三民族の共和国+α召喚   作:騎兵主義者

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第12話:Nocny napad(夜間襲撃)

 

 

 

 中央暦1639年/救世主暦1955年4月12日

 ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 ギム郊外 塹壕陣地

 

 東方征伐軍の先遣隊による第一次攻撃は3万の軍勢が、前線兵力と大型兵器に悉く吹き飛ばされたことで完全な失敗に終わった。

 後から詳細な事情を知った東方征伐軍司令部がギムの攻略を諦めてギムには包囲戦を仕掛けることが決定し、アデムにギムの包囲と攻略を任せ、本隊はギムを迂回して後方を攻撃するべく移動を始めたその夜。

 先遣隊の生き残りと、本隊からかなりの数引き抜かれて編成されたギム包囲部隊を率いるアデムは、この侵攻作戦の為に恩赦を受けて釈放された凶悪犯らによる懲罰部隊と遊撃兵からなる襲撃部隊を編成し、闇夜に紛れて敵陣に接近させ、突入させることで乱戦を引き起こさせようとしていた。

 とはいっても、アデムはこれだけで足りるだなんて考えておらず、襲撃部隊が引き起こした乱戦で敵の視線が一点に集中した後、後詰めとして騎兵や包囲部隊を投入することでギムの早期制圧を図っていた。

 

 しかし、ロウリア王国側が夜襲を仕掛けてくるであろうことはクワ・トイネ公国軍や青軍の兵士達──旧保護国軍と第1機動打撃軍は偵察機の航空偵察で判明したロウリア王国軍の不審な移動に対応するべく、ギムを離れた──も理解している為に、ロウリア軍の負傷者を回収した後に、様々な対応策を組み上げる。

 昼間の戦闘で大量に出た薬莢を戦闘糧食の空き缶に入れることで出来る簡易警報装置を鉄条網に仕掛けた上で、歩哨は小銃や機関銃を構え、また一部青軍の兵士はアクティブ方式*1の赤外線暗視装置を取り付けたwz. 48/50自動小銃を構えていた。

 また、迫撃砲兵はいつでも照明弾を放てるようにしていたし、手回し式のサイレンには常に兵士が張り付き、夜襲が起こった際にはすぐに警報を鳴らせるように待機している。

 その上戦車や対空自走砲は一部の車両に設置された、小銃用の物より遥かに視認距離の長い暗視装置搭載を搭載した車両を司令塔に、臨戦状態で待機していた。

 

 

 

 

 

 そんな具合に敵が万全の態勢で待ち構えているのも知らずに、襲撃部隊は静かに塹壕陣地へと近づく。

 闇夜に紛れるべく、暗い色の服に身を包み、顔に炭や泥を塗りたくり、黒い艶消し塗料の塗られた刀剣を手に、騒音を立てないように最低限の装備だけ持った軽装の襲撃部隊は姿勢を低くし、ゆっくりと動く。

 そんな彼らだが、鉄条網の対処は当然ながら初めてであり、まず最初に1人──十数件の強姦殺人で絞首刑になるはずだった元軍人の男──が、鉄条網に覆い被さるような形で死んだ味方の兵を踏み台にする形で飛び越える。

 

 その試み自体は成功したが、よりにもよって鉄条網に取り付けられた簡易警報装置を鳴らしてしまい、それによって塹壕から歩哨の誰何が浴びせかけられる。

 その誰何を、飛び越えた男は塹壕の方まで聞こえるように、実に上手い呻き声の演技をしてやり過ごす。

 なんとか危機を切り抜けた襲撃部隊は、鉄条網を飛び越えるのではなく、手持ちの武器で切断し、切断箇所から侵入する方向に切り替える。

 

 静かに、しかし素早く鉄条網を切断した彼らは切断したところを通って合流し、再び塹壕陣地に近づく………が、そこで彼らは運を使い果たしてしまった。

 青軍の歩哨が暗視装置越しに、塹壕へ迫る襲撃部隊の姿を見つけ、とにかく周囲に敵襲を叫び散らかして知らせると共に、襲撃部隊に狙いをつけて引き金を引き、wz. 48/50自動小銃の特徴的な甲高い銃声を鳴らして警笛がわりにする。

