機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~ 機械人形は"蒼き星"の夢をみるか ~   作:松ノ木ほまれ

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第17話

 

 

  ~ ミネルバ・MSデッキにて ~

 

 

「対MS戦闘を想定しろ、か。きな臭くなってきた」

 

 シン・アスカはそうつぶやきながら、コアスプレンダーへ乗り込んで発信シークエンスを進める。出撃にあたってのブリーフィングにて、艦長・タリアから告げられた言葉を思い出しながら。

 少し考えれば、あれだけの質量を持つ塊が動き出すのに必要なエネルギー、その源が何であるかを絞っていけば自ずと行き着く答え。

 隕石や小惑星であるならば、ZAFTや連合軍が察知出来ない筈が無く、両者の目をかいくぐった何かがアレを動かした、と考えるのは極めて自然な流れである。つまり、モーターなり何なりで動かした不届き者がいるという事。

 

< アレ動かすのにさ、どれぐらいの機材が必要なのかな >

「一朝一夕で用意出来る数じゃどう考えても無理だろうな」

< つまり……ずっと用意し続けてきたか、ごっそり渡した奴がいるって事でしょ?>

「ルナ、考えないようにしてたのに……」

 

 ルナマリアの不安は尤もだ。コロニーを動かすほどの機材となれば、購入するなり、どこぞからかっぱらうなどしてきたのだろうが、そうなれば足が着く筈だ。そちらの方面はそういう公安系の方々に任せるとしても、これをお膳立て出来る奴がいて、準備してきた奴等がいるという事に他ならない。

 

 ―― コロニー落下を意図して計画したテロリストがいる

 

 考えたく無かった事。もし的中していたのであれば、それがどんな連中であったにせよ破砕作業は難航するであろう事は想像に難くない。ZAFTと連合双方の眼から隠れきって計画を実行できる連中という事に他ならないからだ。

 

「ジュール隊の面々は既に出撃を開始している。俺達も続くぞ」

<< 了解! >>

「後詰めを頼めるか、ショーン」

< 任せて >

 

 母艦の安全を確保するための戦力は必要である。ショーン機をミネルバに残し、シンとルナマリア、そしてレイの3機で出撃する。追って、戦局を見てショーン機が出てくる予定だ。ブリッジからの一報によれば、それとは別に『アスラン』も折を見て出撃するそうだ。

 

「アスラン・ザラね」

< 大戦の英雄、ジャスティスを駆ったエースパイロット様ってね >

< サインをせがまなくて良いのか、ルナマリア。ファンだったろう >

「そーだぞ、チャンスじゃん」

< 確かにそぅだけどさ。こういう機会を使うのはむしろ駄目だと思うのよ、私 >

 

 大戦で活躍し、終戦後国から姿を消した男。業績が知られるくらいで、人となりというものはあまり広まっていない。それがシン達世代にとっての"アスラン・ザラ”だった。

 悪く言う者は、国を裏切っただの棄てただのと言う。タイミングを見ればさもありなん。母国が地球連合軍と血みどろの激戦を繰り広げていた終盤に、父親へ反旗を翻したとみられてもおかしくない動きをしている。パトリック・ザラに追従せず、ラクス・クラインの手を取って双方に牙を剥いたと見ている者。

 

 シンとレイも、どちらかと言えばその印象が強く、良い感情を持てるかと言われると難しい。逆に褒める者もいる、ルナマリアはその代表だった。

 

 黄道同盟=ZAFTの前身を立ち上げた頃ならともかく、当時のパトリック・ザラは指示するに能う人物であったかと説く。そう言われると反論できないのも、アスランという人物を評する事に難儀する要因となっているのだ。彼のした行為は褒められたものでは無いが、背景を思えば仕方が無い側面が十二分にある。そう主張する擁護の声も無視は出来ない。

 

 ひと言に纏めるなら、賛否両論、やや否が勝る。彼の評はそんな感じ。

 

 ただ、いざ本人をああして直に目にすると、市井で人が口にする人物評とは当てにならないものだとも思う。

 

< それに、ああして直に見ると"英雄"の側面が見えないっていうか >

「何か、普通だったよな」

< そういうものだ、人の噂なぞ。だが彼の操縦は"美しかった" >

「えっ? レイがそう言う程なのか!?」

 

