機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~ 機械人形は"蒼き星"の夢をみるか ~ 作:松ノ木ほまれ
~ オーブ首長国連邦・ヤラファス島にて ~
世間を激震させる一大事変は、ユニウスセブン降下開始のニュースによって霞み、一面に載るような事態では相対的に無くなった。これは幸運ととっても良いのだろうか、それとも天に浮かぶアレを思えばむしろ逆なのだろうか。
ユウナ・ロマ・セイランは、昨日今日で一気に動いた国内情勢を思う。このコロニー落下が、まさしく自分に下される天罰かのようにも見えたし、これから替わっていくこの国と世界を暗示しているかのよう。
―― 親大西洋連邦派氏族・閣僚・官僚の一斉摘発
それは2日間の間に行われた。
オーブのジャーナリストは、その2日間を『長いナイフの孝』と形容し記事とした。何たる皮肉か。5世紀の裏切り事変、そして20世紀初頭の粛正事件を連想させるワードをもって、この事件は市井に知らしめられる。
現宰相たるウナト・エマ・セイランまでもがその対象となった事は、行政府を震撼させるに十二分な威力を持った。特にウナトの"側用人"と影で揶揄されていた腰巾着達や、それまで大西洋連邦依りで腕を振るっていた面々が軒並みおののく立場に立たされたのだ。
1日目が過ぎたとき、中心人物達、つまる所氏族と閣僚の対象者が捕らえられた。
2日目を迎えたとき、阿諛迎合していた官僚の面々も逃げ切れず捕縛された。誰一人として逃げられずにお縄についたのである。
「……正気か? ユウナ」
ここ、セイラン邸は今混沌の渦中にある。使用人の大半も辞するか留まるかの選択を迫られ、邸内の資料で必要な分は現在、公安部の軍人達が差し押さえに入っている。ウナトに私室から、地下に至るまでを悉く。
「いたって正気ですよ、父上」
「親を破滅させるのが子の所行か」
「元より手に余る宰相位、セイラン家は持つべきではありません」
セイラン家は、元々はこうして国の宰相の座へ収まる事のできない家だった。
下級氏族だった我が家がここまで来られたのは、先の大戦において五大氏族の長が亡くなられ、家が途絶した事による空席に収まった幸運によるものだ。元より期せずして手元に降りてきたもの。
国家の再建において辣腕を振るった"父"の事はユウナだって尊敬していたし誇りだった。ただその相手が問題なのだ。
「オーブはただの傀儡に成り果てました。かつての日本が辿った道より遙かに非道い」
「……『大西洋連邦』以外にあったのか?
かの大戦で負った傷を修復するに、金は必要だった」
「"誇りで腹は満たされない"と、貴方は良く言っていた。
ただ、"尊厳"までも売り渡す事は無かったでしょう」
捕らえた連中の手によって、現状のオーブは大西洋連邦の『狗』になっている。そこからメスを入れ、行政と次いで軍部に手を加えなければならない。今まさに事が進んでいる外界の動向に乗り遅れれば、今度こそオーブは消えて無くなる。
大西洋連邦に唯々諾々と従い、有名無実化してしまうような島国の存続を、誰が認めてくれるというのか。
理念が国を焼いた。
あの大戦からそう言われている事は解っている。故に父は、それを捨て去ってでもただひたすらにこのオーブの経済回復を思って大西洋連邦の資本を投入し復興に努めてきた。それはわかる、素直に偉業だとも思うし、こうして向き合っている時も胸が締め付けられる。しかしユウナはそれ以上にオーブ人なのだ。
国を焼いた張本人共に下げる頭なぞ持っていない。
血と泥にまみれ地べたに這いつくばる嵌めになろうとも、薄汚い腹に一太刀浴びせねばならぬと考える。この思いがもし間違っていると言うのなら、時が経った時に他ならぬ国民達が自分を裁くだろう。
「蘇秦の言葉が如く、我らは"鶏口"たるべし」
例え餓えようと、仇の手は取らぬ。それを否と言うならば、引きずり下ろすが良い。そういう意思をもって、ユウナはこの2日間を指揮した。既に先の戦後処理で政界を去ったお歴々にも声はかけており、良い返事はかなりの数帰ってきている。
一時的な政治の麻痺はあろうが、立て直す算段は"上のアレ"の結果次第だが何通りか立てている。
「ならばやってみよ、ユウナ。今度は若人の狂気が国を導くと言うのなら、私は見ている事とする。狂気に殉死した者達の"無念"に潰される事の無いようにな」
「胸に刻んでおきます、父上」
この家に軟禁とせよ。そう兵に命じて部屋を去ろうとするユウナの背に、ウナトはもうひと言付け加えた。
「それと、"若き獅子"に伝えておけ。私が屈したのは、大西洋連邦では無い」
「……どういう事です」
「お前も覚えておきなさい。あのプラントの
地球の暦がコズミック・イラへと変わる以前から、地球の首根っこを掴む死した人形がこの
始めて聞く言葉だった。父がかねてより懇意にしている"商人"共とは違うのか?
