機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~ 機械人形は"蒼き星"の夢をみるか ~   作:松ノ木ほまれ

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第12話

 

 

 ~ 地球・欧州 ~

 

 

「計画は順調なんだろうね」

『何だ、今更心配になってきたのか?』

 

 薄暗い部屋の中で、金色の髪を蓄えた男が画面と向き合っている。モニタの向こうには何も見えない。オンライン通話である。電話という手段を用いず、暗号化された端末同士での通信という手段でコンタクトを取る男は、豪奢な装飾品を身につけ、世界地図に目を時折向けていた。

 男の名を、ジブリールという。

 昼食を食べてひとときの眠気を楽しもうかと思っていた矢先の、通信。少々不機嫌である。一日の楽しみを不意にされれば、だれしもそうなろうというものだが、画面の向こうにいる人物は、そういった類いを考慮してくれない。

 しかしジブリールには、この不躾な人物を無下には出来ない事情があった。

 

『ブルーコスモスの盟主たる者が、何とも小さな事を気にするのだな』

「小さなものか。ささやかな楽しみというのは、人間にとって必要不可欠なのだぞ」

『そうか、それはすまなかった』

「君が"隣人"でなければ、黙って叩きつぶすところだ」

『おぉ、怖い怖い』

 

 ジブリールにとって、画面の向こうの人物は恩人だったのである。"隣人"というコードネームで接触してきたこの者は、ブルーコスモスという組織内において、彼を援助して盟主の座につける手伝いをしてくれた。それだけでは無く、彼の意を汲み、プラントを屈服させる策を共に考え実行する手はずを整えてくれてもいる。

 信用しきるのは危険だとも思っていた。実際に顔を合わせた事は無く、モニタ上でのやりとりしか行った事が無い。"隣人"は、半病人で身動きする事が叶わないのだそうだ。床から指示を出して最も波長の合う者を援助する事にしたようであり、現在に至るまでそれは貫徹されている。

 ジブリールは、その点には感謝している。組織内部における対立者の弱みを早々に握る事が出来たのも、彼の助力があったからだ。実力は評価しなければならない。

 

『君が聞いているのは、あの"不格好なケーキ"の事だろう?』

「そうだ、砂時計からこぼれ出た半球の進展だ」

『心配するなジブリール。それはすこぶる順調だとも』

 

 モニタに、画像が浮かび上がる。宇宙空間に浮かんでいる、今や忌々しい物体に過ぎなくなった人類の新天地。その残骸の画像であった。

 ユニウスセブン。農業用区として改築されたコロニーであり、核攻撃の標的として"血のバレンタイン事件"で地球側が破壊した代物。その残骸の片方が今、デブリ帯を漂うモノの一つと化している事は周知の事実だ。

 

「廃棄予定だった大西洋連邦の基地を、リストから消した甲斐はあったのだろうな?」

『あぁ。"宇宙猿"が居着いている。コツコツと戦力と、フレアモーターを集めてな』

「貴様のペット共だろう? "管理人"には未だペット禁止と言われていないか」

『見つかっておらんからな。あと数日もせぬうちに決行は決まっている』

 

 モニタの中の、ユニウスセブンが映る画像に変化が生まれる。デブリの周回軌道から外れ、地球へと向かっていく画像へ切り替わった。地球へ、あのコロニー跡が墜ちて来る。その計画が実行されようとしている。ジブリールは息を呑んだ。

 あらかじめ"隣人"からは聞かされていた事だ。この映像も想定内である。

 プラントへ再び戦を仕掛けられる大義名分。それを作る手が無いかと"隣人"に持ちかけたのもジブリールだった。故に、こういった手を用いると聞かされた時は肝が冷えたものだ。恐ろしい友人を持ってしまったと。

 

「これでは、被害が大きすぎるな。東アフリカとインド周辺が消える上に」

『間違い無く【核の冬】が来る。地球は人が住めぬ星へ様変わりだ。

 だが心配するなよジブリール、その程度の事は織り込み済みだ』

 

