三民族の共和国+α召喚 作:騎兵主義者
中央暦1639年/救世主暦1955年4月24日
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 マイハーク 海軍基地
ロウリア王国による侵攻によって突如として戦争が始まり、ギムの町が包囲され、三民族の共和国から派遣された共和国遠征軍や、その旧保護国から送られた援軍に加え、軍事援助によって強化されたクワ・トイネ公国陸軍の防衛戦によってなんとか膠着状態に持ち込んだは良いものの。
この膠着状態を、人命を擦り潰すだけの状況が続くのを良く思わなかったロウリア王国は、パーパルディア皇国の援助もあって揃えに揃えた軍船4400隻からなる大船団を、マイハークへ差し向けたのである。
そのことを伝えられ、ロウリア王国海軍の大艦隊を迎撃せよとの命令を受けたクワ・トイネ公国海軍第2艦隊の提督“パンカーレ“は出航に備えて物資を積み込む50隻の軍船を、次に穏やかな海を眺めて静かに呟き、ため息を吐く。
「なんとも勇壮な姿だ。だが………はぁ………」
彼の悩み事とは、目下マイハークに迫りつつあるロウリア王国の大艦隊を少しでも食い止めるべく、自殺的攻撃をかけねばならないことだ。
三民族の共和国、その一つであるリェタヴァ大公国とやらが援軍に艦隊を送ったらしいが、その援軍は56隻と、自分たちより少し多い程度の数しか送られなかったことに、彼はやるせない感情を抱いていた。
実際には、その数の差を大幅に埋める技術力を、戦力を持ち合わせているというのに。
また、海軍本部からの命令も彼の悩みの種であった。
何せ「リェタヴァ大公国海軍は先に攻撃するから観戦武官を1人送れ」なんて内容の命令が伝えられたのだから、ますます彼はやるせなくなる。しかし、彼は一つの艦隊を預かる提督であり、そして1人の忠実な国家の
で、あるが故に彼はこの命令を無視することもできず、かと言って誰か部下を送るにしても、長き付き合いのある部下を死地に送り込みたくもないわけで。
結果として、彼は頭を捻り、送り込む人物の選定に時間をかけざるを得なかったのである。
「パンカーレ提督、私は観戦武官の任に志願いたします」
「なっ………しかしだな………敵は4000もいるのだぞ!!私は部下を死地になど送りたくないのだ!!わかってくれ………」
と、そこへ黒い長髪が特徴的な、1人の若きエルフの側近──“ブルーアイ“──が、スーツケースを片手にパンカーレの元に現れ、観戦武官に志願する。
パンカーレは“ブルーアイ“を止める為、現状知り得る情報を出して、引き止めようとする。だが“ブルーアイ“もパンカーレを安心させるためにも、また自身を送り出させるためにも説得する。
「………私の剣術は海軍で主席を獲った上、陸軍にいる剣術に優れた者の何人かを打ち倒し、さらにはあの猛将“モイジ“団長とも渡り合ったのです。言わば、この中で一番生存率が高いのは私ですし………そもそもあの“鉄竜“を飛ばしてきた国のことです、何かしらの勝算があるのでしょう」
そうまでされた上に、事前通告で伝えられていたものであろう、一機の飛行艇──観戦武官の出迎えに派遣されたもの──が着水し、そのまま空いている桟橋に自力航走して横付けしたのをブルーアイは指差して言う。
「それに、あのような水に浮かぶ鉄竜を作り、ミドリ船長の言うような城の如き鉄の大型艦を作り上げる国の戦い方を──何よりも、弱き我々に味方し、多大な援助を施してくれた彼らの船であるからこそ、私が命を賭して乗船する価値があると思っています」
