機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~ 機械人形は"蒼き星"の夢をみるか ~   作:松ノ木ほまれ

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第13話

 

 

 ~ デブリ帯 ~

 

 

 流星のようだと思った。

 

 レイ・ザ・バレルは、ミネルバのMSカタパルトから射出された、高機動兵装"ブレイズ"を装備したザクを見て、その戦ぶりをみてそう感じたのである。心の中から誰かを賞賛する気持ちを抱いたのは、久方ぶりだ。

 訓練時代、シン・アスカとルナマリア・ホークに抱いたモノとはまた別種の、尊敬の念と言っても良い。滑らかで、かつ力強い動きであった。

 最初の内、この局面を乗り切れるのかの不安がどうしても拭えなかった。

 伏兵に、引っ掛かった。先行したシン達がどうなったのか気になるが、ミネルバも伏兵に引っ掛かったのである。デブリの中から不意に現れた、黒に統一された特殊仕様の【ストライクダガー】と、レーダーに現れる【ボギーワン】の反応が、ミネルバのクルーを惑わせた。

 レイは、砲撃戦仕様の兵装"ガナー"で出撃し、何としてでもMSを近づけないよう尽力する事となる。初陣で砲台代わりというのはいささか不満を抱いたが、状況がそれを許さなかった。

 

「1、2、3・・・・・・4機だと?」

 

 ほぼ一個小隊投入か。体温が下がっていくのを、その時レイは体感で味わう。残っているMSは自分一機。残りは現在【ボギーワン】の信号めがけ哨戒中だ。つまり、1対4。性能はこちらが上回っていると言っても、数の優位というものは古来より覆すのが容易ではない"壁"なのだ。

 ミネルバも新鋭艦とは言え、相手はMSである。加えて、ボギーワンの信号が複数現れたという事は、どれがデコイでどれが本物なのか今から確かめなければならないという事実。泥沼のそこから、竹筒だけ水面に出ているようだと、レイは思った。とても息苦しいが、その程度で息を止める訳にはいかないのだ。

 

「義父さんと姉さんがいる。それだけは、させん」

 

 もし姉の顔に傷でも付いてもみろ、片っ端から八つ裂きにしてやる。

 姉が傷ついてしまう光景を想像し、冷えた全身に今度は血が行き渡っていく。ふつふつとわき上がってくる感情が、手足を操り出すようであった。照準を右から合わせる。動きは速いが、一定のパターンがあるというのがわかった。動く先は、ある程度ならば予測が出来る。これが、レイの特技であった。

 シンやルナマリアら同期の間で、一歩抜きん出た"読み"こそ、彼の真価である。

 引き金を、引いた。射撃用兵装の特徴的な大砲"オルトロス"から、艦砲さながらの光の奔流が放たれる。白と赤の、高温で包まれた光の帯が、一機のダガーを押し包んで融解させた。読みが当たったのだ。これから動くであろう先の箇所へ、撃つ。行く先に弾が来れば、避けるのは至難である。

 100m走を全力疾走したゴールテープの向こうに、槍ぶすまが設置してあるようなものだ。

 他の機体が、レイ機の射撃に息を呑んだか、ミネルバを遠巻きに射撃せんと試み始める。それも、させるつもりは無い。ここは仲間が帰ってくる場所であり、義父がいる場所であり、姉がいる場所なのだ。だが、いかんせん数が多い。一機を討ったがまだ残りは三機もいる。どれかの接近を許してしまいそうだ。ここに、増援でも来ようものなら、不味い。

 もう一機へ狙いを定める。レイは艦首を守るように艦の前衛に位置しており、右舷へ回ろうとした機体を討った。残りは、上と、下と、左。

 次は下だ。船底に防御機構は備わっていない。そこへ回られれば良いカモである。

 下方へ砲塔を向けながら、レイは昂ぶる心中へよぎる一抹の不安が、実現しないことを祈った。もしここで、奪われた新型なども伏兵として投入してきたら、不利だ。そして下へ回ろうとする敵機を、頭部から真下へ焼き切った。

 

「あと二機! このまま終わってくれ」

 

