機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~ 機械人形は"蒼き星"の夢をみるか ~   作:松ノ木ほまれ

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第7話

 

 

 ~ オーブ連合首長国・ヤラファス島 ~

 

 

 オーブ首都・オロファトに設置されている、オフィスの一角において、窓縁から天を見上げる一人の人物がいる。紫色の髪を蓄え、氏族出身者を表す衣装を身に纏い、融然と佇む姿。それは半ば隠者のようでもあり、内面にを研いだ刃を隠す文官とも見えた。

 

 名を、【ユウナ・ロマ・セイラン】と言う。

 

 元はオーブの下級氏族であるセイラン家であったが、先の大戦で首長を排出する氏族が殆ど絶えた事により、首長を補佐するポストに転がり込んだ家の出でもある。

 悪い物言いをあえてすれば、成り上がりのぼんぼんだった。その程度の事は、本人が一番理解しているつもりだ。国内の各有力者達からの風当たりも、強いという認識でいた。

 そんな彼は今、当の首長であるカガリの右腕として彼女の留守を預かっている。

 蒼空を仰ぐ理由は二つあった。自分を残して今宇宙へ上がっている彼女への心配と、これから押しつけられることになるであろう大任を思えばこその恨み節。なんともまぁ、強烈な女性の傍らに立ってしまったものだと、自嘲する。

 


 

『私は、プラントに行ってくる。会談の手はずを整えてくれ』

 

 そう切り出されたのは、一ヶ月前の事だ。今でもよく覚えている。地球連合を構成する数カ国との折衝や、各国の動向を監視するのに骨を折っている中で、言い放った一言だった。最初は耳を疑ったものである。

 

『カガリ、本気かい?』

『あぁ、本気だ』

 

 澄んだ眼だと思った。彼女の良い所は、ひたむきで果断な所だ。欠点は、愚直で頑固な所。そんなところが気に入っていて、そばにいる。そんな彼でも、無茶だと思った。その時彼が掴んだ情報を思えば、時期が悪すぎると言って良かったからだ。

 

『新型戦艦と新型MSのお披露目だと言う。

 賓客としてお前が行く予定だったが、替わって欲しいんだ』

『僕は反対だよ。それがどういう意味を含むかを考えて貰わないと』

 

 ザフトの新型。このフレーズは、否が応でも地球の者達に先の大戦を思い起こさせる響きがある。それを言祝ぎに行っても見ろ、地球連合への挑発にオーブも同調したと、揚げ足を取ってくる口実を与えかねない。

 国家元首というものは、一挙一動に責任が生まれかねない立場なのだ。それを理解しているのかと言おうと思った。しかし・・・・・・

 

『大西洋連邦が脅しをかけてくる、だろ?

 全く、古き良きアメリカの時代はとうに終わったと言うのにな』

『何世紀前の話をしてるんだ。確かに、あの連中は未だ世界の警察気取りなのは否定しないとも。しかし、その警察の庇護下にあるんだよ、今のオーブは』

『その警察に草を植え付けている男が言う言葉とは思えないな』

 

 その時ユウナは、舌を巻いた。二年前、ただの小娘でしか無かった彼女は、だんだんと替わってきているという実感は持っていたが、成る程、言うようになった。

 

『・・・・・・何時から?』

『一年半前。新五代氏族の身辺を洗った時に』

『あぁ、信用してくれてなかった頃にバレてたか』

『いや、意味に気づいたのは去年の暮れだな。お前の廻りが最も活発だった。故に調べた。他の氏族は気にするまでも無かったが、お前は別だ。念入りに観察したぞ』

『非道いなぁ、僕は君の婚約者だろう』

『オーブから"王莽"を出すわけはいかんからな』

 

 そう行って、カガリは立ち上がって、ユウナの眼前に立ち彼を見上げる。琥珀のようだと、ユウナは彼女の眼を見て思った。吸い込まれそうな輝きを持つ淡い色を、彼は気に入っている。彼女は、そんな彼の心情をわかってやっているのだろうか。もしそうであるならば、とんだ悪女だ。

 

『で、どうだ。お前は梁冀の類いか? それとも我が子房か?』

 

 真っ直ぐ眼を見てくる。その目の色を思い出しながら、ユウナはその時彼女に折れた。

 