ここまで来たらパンカーレも腹を括り、ブルーアイを送り出すことに同意する。
桟橋へ赴き、途中でブルーアイは振り返る。そこで見たのは、パンカーレ提督が、他の海軍将校が、水兵たちがブルーアイに向けて敬礼を捧げている姿であった。
感極まったブルーアイは彼らに対し直立不動の敬礼で持って感謝の意を示し、出迎えのリェタヴァ大公国海軍の将校や飛行艇を操縦する海軍航空隊の航空兵もブルーアイと共に、クワ・トイネ海軍の船乗り達へ自分達の形式で敬礼を捧げていた。
「ご機嫌よう、我々はリェタヴァ大公国海軍から派遣された出迎えの者です。あなたが観戦武官で間違いないですね?」
「はい、よろしくお願いします。ところで………これであなた方の艦隊に乗り込むのですか?」
「ええ、その通りです。少し空を飛びますが、安全のために、席に着いたらシートベルトをつけていてくださいね」
さて、流石にずっと敬礼しているわけにもいかないのでブルーアイは敬礼の姿勢を解いて、後ろに振り返る。
それから出迎えの、ブルーアイと同じエルフのリェタヴァ大公国海軍将校──“アウシュリネ・シムクーナイテ“中尉──と敬礼と短い挨拶に握手を交わして、飛行艇──レヒスカ製のRWD-41水陸両用飛行艇──に乗り込む。
ブルーアイを乗せた飛行艇は、マイハーク港の空いた航路を航走し、速力と揚力を稼ぐと少しずつ浮き上がり、海面から離れる。
その様子をブルーアイは、1秒たりとも見逃すものかと窓に張り付いて熱心に見つめる。
少しの飛行艇による空の旅を経験したブルーアイは、遂に自身が観戦武官として乗り込むことになる装甲艦“アウクシュタイティヤ“の、その立派で威厳を感じさせる彼女の姿を、じっくりと目に焼き付ける。
「なんとデカい船だ………しかも我々の船よりスラリとして、なかなか格好も良い。それでいて緻密に計算された城のような姿だ………これみたいな船が何隻も持っている国を味方につけられたのだから、我々はこの戦争を確実に勝てるだろうな!!」
彼自身は彼女達リェタヴァ大公国海軍の艦船がどのようにして戦うのかを知らないが、それでもブルーアイにとっては、数以上にこの援軍の存在を頼もしく感じさせていた。
中央暦1639年/救世主暦1955年4月24日
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 マイハーク沖 リェタヴァ大公国海軍 本国艦隊 アウクシュタイティヤ
リェタヴァ大公国海軍、その主力艦隊である“本国艦隊“を指揮する為に旗艦“アウクシュタイティヤ“に乗り込む海軍中将、“カジミエラ・レインガルダイテ“提督は自身が指揮する艦隊に絶大な信頼を抱いていたし、上空援護として艦隊が随伴させている航空母艦“アンターナス・グスタイティス“及び“ユルギス・ドブケヴィチウス“の艦載機も、自身の乗艦“アウクシュタイティヤ“の性能も、あらゆる面でトップクラスのものだと知っているし、信用している。
あとは飛行艇で飛んできている観戦武官のブルーアイを出迎えて、明日に接敵する予定のロウリア王国海軍の大艦隊を沈めてやるだけ。
木造の、それもバリスタくらいしか積んでいないようなチビの帆船に、彼女が沈められるわけはなし。そもそも敵が衝角で勢いよく彼女の横っ腹に突っ込んできたとしても、それは彼女にとって大したダメージになりやしない。何せ彼女の横っ腹には保証書付きの信用できるお守り、“プリエーゼ式水中防御隔壁“と多層構造の装甲ベルトがあるのだから!