そんな息子の脳裏を見透かしているのか、父の態度は崩れない。しかしその眼の奥底には確かに恐怖が混じっていた。我が子がこれから歩もうとしている道の先に、確かにその恐怖しているモノが壁になると予期した老虎の顔。どっと、一気に歳をとったような父の顔。
「言いたい事は言った。せっかくだ、私はしばらく休もう」
なんだか、負けたような気分にさせられる。しかし一瞬ではあったが父は肩の荷が下りたような顔もしていた。重荷だと思っていたのはきっと父も同じだったのだろう。
屋敷を後にして、政庁へ向かう。やることは山積みだ、何せやる人々を一時空席にしたのだから、そのツケはしばらく自分達が負う事になる。
楽しくなってきた。
父が恐れていた人形とは何か。それを考えてみる。何かの操り人形という意味なのか、その真意を父は話さなかった。きっとまだ早いと思っているのだ。おそらくは、このオーブにも出入りしていた"商人"共に絡むことなのだろう。
古くから地球の各地に根を張っている病巣の一つ。人類の処世、身を守るためのものが変質した存在と言っても良い。
「何が潜んでいようとも、若子の意気地というものをみせてやろうじゃん?」
そう、一人車内でつぶやいた。
※※※※※※※※※※
~ ユニウスセブン宙域 ~
視線の彼方に、味方の識別信号を発しているゲイツへ斬りかかっていくジンの姿が見えた。"ハイマニューバ2型"、運動性能を強化してMS同士の格闘戦を想定されたタイプだった。旧式だ。
テロリストによる犯行という嫌な推測が当たってしまった。怒る暇も残されてはいない。
シン・アスカは、こんな局面だと言うのに乱高下しない己の心に驚いている。不思議なものだ、アーモリーワンで、ルナマリアとの食事を邪魔された時の方が余程腹が立ったとも断言出来る。
これが他人事だから? まさか。プラントの存続にも直結する事態なのだから、焦らないのがおかしい。そう、おかしいのは今まさに己の心が不動である事。
―― 早くコイツ等を排除して作業を進める
淡々とした答えが脳裏に浮かぶ。それこそ検索エンジンにワードを打ち込み、検索キーを押した時のような感覚で。
工作隊は既に作戦を開始している。一刻も早くこの塊を砕き、被害を最小限に抑えなければならない。その一助となる事こそ今回の任。すべきことをするのみ。眼前に迫っているジンの一群も、こちらに気づき始めている。
シンのインパルスと、ルナマリアのザクが先行、レイが後方から狙撃の構えを獲る。よしんば二人の間を通過されたとしても、レイの所へ敵がたどり着く頃には後詰めが到着する筈だ。後顧の憂い無く、正面の敵を相手できる。
シンの合図で、インパルスと赤いザクが加速した。
正面、斬機刀を構えるジンが数機。手慣れた動き。ぴりりと伝わってくる相手の戦意。切り下げてくる構えと、切り上げてくる構え。右上段と、右下段、二機で×の字を描くように。上下左右に避けるのは至難か。ならば突っ込むまでだ。
ルナマリアが捕らえているジン数機も、似た動きをしている。三方、切り結ぶのを許さない三位一体の構え。臆すれば、いずれか一機の得物が相手を捕らえるだろう。
良く練り上げられている。
かつて同じ部隊であったのか、それとも賊徒へ身をやつしてからも鍛え上げていたのか。流石とは言ってやる。ただかような所行へ至ったならば、それ以上には見てやらぬ。賊ばらに身を墜とした時点で同情の余地など無くなっているのだから。
「―― ぉォオ ―― ぁァアッ!!!」
緑色の雨が降ってくる。かまうな、小さく固まる。ビームサーベルを抜いて、構えながら被弾面積は最小限に。
降りかかってくるビームが掠めていく。僅差射撃は不得手とみた。正面から、突っ込んで真一文字に振り抜く。
1機。両断できた数だ。その場に留まらず、駆け抜ける。
ルナマリアの咆哮も聞こえてきた。
< オォアァ ―― ッ!! >
大斧が半月を描いていた。2機がそれぞれ二つに分断されているのが見える。残った1機にはそのまま蹴りを食らわせて、距離を取っていた。
