王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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九 想起、今に至るまで…

 

 

『まだまだ制御が甘い。如何なる状況に陥ったとしても、決して魔力制御を怠るな。例えそれが息苦しくても、例え腕が千切れようとも。どんな状況下でも正確に制御できる己の魔力こそが、自分にとって最後の武器になると理解するんだ』

 

 

 アレクシア・ミドガルが師匠―――ガイアス・クエストと出会ったのは雨の日だった。

 周囲から“凡人の剣”と蔑まれ、自身が持つ才能の無さに歯噛みしていたあの時にであってから、彼から習う魔力制御を常に取り組み続けてきた。

 

 勉学中、食事中、訓練中だけではない。

 一挙手一投足から一呼吸の時までも、さらには本来ならば身体を休めるべく必要な就寝中の間であってもだ。

 アレクシアはガイアスに修行をつけて貰い始めてからというもの、魔力制御を怠ったことは一度もない。

 それが出来るようになって2年。

 そこからは常に全身に魔力を回す。ただ全身に巡らせるのではない。慣れるまでは師の手を煩わせたものの、一人で制御できるようになってからは常時全開で魔力を巡らせ続けるようになっていた。

 その過程でアレクシアは己の魔力を可視化させるにまで至る。

 

 この世界において魔力は体外に出てしまえば非常に霧散しやすい性質だ。

 それを可視化させれるレベルにまで魔力制御が高められることは、それだけで自分の実力に箔をつけれる偉業であった。これは姉であるアイリスでもまだ成し得ないもの。

 王国内で魔力の可視化を見せようものなら、彼女の評価はその時点で一変。その歳でそこまで魔力制御ができる神童だ!などと持て囃されていただろう。

 

『師匠!私…魔力の可視化もできるようになりました!スライムも大分動かせます!』

『素晴らしい!…いやホントにすごいな!?』

 

 だが彼女がその事実を伝えたのは師たるガイアスのみ。

 今更周囲の評価を気にすることもない。と考えが生まれていたこともあるが、彼にだけ知ってもらえればそれだけで自分の心が満たされる感覚に包まれるからだった。

 

 剣術自体の腕は評判通りではあったものの、それに関しては割り切っている。

 ガイアスは本当に剣才はなかった。互いに魔力で全身強化して手加減無しだというのに、アレクシアに全敗したことからその才の無さは察せるだろう。

 

 だがそれ以外の事は数えきれないぐらい教えてくれた。

 武術という概念。魔力制御と魔力量を増加させることが出来る知識。対象の魔力を確認する方法や誤認させる技術。精神的支柱として必要な考え方。脳内での思考を分割して別々に働かせる技能。

 庶民の一般的趣向感覚という小さい事から組織運営に関わってくる大きな事まで、アレクシアはその数多くをガイアスから学び、取り入れてきた。

 

 スライムを武器として問題なく扱えるようになってからは一層特訓は激化し、勉学中に居眠りをしてしまうなどのアクシデントも発生してしまった。だがそのおかげでアレクシアは学生になる前時点で、すでに王国内最強の頂への挑戦権を手にしていたのである。

 しかしそこまで辿り着いても、アレクシアは剣術以外の実戦で、ガイアスに一度も勝てたことが無かった。魔力によるごり押しが基本のこの世界では異質な技術による戦闘技法、魔力制御によるスライム武器の数々。そして彼が一番得意とするゴーレムも絡めた一個大隊レベルの物量戦闘。そのどれもが現時点でのアレクシアでは届かない高みに存在した。

 その中で一度だけ見せてもらった彼の全力は、当時の彼女でも一切抵抗行動を取ることすら許されずに敗北するであろうと理解させた。

 

 上には上がいる。

 その事実が彼女を天狗にさせることはなかったのだ。

 

 正史でも彼女はきっかけ一つで己が進むべき道を選び抜き、芯のある意志と行動で活動を続けることで己の実力を高めていたのだ。

 そんな成長する事に熱心な彼女を幼少期の挫折からすぐに手を差し伸べ、さらには理解と教育まで行うお節介の数々。それにより彼女の成長グラフは極めて高水準で伸び続けてるまでに至る。

 いずれ彼へ追いつくべく、誰にも周知させぬように修行と勉学に励み続けたのだ。

 その過程で姉であるアイリスとぶつかることもあったが、結果はここでは語らない。

 言えることはアレクシアにとっても、アイリスにとっても、非常に良い方の刺激があったということだけだ。

 

 その学び漬けの状況が更に好転したのはミドガル王国魔剣士学園に入る2年前のこと。

 アイリスが学園内でも最強の座を不動のものとして目まぐるしい活躍をしている時期に、アレクシアは当事者以外誰も知らない環境下で、偉業を成した。

 成し遂げたのである。

 

 

『――――お見事』

 

 

 それはガイアスによる免許皆伝。

 最終試練に対して、アレクシアは成し遂げた。

 

『はぁ…はぁ…』

『ここまで成長するとは…予想を遥かに上回ったよ』

 

 地面へ崩れ落ちるのはアレクシア。

 対するガイアスは息切れ一つ落とさずにその両足で立っている。

 第三者から見ればどう見ても勝者はガイアスだ。だが二人にとっては真逆だと、認識していた。

 

 ポタッ…

 

 ガイアスの頬から落ちる一滴。

 それは最後の一太刀で、アレクシアにつけられた切り傷。

 治そうと思えば瞬きの間もなく治すことが出来る小さなソレ。

 それがどちらが勝者かを明確に示していた。

 

『わ、私が…、貴方に…?』

 