 次いで表示されたのは、ジンを初めとする二年前のMSの画像だった。

 これが、降下を実行するテロリスト共の所有する機体だという。提供した本人が言うのだから間違いは無いのだろう。ザフトの残党、もしくは秘密部隊と追求しても問題ない装備である。

 もう一つの画面には、今まで見たことの無いプラントの新型MSや、新型戦艦の画像が表示された。

 

「"ミネルバ"、例の戦艦か。女神の名を汚すとは」

『それが、貴君足下の舞台があぶり出して、デブリ帯まで連れてきている艦だ。打ち合わせ通りに決行してくれて感謝している』

「無論だ。私が打つ手がコレだと君が言ったのだからな。義理は果たすとも」

『これで、万事上手くいく。君が誘い出させたミネルバも、ユニウスセブンの異変を察知するだろう』

 

 何とも恐ろしい計画を立てる。ジブリールは下を巻いた。

 

 ユニウスセブンを降下させようという計画を立てたテロリストを援助し、決行の日時を調整する。特定のポイントで決行するようそそのかした後に、プラント側の部隊を誘い出して、彼らにぶつけて討伐させる。

 

 "その程度の戦力"しか与えていない連中なのだ。

 

 そして、ジブリールが派遣した直轄部隊『ファントムペイン』が、新造戦艦を初めとする新型MS部隊を鉢合わせするコースへ誘導する。それが彼らの本来の任務であった。新型MS奪取は単なる口実に過ぎない。

 

『プラント本国からは、周囲の小惑星破砕の任務で出撃していた部隊が、進路を変えてミネルバ援護のために向かっている。つまり・・・・・・』

「ユニウスセブンが降下中に、プラントはコロニーを破砕する事が可能」

 

 だがそれは、駆けつけた部隊がテロリストを排除出来ることが前提だ。いつもの"隣人"ならば、もう一歩手を打っている。

 

『まぁ、間に合わなくともコロニー内部にはあらかじめ爆弾を仕掛けてはいるから、一定高度で粉砕する手はずにはなっている』

「ポーズをプラントの連中にとらせるという事か?」

『察しが良いな』

 

 "隣人"の言うにはこうだ。

 プラントはきっと、コロニー落下後にこう言うだろう。「コロニーの破砕にザフトは尽力した」と。だがそこに持ち出せるカードとして、破砕する道具を積載した部隊が駆けつけたという"都合の良さ"を用意したのだ。

 

 コロニーが落ちることを、あらかじめ知っていたのではないか?

 

 そもコロニーを堕とそうとしたのはザフト製MSではないのか?

 

 すでに"隣人"は、コロニーにジンがフレアモーターを取り付ける画像などを用意している。ファントムペインには司令も通達済みだ。

 ミネルバを何としても誘い出し、ユニウスセブンへ向かうよう仕向ける。これが第一。そして、コロニー落としを実行しているテロリストとぶつけつつ、彼らと交戦する。これが第二である。第二の方が、重要だった。テロリストと干戈を交えつつ、ミネルバの新型が刃を躱さなければならないのだ。

 

『都合が良い破砕道具。そしてテロリストのジンと交戦する連合MSと、その連合MSへ攻撃を加えるミネルバのMS部隊。見れば人々はどう見るだろうね』

 

 テロリストを排除しようとする連合を、ザフトが邪魔をした。

 

「やはり貴様は大悪党だな、我が隣人よ」

『お前ほどではないさ、ジブリール』

 

 薄暗い部屋の中に、くぐもった笑い声が響いた。

 

 

 ※※※※※※※

 

 

 ~ デブリ帯・境界線付近にて ~

 

 

 ―― 嵌められた

 

 シン・アスカが最初に頭の中に浮かんだのは、その言葉だった。ボギーワンのシグナルが、速度を落とした時にもっと疑念を持ってあたるべきであったと彼は後悔する。デブリ帯すれすれの航路を選んで逃げた理由が、ようやくわかったのだ。こればかりは、経験が無い事からくる油断とも言える。

 ボギーワンの信号が、一定の速度で移動している事に気づいた時、シンは今置かれている状況を悟った。全く同じ信号を発するデコイを、射出して身を隠した事に。小さなデコイだから、引っかかる事なく真っ直ぐ、一定に進む事が出来たのだ。巨大な船体では回避行動でどうしても小刻みに動く筈なのに、それが無かった。

 

(ここは、廃棄場だ・・・・・・不味い!)