 本音だった。たまたま、一発で命中するのが二回続いただけ。奇跡は三度も起こるまい。二度起こったのを目にした敵パイロットは、いっそう警戒心を抱いて向かってくる事は必定だからだ。また、先ほど抱いた嫌な予感が未だ拭えない。何かが起こる。それも悪い方向に。

 そしてそのレイの予感は、さして時を立たずして的中した。

 シン達の向かったデブリとの中間地点、その辺りから複数の影が現れたのである。数は3。二つは先ほど出現した機体と同型であったが、残る一機のシルエットを見た時、レイの背筋に悪寒が走った。

 カオスだ。

 緑色の機影に気を取られた時、レイは左舷に回り込んだ敵機の事が頭から抜け落ちている事に気がついた。ふと気づいて振り返った時、敵機はすでにMSカタパルト付近にまで接近してしまっている。

 

「―― しまった!」

 

 その時の事である。カタパルトのハッチが、開いた。それが全て開ききるのも待たず、中からMSが一機飛び出し、そのまま接近していた敵のダガーへ襲いかかった。

 一機のザクであった。通常カラーの、高機動兵装を装着した機体。一体誰が操縦しているのだと、レイは首をかしげる。姉は、MSの操縦は出来ない。そちらの成績はてんでダメだったと愚痴っていた事は記憶に新しかったから。他に、候補者として浮かんでくる顔も無かった。

 就任する予定だった幾人かはアーモリーワン襲撃の時点で消息不明となっている。

 他にパイロットもいなかった筈だった。誰が乗っているのか心当たりが無い訳では無かったが、考えたくなかった。"彼"は、今やザフトでは無いのだから。

 

(アスラン・ザラ? いや、まさか)

 

 あの、青紫の髪を脳裏に浮かべ、レイはこんな状況にもかかわらず不機嫌になっていく自分に気がついた。姉の身体に触れた、無礼者の顔が浮かんだからだ。そして、そんなやり場の無い怒りが、忽ち鎮んだ。

 ザクが、動いた。不意を突かれたダガーの脇を通り過ぎたと思った時には、すでにダガーの胴体を焼き切ったような跡が見える。そして、胴体がゆっくりと割れていく。ダガーが持っていたバズーカ砲も、いつの間にかザクの手中にあった。すれ違いざまに切り裂いた上に、武器を奪い取ったのだ。

 レイは、負けていられないとザクの砲塔を、上へ回り込もうとしていたダガーへ向けて引き金を引いた。左の奴に気を取られこそしたものの、完全に意識の外へ置いたわけでは無い。幸い、ミネルバの火器管制官、チェンの対応は早かった。対空火器【CIWS】がダガーの動きを牽制し、読みやすくなっていた。

 

「ありがたい」

 

 そのまま、機関銃の弾丸に囲まれるダガーを撃ち抜いた。

 運を拾った。それは戦場において非常に大きな転換点である。不意を打ったつもりが、相手は今先鋒を全て失った形になっている。カオスは、どう出るだろうか。屈辱に激昂し、晴らすために向かってくるのか、それとも撤退するか。自分なら、後者を選ぶ。

 そして相手は、反対の考え方のようだった。

 カオスの動きが、やや単調になったのだ。ライフルでしきりに、出撃してきた緑のザクを狙っている。背部の特殊武装【機動兵装ポッド】を射出し、三方向からザクを蜂の巣にせんと試みていた。

 

 レイがかのザクの動きに見とれたのは、その時である。

 

 高機動兵装を装備しているとは言え、ザクの推進力はカオスのそれには一歩劣ってしまう。こういう宙間戦闘に特化した機体と汎用機の差とも言えるが、それをザクのパイロットは腕前でカバーしていた。

 小惑星とも言えぬMS大の石ころを足場に、日本の"ウシワカ"が如く、方々へ飛びながら加速していく。目で追うことすら難しいその動きに、カオスと僚機達が惑わされ、照準がおぼつかなくなる。

 

『僚機を潰してくれ』

「――っ!? 了解した!」

 

 思わず、そう答えてしまった。何故なのかは、わからない。言葉に込められた力に呑まれたと言うべきなのだろうか。不思議と、嫌とは思わなかった。声には聞き覚えがある。間違い無く、先ほど姉の肩を掴んでいた不届き者の声。

 