 

「我が殿って、僕のガラじゃ無いよなぁ」

 

 そんな事を、今になって思い出すとは。ユウナは、日々もたらされる各国の情勢を、取捨選択しながらまとめている。出立から数日経つ。彼女に見せるべき情報と、自分たち氏族以下の段階で片付ける問題とを分けていく。それが、ユウナの一番の仕事だ。

 大西洋連邦の息のかかった部隊が、宇宙できな臭い動きを見せていた。月面基地での演習が活発化しているのだ、いつでも動ける体制を整え始めているとみる草もいる。加えて、宇宙で産出される鉱物資源の値段が高騰し始めている。供給量に比べて、需要が増えた事によるもので、モノの流れを見ればやはり大西洋連邦に行き着く。

 近々、大規模な軍の動きが予測される。それは、ユウナにも見えている。それをそれとなく伝えたから、先のような事になったのだ。

 

(カガリは、オーブの中立保証をプラントに求めようとしている)

 

 ユウナは、その実現にこじつけるための舗装工事を命じられたという訳だ。プラントという、先の大戦における大敵と言って良い相手となれば、地球連合加盟国が黙ってはいまい。彼に押しつけられたのは、その時にオーブへ悪意を向けるモノと、別の視線を向けるモノを区別する事である。

 

(東西欧州の"こじれ"も近い。それと、東アジアの龍を起こすか)

 

 最初に考えているのはそれだ。大西洋連邦は、極論ではあるがかつての英米である。

 ユーラシアは、東西ヨーロッパと中東、そしてロシア。

 東アジア共和国は"大東亜共栄圏"が中華目線で実現した国と行って差し支えない。

 未だ"世界の警察アメリカ"気取りで、"日の沈まぬ大英帝国"の栄光が忘れられていないらしい大西洋連邦にたいする反感は非常に根強い。ユーラシア連邦東側であるロシアは、ソ連時代からの溝が未だ根深く残っており、連邦を二分しかねない状況に陥っている。

 そして、東アジア共和国そのものが大西洋連邦の敵と言っても過言では無い。

 元々植民地支配を受けた歴史を持つ地域であり、日本はかつて英米の敵国になった事もある。加えて、東アジア共和国の実質的盟主たる中華圏と、大西洋連邦の中核を成すアメリカは非常に仲が悪い。世界が一つにまとまりかけた時期を経てもなお、大西洋連邦の国民は『イエロー』という別称で東アジア共和国やオーブの国民を罵倒する事もある。

 

 いつまで経っても、人間は人間らしいと思えば、幾分か気は楽になるのだが。

 

 付けいる隙は大いにある、その初動する相手と好機をユウナは探っていた。カガリにはそれを期待されているのである。

 

『"鼠"の事は任せたぞ』

 

 そう、出立の直前にカガリは言った。第一に始めるべき事の認識は、彼女と彼の間で共通している。オーブの米倉に入り込み、国家の中枢を囓る鼠を探し出して駆除する必要がある。しかし、巣が根深い。

 ユウナは、執務机の上に置いてあるベルを鳴らす。秘書の女性が、部屋に入ってきた。

 

「お呼びでしょうか?」

「キサカ一佐をこれへ」

 

 【レドニル・キサカ】。彼は前代表・ウズミの信任厚く、先の大戦でカガリの護衛の任にあった。ばりばりのアスハ派の人物であり、ユウナも含まれるがセイラン家等をあまり快く思っていない。それを知っているので、秘書は少し躊躇した様子を見せたが、ユウナは彼を呼ぶよう命じる。

 三十分も経たぬうちに、彼は来た。顔が強ばっている。それも無理からぬ事だと思った。道中の、オーブ首長国連邦公安部の顔ぶれを見てきたのだ。ユウナは、二年前上級氏族へ繰り上がりが決まった直後に、彼らを掌握した。必要だと考えたから。

 

「随分と物々しいですな、閣下」

「閣下とはまた大仰な言い方だね、キサカ一佐」

「道中、公安の者に呼び止められました。警戒もいたします」

 

 彼の眼にはまだ、不安と不満がある。セイラン家の命に甘んじる事が悔やまれるのであろう。だがそれは、主たるカガリに言えとも思う。自分に任せたのが彼女なのだから。

 

