三民族の共和国+α召喚 作:騎兵主義者
中央暦1639年/救世主暦1955年5月25日
クワ・トイネ公国 ギム=エジェイ間街道 中間地点
有翼騎兵は戦車と歩兵を従え、途中で槍騎兵も幾らかを仲間に加え、隊列はロウリア王国軍の東部諸侯団の行軍地点、その側面にと道のりを変えていく。
行軍する軍勢にとっては、何があっても絶対に突かれたくない弱点である横っ腹を食い破り、引き裂くために。
有翼騎兵は森の中を進み、ロウリア軍の横っ腹を狙いに定める。
祖国である共和国へ勝利と栄光、忠誠と献身を捧げ、友邦であるクワ・トイネとクイラへ安寧と繁栄を届け、敵であるロウリアへ敗北を押し付けるために。
有翼騎兵達が森を進む中、砲兵陣地から僅かに地面を揺らす砲声が轟き、高らかにエンジン音を響かせて陸軍航空隊の攻撃機が空を駆け回る。
戦車や装甲車がエンジンの唸り声を上げて街道を前進し、次に騎兵が森から飛び出て小休止中のロウリア軍、その横っ腹目掛けて槍を構え、突撃する。
ラッパの音色を伴い、襲歩で勝利へ、ただひたすらに勝利から勝利へと進む。
まず、隊列に榴弾が降り注ぐ。
先鋒は鉄の暴風に晒され、地獄がそこに現れる。
次に後衛が空を舞う航空機から放たれ、ばら撒かれる爆弾や対地ロケット、機銃弾や機関砲弾によってグチャグチャに引き裂かれていく。
幸か不幸か、下処理の砲爆撃はすぐに終わったものの、短い時間に大量の砲爆撃を受けたのは事実であった。
更には土埃を巻き上げて街道を前進する戦車が、じわじわと恐ろしい唸り声に地響きを伴って来るのに気づいた幾らかのロウリア兵はなんとか抵抗しようと一部の兵が武器を構えるが、残りの兵士は戦意が打ち砕かれた。
ロウリア軍は得体の知れない怪物である戦車や装甲車に恐怖し、一部の勇敢な兵士は鋼鉄の獣に剣を振り翳し、矢を射ってみるが、当然ながら防弾能力を有する装甲板に対して一切の効果はなく弾かれる。
戦車の主砲から榴弾や散弾を浴びせられ、あるい同軸機銃、車載機銃に撃ち抜かれて蜂の巣にされ。または装甲車が搭載する機関砲で引きちぎられていき。
武器の通じない怪物に味方が殺されていくのにロウリア兵が恐怖して後退したところで、街道横の森から飛び出てきた敵の騎兵、有翼騎兵が持つその非常に長い槍で貫かれ、剣やサーベルで撫で斬りにされ、片手で振り回す拳銃や短機関銃、自動小銃で銃弾を叩き込まれる。
更には騎兵襲撃が終わったすぐ後に始まった、雨のように降り注ぐ曳火と着発が混ざった榴弾の砲撃と航空機からの地上攻撃でさらに痛めつけられ。挙げ句の果てには先ほど襲撃をぶちかましてきた有翼騎兵と、別方向から迂回していた槍騎兵が東部諸侯団の後方に展開し、退路が塞がれてしまう。
東部諸侯団の彼らは逃げ道もなく、前方からは鋼鉄の猛獣軍団がキュラキュラと近付き、横っ腹からは騎兵の突撃と銃撃が叩き込まれた上、砲弾や弾片と爆風の嵐に航空機の機銃や爆弾、ロケットの雨を受ける羽目になり。退路になりそうな後方は敵の騎兵が展開し、追撃を受けることは確実となって。
結局、王冠領軍によってぐっちゃぐちゃに掻き乱された末に戦意を大鋸屑レベルにまで削られた東部諸侯団は、生き残った貴族や魔導士と兵士達の全会一致によって、砲身の冷却や航空機の補給で王冠領軍からの攻撃が緩んだ隙に武装解除と降伏を決定し、天幕や毛布などで作った白い布切れをそこら辺に転がっている棒切れや、穂先を切り落とした槍で仕立てた旗竿に括り付けた即席の白旗を複数作り上げ、大きく見やすいようにとにかく多くの兵士に持たせて振らせた。
ついでに同様の即席白旗を持った貴族や魔導士が少しの信頼できる護衛を連れ、軍使として自分達の武装解除と降伏を伝える為、周囲に展開していると目された王冠領軍を探しに行った。
その道中にて、一部の軍使たちは偶然野盗と遭遇し、戦闘音を聞きつけて急行してきた王冠領軍の兵士と共同戦線を張って野盗を叩きのめすなんて一幕はあったが、詳細は別の機会にでも。
中央暦1639年/救世主暦1955年5月25日
クワ・トイネ公国 ギム=エジェイ間街道 中間地点
東部諸侯団を率いるジューンフィルア伯爵は、無事に降伏が受け入れられたことを軍使に出した貴族や魔導士達から聞き、全身の力から力が抜けたように膝から崩れ落ちる。
これでもう、誰も無駄に死ななくて済むことへの安堵か。それとも、自分に従ってくれた兵士達を、彼らの家へと残してきた家族へ、生きて再会させられる可能性を手繰り寄せられたことからか。
あるいは、あの悪魔のような男、アデムの命じた残虐な行為に加担しないで済んだからか。
