三民族の共和国+α召喚   作:騎兵主義者

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第1章:三民族の共和国、異世界に転移せり
第1話:Incydent styczniowy(一月事変)


 

 

 

アレは薄暗い空にすげえヤバい光が3回点滅したことから始まったんだ。

我らがリチュ・ポスポルィタ(共和国)の国旗のように、青、赤、白の順番でな!

 

───とあるルテニア公国陸軍コサック騎兵の証言───

 

 

 

 救世主歴1955年1月20日未明、“三民族の共和国“は突如として異世界へ転移した。

 ………ただし、何故か保護国どころか既に平和的な独立を達成して、独立国家としての新たな旅路を歩み始めたはずの旧保護国も引き連れてだが。

 

 

 

 

 

 突如として旧保護国以外の他国と通信が途絶し、本国や保護国からは本来陸地で隣国と国境を接しているはずの地域に駐留の軍や国境警備隊から何故か「国境線の向こうが海になった!」なんて報告が飛び込み、共和国政府や軍の司令部はどこもかしこも立場や持ち場など関係なしに皆揃って慌てて走り回っていた。

 そして、共和国において混乱しているのは軍や政府だけでなく、当然ではあるが一般市民もまた混乱している。そんな混乱の最中、本来は「秩序だった混沌」と称される共和国も、この日は「秩序なき混沌」に陥っていた。

 とはいえど、共和国においてはただの混乱だけではなく、さらなる困難を招く存在も蠢きつつあった。具体的には先の大戦で揃って叩き潰したはずのボリシェヴィキやファシスト。近頃は警察や公安省(秘密警察)といった政府の機関に加え、自前の装備で武装しては勝手に参戦してくる退役軍人や予備役兵からなる民兵と度々銃火を交えつつ、じわじわと勢力を広げるテロリスト。粋がったクソガキと人生の落伍者からなる愚連隊なんかが動き始め、治安悪化の為セコセコとしょうもない犯罪に手を染めている。

 それでも共和国が置かれた状況に比べれば、この救いようが無い上に大した価値もない糞袋が起こす問題はそこまで大きい問題ではない。ただ転移前のように圧倒的な暴力を大義の下に堂々と振るっていけば良いのだから。

 

 

 

 先にも述べたように、共和国は外患以上に内憂を抱えているが、これらはさほど大きい問題ではない。

 どうせ警察や公安省が素早く対処するだろうし、警察や公安省が取り逃したのは民兵が勝手に始末する………しちゃうのだ。それも「共和国市民に課せられた国防義務の遂行」だの、「全共和国市民に与えられた郷土防衛権の正当な行使だ」だのと弁舌を振るって。

 とまあそんなことがあったりするが、戒厳令の発布と予備役の動員に、人手の足りない警察の補助目的で治安出動が実行されたり、民兵を軍に組み込んで退役軍人に二度目の青春を送らせたりしながら内憂に対処したのだ。

 その間、田舎では民兵が先の糞袋を木に吊るすことで出来るオブジェを量産したり、死刑執行人が職務終わり次第家に直帰しては泥のように眠ったり、墓穴不足故にかの悪名高き"フリードリヒ・イェッケルン"*1が考案した"イワシ缶方式"*2による死刑が宣告された犯罪者の銃殺が着実に進められていた。

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 現状保護国を含めた共和国の全土にとって、さらには旧保護国にとっても大きな問題として、一部食料の供給問題が挙げられる。基本的に共和国は穀物や馬鈴薯、肉類や乳製品に家禽から供給される食用卵や砂糖は主に“本国“と呼称されるオクシデントを主体に、自前で供給できるのだ。

 ただしそれ以外の共和国全土において生産や入手ができない──例えば野菜や生産地、生育条件の限られる果実等──といった作物と、不作などで発生する不足分は他国からの輸入で賄っていた。

 そして共和国や保護国、ひいては旧保護国も含めれば総人口は合計3億と5228万人にもなる、この巨大なその場しのぎの嘘と、追い詰められた末の自暴自棄と、自発的な植民地化で構成された植民地帝国は本国で生産される食物だけでその重みに常時耐え切れるわけでもない。

 共和国市民の家計を支えるのは主に“本国“と称されるオクシデントの“レヒスカ王国“と“ルテニア公国“であるが、いかにこの2カ国が農業や牧畜が盛んであったとしても、それだけで足りるとは限らないのが世の中なわけで。