 

 これが地球のように、視界の確保がしやすい環境が期待できる空間であれば、引っかかりはしなかっただろう。しかしここは宇宙である。距離感も地上以上に掴みづらく、クリアな視界が望めない場所。ましてや、周囲には大小デブリが漂っているとくれば罠にかけるにはうってつけでは無いか。

 特に、宇宙開発初期のスペースコロニー跡などは、MS等も容易に身を隠すことが出来る大きさである。自分が相手の指揮官であれば、ここに最も強力な一撃を置くだろう。それはシンにもすぐにわかった。

 

「伏兵だ!」

 

 そう叫ぶのと、左右からMSの機影が現れるのが、ほぼ同時であった。

 蒼い機影と、黒い機影。そして彼らの後ろにバイザーを付けたようなMSが一機ずつ。アビスと、ガイアだ。また追従しているのは【ストライクダガー】の流れを汲む意匠の、規格統一された外観の、不明機であった。間違い無く、新型である。

 

『これは、何、何処の新型!?』

 

 ルナマリアの声が聞こえる。驚くのも無理は無かったが、十分考えられる事だとも思えた。ザクという新型をプラントが開発している時に、他にMSを開発し得る勢力が手をこまねいている筈も無い。

 コーディネイターの優位性という、プラント国民が抱きがちな感情が、根拠の無いプライドでしか無い事を、この光景が証明している。あの意匠は、地球連合加盟国のいずれかが開発した次世代機と見て良いだろう。

 ストライカーパック。各戦況に合わせて換装する事で、状況に即対応可能とする事を目指した兵装の事であり、先の大戦で【ストライク】が猛威を振るった事を知らぬ軍属はおるまい。

 

「怯むな、数は同等だ! 突き崩してミネルバに戻る!」

『突破!? 撤退じゃ無くて?』

「撤退するために抜くんだ、背を向ければただの的だぞ」

 

 数は同数だが、不利だ。シンはそう思った。

 待ち構えていた四機と、不意を突かれた四機。訓練を重ねたとは言え、こちらはこれが二度目の実戦。ましてや、シン以外は初陣と言って良い。これは、不味い。非常に不味い。

 

『なら、アビスは私が!』

 

 そう言って、ルナマリア機が左へ動いた。一瞬、止せと言いかける。ルナマリア機の装備は接近戦特化であり、ビームガトリングを装備はしているものの本領はその大斧にある。火力重点特化のアビスに接近するのは容易ではない筈だ。相手もそれを把握し始めているようで、ガイアが先陣、次いで謎の新型が迫ってくる。アビスは一番奥だ。

 きっと、三機の撃ち漏らしをそぎ落とす事が狙い。

 ルナマリア機は、一番狙いづらい相手を最初の目標と定めた。無茶だと思ったが、それは訂正しなければならなかった。そう言えば、彼女はシンやレイ以上に、MS・人間同士の肉迫に強い。それも、異様な程に。

 

『―― フッ』

 

 ルナマリアが、溜めた息を吐き出す音が聞こえる。彼女が、三機の壁を抜いた。黒い機影が右方へ弾かれ、蒼と白の機影二つの内、一つが黒に付き添い、もう一つが二つに割れる。何が起こったのかは、わかった。

 ザクの左肩には、巨大な盾が装備されている。古代の屈強な兵を彷彿とさせる、身を隠すに容易なその大楯を掲げたまま突貫したのだ。先頭のガイアに体当たりし、その感触を感じ取った直後に、振り払う。その勢いのままに、ガイアの後方へ追従していた一機に襲いかかったのである。

 

 流石ルナマリア。

 