「貴君を呼んだのは、他でもない。公安部と共に、君の隊で掃除をしてもらいたい」

「オーブの掃除、ですか」

「全域だ。やらしい餌捲きが続いて、嫌に鼠が増えた」

「それ程の繁殖を、鼠が?」

 

 キサカ一佐に、一束の書類を手渡し、この場で目を通すように言う。それは、名簿と、証拠だ。国内で、世界各国と繋がりの無い上層部・幕僚は存在しないが、なびきそうな者の選別ならば簡単である。どの相手と交渉するかの傾向から、日頃の買い物に至るまでつぶさに調べ上げ、潜み、付けさせ、抑えた。

 

「末端まで含めて、氏族62人と官僚59人。駆除しても行政は機能する程度だ」

「思ったよりも少ないですね」

「言うね。そういう所、僕は好きだよ」

「貴方に畏まるな、と首長に言われておりますので」

 

 こういう、素直な人物の事は嫌いでは無い。賢しいのは廻りでは自分で十分だとおも思う。嫌でも他人の嫌な部分が目に付く性格をしているのだ。せめて周囲にはそういうハッキリした者にいて欲しい。

 名簿に目を通していくキサカの眼の色が、替わる。ある一点に気づいたか。顔色も変わっていくのがわかった。

 

「本気なのですか、貴方は」

「どうしてそういう事を聞くんだ、一佐」

 

 さも当たり前のように口を開くユウナを、信じられない物を見る目でキサカが見つめてくる。何か可笑しな事を言っただろうか。

 国家元首が、『オーブの中立性』という旗の保証を求めに行く。それを是とは言わない連中はある程度予想できる。それに、連中はオーブの土を一度血に染めた奴らだ。そいつ等に良いように言われるに任せるなぞオーブ人の誇りが許さない。

 利益の問題だとか、資源の問題は解決出来る。

 しかし心の問題はそうそう解決出来るものではない。それは、一度折れた。もう一度折れれば、オーブ人はオーブ人で無くなる。そして、オーブ人で無くなった連中を前もって処理するに、問題があるだろうか。

 

「リストは、見ました」

「それを、隊の者達に覚えさせるのが君の仕事だ。公安が居場所を特定する、君らが日の出の元で捕らえる。数日以内にやってくれ」

「しかし――!!」

 

 キサカは、書類の一番上に張られている写真を、ユウナに突きつけた。

 

「これは()()()()()()では無いですか!」

 

 【ウナト・エマ・セイラン】。オーブ連合首長国の現宰相であり、セイラン家の家長でもある人物。それを、ユウナは捕らえよと言う。父への反逆という事だ。まぁ、そういう反応をするだろうと予測はしていた。セイラン家を好かぬとは言え、道徳心として受け入れがたいものがあると見える。

 

「かつて、日本の武田信玄は、度重なる戦を続ける父親を追放したとされている。

 それを踏襲するのがいけないことかな」

「ウナト宰相閣下は、確かに私も好きません。

 しかし、好む好まざるでの統治なぞ下の下です。手腕は評価すべきではありませんか」

「狗としては優秀なんだよ、父は。今のオーブは大西洋連邦の資本が多く入っている。

 それを手腕と見るか跪いていると見るかは、人次第だろ?」

 

 ユウナは、再度キサカに、命じた。

 

「これは、公安・諜報部長官としての命令だ、キサカ一佐。

 リストアップした121人を全て捕らえろ。まずは空港と港の規制、次いで検問。

 堅め次第住居を押し囲め。オーブを牛後に墜とした罪だ」

 

 汚れ仕事は、全て被ってやろう。ユウナは、カガリのあの眼を見ているとそんな気がしてくるのだ。それが何故を考えれば、後世ではきっと後ろ指を指されることになるとは思うが、悔いは無い。

 元々、成り上がりなのだ。氏族とは名ばかりの小さな家が、運でこんな大任までこれたのだから、どう思われようがかまうものか。"図に乗ったセイラン家"だからこそ出来る事をやってやろう。

 

「カガリには、綺麗なままでいて貰わなければならないからね。いない内に僕がクソまみれにでもなってやるさ」

 

 

 

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