 

 詰まるところ、共和国は旧保護国と共に食料の新たな輸入先を求めていた。

 そのために、かつての宗主国でもある“三民族の共和国“は共和国軍──を構成する“レヒスカ王冠領軍“や“リェタヴァ大公国軍“に“ルテニア公国軍“──の空軍や海軍が運用する航続距離の長い航空機を引っ張り出し、調査と状況把握の為にあちらこちらへ──ただし最初は共和国や保護国、旧保護国の近辺の調査から始まったが──駆り出していた。

 

 さて、このような共和国の状況は一度おいておくとして。

 1月23日の未明より駆り出された航空機の一機にして、レヒスカ王冠領空軍は第28戦略航空艦隊に所属し、現在は爆弾の代わりに積めるだけの燃料と緊急加速用ロケットブースターを搭載し、4基のH型24気筒で4800馬力を叩き出す液冷レシプロエンジン、それが奏でる騒音と風切り音の中を、PZL.67B重爆撃機“gruby Janek(デブのヤネク)*3号は共和国本土の空軍基地から飛び立ち、途中でパイロットの交代を挟みつつもただひたすらに西へ西へ飛び続けている。

 命令はとにかく西方へ往復分の燃料が持つだけ飛び続けること、ただそれだけである。おかしいようにも思えるだろうが、共和国としてはまず自国の周りだけでも状況を把握することに専念したために、このような命令を出したのだ。

 

 

 

 

 

 そんな命令を受け、今現在ひたすらに西方へ5時間も高度8500mを540km/h程で飛び続けているPZL.67B重爆撃機“gruby Janek(デブのヤネク)“はあと30分飛行した後に空軍基地へ引き返そうとしていたところで、ついに陸地を発見する。

 それを──爆撃手用の多機能な高倍率爆撃照準器越しではあるが──真っ先に発見した爆撃手兼任の航法士、“ミコラ・チャルニャク“曹長は大急ぎで無線のマイクが仕込まれた酸素マスクを口に押し当て、驚きと喜びが混ざった声色で報告する。

 

「陸地だ、陸地があったぞ!!」

「ミコラ、その陸地までナビゲーションをしろ。それから惰眠を貪っている馬鹿どもを叩き起こして銃座に押し込め!」

「機長、無線で報告を入れます!」

「ああしっかりと入れておけ、もし俺らが落ちたとしても見つけてもらいやすくなるようにな!」

 

 ミコラの報告に、幾度となく対空砲火の嵐を潜り抜けては敵地に爆弾の雨を降らせてきた歴戦の爆撃機乗りにして、“gruby Janek(デブのヤネク)“の機長を務める“ナシム・アルミア=アルバイダ“中尉は急ぎ仮眠用ベッドから飛び起きては操縦席に飛び込んで副操縦手と操縦を交代し、半信半疑で操縦桿とスロットルレバーを握りつつ無線越しに起きている乗員に命令を出す。

 仮眠していた乗員──正確には機銃手達──が飛び起きてドタバタと機内を移動する中、馴染みの無線手"エフライム・フェリンスキ"はたとえ結構な長距離であっても確実に内容を向こうへ伝えてくれるリェタヴァ大公国製無線機の回線を開き、近隣の共和国軍施設及び本国に繰り返し報告を入れる。

 

 その行き先に何があるかを乗員達は知らないが、少なくとも共和国にとってこの発見は、たとえそれが小さいものであったとしても希望にはなるのだ。

 ………ただし、その希望に辿り着く道筋が悪いもので無い保証は存在しない。しかし一つ言えることとして、共和国は決して弱くは無い。脅威が眼前に立ちはだかるのなら、まず最初は外交努力で、それが通用しなければその実力で持って叩き潰してきたのだ。

 

 

 

 

*1
第二次世界大戦中、武装親衛隊のアインザッツグルッペンにて殺人活動の監督を行なっていた人物

*2
塹壕を掘り、その淵に犠牲者を立たせてから銃殺し、次に先とは反対側の縁に犠牲者を立たせて銃殺──といった一連の作業を塹壕の容量限界まで繰り返すやり方。

*3
乗員達が愛情をたっぷりと込めてつけた名前です。本当だよ?

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