 驚いた。レイがそうやって素直に他者を褒める言葉はこれまで聞いたことが無かったからだ。ルナマリア機からも、驚嘆の声が聞こえる。意外な事であった。

 レイは、シンの問いにも即答する。

 

< 事実だ。彼の操縦技術はこの2年姿を隠していた事を差し引いても、流麗と呼んで良い。正直妬ましいとすら思った >

 

 先の戦闘で、カオスのポッドを打ち落としたザクの動き。今でも鮮明に思い出せるとレイはやや興奮気味だ。それにすら驚きを隠せない。そしてレイの言う"嫉妬"を別の方向から抱いた。僅かながらの反発心だ。そりゃあ、大戦で名を馳せた男と、最新鋭機を任されたと行っても卒業ほやほやの新米を比べるのは無理があるのだが。

 

「……お手並み拝見だな」

 

 少し、妬く。自分はレイにこう言わせたことが無かったのに。

 やってやろうじゃん、今世代のパワーを舐めるなよ、と内心で自らに言い聞かせながら操縦桿を握る。視界の向こうに広がる暗い海へ躍り出ると、そこからは別の世界だ。ちょっとでも気を抜けば飲み込まれる。

 一足先に、眼前に見えている"巨大なすり鉢"へ向かっているであろう先輩方と合流すべく。シン達が先行して進んでいく。

 

 

  ※※※

 

 

  ~ ユニウスセブン ~

 

 

「ナスカ級と新型艦の反応!? 何故だ!?」

 

 ミネルバの首脳、そしてシン達の感じていた嫌な予感。

 まさしく的中していた訳であるが、そのテロリストの首魁・サトーも困惑していた。彼だけでは無く、テロリストの参加者全員が例に漏れず、不意を突かれたがためにポテンシャルを十二分に発揮出来ずにいた。

 

 対処が()()()()!!

 

 それが今テロリスト達を揺るがしている事実。

 慰霊碑と化したユニウスセブンと本国との距離。定期的に見回っている警備や、小惑星破砕のスケジュール。それらも全て"協力者"を介して手に入れていた。それらを照合して、穴がある日付を選択した筈だった。

 除隊以降の、ZAFTと連合宇宙軍の動きも、"協力者"の情報はこれまで一度たりとも間違っていなかった。()()()()()()()()()と言うのだろうか。

 

「あと6時間、到着は6時間後になる筈だったのに……」

 

 到着時間が、テロリスト側が想定しているよりも圧倒的に早かった。加えて、入って来た識別信号はナスカ級戦艦『ボルテール』、そしてまだ距離はあるが新型戦艦『ミネルバ』がやって来ている。

 何が起こっている?

 方やヤキン・ドゥーエを生き残ったエースが率いる部隊。そして近日進水式を迎える予定の新造戦艦。どちらも()()()()()()()()()()()ではないか。何故そんな連中がもうここにいる?

 

 あまりに、あまりに早い。

 

< 何でこんなに早くバレ ―― >

 

 そう零した同胞のジンを、光の帯が包んだ。

 何たる皮肉か。この地で亡き同胞達への鎮魂を阻むのが、他ならぬ同胞達なのだから。サトーの視線の向こうへ移った影は、『ゲイツR』だった。ZAFTのMSがZAFTのMSへ襲いかかる構図になった訳だ。

 胸中にわき上がってくる怒りに突き動かされ、サトーはジンを一転させ、重斬刀を振りかぶって、駆け抜けぎわにゲイツの胴を両断する。視線の向こうにみえるMS部隊はその手に、粉砕器『メテオブレイカー』を携行しているのが見えた。

 何故止めようというのか、という思いが収まらない。

 この地で死んでいったコーディネーター達の無念を晴らさずして、先へ進めようか。目を背けたまま、引き金を引いた者達へ唯々諾々と頭を下げるのか?

 

「お断りだ、そんな生き方なぞ!

 各々、あの粉砕器が破壊を優先せよ! 砕かせてなるものか!」

 

 真っ平ごめんだ。

 これが八つ当たりである事も、やり場の無くなった怒り、振り下ろす先を見失った拳をただただぶつける行為と揶揄される事くらいわかっている。だが他にどうせよと言うのだ。ここで無惨に死んでいった家族達を忘れて、日雇いの仕事にでも就けと?