さらには5基ある砲塔に収められた主砲の55口径420mm四連装砲に、副砲の60口径164mm三連装砲7基は容易に敵木造艦を引き裂くだろうし、なんなら対空砲として多数積んでいる六連装の70口径40mm“ボフォース“でも十分対処し切れるだろう。
それほどまでに、この7万と数千トンのスラリとした美しき鋼鉄の巨艦は強大な存在であり、共和国の誇りである。そして共和国の海軍全体で空母戦力が増えない理由に加え、全海軍将校が将校用の設備を自費で揃え、挙げ句の果てには時々下級将校や平民出身の海軍将校が艦や基地に備え付けられた無料の兵員食堂に出没する理由でもある。
閑話休題。
カジミエラはブルーアイを乗せたガル翼と二重反転プロペラが特徴的なRWD-41飛行艇が穏やかな海面に着水し、アウクシュタイティヤに横付けしてきたのを確認する。
飛行艇の収容作業が進む中、案内役に従兵を艦中央部の航空区画に向かわせて、カジミエラは現アウクシュタイティヤ艦長の“アルギルダス・サウリウス・ラバナウスカス“大佐と共にブルーアイの到着を艦橋で待つ。
「初めまして、クワ・トイネ公国海軍の観戦武官ですね?私はこの船の艦長を務める“アルギルダス・サウリウス・ラバナウスカス“大佐です。
それからこちらの人狼族の女性はこの艦隊を指揮する“カジミエラ・レインガルダイテ“中将になります」
「クワ・トイネ公国海軍、第2艦隊より派遣された観戦武官のブルーアイです。この度は我が国への援軍派遣と多大な援助に感謝いたします」
簡易的な自己紹介と敬礼を交わし、その後即座に本題を切り出す。
ここに関してはカジミエラが淡々と、恐れも何もなく、すでに決定したことを事務的に話すだけではあるが。
「改めまして、早速ですが今次作戦について、概要を共有したいと思います。
我々はレヒスカ王冠領陸軍航空隊及び航空母艦の艦載偵察機による複数回の航空偵察によって、敵ロウリア王国海軍艦隊の位置、数ともに把握しています。
また、現在ロウリア艦隊はここより西方約500km程の地点にて、船速5ノットでこちらに向けて航行していることを確認しています。彼我の接敵予想時刻ですが、明日の概ね11時以降と予想されています。
最後にロウリア王国艦隊との戦闘法についてですが、基本的には艦載火砲による砲撃及び艦載航空機からの機銃・ロケット弾掃射と爆弾の投下になります。この場合、我々に一切の損害なく撃滅できると判断しております」
それを聞くブルーアイは4400隻もの大艦隊を何とも思わず、路傍の石か何かぐらいにしか見ていないカジミエラの様子に舌を巻く。なお攻撃方法に関してはよくわかっていないので、聞き流して適当な相槌を打つだけにとどめている。どうせよくわからないことに変に口出しをしたところで、結局は自分の無知と愚かさを曝け出すだけなのだから。
その後、ブルーアイは割り当てられた士官用の広々として、整えられた部屋に案内されると、日誌をつけてから士官食堂にてアウクシュタイティヤの士官達が私財を出して雇ったシェフ達の作り上げる、素晴らしい味と見た目の夕食を摂り、そのままふかふかとして快適なベッドに潜り込む。
中央暦1639年/救世主暦1955年4月25日
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 マイハーク沖 リェタヴァ大公国海軍 本国艦隊 アウクシュタイティヤ
ブルーアイとアルギルダス艦長、そしてカジミエラ提督に加え艦橋要員は皆揃ってロウリア艦隊との接敵に備えていた。なおロウリア艦隊の動向自体はレーダーと航空偵察によって把握しており、艦橋は接敵に備え、最大火力を発揮するために針路を変え、速力を上げる。
「ロウリア王国艦隊、射程圏内に収めました!」
「よろしい、針路301度へ、最大戦速!!」
「了解!針路301度、最大戦速!!」