 アスラン・ザラだ。

 

 彼がどうして軍の機体に乗っているのかは、今は考えなくて良い。せっかく二機に増え、カオスを取り戻す好機が来たのだ。これを逃す訳にはいかない。砲塔を、カオスの僚機に向ける。相手としては、必勝の策だったのであろうが、運がこちらに向いたのだ。

 恨んでくれるなよ。そう心中でつぶやきながら、引き金を引いた。幾たびと放たれた白い光が、一機のダガーをかすめ、脚部を溶かしていく。それでも、十二分の効果が見込める。足を奪われた兵士は、部隊の動きを阻害するためかえって邪魔になるのだ。本来の陣形も取れず、守る対象となるのだから。

 それを、カオスは気にしていなかった。いくら操縦が上手かろうが、それはパイロットとしてやってはならない事だった。

 

 アスランが操っていると思われるザクが、瞬く間に距離を詰めていく。

 

 真っ先に狙ったのは、足を奪われたダガーを守ろうとした、もう一機のダガーであった。いつでも潰せる相手は後にする。一見慈悲にも見えるその"見逃し"が、この上なく恐ろしい判断によって下されたものなのだと、レイはすぐにわかった。

 カオスの眼を振り払い、後部に回り込んだザクが、バックパックに搭載されたミサイルを周囲のデブリめがけて発射する。四散した破片がカオスへ集中し、視界を奪った。その隙を狙いダガーへと目線を向けるザクを見て、ダガーの動きが一瞬硬直する。

 レイは、操縦桿に力を込める。動きが止めた自分自身を恨めと祈りつつ、無事な方のダガーを打ち抜いた。そして、脚部が融解しバランスを失っているダガーへ、アスラン機が近づいていく。トマホークを抜いて、ダガーの肩を掴んだ後、腹部へそのまま打ち付けた。

 

(無慈悲な)

 

 カオスが、煙を払って姿を現した。

 味方が、瞬く間にやられた事に逆上したようである。ポッドをアスラン機めがけて再び飛ばす。奪ったばかりの機体で、よく出来たモノだと感心した。あのポッドは、前大戦でも活用された"オールレンジ攻撃"を可能とする兵装でありながら、コンピュータによる機械制御を加える事でパイロットの空間認識能力に依存しないモノへと進化している。

 それでもなお、使いこなすとなれば高い技量を求められた。そんな代物を、奪った短時間で使えるという事は、その程度の技量はあるのだろう。

 

 ―― しかし、技量だけでは

 

 自分が狙われている時であっても、レイはそう口にしただろう。ポッドの動きは、怒りのあまりに動きがシンプルになっていた。読むのはそう難しい話では無い。新兵であるレイですらそうおもうのだから、相手がエースとなれば・・・・・・先読みされて打ち落とされるというものだ。

 片方が、ライフルから放たれるビームの中に消えて行く。撃った先に、ポッドが入り込んだという落とされ方であり、カオスからも動揺が伝わってくる。もう片方を回収したカオスが、離脱を開始した。

 後を追い始める。勝ちへと転化し始めているのだという事がわかった。状況だけを見れば、負けにも等しかった状況からだ。段々と、気分が高揚していくのがわかる。レイは、こういう気分になるのは初めてだった。

 そこから先は、撤退してくる味方を回収し、緒戦は負けなのだとうちひしがれるシンとルナマリアをなだめなければならないのだが、レイは不思議と嫌な気分にはならなかった。全体で見ればまだ"負け"だが、勝ち越し出来る余地が残っているのだ。

 戦場に出るだけで、色が塗り変わる。戦記物でよく見たことがある光景だと思ったが、実際に目にするのでは印象が違うのだと、彼は知ったからだ。

 周囲を最後まで警戒していたザクを見やりながら、レイはなんとも言えないこの感情をどう呼ぶのだろうと、後で姉に聞いてみることにした。

 

 

 ※※※※※※※

 

 

 ~ プラント本国・ディセンベル市 ~

 

 

 プラントの時計は今、夜の23時を指している。市街地を走る車の数も少なくなり始め、人通りは現在ほぼ無いと言える、そんな時刻。ビル街の一角で、遮光カーテンが閉められ、その隙間から光が漏れ出ていた。大抵の者は、コーディネイターのくせに残業なぞと、呆れながら帰路に就くであろう。