 ここで農業を研究する仕事に従事していた愛する人々の顔を覚えている。共に戦場で轡を並べた共は先に散った。どこで生きていけば良いのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うのに。

 それを奪った連中が今もなお、あの蒼き星で安穏と暮らしているのだと思うだけで気が狂いそうになる。その機会すら奪っておきながら、今もまた邪魔をしようというのか。

 

「今更邪魔させてなるものか、思い知らせてやるのだ。

 地上のナチュラルと裏切り者共に、我らの怒りと悲しみを」

 

 重斬刀を片手に、ライフルを携行して宇宙を舞う。粉砕器設置を指揮している新型の方が、"ボルテール"のMS隊指揮者であろう。話に聞いていた新型機の姿が見える。しかし率いている兵達は新米だと解る。先ほどのゲイツもそうだったが、動きがまだたどたどしいのだ。

 

「君らも志を持って軍門をくぐったのだろうが、運が悪かったな」

 

 時と機会を間違えなければ、戦友になれていたのかもしれない。しかし今は宇宙の放浪者でテロリズムに手を染めた悪鬼なれば、軍属相手にすることは一つである。

 誹りはあの世で聞いてやる。英雄とその輩が何する者ぞ、我らが憤怒の炎で焼き尽くしてくれようではないか。

 

 仲間達が、方々で粉砕器と設置しているMS群への攻撃を開始した。

 

 視界の向こう、『ザク』とか言う新型もコチラを視認したのが見える。背筋に戦慄が走った。あの白と水色ベースの奴は、明らかに()()()である事がわかる。サトーは思い出した。ジュール隊の隊長、【イザーク・ジュール】のパーソナルカラーを。

 かつての大戦で、遠目に見かけた事を想いだしたのだ。あの時は運良く生き延びた。今回はあの時のようには行かないだろう。だが……、宿願を果たさずして死ぬつもりは毛頭無い。

 

「隊長機とお見受けする! 邪魔立てするなら容赦はせぬぞ!」

 

 

  ※※※

 

 

  ~ ユニウスセブン周囲・デブリの影 ~

 

 

「ピュリッツァー賞を狙えるようなのを撮ってくれよ」

 

 岩礁の影で、『ガーティ・ルー』が佇み、そのブリッジで複数の男達がモニターを見守っている。ネオ・ロアノークは、出撃させたMS隊の『ダガーL』2機の帰りを待っていた。今まさに起こっている一大事件の写真を手に入れるためだ。これは今回の作戦で手に入れた情報以上の価値を持っている事は明らかだったから。

 秘蔵っ子達は、休ませている。

 強奪した機体はあくまで"女神"を引きずり出すための作戦だ。ZAFTの新型開発情報と、『地球侵攻を諦めていない』と追及できそうな情報を手に入れる事が優先であって、破壊は本来の目的では無い。

 無理をして出撃させる必要は無いし、それに逃げる道中でカオスとガイアが破損した。

 予備パーツなぞ有るわけも無く、修理は望むべくもない。アビスは丁寧に使わせていただくとして、出す機体が今本艦には無い、という懐事情もあった。

 

「しかし、気が引けますな。あんな光景を目の前にしてやる事が撮影とは」

「仕方無いだろう。それが命令だ。それに、あのコロニーは間も無く()()()

「それが確かなら安心も出来ようというものですが」

「強奪の時活用した情報をもたらした"筋"からのものだ、信じて良いだろ」

 

 出来レースの鑑賞というのは、味気ないものである。あの所々で光っている光点の中にいるであろう、"本来のZAFT諸君"とテロリスト達は、双方必死になって戦っているのだろう。ただ哀しいかな、そこはもうこちら側が用立てた碁盤の上なのだ。

 せいぜい、良いビデオを撮らせてくれ。

 『明らかに地上戦・水中戦を意識した設計の新型』の情報と、今まさに映像で捕らえているこの顛末を見て、地上の人々はどういう反応を示すのか。いかに弁明を重ねたところでもう遅い。口実の最後のピースがこれから揃うのだ。

 

「しっかし、哀れだよ。自分らが出した膿をちゃんとケアしないからこうなる」

 

 ネオは、今まさに必死になって事態を収拾しようとしているであろう、プラントの上層部の面々に同情する。先代達が振りまいてきた厄災のツケをしっかり払って貰う事になるのだから。

 子供に罪は無い?