カジミエラの号令を、操舵要員は復唱し、舵輪を少し回して速力通信機*1のハンドルを少し前へ倒し、機関室に出力を上げろとベルをカンカン鳴らすことで命令を伝える。
艦隊は針路を変え、速力を上げてロウリア王国との距離をどんどんと詰めていく。
その間、アルギルダスは必要な命令を下し、異世界での初めての実戦に備える。
「全砲塔、砲弾装填。弾種榴弾!」
「全砲塔、榴弾装填完了!!」
「レーダー統制射撃、用意!」
「レーダー統制射撃、射撃指揮装置及び射撃管制レーダー同調完了!」
「主砲、交互撃ち方用意!」
「主砲、交互撃ち方用意完了、射撃可能!!」
「………射撃、開始!!!!」
そして、遂にロウリア王国の大艦隊、その多くがアウクシュタイティヤ級装甲艦の55口径420mm四連装砲と、随伴のヴィリュノ級装甲巡洋艦の60口径254mm三連装砲の射程距離に納めると、まずは先頭を進む船からレーダーで狙いを付け、榴弾を、ロウリア王国に破滅をもたらす一撃を叩き込む。
ズドン、ズドンと砲声が、アウクシュタイティヤ級とヴィリュノ級の主砲から砲声が響き、彼我の距離がさらに縮まると次に護衛の防護巡洋艦や軽巡洋艦の少し軽い砲声も続き、最後には駆逐艦の比較的に軽くて小さい砲声も鳴り始め、火砲で奏でる合奏が始まる。
「こんな敵が見えない距離でも、あなた方の攻撃は届くのですか?」
「ええ、届きますよ。ただ我々と同格の相手でしたらもう少し距離を詰めたいところですけれど、今回の場合はそうではないので、この距離から攻撃を始めることにしましたので」
「軽巡洋艦及び防護巡洋艦も発砲開始しました!!」
「よろしい、このまま発砲しながら直進しろ。それから空母に艦載機を出すよう命令しておけ。航空戦力が出るかもしれんが、より効率的にあの艦隊を水底に沈めるためにも、彼らの力が必要だ」
「了解。
“アンターナス・グスタイティス“及び“ユルギス・ドブケヴィチウス“、艦載機を発艦させるように。カジミエラ提督の命令だ、対艦攻撃用装備を搭載した攻撃機と戦闘機を発艦させて、上空からの援護に割り当てろ」
しっかりと対策を施された艦橋の内部からでも響く420mm砲の砲声に、ブルーアイは目を白黒させながらも何とかこの遥か遠い敵を攻撃出来るのかとアルギルダス艦長に訊ねる。艦長から帰って来た答えは、堂々とした余裕を感じさせるものであった。
その間も前進し続ける艦隊は、景気良く主砲を撃ち放ち、副砲を装備する艦はそれも攻撃に投入する。さらには航空母艦からも飛行甲板にそれぞれ4基装備した仕様違いのカタパルトで戦闘機を4機発進させ、次に発艦補助用のロケットブースターでジェット艦上戦闘機や、主翼や胴体にたっぷりの爆弾やロケット弾を吊り下げたレシプロ攻撃機を発艦させる。
ジェットエンジンの轟音と、レシプロエンジンが回すプロペラの風切り音と、ロケットエンジンの発艦プロセスに沿って緩やかに、そして急速に燃焼するロケットブースターの燃焼音が火砲の合奏に加わり、新たな彩りを加える。
中央暦1639年/救世主暦1955年4月25日
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 マイハーク沖 ロウリア王国東方征伐海軍
総勢4400隻からなるロウリア王国海軍の大艦隊“東方征伐海軍“は針路をマイハークに向け、順調な航海を続けていた。
そして、その大艦隊を率いる海将“シャークン“の胸中は自信と戦意と野望に満ちていた。クワ・トイネやクイラどころかロデニウス大陸を、さらには海を超え、“フィルアデス大陸“の、パーパルディア皇国でさえ打ち倒せるだろうと野望が燃え上がるが、直ぐに理性の水で危険な野望の炎を消火する。
そもそもロウリア王国にとってパーパルディアとは出資者であり、さらにはこの大艦隊を揃えるのに支援があって6年も掛けている上、ロウリア単独ならば百年以上の時間を必要とする。何せ船を建造するにあたって大量の、造船に適した木材を揃えなければならず、そもそもその木材自体、育ち切るのに長い時間が必要である。
