機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~ 機械人形は"蒼き星"の夢をみるか ~   作:松ノ木ほまれ

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第6話

 

 

 ~ 『アーモリーワン』工廠区画 ~

 

 

 我ながら、難儀な性格をしている。

 

 アスラン・ザラは、周囲の格納庫跡に転がっている武装の中から、手頃なモノを見繕うべく目をこらしていた。ザクという新型は、かつて大戦で自分が駆った【イージス】を初めとする機体郡とほぼ同性能か、それ以上のポテンシャルを持っている。それには満足していた。しかしながら、基本武装だけで闘うには、まだ不安要素が残っている。

 まだこのザクに不慣れどころか、まだ一時間と乗っていない事もそうだが、目の前で体制を立て直そうとしている黒い新型機から眼を離さない事で手一杯だからである。

 先ほど、基地のメカニックが、あの機体が【ガイア】と言うのだと教えてくれた。【バクゥ】という四足歩行型MSの開発系統を受け継いだコンセプトの機体であり、地上における機動性能に特化した機体だった。

 慣れる前に、潰す必要がある。アスランは思い至ってから、行動に移すまでが実に迅速な男だ。ザクの推進力は、これら試作MS郡には一歩劣るものであるが、不慣れなパイロット相手であれば問題が出る程度の差は無かった。

 

「投降しろ。今ならばまだ間に合うぞ、降るか、死ぬか」

 

 オープンチャンネルで、降伏を呼びかける。無論、ポーズだ。敵地で兵器を奪うような任務を帯びた輩がそのような事する筈も無い。よしんばしたとしても、足が付くようなモノを残す奴だろうか。

 実際の所、刃向かってくれる方が都合が良かった。希望通りに、ガイアがこちらにライフルを向けるのを見て、安心する程度には思っている。放たれるビームを最小限の動きで躱しつつ、アスランは言葉をかけ続ける。

 

「コレが貴様の答えか?」

 

 それでいい。そのまま取り乱せ。そうして、焦りを内包したままでいてくれれば、操縦も鈍るものだ。相手は新型に不慣れなだけで無く、やや不安定な点が見られる事は幸いだった。しかし、ガイア動きが時間を追うごとに良くなっていくのも同時にわかるために、長引けば不利になるのはこちらだとという理解が、アスランを囃し立てる。

 そう時間をかけてはいられない。

 こうして襲撃をかけてくる以上、逃走経路も確保してあるか、これから作られるかのどちらかである筈だ。先の大戦で、自分が所属した部隊がやった事――自分が何をしたのかを思い出せ、と自らに言い聞かせる。

 こちらは初動が遅れに遅れているという、軍にあるまじき失態をすでに犯している。

 ここでもし、()()()()()()()()()()()()()()()()()事にでもなれば、奇襲を防げず機密を奪取されるにまかせた連中として、進水式とお披露目も水の泡。ザフトの面目が潰され、外交上での軍事的カードを"平和裏に切る"事が極めて難しくなる。

 

「それでは、俺も応えようか」

 

 MS用装備を拾い上げた。アスランが見つけたのは、大型の斧である。どの新型機で使用する想定で製作されたものかはわからないが、これが良いと思った。ビーム兵器をこれ以上バカスカ撃てば、コロニーの外壁にも被害が及ぶだろう。

 同じビーム兵器でも、格闘戦で抑えられればそれが最上である。

 しかし、エネルギー残量を考えれば、永くは使えまいとも思った。対MSとは別の用途を想定したMS用の大型兵装は、運用を円滑にする後付装備もあるものだ。外部バッテリーといったものが。しかし、背に腹は代えられ無い。実を言うと、初期装備の格闘装備はすでに投擲に使ってしまって手元に無かったのだ。先の大戦で駆った【ジャスティス】の兵装と同じ感覚で用いたので、仕様を見誤ったというのが正しい。

 

(やはり、ブランクはある・・・・・・)

 

 二年もの間、要人の個人的な護衛という立場にあり、MSという兵器そのものから離れた生活であった。張りがあったとは思うが、やはり――MSに乗り、操縦桿を握って、狙いを引き絞り、剣を振りかぶるこの高揚感は無かったとは断言できた。