 シンはそう思った。

 彼女は、体勢を崩したガイアには一瞥もくれずに、アビスへ向かって機体を走らせる。最初の一撃は成功した。一人があっさりと討ち取られるという事実の、周囲の者達へ与える影響は馬鹿に出来ない。

 味方へは高揚を。敵には恐怖を。ルナマリアは、シンやレイ以上にそういう戦い方が得意な女だった。シンは即座に、彼女が確保したこの好機を逃すまいと、ショーンとデイルにも指示を出す。

 

「相手を分散させるぞ、ルナが狙われる前に他を叩く」

『はいよっ!』

『任されて!』

 

 ショーンとデイルの声も、少しうわずっている。緊張から、高揚へ気分が変遷している。これは、良い流れだと思った。相手とて、訓練を積んだ相手である以上立て直すのも速いはずだ。完全に調子が戻る前に、決着を付けなければならない。

 決着を早々に付けてミネルバに戻る必要がある。自分なら、こうして先行してくるMSを引きつけておいて、母艦を叩くだろう。その方が、追う側として負うダメージが多い事になる。そうなれば、負けに等しい。

 ショーンとデイルには、謎の新型を任せた。ガイア相手に【ゲイツ】では辛いだろうと判断したからだ。このガイアは、自分がやる。ライフルを掲げて、ガイアに肉迫する。ライフルはあえて直撃を狙わない。シールドで防ぐ事に集中させる事はしなかった。

 そこを、動いてくれるな。そう念じながら引き金を引いた。相手が、意図を読んで動く奴で無い事を祈る。そして、その祈りは通じた。ガイアはシンのインパルスを警戒して、ルナマリアのザクから気を逸らしたのである。迫ってくる機体の中で最も手強いと踏んでくれた。

 ガイアの手前数十m付近で、不意に左へ機体を走らせる。

 視線がインパルスを追って右へとそれていく。それに反するように、ゲイツ二機が回り込んで、ガイアの脇を通り抜け、謎の新型へ迫っていく。ガイアのパイロットが、意図に気づいた。こちらは新兵の集まりだから、一人に集中されれば瞬く間に死ぬ。

 だから、集中させない。言葉で言えば簡単だが、そのためには常に誰かが敵の眼を惹いていなければならなかった。その役割は、シンが適任だろう。

 

「最高だよ、お前」

 

 ミネルバのMS隊が編成されるにあたって、シン達は進水式にいたる課程の中で演習を繰り返した。誰がどういう役割を持って作戦にあたるか。それを今、確かめることが出来ている。

 レイが守り、シンがかき乱し、ルナマリアが切り伏せる。ショーンとデイルが、タッグでルナマリアの撃ち漏らしの露払い。そしてシンが最後の後始末。

 実戦で考える事では無いと自覚はしている。ただ、好機だと思った。ボギーワンの信号へ近づく中で、打ち合わせしていた事だ。本当にいようがいまいが、やり方を変えなくても済むように。

 そして、このスタイルを変える必要は無いらしい。

 ショーンのゲイツが、新型へ突貫した。シールド内蔵型のサーベルをつきだして、頭部を奪ったのである。そのまま、ショーン機が蹴りつけてがら空きになった胴に、ゲイル機のライフル弾が、直撃する。新型機を二機。チームの戦果としての出だしとして、上々。

 シンがそう思った時だった。

 緑色をした一束の光が、デイル機の背中を捕らえていた。背後からだ。その光はゲイツの背部スラスターを溶かし、胴体を溶かしていく。

 

『ギャ――』

 

 ほんの僅かの、声変わりが終わったばかりのような、甲高い声。それが断末魔だとわかった。光が、ビームである事に気づくまで、瞬き程度の時間がかかった。何故、背後に敵がいる。

 ショーン機が振り返った。その手に握られたライフルに、匕首のような物体が突き刺さる。MSが使用するタイプの、投げナイフ。ライフルを手放した直後に、爆発し煙がショーン機を包んだ。

 

(二重、だった!?)