それこそ具体例として、一つのとある事例が最も適切であろう。それは現実世界において、西暦1807年にデンマークがイギリスによる“コペンハーゲン砲撃“での敗北と、海軍の艦船全てが没収された後、デンマーク海軍が艦隊再建を目論んで9万本ものオークの木を植えたのだ。そして、その植えたオークはそれから200年経過した後の2007年にやっと育ち切ったわけではあるが、当然ながら200年も経過すれば戦術も武器も変わるわけで………………あとはお察しいただきたい。
閑話休題。
数多の森を開拓し、山を禿げ上がらせ、パーパルディアに頭を下げて揃えた大艦隊はシャークンが野望の炎を燃やすくらいに壮観であり、彼がこの大艦隊を率いる提督となれたことは後世、大々的に子や孫、さらにはその先の子孫にまで語り継げる偉大な功績であろう………………それが栄光に満ち溢れた戦果と共にあったのならば………………
東方征伐海軍の一員として乗り込む者は皆自身と希望と戦意に満ち溢れ、自分たちの勝利を信じて疑わなかった。
………突如として、先頭を進む数隻が遥か遠い敵艦からの攻撃を受けて轟沈するまでは。
超音速の420mm榴弾、その内部に詰め込まれた大量の高性能爆薬が、信管の作動によって点火されて高速で燃焼し、弾殻を大小様々な無数の破片に変え、爆風と共に全方位へ撒き散らす。
この一撃を木造船が防げるわけもなく、一部は燃え、一部は乗員もろとも消し飛ばす。
「な、何が起こったッ!?状況知らせぇッ!!」
「わかりません、シャークン海将!!ですが今の攻撃で8隻は消し飛びました!!」
「飛竜だ、飛竜を呼べッ!!竜騎士に偵察と我々の先導を行わせるッ!!」
「了解!」
攻撃があったこと自体までは理解できたものの、手段までは理解できなかった彼らは引き返すこともせず、飛竜による航空支援を要請した後にそのままマイハークへと突き進む。
それが海底の魚礁を増やし、魚の餌を大盤振る舞いするだけになるとも知らずに………………
中央暦1639年/救世主暦1955年4月25日
ロデニウス大陸 ロウリア王国 王都ジン・ハーク 飛竜飛行場
ロウリア王国の王都ジン・ハークに設けられた飛竜飛行場。その管制塔では東方征伐海軍より飛び込んできた支援要請に対し、手持ちの飛竜の内、即座に動かせる250騎を全て送り込むことで対応する。
その命令に通信官は王都の防衛戦力が払底すると進言するが、その進言に対して竜騎隊の司令官は演説を振るうことで抑え込み、全ての竜騎士に全力出撃を命じる。
「ぜ、全騎ですか?それだと王都防衛用の飛竜がいなくなると思われますが………」
「おそらく東方征伐海軍を攻撃したのは敵の主力であろう。それならば今切れる手札を切って、敵に大打撃を与えることが今後の戦局に大きく関わってくる。それに、どのようなものであっても主力は主力だ。だとすれば、むしろ戦力の逐次投入は悪手になる。
そもそも、だ。ここ王都にまで辿り着く敵などそうそういない!!
だからこそ、これで全て終わらせてやるのだ────全竜騎隊、出動せよッ!!」
中央暦1639年/救世主暦1955年4月25日
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 マイハーク沖 ロウリア王国東方征伐海軍
針路マイハークに、そのまま進み続けていた艦隊が止まることのない砲撃で数を減らしに減らし、それでもまだ何とか進み続けていた東方征伐海軍の上空に竜騎隊が現れ、士気が低下していた兵士達は士気を盛り返し、竜騎隊に手を振り、歓声を上げる。
が、その歓声は直ぐに止むことになる。その答えだが実に単純なものである。