中距離からこちらへ撃ちかけて来ていたジンの一群が萎縮したか、ほんの一時射撃を中断してしまった時を、レイが見逃さなかった。1つ、数秒を置き2つ。三人がかり、分足らずで7機の処理。
そしてルナマリアが廃コロニー地表へ蹴落としたジンを、シンが打ち抜いて8機。
シンのインパルスに気を取られていたジンは、形成不利とみて退却していく。味方機への合流目的だろう。打ち落としはせずそのままにする。
追いかけながら、意外とこちらに戦力を裂いても問題無い程の規模を持つ連中らしいと驚きつつ、出だしの戦果に胸をなで下ろす。ただし……
「あ、危ねぇ」
< 相手がジンで良かったぁ >
インパルスと赤いザクの装甲に焦げ付きがあった。何発か掠めたのだ。それと刀傷が盾に見られる。あの一瞬、身のよじれが僅かでも遅れていればこっちが斬られていた。インパルスはVPS装甲の特性上斬られる事は無いが、衝撃は吸収しきれない。
ルナマリアのザクも、あの刹那の時で肩の部品に刀傷を付けられている。
これがもし同等の格闘性能を持っている機体を相手が駆り、同等の条件でもう一度やった場合、結果は違ったかも知れない。その時は挑み方を最初から変えるから結果は変わらないだろう、という自信はある。
「だけどいける。気は抜かずに工作隊の援護だ」
眼下に見える、破砕作業を進めているゲイツR達の姿を視認する。
「ミネルバ隊所属、シン・アスカです!」
< 同じくミネルバ隊、ルナマリア・ホーク。援護します! >
< ありがたい! ジュール隊長は15時の方向で戦闘中でな >
工作隊全員を援護するには、広範囲に戦闘域が広がっているのだという。中々に周到なテロリスト共だと感心する暇も無い。建物の影や、丘の向こうから突如現れるジンへの対処に追われ始める事となった。
"土地勘"があるのだろう。追いかけようとすると引っ込み、こちらが引っ込めば別の場所から飛び出てくる。
< モグラ叩きは好きじゃないんだが……っ! >
レイがそう零しながら、ジンが引っ込もうとした地点を打ち抜いた。地形を貫通して、機体を捕らえた事が爆発で証明される。
シンは、ルナマリアとレイにこの場の工作隊援護を頼み、後詰めでやって来たショーンを連れてジュール隊本隊の援護に向かう事にした。恐らくテロリスト共も戦力の中心はそちらに裂いている筈だ。
「あれ、ショーン。"アスラン"は出てないのか?」
< あの光点を見たら先にいっちゃった。早いったら無いわありゃ、ほら、アレ >
ショーン機が指さす方向を見ると確かに、流れ星が一つ、廃コロニーの向こう側に見える光の中へ向かっている。レイが流麗と呼ぶような美が確かにあった。とてもなだらかな曲線だ。すこし見とれてしまう。あちこちに漂っている破片を足場にどんどん加速していったのだという。
< あれがジャパニーズの"ヨシツネ"って奴? すっごいわ >
「"八艘飛び"をMSでやったのかよ……」
先ほどレイが操縦を褒めていたが、その一端を知った気がする。ただ聞けば聞く程、ああやって眼に映る動きを見る程、何故ZAFTを去ったのか理由がわからなくなる。
故の不気味さ。だからまだ信をおけない。まぁ友軍といても"陣借り"であるからそういうポジションなのは良い。
< アレでブランクありなんでしょ >
「恐ろしいよ、全く……って、俺等も負けてられるかっての!!」
ただ"陣借り"に遅れをとっては、現状ミネルバ隊の実質的な舵取りであるシンの立つ瀬が無い。工作隊の援護は無論最優先。その上で敵の首魁が身柄を拘束出来れば最上だ。これだけの事をしでかした相手である。どのルートが使われ、どのような手を使ったのかを探り出さなければならない。
モニタに映る視界の中、光点が次第に大きくなる。
ジンハイマニューバはまだまだいる。何と言う数だろうか、これだけの数をそろえるのに一体幾らかかった? その金はどこから出た!? 後援者も無しに実費で!?