そのどれかによるのか、あるいは全てかはわからない。少なくともわかっていることとして、彼は砲声や銃声に、敵の攻撃に怯えなくとも良いことだけは明らかである。あのような恐ろしい砲声は、砲火に晒された時間こそわずかなものでこそあったが、火砲を、戦場の女神が振るう大いなる力を知らぬ彼らにとってはただただ恐ろしいだけのものであった。
結局、東部諸侯団はこの一方的な戦いで約2万もいた兵力の内、4172名の戦死者と7622名の負傷者を出し、すでに殲滅されていた騎兵部隊を除けば貴族から一兵士に至るまで、そのほぼ全てが共和国軍の捕虜となったのである。
しかし捕虜の数が多い上に、移送には多大な時間が必要であるし。更には敗残兵からなる山賊もちらほらと確認されたために武装解除は限定的なものに留め、護衛を兼ねた監視にと少数の歩兵と装甲車に野戦病院と食料類を残し、後は見た目だけは重症患者なジューンフィルア伯爵と魔導士ワッシューナやそのほかロウリア貴族達に掌握と統率を任せ、後の王冠領軍兵たちはギム目指してそこを去っていったのである。
「………命拾いしたのか?」
「少なくとも、多分我々はまだ生きていられるでしょう。後がどうなるかはわかりませんが。ですが、まあ案外そう悪く扱ったりはしないでしょう、なにせここに野戦病院なるものを置いていったくらいですし」
自分達と違う装備をした王冠領軍の兵士に肩を借り、野戦病院へ運び込まれるロウリア兵を視線で追い。弓や剣を持った多分元ロウリア兵が、先端に
中央暦1639年/救世主暦1955年5月26日
クワ・トイネ公国 ギム郊外 ロウリア王国軍陣地
ギムの街と城塞都市エジェイとを繋ぐ街道の中間地点にて、東部諸侯団が街道を前進する騎兵部隊に降伏して武装解除の後に限定的再武装をして捕虜収容所への移送を待っていた頃。
ギムの街でも戦局が少しずつ動きつつあった。
包囲部隊の余計な損耗を避ける為に包囲は継続しながら、しかし攻撃は偵察程度の消極的なものに留めていたアデムだったが、そこまで包囲解除に対して積極的な動きを見せない敵である共和国軍やクワ・トイネ軍が反攻に出てくるのは先だろうと判断していた。
………実際にはその反攻が既に始まっているのも知らずに、アデム達は包囲の中で敵軍が、ギムの街が干上がるのを待ち続けていた。
彼らの終局の目的、ロデニウス大陸統一はもとより、もはやエジェイもギムも攻め落とすことに失敗しているし、クイラ方面からは王冠領軍のポドハレ銃兵*1とクイラの獣人山岳猟兵がクイラとロウリアの国境線である険しき山岳地を縦横無尽に走り回ってはそこに展開するロウリア王国軍をじわじわと痛めつけ、あるいは山道を作り、橋やロープウェーを設置しながら“夜明け“に備えて進軍路と兵站路を開拓している。
そして当然ながらも陸上からは鉄の獣こと戦車を従えたフサリアたちが迫り来る上、その後方では大規模な空挺部隊が空に白き花を咲かせんと、訓練をしながら“夜明け“を待っていた。
そんな中、大規模などんでん返しが用意されているとも知らず、共和国軍の反攻が始まるよりも前、アデムは先の戦いにて消耗した部隊の補充と再編を終えた自らの部隊に対して一つの命令を下す。
“ギムに対する包囲網を狭め、橋頭堡を築け“、と。
ロウリア軍の前線では、そのアデムの命令に対して兵士達が若干の不満をこぼしつつ渋々命令に従い、ギムに築かれた塹壕を模倣し、ジグザグに曲がりくねらせた塹壕を掘ってはじわじわとギムの防衛陣地へ近づいている。
ただし時々、彼らに対してギムの町に籠る共和国軍やクワ・トイネ軍から小規模な夜襲や、破壊工作に砲撃や夜間爆撃など、小さな、しかしロウリア軍の兵士たちにとっては大きな一撃を加えられることもあった。
それでも、なんとか敵の防衛陣地まであと少しのところに辿り着いた彼らは、攻勢を翌日に控えたその夜、襲撃の気配がない中、本国から急拵えの補給路で送られた軍隊向けの低品質な赤ワインと、庶民では滅多にお目にかかれないふかふかした焼きたての小麦を使った白パンに、家畜の血と肉と脂身と、それから一掴みの穀物にたっぷりの香辛料を豚の腸に詰め込んだ腸詰め。そして新鮮な野菜と豆をふんだんに使ったスープ。
これらの、一般の兵士たちからしてみれば祭日の時のような豪華な晩餐を存分に味わい、楽しみ。明日の勝利と戦利品を楽しみにしている彼らは、上層部から末端の兵士に至るまで、今までの汚泥を拭い去って栄光を掴み取れると信じていた。
………翌朝より、今まで積み上げてきた彼らの努力を全て、賽の河原よろしく共和国軍によって蹴り壊されてしまうことも知らずに。
彼らは、ひとときの平穏と、安眠に浸っていた。