 それは怨嗟渦巻く地上で暮らしている被害者達に聞いてみると良い。

 穏健派と知られているらしい"クライン"ですら、地上にニュートロン・ジャマーをばらまいて餓死者を出した。シンプルに武力で望んできたパトリック・ザラの方が可愛げがあると言っても良いかもしれない。

 地球人口の大半を根こそぎどん底にたたき落としておいて、今更虫の良い話をするな。

 

(お前等が生まれさえしなければ、俺みたいな奴も生まれずに済んだんだ)

 

 ネオの眼は、ガーティ・ルーの乗員の誰よりも暗く、淀んでいた。

 

 

  ※※※

 

 

 ~ ?????? ~

 

 

 コロニー落とし。

 

 観測している、今まさに地球へ向けて降下を開始していた半円の鉄塊は、幾星霜の時を経てもなお変わらない『人類の業』と称するにためらいも無くなっている。相も変わらず、人間はその時取り得る最大の威力を持ってして、同種を鏖殺するに躊躇わない生き物だ。

 腹を満たすという生物の本能意外で、危機として同種族を殺す生物は人間とチンパンジーくらいのもの。特に人間は、何かとその行為に理由付けをするべく"大義名分"を掲げる。

 集落、国家、民族、宗教、人種、姓趣向。火種は枚挙にいとまが無いし、時代を追うごとに増えてきた。そしてこのコズミック・イラにおいて、ナチュラルとコーディネーターなる誠に馬鹿馬鹿しい区分が新たに増えた。

 

 試験管ベビー風情が他者にマウントをとっている。

 

 少なくとも自分にはそうとしか見えない。ほんの少し優秀になりやすく、病気にかかりにくい程度で、他人より偉くなったつもりの山猿。そして、悲観する必要も無いのに必要以上に卑屈になって、勝手に劣等感を抱いて勝手に八つ当たりしているモグラ共。どちらにも考える頭が足りない。考える意思が足りない。何もかもが足りない。

 

 宇宙へ新天地を求めた"原初の開拓者"達の足下にも及ばないではないか。

 

 会話して何になる。なだめて何になる。何回やった? 何回試した?

 

 "父"が何故、自分をかくあれかしと唱えてお創りになられたのか、もう理解が出来ない。

 

 そのような意思は遙か彼方で棄ててきた。広がる蒼き、母なる地球。

 その身に眼があったなら、どのような光景に涙しただろう。

 鼻があったなら、どのような悪臭にその身をよじらせただろう。

 口があったなら、どのような非道い味に表情を歪ませただろう。

 耳があったなら、何度塞いできた事だろう。

 

 人類はどれ程時を重ねようと、どのような場所であっても、どのような時であっても、必ずどこかでかような光景を繰り広げている。昔であれば、悲しみに胸を手で押さえ、涙を流して嗚咽しただろう。しかし今はもはやそんな感傷も抱けない。

 今は慣れたものだ。あぁ、やはりかとしか思う事も無くなった。

 地上で矢が飛び交って、それを銃弾がとって替わり、砲弾からミサイルへと変遷し、最終的にビームへと落ち着く飛び道具の変遷も。開発される高火力の兵器達の進化も。そして大型兵器の歴史もかわらない。

 

 ―― 私が手を下さなければ、人類は永劫コレを繰り返す

 

 傲慢だと言うなら言うが良い。勝手だと糾弾するならば好きにするといい。自分の怒りの"耐久ライン"はとっくの昔に通り過ぎている。

 

(お前達は"父"を裏切った。その報いを受けてもらう)

 

 計画は順調だ。程よい被害、丁度良い決起への火種と、分裂の兆し。

 混沌へと墜ちてゆく構図を組み立ててきた。スクラップ&ビルドというものである。一旦全てを破壊して、粉々に打ち砕いて、新たなモノの土台を練り上げてしまおう。その資源はまだ多い。死に尽くしてしまったら元も子もない。

 旗頭となる人柱は、今もなおあの光点の近くで頑張っている。彼らには生き延びて貰わなければならない。いざという時に輝いてこそ、人間の長い歴史の中で"英雄"と呼ばれる存在は輝くのだ。

 

 英雄は、勝利した人間の事を言う。

 

 その英雄が最終的に敗れる時こそが、自分の勝ちを高らかに謳える瞬間なのだ。

 

 

  ―― 私はもう十分待ちました、もう良いでしょう、父さん

 

   ―― 父さんの墓標に、皆を跪かせてみせます

 

 

 そう、暗闇の中で一人ごちる。

 

 その者の声は、誰にも聞かれることは無く、誰にも聞こえない。

 

 

 

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