飛竜よりも高い空を、我が物顔で悠々と、音に近い速度で飛ぶリェタヴァ大公国海軍の艦上戦闘機が、戦闘機よりも多く羽ばたいていた250騎の飛竜全てをその機首に装備した4門の20mm機関砲と、主翼下部に設けられたロケット弾コンテナから放たれる──弾頭に近接信管を仕込んだ──対空ロケットで素早く全騎を撃ち落としたからである。
空を戦闘機が制すると、これまで待機していた攻撃機の活動が活発になる。
攻撃機は逆ガル翼の主翼、その両翼に取り付けられた降着装置格納カウルを兼ねた武装ポッドに装備された合計4門の長砲身30mm機関砲から、本来対空用途で用いられる30x210mmの機関砲弾を放ち、主翼下部に吊り下げた発射レールからロケット弾をばら撒き、主翼下部や胴体の爆弾倉に抱える爆弾を落としてさらに船を沈めていく。
飛竜が、かつて飛竜だった肉片が艦隊に降りかかり、振り落とされた竜騎士が海に落ち、バラバラに引き裂かれた竜騎士の一部が甲板に叩きつけられる中で更なる惨劇は起きる。
艦隊が、爆発して轟沈し、燃え上がる船から最早消火は不可能と判断した兵士や水夫が海面へ飛び込み、幾つもの船が沈み、まだ沈んでいない船以外には破片と生存者だけが浮かぶ状況である。
シャークンは、最早このまま進み続けたとしても、接敵することもなく死者を増やし続けるだけだと判断し、撤退を選択する。
「我々は、悪魔を敵にしてしまったのかも知れぬ………このまま進んでも退いても無能と誹られ、歴史書にも同じく無能の提督としてだけ名が残るのは確実………ならば、少しでも部下を生き延びさせねばなるまい………」
絶望に沈み、船が沈み、艦隊全てが沈められる前に。取り返しがつかなくなる前に、部下の屍と船の残骸で海を埋め尽くす前に、シャークンは決断を下し、撤退命令を出す。
「通信士、全艦退却を命じよ」
魔法通信で生き残りの船全てに撤退命令が伝えられ、艦隊が撤退するべく回頭する中、シャークンの乗り込む旗艦も撃沈され、彼は海へ投げ出される。
乗艦が沈み、海面に浮かぶ食糧の詰められた樽へ部下と共にしがみついていた彼は、力尽きて沈むのを待つだけかと思っていた。
しかし、そこへ一隻のボート──正確にはルテニア公国製の30mモーター
見慣れぬ旗をマストに掲げ、同じく見慣れぬ揃いの服を着込んだおそらく兵士であろう、獣人やエルフなどで編成された彼らは海面に浮かぶ輪や網にロープを投げ、海面に浮かぶ生存者を救助する。
そして、シャークンと、彼と共に樽にしがみついていた部下達もまた救助され、毛布と薄い金属でできたカップに注がれた“共和国海軍コーヒー“なる茶色く、香ばしい匂いの中に微かな蜂蜜の匂いがする温かい飲み物を与えられた。
「なるほど、この我らの軍船より小さいながら高速な小舟も、あの遠くの大型船も三民族の共和国とやらのものか………」
「提督、この“共和国海軍コーヒー“ってのは試しました?こいつぁ甘さの中にほんのちょびっとの苦味と酸味がしてなかなか頭が冴えてきますぜ!!」
「ほう、そうか………ならば試してみるとしよう」
生存者を救助し、甲板をはじめとして、問題のない範囲に詰め込めるだけ詰め込んだバイダークは一度そこを離れ、母船である装甲艦アウクシュタイティヤへ戻る。
その間、シャークンは部下に勧められて、カップの中の液体を啜る。
ブレンドされ、深めに焙煎されたコーヒー豆の香ばしい香りと、そこに混じるほのかな蜂蜜の甘い香りを鼻いっぱいに吸い込み、次に少しばかり茶色い液体を口に含む。
──安くて大量に手に入るコーヒー豆と、せめてもの気休めにと安いながらもまだ質の良いコーヒー豆を混ぜているのを誤魔化すため、多めに投入される練乳から由来する──強いミルクの風味と甘味に、──練乳よりは少ない──蜂蜜のほのかな甘み。うまい具合にマッチしている甘味だけでなく、─混ぜているコーヒー豆由来の──ほのかな苦味と酸味もあってこの飲み物は頭を冴えさせるのには良いかもな。もし海軍を再建することができたら、この飲み物を普及させるべきか?