 『デイリー・ドリーリング社』の、重役室からであった。

 プラントにおける、周囲の小惑星規模の採掘資源基地やデブリの状況は死活問題へ直結する。それらを一般市民へ伝える新聞は、掘削機械の製造や管理、もしくは実行へ従事する従業員らには生命線と言って良かった。

 出版会社は数多いが、この会社は地球の古い同業他社とも業務提携に成功している、数少ない企業でもある。そんな上昇傾向ある会社の一室で、男が縛り上げられている。スーツは脱がされているが、ごく普通の企業人の風体をしている男だった。

 

「――ッ!!」

 

 口には猿轡が噛まされ、目隠しがされている。

 スーツと共に放られている身分証には、ドリーリング社専務の肩書きが書かれていた。窓から漏れている薄い光は、彼の顔をずっと照らしているライトのものである。

 哀しいかな、この重役室は会話が漏れ出ないように防音仕様であり、男のうめきも何もかも、外に聞こえることは無かった。

 縛られている男に向き合うよう、椅子が一つ置かれている。明かりの端に、ブーツのつま先がちらりと見えていた。縛り上げる命令を下した張本人だった。現在、この部屋には四人の男女が詰めている。縛られている男と、後三人。命令した者と、実行犯二人だ。真ん中にいた者が、椅子に座った。

 来ているのは、プラント各コロニーに支部を構える『シュネル・ザゥバーカイト社』の現場作業服であり、所謂ツナギである。多少汚れていても問題視されない服であった。真ん中の椅子に座った男が、切り出す。

 

「こんな夜分に、()()()()()して申し訳ない、ジェレッリ専務」

 

 言葉は丁寧だが、口調が軽快だった。あえてそうしているとも取れる。今の段階ですでに、ジェレッリと呼ばれている男性は怯えきった反応を示していた。これ以上、言葉でまで追い詰めないためと考えられるが、声はとても力強かった。

 

「口だけ自由にしてやれ」

 

 暗がりに座る男は、部下と思われる女性に命じた。縛られたジェレッリに近づいた女が、猿轡を外す。伸びた涎が太ももへと垂れ、それと同時に彼はわめき始めた。意味が未だにわかっていなかったのだろう、防音室だというのにもかかわらず、まだ外に誰かいるかもしれないという一縷の望みに賭けたらしい。何とも哀しい奴だ、と暗がりの男は呆れた。

 

「誰か! 助けてくれ!」

「喋るのはこちらですよ。おい、黙らせろ」

 

 男が、右手を挙げる。今度は、控えていた別の部下が、ある物を手に近づいていく。部屋の中は暗がりこそあれ、電化製品がコンセントにつながれていた。重役室には似つかわしくない、ある物が。再び、ジェレッリに猿轡が嵌められ、高温の物が太ももに押し当てられた。

 

「・・・・・・!? ンゥーッ! ムウゥーッ!」

 

 肉が焼ける音がする。毛が縮れ、肌がこんがりと赤黒く変色し、肉が傷みに震える。神経に伝わる痛覚が、ジェレッリの頭を刺激して、身がのたうった。あまりにも見苦しく、暗がりにいる男も顔を顰める。五秒ほど押し当てた後、もう一度轡が外された。

 

「私が良いと言うまで、何も喋らないでいただけますか?

 そうでなければ、また()()()()()()をしなければならない」

 

 暗がりから身を乗り出して、ジェレッリの耳元でそう耳打ちする。こくこくと、力なく頷くジェレッリを見て、もう一度男は座った。ちらりと、オレンジ色の髪の毛をたなびかせながら。

 

「よろしい。では続けましょう。

 せっかくの週末を不意にして誠に申し訳無いが、質問にいくつか答えていただきたい」

「な、何の、し、質問だ」

「カルミネ・ジェレッリ専務。貴方は、ここディセンベル市において国軍の物品保管庫より、一部物品が持ち出されていた事をご存じか?」

「何の事だ、私が関係あると言うのか? ただの文屋だぞ」

「そう、聞く限りではそうだ。全く関係が無い」

 