 アスランは、サーベルをこちらへ突きつけているガイアを見やり、ビームアックスを振りかぶる。一撃で、何処かを切り落としてやる。首か、手か、足か、それとも(コクピット)か。流石に、新鋭機を使用不可まで叩っ壊す訳にもいくまいが、それへの文句はこうして()()()()()()()()の搭乗を許したデュランダル議長に言って欲しい。

 ガイアが、突撃してくる。思った以上に、血の気の多い潜入者だったらしい事にアスランは感謝した。

 

「オォ――ァア」

 

 アスランは、この胸中からわき上がってくる高揚感のままに咆哮した。振りかぶった大斧を、一閃させる。パイロットを()()()つもりだったが、ガイアを奪った輩は中々の者のようだと、考えざるを得ない。大斧の切っ先を見ていたのか、サーベルを放して見捨てたのである。右腕を引いて、横を抜けるようにやり過ごして見せた。

 大斧は勢いのまま、右から左へと宙に熱を帯びた線を描く。ガイアが手放したサーベルを、蒸発させこそしたものの、それは哀しい線である。してやったり、という相手の顔が見えた気がした。ガイアは、右腰のサーベルをそのまま右手に握らせて、ザクに斬りかかろうとしている。良い判断だ、と彼は思った。

 

「面白いな、だがまだだ」

 

 勢いに流されるのでは無い。自分が勢いを掌にのせるのだ。

 一閃させた大斧が避けられる事を、想定しないのはただの猪武者だけである。大斧を地面に突き立てた彼は、つっかえ棒のようにして機体を支え、脚部でガイアの手首を蹴り上げた。

 

<――ッチィ!>

「・・・・・・女か」

 

 "ふれあい回線"が、刹那の間繋がった。何とも心地が良い声が聞こえる。

 それが女の声である事はすぐにわかった。同時に、感心し、興味を持った。何とも豪快な女のようだと。敵地に忍び入りMSを奪う任を帯びる者がどういうものが、俄然見てみたくなる。

 そう、期待する。さぁ、悔しがれ。こちらは二年のブランク持ちだ。

 未だそんな情けないパイロット一人討ち取れないでいるのだ、今取り落としたサーベルを拾え。何処の誰かは知らないが、お前にも"誇り"というものがあるのだろう。

 

「――さぁ、来い!」

 

 アスランの口元は、久方ぶりの笑みに満ちていた。エンジンの回転数が上がり、全身の温度が上がっていくのを感じる。

 

 これだ。

 

 あぁ、コレだ。たまらない!

 

 しかし、彼の期待にガイアは背いた。

 不利だと悟ったか、ザクにもはや目もくれず、別の方向へと駆け去ろうとする。彼はその姿を見て、急激に冷えていく()()を感じた。冷たい怒り、と言うべきか。氷塊が如く周囲を冷やしていくそれは、心中奥深くにはめ込まれ、熱を下げていく。

 周囲に、凍える痛みをもたらしていく。

 昂ぶった心と、氷がぶつかって蒸気が溢れ出るのがわかる。出口を求めて蒸気が暴れ回るのが、表情に現れていく。

 

「なんだ、こんなものか」

 

 興味が、失せていく。それと同時に、この底冷えする()()()が、憤怒なのだと理解した。こんな腰抜けと闘うために、カガリの眼も気にせずMSに乗ったのではない。

 アスランは苛立ち紛れに、先ほどまで振るっていた大斧をガイアの背面めがけて、槍投げの容量で投げつけた。狙いは、直撃させる事ではない。足下の、ちょうど走る足の間に投げ込まれた柄に、ガイアの両足が絡み合ってつんのめる。

 

「こんな児戯にかかるとは」

 

 相当焦っていると見える。

 モニタの向こうで、かつて大戦で刃を交え、轡を並べた【ストライク】によく似た機体が見える。緑色の【カオス】と、蒼の【アビス】と闘っている所から見て味方だろう。実に良い動きをするパイロットだと、舌を巻く。それに思い切りも良い。カオスの懐に飛び込んで、切りつける所を目にしたのだ。

 アビスが、そのカオスの危機を先に目にしてしまっており、槍を掲げて味方機に襲いかかっている。ガイアが、その二機を頼ろうとしていたのが、何とも哀れに見える。周囲をかき乱してどういうつもりだったのか、それを考えると攪乱とは思いづらい。