(それは今考える事じゃない!)
今の最優先は工作隊の安全だ。故にテロリストは排除する。
この期に及んで素直に投稿するような精神を持ち合わせてはいまい。決行に至ったテロリストは既に覚悟が決まっている連中なのだ。
白いザクと通常のガナーザクが見える。互いに互いを補い合って、2人で1人と言わんばかりの動きでジンを葬っていく姿が。あれがイザーク・ジュール、ヤキンを生き残った男の一人。
その2機の所へ、高機動仕様のザクが近づいていった。ミネルバ隊の識別信号。
すぐに解った、あれはアスランの乗っている機体。そして瞬く間に、2機で一体だったのが、3機に増えた。"三位一体"とはまさしくあの姿の事を言うのだろう。
「羨ましいな」
一人、感嘆と共に湧いてくる対抗心。抱いたところでという話ではあるし、自分達ミネルバ隊は"大戦"を経験した事は無い。それは本来喜ばしい事ではあるが、軍属の道を選んで鍛えてきた身として抱く当然の感情とも言える。
負けてなるものか。何するものぞ、新世代の力を見せてやる。
その時の事であった。黒と紫の影が、彼の者達の向こうに現れる。一際動きが洗練されたジンの姿が。
< やらせはせん、やらせはせんぞ! >
声が聞こえる。コイツはZAFT軍の通信チャンネルを知っている。
やはり、裏切り者達。軍を去り、国を棄ててまでテロ行為に走った連中の一人。聞く耳を持つな、聞くなと自らに言い聞かせた。斬機刀を振りかぶり、彼らの気を引きつけなが
ら、そのジンは破砕機を設置しているゲイツへライフルを発射する。そのビームは正確に破砕機を捉え、爆散した。
白いザクが、大斧を手に斬りかかる。それをすんでの所で交わし、ソイツは建物の影へ隠れ、瓦礫を突破して向こう側へ現れる。奴はガナーザクが優秀な砲手と見抜いているようだった。瓦礫を蹴り、破壊してフェイクとしながら、巧みに砲手の射線を味方で防ぐように立ち回っている。
「やる奴だ!」
自分に対して攻撃を加えてくるジンをいなしながら、その様子を見ていた。その最中、シンは通り抜け際に切り払ったジンから声を聞いた。
< 娘の墓標、コレを墜とさねば―― >
墓標。成る程。
< シン、あのボスっぽい奴が…!? >
「あぁ、このテロ行為の主導者だろ。死なせずに何とかしなきゃな。それに……」
< それに? >
「こいつら、多分"
< ――ッ! >
「"娘の墓標"だってさ」
尚更怒りが募ってくる。彼も戦没者遺族の一人だ、死者が抱いたであろう無念、生きていたかったという思いは嫌と言う程感じる身である。
故になおのこと、憤怒は加速する。何故彼らの死後の安息を願ってやれない。墓標だと宣うならば、何故静かに眠らせてやる事が出来ない。ただただ、残された無力感と振り下ろす先の無くなった怒りをぶつけて憂さを晴らしたいだけの行為に手を染めて、死者が喜ぶとでも思っているのか?
