三民族の共和国+α召喚 作:騎兵主義者
マイハーク港 クワ・トイネ公国海軍 第2艦隊司令室
中央暦1639年/救世主暦1955年1月27日
この日、いつにも増して葉巻を多く吸いながら、クワ・トイネ公国海軍、第2艦隊司令の“ノウカ“と副官は数日前より姿を現した正体不明の“鉄竜“を題材に、これまでクワ・トイネ側が入手した情報を下地に考察をしていた。
「しかしまぁ、あれは本当に“竜“なのやら………」
「国籍不明騎の正体………あれの翼に描かれた紋章は現時点で3種類存在することが確認されていますが………司令はどう考えていますか?」
「赤と白の四角い格子模様の中に、王冠を被った白い鷲*1の紋章、太い黄色の縁と緑の菱形、その中に赤い盾と白馬に跨った騎士*2の紋章。それから青の盾、その中心に金の三叉槍。そして両隣に王冠を被った金の獅子*3の紋章。鉄竜とやらが翼に掲げている紋章は違うが、侵入してきた方角はどれも同じだ。恐らく国籍不明騎を飛ばしているのは複数の国家からなる連合体のような存在*4ではないか?」
「確かに北東海域から例の国籍不明騎は侵入していますが、北東海域に国は存在しなかったはずです。あれは北の“パーパルディア皇国“から飛来してきたものでしょうか?」
「だがこれまでの情報から言えることとして、あの国籍不明騎は“ロウリア王国“から放たれたものではないだろう。偵察をするにしても、わざわざ遠回りしたところで飛竜の消耗が激しすぎる」
紫煙を吹かし、これまで国籍不明騎の迎撃に出撃した竜騎士達の描いたスケッチと聞き取り調査の結果を参照しながら思考の海に潜り込んでいた2人だが、そんな2人を思考の海から引き摺り出す報告が一つ飛び込む。
「失礼します。第2艦隊より魔法通信です」
彼ら2人を引き摺り出した報告を伝えた伝令はノックの後に扉を開き、ノウカへ通信内容が記入された書類を渡す。
「マイハーク沖にて所属不明の大型船からなる艦隊を発見、これより臨検を行う………か。国籍不明騎の次は大型船の艦隊だと?ここ数日不思議なことが多すぎる」
書類を受け取り、内容を読み上げるノウカはこれまでの少し穏やかな表情から一点。これまでの事に加えてさらなる不安因子が増えたことで、表情も声色も険しくなる。
マイハーク沖 クワ・トイネ公国海軍 第2艦隊旗艦 ピーマ
「目標の艦隊、全艦帆を下ろして停船している模様!」
「ふむ、我が艦隊を見て観念したのか?」
さて、そんなノウカの不安因子でもあるマイハーク沖で発見された大型船の艦隊。それに出会し、通信を送った張本人である第2艦隊の旗艦を務める軍船“ピーマ“にて船長の“ミドリ“は望遠鏡を手にする見張りから報告を受けると帆を張り、水夫にオールを漕がせて臨検するべく深く息を吸って命令を叫び、艦隊に接近する。
「これより艦隊の臨検を行う!諸君は万全の準備にて待機!!ようーそろーー!!」
少しばかり時間が経過した後、艦隊に接近したミドリは兵士2人を随伴させていざ臨検………の手筈であったが、随伴の兵士共々近くから見た大型船──正確にはレヒスカ王冠領海軍、本国艦隊所属の“
「………なんだこれは………これは本当に船なのか?これは船ではなく城砦だと言われた方がまだ理解できるぞ………」
マイハーク沖 レヒスカ王冠領海軍 本国艦隊 マウォレヒスカ
「よーし、お客さんが近づいてきた!“
一方、ミドリ率いるクワ・トイネ公国海軍第2艦隊と平和的に接触した装甲艦“マウォレヒスカ“の艦長にして優れた体格に闇のような黒髪と熊の耳が特徴的な
「よしよし、ちゃんとドアが開いてくれたか………まずこれで失態を一つ晒さないで済んだことを喜ぼう」
異世界の客人の前で装載艇格納庫の自動装甲ドアを爆破して強制的に開く*6なんて失態が起こらなかったことにヴォイチェハは安堵しつつ、部下にして家族でもある水兵たちに次の命令を下す。
ついでに同乗している
「それじゃあ諸君、客人を歓迎しよう。ところでヴィエロポルスカ殿、貴女も同席した方が良いと思うぞ」
「ええ、そうですね………私もちゃんと同席しますから、少し力を緩めてくださる?食い込んで痛いので………」
「………すまん、許せ」
マイハーク沖 クワ・トイネ公国海軍 第2艦隊旗艦 ピーマ
↓
レヒスカ王冠領海軍 マウォレヒスカ装載艇 “26m
↓
レヒスカ王冠領海軍 本国艦隊 マウォレヒスカ
「船長、あの船にはどこから乗船するんでしょうか?」
「………待て、あそこからクレーンと小型艇が出てきたぞ!おそらくあれに乗り込めばあの大型船に乗船できるのだろうな」
「船長!こちらへ向かってくる小型艇やあの大型船の乗員に獣人が存在すると思われます!!」
「何、それは本当かっ!!」
「はい!!こちらへ手を振っている兵士の1人が頭から狼の耳を生やしています!!」
「そうかっ!」
視点をレヒスカ王冠領海軍本国艦隊からクワ・トイネ公国海軍第2艦隊に戻して。