 

 二段構えの網に入り込んだ事に、シンは気がついた。通過した地点に潜んでいたのだ。最初の伏兵が、奥で捕らえ、やり過ごした部隊が背後から挟み込む。してやられたと、臍をかんだ。

 それを間近に見て動揺しつつも、ガイアに攻撃を仕掛けている事にも驚いた。シン・アスカは、目の前で仲間をやられたにもかかわらず妙に冷静だった。驚いている自分と、俯瞰して物事を見ている自分の二人が、自分の肉体の中にいるようだった。高揚した気分の中で、氷のような自分が"ガイアを撃て"と囁いている。

 ガイアに、盾を投げつけた。何故そうしようとしたのかは、正直言葉に表せない。こうすのが最もベストだと思ったからだとしか言えなかった。所謂"カン"だ。ガイアは自分に助けが来た事を確信したか、自信を取り戻したようにこちらにライフルを向けていた所だった。

 投げたシールドが、ガイアの放ったライフル弾をはじき、あらぬ方角へそらしてしまう。そのまま、盾に銃がはじき飛ばされ、片腕にぶち当たった衝撃で胴体ががら空きになる。シンはそのままインパルスをガイアへ体当たりさせると、サーベルを、抜いて、払った。

 ガイアの右腕が、宙へ飛んだ。

 開いた右手で、ガイアの機体を抱きかかえるようにして、固定する。ようやく、一機捕まえた。そのまま、サーベルの出力を切ってガイアのコクピットに押し当てながら、背後の方角へと向き直る。

 ダミーの信号、アビス、ルナ機。そしてショーン機とシン、ガイア。シンの後ろの並びはこのようなものになっていた。モニタの視界の向こうに、先ほど討ち取った新型の同型機が、その威を誇るように銃口をこちらへ向けている。その向こうで、僅かばかり火花が見え始めていた。

 

(やはり、ミネルバが狙われた。レイが残っていて良かったが・・・・・・カオスがいないのはこういう訳か、クソ)

 

 網に絡まった。素直に認めなければならない。これでは負け越しだ、と。向こうは逃げれば勝ち。こちらはこの時点で敗北が決定している。だが、決定的なものにはしない、とシンの心中では固まっていた。故の、ガイアの拘束だ。

 モニタの、レーダーからもルナ機とアビスが一騎打ちを行っている様子がわかる。

 そしてシンが向かい合っている新型機は、カラーリングが違った。マゼンダに塗られたそれは、おそらくエースの証。襲撃してきた連中の長だろう。

 

「動くな、"サツマイモ"」

 

 チャンネルがわからないから、声は伝わっていまい。しかし、サーベルを握ったまま手を振った。これで意図は伝わる筈だ。マゼンダの敵司令官機は、やはり気づいた。銃口を、やや上げた。いつでも、下げて撃てるように。ショーン機がようやく体制を立て直し、敵司令官機に向けて腰の大砲を構え直す。

 

『この、馬鹿にして!』

「待て、ショーン。撃つな。今不利なのは俺たちだ」

『・・・・・・シン!? 貴方何を言って』

「よく見ろ、向こうの光点を」

 

 ショーンは、状況判断がやや苦手だった。敵司令官の向こうに見える光点は、チラチラと輝いている。それは、丁度ミネルバが位置している場所だった。

 ボギーワンの艦影がここに見られないというのは、()()()()()()

 そして、アーモリーワンの軍港が潰されていた事をシン達は同時に思い出している。つまり、それだけの戦力があったと言う事だ、奪われた三機以外に。ここにいたのは、アビスとガイア、そして新型機三機。奪われた機体を差し引いても三機。短時間で軍港を潰せる数では無い。

 つまり・・・・・・ボギーワンにMSが相当数残っている。ミネルバも伏兵に引っかかったとすれば、今その戦力がそちらに集中しているという事だ。

 

「状況は最悪だ。今は俺たちが負けてる」

 

 後ろで殺り合っているルナマリアを含めて、ミネルバまで帰還するにはどうするかを考えるが、策が思いつかない。ガイアの拘束も、一時しのぎにすぎない。母艦が墜ちれば、意味の無い行為に過ぎなくなる。

 考えろ、シン・アスカ。

 サーベルの柄をガイアのコクピット部に押しつける。もがいていたガイアが、今度こそ動かなくなった。きっと、モニタの前にでかでかとビーム形成口が見えているのだろう。ふれあい回線で、声が聞こえてくる。

 

『ひっ! ネオぉ!』

 

(・・・・・・!? 女の子の声?)