「……巫山戯るな」
スロットルと握る手に力がこもる。人々を護るための力だ、MSは。兵器とは相手を殺すもの、その事実は否定しないしできない。ただ振るう目的を選ぶことは出来たはずなのだ。その死んだ家族が目指していたものはコレか?
「違うだろ、そんな事!」
インパルスを加速させる。無事な破砕機を未だ付け狙うジン達めがけて。
数機、ゲイツRを取り巻いている。彼らは向こう、テロリストのエースを補足すべく動いている。彼らの守れる範囲からこぼれた彼らは、何としても自分達が守り抜かねばならない。
ショーンのゲイツRが持つライフルから、ビームの粒子が放たれる。
それは正確に、ゲイツを狙っていたジンのライフルを、腕毎打ち抜いていた。彼女とてミネルバ隊に選抜された"新米"だ。ただの新人では無い。
「ショーン、ナイス!」
褒めながら、そのジンとは別のジンに肉迫する。他の連中が無視出来ないように目立たなければならない、眼を引いて、彼らからこちらへ引きつけなければ。
肉迫し、コクピット部に銃口を押しつけた。乗っているテロリストは、自分と同じ無念を抱えた者なのだろう。ただ彼らは道を間違えた。
< 父さん、母さん! >
一瞬、指が鈍る。しかし最後まで引き金は引き抜いた。
「何で胸を張れる道に行かなかった!」
そう言いながら。光の粒子がジンの胴を貫いて、力が抜けた鋼の巨人。それを盾にしながら、別のジンへと標的を切り替える。
ルナマリアが、ショーンが腕を落としたジンを切り伏せる。そして残ったジンは、最後の力を振り絞るかのように破砕機へ突貫していく。ジュール隊のゲイツRは、それを許さなかった。腰のレールガンで、ジンの両足を撃ち機動力を奪った。そこを、シンが切り抜く。伊達にエース部隊の隊員をやっていないのだ、彼も。
< 感謝する! 流石は新型だな、羨ましいぜ >
「設置作業に集中してくれ! 背中は任せろ」
< 了解した! 頼りにしてるぞ新エース! >
設置作業は各所で始まっていた。ただ、ジュール隊のメイン層とミネルバ隊がカバーできない範囲では、やはり激戦となっているようだ。それ程までの数がこのユニウスセブン跡に潜んでいたという事。
「次から次へと、ワラワラ出て来やがる」
< こんな規模、なんで見逃されて来たのぉ!? >
ショーンは、その事実に驚愕している様子だ。
シンとルナマリア、そして遠方から各地を狙撃で支援しているレイも同感だった。これ程の数のジンを用意して、ユニウスセブンを動かし得るモーターをそろえるだけの財力がテロリストにある筈が無い。誰かがバックにいて、お膳立てしたとみるのが自然だ。
「それはソッチの担当が考える事だぞ、ショーン」
< そりゃそうだけどさぁ >
何度も口を酸っぱくして言う。今は破砕が最優先。コイツ等の撃破はその過程だ。
そしてまた、ジンが現れる。
< 撃った者らと安穏と過ごす日々がそんなに楽しいか! >
通信機から聞こえてくるテロリストの怒り。またも、血液が沸騰していく。シンはサーベルとシールドを持って、迫り来る光の粒子を払いながらジンへ迫っていく。
「八つ当たりなら勝手にやれ! 他人を巻き込むなこのクソ野郎!」
ジンの斬機刀を切り捨て、返す刃で両腕を墜とした。なおも組み付こうとしてくるジンを振り払って、打ち抜く。安穏の何が悪い。何を信奉しているのか知らないが、巻き込まれる側からすればたまったものではない。
娘にはあたれなかったが、あの"父親"が生きていたなら面と向かって言いたかった言葉。
コイツ等は同類だ。自分達の行いで何を巻き込むのか解ろうともしていない。シンの怒りのボルテージが制御不能なラインに達しようとしている。
それを察してか、ルナマリアが別のジンをビームガトリングで牽制しつつ、インパルスの肩を叩いた。
< 落ち着いて、シン! 荒っぽくなってる >
「……悪い、ルナ」
その時の事である。シンの背筋を、ぞわりと何かが通り過ぎた。
悪寒だ。シンは思わず、何もない筈の宙域へ眼を向けた。"ボギーワン"が逃げていった方角でも、プラントのある方角でも無い。
一体何だ、今のは?
