出す相手を間違えたのだと。
ゼノンは悟り、抵抗の意志を放棄した。
「それで、ゼノンをどうするの?」
「教団関係者にバレない様に連行して、情報を抜き取る。と言っても王都に連行でもしたら即バレて回収される可能性がある」
「そこまでこいつらが王国内に侵食しているってことなのね…」
「だからこそあまり細かい情報を伝えたくなかったんだよ。余計な負担を負わせる事になるからな」
ガイアスはそう言いながらもゼノンを拘束することは忘れない。
スライムを活用して四肢を拘束して魔力を制限するアーティファクトをつけることで抵抗しない様に対策する。
アレクシアが険しい表情をするのも当然なことだ。
アイリス王女には伝えているが、他の騎士団はおろかアイリス率いる『紅の騎士団』にもディアボロス教団の手の者が入り込んでいるのだ。
本当の意味で信頼できる人間がどれだけいるのか。
疑心暗鬼になれば間違ったと正しい情報を選定することも困難になる。
彼女はその現状の厳しさを即座に理解していた。
「故にこいつは王国とは関係ないところに託す」
「…そんなところが?大丈夫なの?」
「問題ない。知り合いが(仮初の)トップで、教団の事実を知って対抗すべく活動を続けている組織だからな」
ガイアスはゼノンを担ぎ上げる。
ゴーレムで運んでしまうと目立つ可能性もあり、こんな場所で己の手の内を明かすつもりもなかった。
なるほどねと納得したアレクシアは、別の質問を投げかけた。
「ところで、貴方はどこにいるのかしら?」
「ん?今から会う組織の長役に会ってるところさ」
友人に会いに行くような軽い口調。
それなら大丈夫かと考えたアレクシアであるが、この選択が彼女達も盛大に巻き込まれることになるとは考えても見なかったのであった。
◇
ピリッ
ピリッ
もしこの空間を漫画的な表現で表すならばそんな擬音が用いられていたことだろう。
場所は『シャドウガーデン』の本拠地―――ではなく、『シャドウガーデン』が王都にて拠点としている建物である。
ミドガル王国において、今までに存在しなかった画期的な商品を展開することで多くの顧客達の心を鷲掴みにしただけではなく、アミューズメントパークの建設や流通業態だけに留まらず、銀行まで作り上げて紙幣を用いた金融市場すら作り上げて貨幣価値にも革命を齎している
その名声は今では王国内では知らない人は存在しない程。
頭角を現してからたったの数年で世界有数の大企業へと変貌を遂げようとしているミツゴシ商会の本社であった。
そんなミツゴシ商会に所属するスタッフ全員がシャドウガーデンのメンバーとして活動を続けている女性であり、主たるシャドウに絶対的な忠誠を誓っているとかなんとか。
全員がメンバーであるが故に運営配送お手の物。傭兵や護衛を雇う必要もなく、現役戦闘メンバーしかスタッフにいない為、世界でも最強の武力を有する一大企業なのだ。
「…アルファ様」
「わかってるわ、ガンマ。何時でも動けるように伝達を。そして…呼んで頂戴」
「わかりました。…今動ける“ナンバーズ”の招集も完了しています。何かあればすぐにでも」
「その時は、お願いするわ」
本社の屋上に建てられた建造物。
シャドウガーデン関係者の中でも選ばれた者達にしか入室を許されないその場所で、独自の考えで動くシャドウの代わりに組織を統括する金髪エルフ――アルファは目の前の問題を如何にして乗り越えるか思案していた。
幾度も語っているが、シャドウガーデンはディアボロス教団の企みを討ち破るべく、陰で活動を続けている地下組織だ。
故意的なら兎も角、無関係の人間に情報を漏らすような真似は一切行われていない。全員が“悪魔憑き”として扱われた経験のある者達だ。
教団に対して利になるような行動を取るものなど一人もいない。
(…一体どうやって、私達の存在を嗅ぎつけたというの…?)
だがそこにイレギュラーが発生した。
夜遅い時間帯に、一人の男が訪問してきたのである。
すぐに追い返すのは可能だった。
可能のはずだった。
スタッフに言い放ったその一言で、その選択肢が完全に取り除かれてしまったのである。
『シャドウガーデンに用があります』
その報告に、アルファですら言葉を失ってしまったのだから――。
・ガイアス・クエスト
残念だったな、ゴーレムだよ
・アレクシア・ミドガル
彼女なりの“最強”を知っているが故に、ゼノンの発言は苛立った。
しゃんなろーーー!!
・ゼノン・グリフィ
想定外が起こりすぎて心がポッキリ。
これからとある“ナンバーズ”の一人に預けられる。
・アルファ
真面目に組織を運営しているはずなのに、見ず知らずの男に組織バレしていた。
困ってて可哀そうなのが可愛い。
??『キッショ。なんで分かるんだよ』
【興味本位】挿絵があったら見るのか
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見る
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どちらかと言えば見る
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どちらかと言えば見ない
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見ない
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ちくわ大明神