 ディセンベル市駐留のザフト軍基地より、特定の物品が明らかに減っている。その報告が、暗がりの男にもたらされたのは二ヶ月ほど前の事。通常通りの業務しか行われていなければ、発覚することが無かったと言えばその異常性がわかるだろう。

 データ上では変動が見られない、パーツや物品の在庫が減っている事に気づいたのは、男の部下だった。その部下は癖で、常に手書きの記録も残していた。通常であればPC上に数字を入力するのだが、そちらと同時並行で行っていたのだ。常日頃、データがいつ吹っ飛ぶかもわからないから書き残しているのだと言っていた部下を、彼はあれほど褒めた事も無かったと思う。

 

 入隊前、自前のPCに保存していた"男の秘蔵画像集"が消えて無くなった経験から癖付いたのだと聞いて、あきれ果てた事も記憶に新しい。

 

 ともかく、手書きで残っていた在庫追加・出庫の記録と、ザフト軍のサーバ上に残っていた記録とを照らし合わせると、数が合わなくなっていたのである。データ上の数と、その時数えた時の数に変動が出ていると気づいたのは、二ヶ月半前。そして、データそのものに改ざんが加えられている事の確証が持てたのが二ヶ月前だったのだ。

 入ってくる数や、生産元である国営企業『マイウス・ミリタリー・インダストリー社』の出荷情報からして改ざんがされている事を知ったときは、ゾッとしたものだ。

 MSのパーツは丸々十数機組み立てられる数だったし、物品は部隊が数週間行動できる程の量である。見過ごせない規模の流出だ。故に、男の率いる部隊で調査に乗り出した。そして行き着いたのがこのジェレッリだ。

 

「専務。『ノービエ・エ・ロンブラ』という商社に心当たりは?」

「き、聞いたことも無い。プラントの会社ではないだろ」

「・・・・・・今夜は焼き肉ですな。ウェルダンがお好みか」

「――!? ま、待て、わかった! 話す!」

 

 さっさと潔く話せば良いものを。すでに、ジェレッリが持ち株を有するこの名義のみの会社から、作業員が基地へ出入りしていた事も知っている。記録に依ればの出入りの名目は"設備点検"だった。故に、点検用具の入出もチェックがされていた。

 だが、その担当となった兵士は、特定の人物のみである。その兵が担当する日を狙って出入りしていた。すでに、そいつ等は隊の者達が()()()()しているだろう。

 

「何が知りたい、我が社の"収入"か? 分け前が欲しいのか」

「誰にそそのかされた。それを聞かせてもらえればそれでいい」

「し、知らない」

「ハァ、ドMの相手はこれだから」

「本当だ! 本当に知らないんだ!

 報酬もポンとくれる奴だった、口止めも色付けてくれて・・・・・・」

「それでお前は国を売ったのか、このクソ野郎」

 

 数十万ドルの"はした金"のために、国の資産がどこの誰ぞとも知れぬ相手にわたるなぞ、看過できるはずも無い。段々と、平静を保つのが難しくなって来たようだ。髪の毛を掴んで、もう一度耳元で言う。

 

「良いか、正直に話せ。横流しの件もあるが、この『デイリー・ドリーリング』の()()について、もう少し聞きたい事がある」

「ヒィッ」

 

 次いで目隠しを外してやる。明かりがジェレッリと、尋問している男の顔を照らし出した。そしてジェレッリの口から、小さな悲鳴が上がった。よく知っている顔だったからである。

 特徴的なオレンジ色の髪が眼を惹く、色男だ。

 しかし、清掃員の制服を着るような男では無い事も、知っていた。故に、だんだん身体の震えが押さえられなくなってくる。このオレンジ髪の男は、民間人でなく軍人だったからだ。

 

「ハイネ・ヴェステンフルス。何でアンタが」

「質問に答えろと言ったぞ、ジェレッリ。直球に聞く。おたくの会社、"鼠"を何匹飼ってやがる。名と、特徴を、教えるんだ。そうすればお前は無事に帰れる。だが・・・・・・」

 

 ハイネと呼ばれた男は、ジェレッリの眼を真っ直ぐ見据え、言った。

 

「答えによっちゃ、奥さん共々棺に詰めてやる」

 

 

 

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