何かに見られていたような感触がした。いや、見られていたというのは正確では無い。
まるでWi-Fiの電波を拾った時のような、それを"感触"として肌身に感じた。
―― 何かに繋がりそうになった。
そう評すべきなのかもしれない。一瞬手が止まったインパルスを、再びルナマリアが叩く。
< シン、やっぱり調子悪い? >
「いや、何でも無い。すまなかった」
作業を見守ろう。そう言ってシンは再び破砕機の護衛にまわった。
※※※※※※※※※※
~ ?????? ~
やはりこうなった。
ユニウスセブンで光っている光点を見守りながら、
暗室に広がっている光景は、このコズミック・イラを生きる者が見ても到底理解が及ばない領域である。此処には母なる星の記録が眠っている。管理者たるソレを除いて、ここに至った者はいない。
宇宙の彼方に夢を馳せた
人々は相も変わらず、学習せぬまま生息域を拡大し、戦の火を地表から宇宙にまで広げながらも気づかない。生きたいと願いながら己の首を絞めている。
コーディネーターなるデザイナーベビー達は、ナチュラル無しに自らの存続が無い事に気づかない。ナチュラルはナチュラルで、コーディネーターが他ならぬ自分達の業が生み出したものである事から目を背け、耳を貸さずに突き放す。
そして、2年前の大戦だ。人類は己が手でこうも痛い眼を見ても眼を覚ますことが無い。何とも手酷いまどろみの中にいる。
しかし、今日は違う。【コロニー落とし】という、人類の負の業を煮詰めた惨状が起ころうとしている中で、面白い現象が起こった。
『……だれかが"接続"しようとした?』
―― C.E.73/10/3 XX:XX Please grant me access to the server ――
この文言。久しく見てこなかった。何者かが期せずして、ここへ繋がろうとした。
近隣の何かが、
"楽しい"と、多分思っている。人間の喜怒哀楽は言葉では知っている。だが自らが発して、理解して、自らのそれをそうと定義するのには未だ慣れない。理解はしても、再現する事も難しいのが、知的生命である人間の難しい所だと思っている。
『誰だ? プラントの学者か、それとも地球圏の結社共か?』
此処へたどり着く者がいるのだとしたら、間違い無くそれは自らの脅威となる。
順当に考えるのであればそうそうに排除するべきなのだ。しかし今、それを楽しみに感じている自分に驚く。何を今更驚く?
『これは間違い無く、あのユニウスセブン宙域からの"発信"だ』
心当たりはある。もしやと思って経歴のファイルを手に入れて、参照していたからだ。ただ一人、心当たりはある。この場所への当たりをつけられるもの。その可能性を有しているのは、このコズミック・イラ有史以来、ただ一人だけ。
あの忌々しき男の忘れ形見。
『あぁ、やはりそうか、【シン・アスカ】。あのアスカ博士の子か』
【エイイチ・アスカ】という名を思い出す。すんでの所まで迫られた。遺伝学・機械学を修めたあの男。奴に"気付かれかけた"ために、地球連合の裏にいる"商人共"を焚き付けて、オーブを焼かせ、どさくさで死ぬよう画策した。それが実を結んだために息子は見逃してきた。
『……つまりあの男は"完成"させていたか』
自力でたどり着いたという訳だ。恐らく息子は気付いていまい。
自らの身体に施されている"宿業"を。事が起こった時、仲間がお前を人と見なすのかどうかが楽しみで仕方が無い。なら試してみよう、アスカ博士はどこまでいった?
『我が"肉"のラインまでどれ程到達しているか、確かめさせてもらう』
暗室の中に光った光の羅列は、静かなリズムを刻んでいた。