そんなことを思いながら、シャークンは手の中の温かみが消えないうちに、カップの中の液体を飲み干す。
中央暦1639年/救世主暦1955年4月25日
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 マイハーク沖 リェタヴァ大公国海軍 本国艦隊 アウクシュタイティヤ
景気良く砲撃を続けてはいたものの、それでも残りの弾薬数や砲身命数が不安になってきたところ、レーダー手はロウリア艦隊の動きを電波で掴み取り、直ぐ様内線電話で艦橋に伝える。
まず最初に艦橋要員の1人がその電話を受け、次に艦長のアルギルダスへ取り次ぐ。取り次いだ電話越しの報告を受け、アルギルダスはカジミエラにそれを伝えつつ、攻撃停止と生存者の救助を命令する。
「………なるほど、敵艦隊は撤退に移ったと………救助活動はせず、味方を見捨てるつもりか?」
「攻撃停止、攻撃停止だ!!他の艦と航空隊にも伝えろ、それから救助活動の用意もだ!!」
「あの………砲撃が止まりましたが、戦闘はもう終わったのですか?」
「ええ、敵ロウリア王国の艦隊はその多くを撃沈され、現在撤退しています」
命令が伝達されるにつれて砲声は止み、速度はそのまま、撃沈された船の残骸やそれに捕まる生存者に、航行不能と化して置き去りにされた船がただ浮かぶだけのそこへ針路を変えて、艦隊は進む。
救助活動のための用意をして、幾らかの船は救助用の装載艇を海面に下ろしながら。
しかしブルーアイは戦闘が終わったのは理解しつつも、なぜ救助活動を始めるのかまでは理解できず、そのことを2人に訊ねる。
彼の質問に、まずアルギルダスが答え、次に噛み砕いた詳細な理由をカジミエラが答える。
救助活動をする理由、それはかつて存在していた世界で定められた国際的な戦争法規、そして騎士道精神と、共和国水兵の矜持によるものであった。
「なるほど………ですが救助活動をするとのことですが、誰を救助するのですか?」
「海面に浮かぶロウリア艦隊、その生存者全てです」
「我々が元いた世界には世界的な“戦争のルール“があったのです。『その中には撃沈した船に乗り込んでいた者は、たとえ敵兵であっても救助せよ』というものもありました。我々はあくまでも文明国の軍隊ですので、たとえそのような“戦争のルール“がこの世界になくとも、この“戦争のルール“に則って戦います」
装載艇を全て出し、甲板から浮き輪や浮き輪がわりに急いで膨らませたゴム製の救命いかだや本来偽装に使用する網、ロープを海面に放り投げ、なんとか泳いで舷側に辿り着き、大公国水兵に引き上げられた──時に大公国水兵が海面に直接飛び込み、安堵して力の抜けた生存者を救助することもあった──ロウリア兵にシャークン達が与えられたものと同じ毛布やカップに入った共和国海軍コーヒーを与え、甲板や居住区画の空きスペースに生存者を押し込む。
救助された彼らは、助けられるどころかそのまま殺される、もしくは良くて放置されるか。そう恐れていたところ、そのような恐れていたこともなく救助され、さらには毛布と暖かい飲み物が与えられたことに。そして故郷に置いて来た家族に再び会える安心感から、気を失う者もいたが、他の生存者や大公国水兵から声を掛けられ、時に平手打ちを受けて気を取り戻させる。
──あの時は本当に大変だったよ。何せ大量の船を沈めたかと思えば、今度は大量の生存者を救助して、甲板や居住区画に詰められるだけ救助者を詰め込んだんだから。
それで救助活動が終わって、あとは港に帰って救助した捕虜を引き渡せば終わり………だと思っていたのが、まさかまさかの「クワ・トイネには2万人規模の捕虜を収容できる収容所がありません」なんて状況なんだから、我々はレヒスカ王冠領陸軍やルテニア公国空軍の補給物資を詰め込んだ輸送船を分捕って一時的な捕虜収容所にする、なんてぐらいに、あのロデニウス大海戦後は混乱していたのさ。
おまけに、俺の乗っていた“ジェマイティヤ“や“ズーキヤ“は散々酷使して擦り減った砲身の交換はまだ良いとしても、だ。それ以上に、持病の発作………まあ、主砲の装填機構、そいつが重い不調を起こしたってんで本国に回航されたんだ。まあ、装填機構の不調自体はアウクシュタイティヤ級やマウォレヒスカ級の持病だし、むしろ“ジェマイティヤ“と“ズーキヤ“以外が持病の発作を起こさなかったのを褒めてやりたいぐらいだよ。
「そう笑いながら語るのは、“ロデニウス大海戦“当時新米水兵としてアウクシュタイティヤ級装甲艦の2番艦“ジェマイティヤ“に乗り込んでいた“スタニスラウス・ペトラヴィチウス“海軍大佐でした」
──ロデニウス戦争終戦から20年後に作成されたドキュメンタリー番組「ロデニウス戦争の裏側!その時、何があったかを記録する」より、一部抜粋──