 

「そう言えば、MSで逃走する腹づもりなら母艦は――!?」

 

 アスランは、ある一つの答えに行き着いて、何とも複雑な気分になった。

 そうだ、コレはできの悪い焼き直しなのだ。先の大戦で自分が参加した作戦のデッドコピーにして、新たな口火であると確信した。

 

 気づくのと同時に、アーモリーワンの大地が揺れた。

 

 

 ※※※※※※※

 

 

 ~ アーモリーワン外周部・戦艦【ガーティ・ルー】艦内 ~

 

 

『ネオ、この野郎ッ! こんなバケモンいるなら最初に言え!』

『いやぁっ! ネオ、ネオぉっ!』

『情報に無ぇぞ、どうなってんだ!?』

 

 顔の上半分を覆い隠す仮面の奥に、戸惑いの色が見える。

 ネオ・ロアノーク大佐は、コロニー外部から口火が切られたのを視認し、頃合いと見てチャンネルを合わせた。

 本来、コロニー内部と外部で通信が繋がるなぞ滅多に無いのだが、『協力者』にリークされたコードを用いて、コロニーの通信回線の一部を一時的に乗っ取った事で通信を可能にしていたのである。

 恐ろしい奴が糸を引いていると、ネオは背筋が寒くなるのを感じた。

 事前に打ち合わせしていた周波数に針が合わさったと思うや、スピーカの向こうから聞こえてきた、作戦の要達からの罵倒の数々。それに、息を呑んだのだ。作戦に送り込んだ三名は、秘蔵っ子だった。そこらのコーディネイターには引けを取ることが無いと確信していた子供達。

 

 スティングと、アウルと、ステラ。

 

 その三名が三者三様の困惑の声をもってして、ネオを責め立てているのだ。作戦失敗とは、すぐには考えなかった。声の感じからして、本当に危うい一歩手前のラインという所だろう。彼は内心、この三人が何故と首をかしげた。

 彼らの実力は、嫌と言う程知っている。訓練時代を見て、演習にも付き合った身だ、彼らの強さは身にしみている。そんな彼らが、焦っているという事は、それ程の相手がこの砂時計の中にいたという事だろう。

 

「お前達、焦るな。丁度()()()()()()()が見えた所だ」

『無茶言ってくれるぜ、こちとら補助輪とれたばっかりなんだよ!』

『新型は三機の筈だろ、一機多いぞごら!』

「やられまいと必死になればそうそう堕とされはしないさ。

 散々訓練しただろう、アレが少しハードになっただけだ」

『ちっ、わかったよ! アウル、ステラを拾って逃げるぞ』

『はいはい。・・・・・・ネオ、その情報くれた奴にクソ食らえって言っとけ!』

 

 通信が切れる。ネオは、シートに背を押しつけて嘆息した。スティングとアウルの声にはまだ余裕が見られ、撤退する時に万が一が起こるという心配はまだしていない。ただ、それはあくまで"まだ"である。

 ステラの事は、気がかりという他無い。あの子は一度怜悧になってしまえば先の二人より勇猛果敢になれる子だ。しかし、一転それを失うと二人以上に取り乱す、ピーキーな子でもあった。あの子の声は、怯えが混じっていた。

 

(とんでもない奴らがコロニーにいたか)

 

 『協力者』によれば、アーモリーワン工廠基地に勤めるザフト軍人は、今年卒業したばかりの新兵が多く配置されており、ベテランが少ないという事である。それに、基地勤めの連中のリストも渡されていた。その中には、これと言って眼を惹くエースの名前は無かった。

 しかしここで、一つ引っかかる。明日開かれる予定であったプラントによる新型戦艦進水式の事だ。リストに、新型戦艦の乗員の欄は無かった。

 

「あぁー、凡ミスだな。とんだ見落としだ」

「いないと思っていた強敵がいた、という事がですか?」

 

 ガーティ・ルーの艦長にして、ネオの副官を勤めるイアン・リーが彼にそう問う。

 

「そんな所だな。妙に話がうまいと思ってたし、読めてた落とし穴だった。

 しかし、思った以上に深かったらしい」

「"ミネルバ"の乗員ですか。確かに、これは不味いですな」

「彼奴等がやられるかもしれないと?」

「私はその心配はしていませんよ。今を無事に乗り切ったとて、そいつ等に追われるだろうという予測を立てただけの事です」

 