 勝者は最初、事態をうまく呑み込めていなかった。

 只々我武者羅に、目の前の事に全神経を注いでいたのだ。指が千切れようが腹に風穴ができようが、全てを些事だと切り捨てて、事の対処に当たっていたのである。

 

『その通りだアレクシア・ミドガル。見事最終試練を達成できた。我ながら誇らしいよ』

 

 ハッと気づけば彼の頬に一つの傷。

 優しく抱きしめられた事で漸く現状を理解し、アレクシアは今まで我慢してきたものを全て洗い流すように、双眸から多くの涙を流す。

 

 最初期に抱いていた劣等感。特訓中どれだけ苦しくても辞めれなかった苦しみ。その中でもいつも自分をフォローしてくれたやさしさ。そして最終試練を超えることができた達成感。

 様々な感情が混ざりながらも、決して消えない満足感と喜びの感情が、その時だけアレクシアを王国の第二王女としてではなく、一人の女性として、在るがままに想いを伝える事にGoサインを出したのだ。

 

 涙を流す間にどんな事をガイアスに伝えたのかは思い出せない。

 情けないことや罵倒も言ったかもしれないし、恥ずかしいことも言ったかもしれない。彼はそれに返答や相槌を打ったりしてくれたことはわかった。

 両親からも愛情を注がれてきたアレクシアではあるが、今のぬくもり以上に己を満たしてくれるモノを知らない。知る必要もなくなった。

 

 アレクシア自身が未来で完全に自覚する事ではあるが、ソレが自分を支え、目標にでき、誇り持てる最高のモノだったからだ。

 

『落ち着いたかい?』

『えぇ…。師匠、ありがとう。ここまで私を連れてきてくれて…』

『それは違うな。俺はあくまで補助しただけ。ここまで出来たのはアレクシア。紛れもない君の努力と実力だ。むしろ感謝するのはこちらの方だ。

 ありがとうアレクシア。君の頑張りが、俺にとっても最高の人生(思い出)の一つになった』

 

 互いのぬくもりを伝えあってしばらく。

 ずっとこのままでは当然いけないが故に、アレクシアは名残惜しそうにガイアスから離れた。

 

『開始前にも伝えていたが、これにて最終試練は終了だ。…アレクシア、今日から君は免許皆伝とする!これからは俺の手から離れることになる。今まで教えてきた事を守り、自分なりに解釈を続け、そうして自分だけの成長を続けていくんだ』

『守破離…教えを守り、他の教えを取り入れ、自分だけの業と成す。…かつて貴方が教えてくれた事ね。最初に聞いた時はどういう意味か分からなかったけど…感慨深いわ』

『今の時点で「守」「破」をすでに成した。あとは最も困難な「離」。これに関してはもう俺から行動することはできない。ただ初心を再確認したければ、いつでも頼ってくれ』

『ありがとう。師匠…』

『もうその言い方は正しくない。これからは、同じ立場だ。これからもよろしくな』

『えぇ、わかりまし…いえ違うわね。わかったわ。でもこの恩は必ず返すわ、アレクシア・ミドガルの名に懸けて、ね。これからもよろしくね、ガイアス』

 

 この経験があったからこそ、アレクシアはここまで成長し、自己を高め続けることが出来た。

 だが彼女自身理解している。

 今回で終わりなのではない。これで漸くスタートラインに立てたのだと。

 その後彼と別れた後、自室で一人感慨にふけて再び涙を流したのだった。

 

 この日を境に彼女はガイアスの元から離れた。

 だが今でもガイアスとの交流は続いている。

 むしろ好奇心が強いアレクシアは今まで以上に勉学と各種イベントに興味を持って行動を続ける事になる。

 遠くない未来。彼女の行動力によってとある堀がどんどん埋められていくことにも繋がっていくのだが、それを彼が理解したときは全て事が終わったときであった。

 

 




 
 
 
・ガイアス・クエスト
 多感な時期から数多くの知識と技術と精神論を叩き込んできた男。
 色々とアレクシアと関わってきたが、最終試練を突破されるとは正直思っても見なかったため、その偉業に脳を焼かれた。
 試練後に王女を治療して完治させているが、王国関係者が見れば第二王女の指や腕を千切ったり風穴開けたりと処刑待ったなしの所業をしている。

・アレクシア・ミドガル
 運命の出会いを果たした事で陰の実力者になった第二王女。
 常に上昇志向を有しているため精神思考も前向きになり、活発的に。
 学園でもその王女の立場でありながら、学園の誰よりも努力を重ね、そのつらさを理解てきているために頑張る生徒達にエールを送る。
 その影響で脳を焼き続けていることになっているが、彼女自身の人気に繋がっているため何ら問題ない。
 学園生活でも少し経ってからはガイアスと親しくすることを隠さなくなったため、数多の男子たちを絶望の底へ叩き込んだ。
 
??「成ったか。『離』」

・最終試練
 強いゴーレムの分隊とスライム兵装による戦略兵器と莫大な魔力強化とこの世界にない戦闘技術を同時に乗り越えて、どこでもよいので1ダメージ以上を与える事が成功条件である。
 なお魔力制御により普通に斬っても身体強化で攻撃が弾かれるものとする。

ドラクエで例えると…
 滅茶苦茶硬い敵(メタルキング)めっちゃ強い雑兵(マジンガ様)を大量に召喚つつ、ギミック妨害(毎ターン凍てつく波動)中・遠距離支援(バギクロスやイオナズン)をしつつ、近づけば即死物理技(ばくれつけん)を連打してくるクソゲー仕様。

【興味本位】挿絵があったら見るのか

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  • ちくわ大明神
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