 その銃声を聞き付けたある兵士は急いで手回し式サイレンのハンドルをぐるぐる回してサイレンを鳴らし、ある将校は笛を取り出して吹き鳴らし、寝ている兵士を叩き起こして持ち場につかせ、迫撃砲兵は照明弾を砲口にあてがい、手を離して次の弾を受け取る。

 

「………おい、警報!!警報鳴らせぇ!!敵の襲撃が来たぞ!!!!」

「総員、武器を取って戦え!!夜襲だ!!持ち場に着いて夜襲に対処しろ!!!!」

 

 このように、装備の差もあって襲撃対象に気付かれてしまった襲撃部隊は隠密行動することを投げ捨て、指揮官は勢い良く叫んで陣地目掛けて突撃を敢行する。

 懲罰部隊の囚人兵は蛮声を上げ、姿勢を低くせずに手に持つ剣を振り上げて勢いよく走り出し、遊撃兵は姿勢を低くしながらも走って陣地を目指す。

 

「クソッ、総員突撃!!敵陣地まで後少しだ、とにかく走ってあそこに飛び込め!!そうすればあの爆発は来ない!!!!」

「うおおおーーーー!!!!」

 

 そんな彼らを迎え撃つのは、クワ・トイネ兵の振り回す水冷式のマキシム機関銃やベルティエ軽機関銃に、青軍が振り回す水冷式の“ブローニング“wz. 30重機関銃──これ自体は元々旧保護国軍の持ち物だったが、青軍の持っていた空冷式のwz. 39重機関銃と交換した──や、wz. 48/52軽機関銃に、すっきりとした見た目のwz. 52汎用機関銃である。

 また、機関銃の他に歩兵の持つ小銃や短機関銃も銃口を光らせ、戦車は主砲で榴弾や散弾を放ち、対空自走砲は対空機関砲の使う30mmや40mmの榴弾や散弾をばら撒く。

 

 陣地より飛びかかる機銃弾を全身に余すことなく浴びて倒れる男がいた。

 ──あいつは確か味方殺しだったっけな。

 対空自走砲の放つ40mm散弾が飛んできて、体の一部だけを残して死んだ11人がいた。

 ──確かあそこには、俺の跡を継げるくらいに優秀な部下がいたはずだ。

 青軍が運用する戦車。その砲塔に銃架で据え付けられた重機関銃のばら撒く13.2mm弾を浴びて、上半身と下半身が分離した者がいた。

 ──幾つもの戦場を共に乗り越えた戦友だ、あいつとは酒を飲み交わす約束をしていたな………

 

「ちくしょう、こんな戦場があってたまるか!!これが戦争だなんて、俺は認めない、認めないぞ────!!!!」

 

 遊撃兵を、襲撃部隊を率いていた指揮官の1人はこの惨状を目の当たりにして叫び、そこに迫撃砲弾が飛び込んできて、炸裂した。

 彼は、倒れたりはしなかった。立ってはいた。立ってはいたのだが、喉を破片で掻き切られて死んだのだ。

 

 そのような考えが巡りながらも、1人の男は、遊撃兵は陣地目指してひたすらに走る。

 走って、走って、走った末に彼は銃弾を潜り抜けて、陣地まで残り少しのところに辿り着いたのだ。

 ただし、残り少しまで辿り着いたと言っても、塹壕に飛び込めたわけではない。

 彼が最初に見たのは、自分を恨みがましい目つきで睨み、きらりと光る銃剣を銃口に取り付けた小銃の、その銃口を、銃剣の切先を自分に突きつけるクワ・トイネ公国軍の、獣人の兵士の姿。

 彼が最後に見たのは、その銃口が炎を吐き、小さな鏃が自分の眼前に飛びかかる姿であった。

 彼は、それを最期に見て、永遠の眠りについた。

 

 

 

 襲撃部隊による襲撃が失敗に終わったものの、後詰の部隊や指揮官のアデムはそれを知らずに、襲撃は成功したものと思い、仕上げとして後詰めの部隊を投入するよう命じる。

 

 そのアデムの命令に従って投入された後詰めの部隊は──襲撃部隊どころか、アデムが最初に率いていた先遣隊と同じ運命を辿ったのである。

 止まぬ砲撃と、大量に飛びかかる銃弾の雨を浴びて、原型すら残さないで死に絶える。そのような、これまでではありえないような戦場の姿に、一部──特に傭兵や徴集兵など──はいくら金や名誉をもらえるとしても、このような戦場は勘弁願いたいと士気が崩壊して逃げ出しもした。