 こいつ、考えないようにしていたのに。ネオはイアンのこの堂々と言ってのける点が、美点とは思っているが苦手である。心に突き刺さる事も、躊躇無く口にする。それが忠言とわかっているからこそ辛いというものもあった。聞き流せないのだ。

 とにもかくにも、今は作戦を完遂するのが第一だった。

 ネオは、ブリッジのクルーに指示し、潜伏を解くように命じる。

 スティングらの仕事が内部の攪乱にあるとすれば、ネオの仕事は指揮と、彼らの退路と退却する時間を稼ぐことだ。船の潜伏が解けていく光景は、きっと軍港に駐留するザフト軍の連中の鼻を明かすだろうと思うと、僅かながら心地よくなる。

 まず、軍港を潰した。施設を必要以上に傷つけるわけに行かないところが辛いところである。『協力者』の提供してくれた通信コードは、この施設の通信設備を使用するものである以上、必要以上に傷つければスティング達を誘導できない。

 故に、船の足と、MSを潰すだけに止めなければならなかった。

 それは非常に難しい事である。戦闘態勢に入った戦艦を無力化する事や、それを意識しつつMSを相手取るのはいささか高度な作業である。潜入中の彼ら以外にも精鋭は連れてきているが、艦潰しにあたらせる方が賢明だと、ネオは考える。

 

「イアン、艦の指揮は任せる。俺もウィンダムで出るぞ」

「そう言うと思っていました、祝いの酒は用意しておきますか?」

「いや、今日はいい。味が悪くなる前に戻るのは難しそうだ」

 

 タラップを降りて、MSデッキへ向かう中で、ネオは一人自らを責め立てる。

 今、最も危うい死地にいるのは子供達だ。そんな彼らを守るのも、情報だった筈なのに。上からもたらされた情報の精度が高すぎたが故、裏付けを怠った。それが悔やまれてならない。

 新型が一機多い。つまり、スティング達以上に新型の操作に長けたパイロットがまだ残っているという事。最新鋭機のパイロットに選出された所を考えても、そのコロニーで一番のエースはソイツとみて良いはずだ。

 ソイツが三名を追って来て、軍港の連中と合流されでもすればこちらが危うい。

 ならば港の連中は全て潰し、巣穴から出てきたネズミを潰すように、囲んで叩いてしまおうとネオは考えた。

 

 MSデッキに佇む紫色の巨人に乗り込んだ。

 

 【ウィンダム】という、地球連合軍の新型機であり。今コロニーで奪うMS等と同様、ロールアウト前の先行量産された試作型だ。前大戦における連合軍の主力【ダガー】シリーズの後継機にあたり、大戦で大いに名を上げた【ストライク】の量産型と言って差し支えない代物でもある。ストライク同様に、各種兵装を換装して戦局に対応できる柔軟さがウリだ。

 ザフト側も、ザクと言う後継機を開発しすでに量産・配備を始めているが、何ほどの事やあらんというのが連合側の感想だった。

 ネオは、高機動型の兵装『エール』を選択する。一番オーソドックスなものだが、どの局面にも対応できると見て愛用していた。MSが用いる大剣や大砲は、こういう時は必要ない。

 

「ネオ・ロアノーク、ウィンダム。出るぞ!」

 

 三名を無事に帰還させなければならない。その為に、軍港にたむろしている連中は、悪いが全て潰させて貰おう。宙を舞い、彗星のように接近していく紫色の閃光が、奇襲に狼狽えているザフトのMS郡の中央を駆けていく。光の剣を抜き放ち、宇宙を蹴るようにして機体を加速させる。

 十機ほどの、間を駆け抜ける。四機の、胴が割れていた。他の機体は、何が起こったのかを把握しようとし、初動が遅れている。

 

「情けない奴らだ。ナチュラルの剣を受けられる者がいないのか!」

 

 とって返し、残った六機に斬りかかる。

 

 頭の中にあるのは、子供達三名が無事に帰れる通学路を確保する事と・・・・・・

 

 "俺の可愛い弟妹"を痛めつけた奴どうしてくれようかという、兄としての私怨であった。

 

 

 

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