 

 力を、ゆるめそうになった。すんでの所で思いとどまったが、この行為を長く続けられそうもないなとも思ってしまった。自分の方が、耐えられなくなりそうだ。

 おそらく、この状況にまで至った段階で、この場で最も闘争心溢れていたのはルナマリアであったろう。アビスの砲撃を交わしながら、大斧をふるってデブリを次々に切り裂いていく様は、まるで古の張益徳かとも言わんばかりだ。

 ただ、シンとショーン、そして敵指揮官機とのにらみ合いは、対照的に静かに時が過ぎ去っていく。実時間で言えば、数分も経っていないのだが、彼に取ってみれば何時間と数えるよりも長く感じた。

 幾ばくかの時が経ったとき、敵指揮官機のバイザー部が、光った。

 

『黒い新型を離せ。俺の部下を帰して貰おう』

「返せと、どの口で言う。元々こちらのものだ、泥棒が何を言うか」

『家賃踏み倒しの不法滞在者から、そんなお言葉を頂戴するとは』

 

 集中を削ぐ気だろうが、そうはいかない。サーベルの柄で、再度コクピット部分を軽く叩く。一瞬、ライフルの銃口が動く。どう、切り抜けるか。シンの頭にはその考えばかりが渦を巻く。討ち取れれば最上だが、この状況下でそれは贅沢というものだった。シンの頭から、だんだん考えが浮かばなくなってくる。万事休すというのはこういう事かと思い知る。

 

 その時の事であった。

 

 ミネルバ周辺にチラチラと見えていた光点が、減っていくのが見える。

 そして、母艦たる艦影の周辺で、火球が幾つも灯り始めた。それが、MSの爆発によるものだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

 別の方角に、光弾が打ち上げられる。帰還信号で用いられるものだ。ミネルバからでは無い。つまり、ボギーワンはシン達が闘っていたこの付近に潜んでいたという事に気づく。形成が逆転したようだった。しかし、何故だ?

 ほんの僅かの間、気が緩んだ。シンは、油断したと気づいたがすでに遅かった。ガイアが身をひねり、インパルスを殴りつけてくる。衝撃に顔が歪み、視線がぶれ、対応が遅れた。ショーン機が、インパルスのそばへ来て構えてくれなければ、撃たれていただろう。

 

「ショーン、ごめん」

『一つ貸しよ。何やってんの』

 

 向こうの光点が気になったとは、言えないなと思った。

 実際、向こうからみるみるうちに、こちらに緑色の機影が接近してくるのがわかる。ショーンも、気づいたようだった。その機影は、カオスだ。三対二になるかと、最初は考えた。しかしそれは杞憂であった。

 カオスは、追い立てられていたのだ。

 他に敵MSの反応が無いという事は、カオスを除いて全滅したという事である。誰がやったのかは、すぐにわかった。

 白いザクと、緑のザクが一機ずつ、こっちに向かってくるからだ。

 

『レイと・・・・・・誰?』

 

 やっぱり、乗って来やがった。彼が内心そう毒づくのと同時に、ショーンの言葉に対しどう返すべきか迷う。言えばきっと、混乱するだろうから。

 

(アスラン・ザラ、か。前大戦の英雄・・・・・・いるに越したことはないけど)

 

 敵指揮官機が、カオスとガイアをまとめて踵を返す。

 アビスが、ルナ機を突き放すようにデブリを用い初め、ルナも振り切られて戻ってきた。

 

「認めなきゃだめだな、緒戦は負けだってさ」

 

 シンは、味方にそう聞こえるように言った。

 

 それは、自分に言い聞かせるものでもあった。最後に、勝てば良いのだから。

 

 

 

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