 そして、アデムは逃亡兵に対して、今、この状況だけは非常に無力であった。彼もまた、この戦場を認められなかったのだ。

 だから、彼は最前線にいる軍旗を掲げた旗手が逃げるのを見逃した。旗手が逃げに逃げ、他の兵士もまた旗手に続いて前線から少しでも離れようと。原型すら留めない死に方はしたくないと、ただひたすらに逃げる。

 

 

 

「………撤退命令を、撤退命令を出しなさい!!最前線にいる部隊を全て撤退させ、再集結させるように!!!!」 

 

 暫し固まっていたアデムだが、ふと気を取り直すとすぐに撤退命令を出す。ことここに至って彼は対峙している存在が圧倒的な戦力を有していることを理解したのである。

 

「な、なんで撤退命令が出ているんだ………」

「ちくしょう………ちくしょうっ!!俺たちの戦いは無駄だったってえのかよ!!」

 

 狼煙で、太鼓で、角笛で、あらゆる手段で最前線のロウリア兵に撤退命令が告げられ、砲弾によって掘り返されたクレーターで身を縮こまらせてひたすらに終わりが来るのを待っていた者や、戦友の死体を盾に、隠れていた者は、自分たちの行動が無駄であったことを知り、絶望する。

 そんな最前線の彼らは前に進むことも、後ろに退くこともできず、ただそこで砲弾や銃弾に当たらないことを祈りながら眠れぬ夜を、地獄のようなこの状況にあっても、真っ黒なキャンバスの中を煌めく無数の星々に祈りを捧げ、眺めて過ごす。

 なお彼らは夜が過ぎた後、戦場の清掃と負傷者の回収の為塹壕から這い出てきた青軍の兵士に投降もしくは救助され、武装解除をした後、何人かは治療を受けてから捕虜となった。

 

 

 

 さて、最前線に撤退命令を出したアデムだが、次に脱走兵を捜索して再び戦列に戻すよう、騎兵や騎士に命令する。

 とは言っても、脅しをかけたところで戻ってきそうにもないので、穏健な手段で連れ戻すことを命じ、幾らかの現金に加え、文官に書かせたアデム名義の契約証書と、今後のおおまかな作戦展開を記入した書類を交渉役兼捜索部隊の騎兵や騎士に持たせている。

 

 このような、アデムにしては珍しい措置が功を奏したのか、あるいは本来の契約以上の報酬に釣られてか。それとも戦後にアデムがどのような仕打ちを与えてくるのか不明であるが故かは不明だが、脱走兵の多くは無事に戦線復帰し、なんとか包囲部隊の瓦解だけは避けることに成功した。

 

 ………ただし、先遣隊の多くを擦り潰した上、さらには先走って包囲部隊も──懲罰部隊はまだ良いとして──遊撃兵に加えて多くの兵士をギムですり潰したアデムの行動に、たとえロウリアがこの戦争に勝利したところで、彼は無能と謗られることにはなるであろうが。

 そもそも彼が先遣隊をすり潰した後、補充を受けた際に新たに下達された命令は「ギムの包囲」であって、「ギムの早期制圧」ではないのに、だ。

 さらに付け加えるならば、よりにもよって彼はなんとかクワ・トイネや三民族の共和国によるスパイ摘発から逃れ、本人曰く「寝返ったふりをしていた」と語る、ロウリア王国の密偵をまともに取り合ったりせずに、拷問の末に処刑していたのも大きな失敗である。

 

「こうなるのを知っていたのならば、あの男を処刑したのは悪手でしたね………拷問の記録を見ましょう、せめて少しでも不利を覆すために………………!!」

 

 覆水盆に返らず。その忠実な密偵はアデムの疑心暗鬼と愚かさによって散々痛めつけられた末に処刑されてしまったため、もはや参考になるのは拷問時の記録しかない。

 少しでも自分たちの不利を埋めるために、自分のせいで拷問し、根拠無き裏切り者の汚名を着せられ、処刑された彼の、命を賭して行ってきたことが無駄にならないために。

 

 

 

*1
赤外線ライトで対象を照らし出し、その反射光を受像装置で捉えるタイプの、最初期の暗視装置。

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