目の前の大型船、“マウォレヒスカ“の姿に嘆息していたミドリと随伴の兵士2名は本来の職務を果たすべく、臨検のために乗船を図るが、どうにも乗船できそうな箇所が見つからずその場に止まっていた。
が、そんな彼らを横目に
その様子を眺めていたミドリらは「あの小型艇にのれば良いのだろう」と判断して小型艇がピーマに接舷するまで待機し、その間中マウォレヒスカや小型艇の様子を観察していた。なお、小型艇の甲板に立って手を振っている案内役の将校が人狼族であることに気付いた兵士の1人は少しの驚き混じりにその事を報告している。
少しの沈黙が流れるが、直ぐにそれなりの速度で接近してきた小型艇が立てるエンジンの音で沈黙はかき消される。
そうして小型艇が接舷し、ミドリと兵士2人が王冠領海軍水兵から少し手助けされながら乗り換え、クレーンで小型艇ごと吊り上げられる際に浮遊感を味わったりしながらもついにマウォレヒスカへの乗船を果たし、人狼族の将校から案内を受けて整列する水兵に見守られながら遂にマウォレヒスカの主、ヴォイチェハ・スタロスタ──そして外交官のルイザ・ヴィエロポルスカ──と対面する。
「ご機嫌よう、
このような巨大な船など、これまで想像すらできなかったが故の緊張か、或いは自然とこの船の強さを感じ取ったからか。ミドリは早くなる鼓動に、言葉を詰まらせる。
そのようなミドリの様子を汲んでか、ヴォイチェハは堂々と、そして少しばかり親しみやすいように軽い声色で乗艦と自身の紹介を初め、最後に両手を広げて笑顔で歓迎の意を見せる。なお彼女は自分達の言葉が通じているかどうかわからないため、身振りや表情を多めにしてなんとか意思疎通を図っている。
そんなヴォイチェハの心遣いを感じ取ったミドリは内心で感謝を述べつつ、息を整えてから自己紹介と乗船事由を伝える。
「わ、私はクワ・トイネ公国海軍、軍船ピーマの船長、ミドリである!現在我が国、クワ・トイネ公国は厳戒態勢にある。貴船の所属と航海目的を明らかにせよ!」
ミドリの言葉を一言一句違わず聞き取り、理解したヴォイチェハは少し驚いて呟くが、現地勢力との接触に成功したと判断して直ぐに外交官のルイザと交代する。
ヴォイチェハと交代したルイザは自己紹介を簡潔に済ませ、ミドリの問いに答える。航海目的を、そして共和国外務省から託された職務を果たすために。
「マジかよ………レヒスカ語が通じんのか………ルイザ、外交官の仕事になったぞ!」
「了解、専門家にお任せあれっと………その質問に関しては、私が回答いたします。ああ、私は全権委任公使のルイザ・フランチシュカ・ヴィエロポルスカです。
今回、我々は外交交渉及びこれまでの我が国による情報収集活動によって発生してしまった領空侵犯の謝罪の為、貴国へ訪れた次第になります」
「………なるほど………我が国、マイハークの上空に現れたあの国籍不明騎は貴国のものであると?報告によればこれのような3種類の異なる紋章を翼に掲げていたとありますが………」
「それに関してですが、我が国──“三民族の共和国“は三つの国家から構成される国家ですが、基本的にはその3種類の紋章を掲げているものは全て共和国のものであると考えてください。詳しい説明をすると時間があまりにもかかりすぎますので、それだけを覚えておけば十分です」
「そうですか、ですが我々は三民族の共和国なる国家が存在していたとは知りませんでした。貴国の成り立ちを簡潔に説明していただけますかな?」
「そうですね………我が国、三民族の共和国は転移国家になります」
マイハーク港 クワ・トイネ公国海軍 第2艦隊司令室
「司令!!第2艦隊より続報、緊急通信です!!」
再び伝令が通信文を握って司令室へ飛び込んだ伝令に、ノウカは先ほどより吸い殻の増えた灰皿に葉巻の灰を落としながら通信文を読み上げるよう命じる。
「大型船及び艦隊の所属は“三民族の共和国“。使節が乗船しており、我が国との会談を希望している。クワ・トイネに対し領空侵犯を行なった複数の国籍不明騎も三民族の共和国が保有するものであると自供し、公式に謝罪したいとの申し入れです。なお、三民族の共和国の成り立ちは転移国家である………とのこと。また、三民族の共和国は他民族・多種族・他宗教国家でもある、と」
伝令が通信文を読み上げ終えると、ノウカはすぐさま勢いよく音を立ててそれまで深く腰掛けていた椅子から立ち上がり、司令室を出て急ぎ“公都“で開かれる政治部会に乗り込んで提言するべく馬の手配を始める。
「………急ぎ馬を手配しろ。そう、急を要する事態が起こった、政治部会に報告するために必要だからな」
………神話の伝承にもある“転移国家“を自称するものが会談を求め、“あの竜“も自らのものであると名乗り出た、と………そして他民族・多種族・多宗教国家であるというのなら、おそらく亜人排斥を進める“ロウリア“と違って我々クワ・トイネにとって付き合いやすい国家なのか………?
再び思考の海に潜りながら、ノウカは手配した馬を待つ。
その間も葉巻を何本も吹かし、彼の身体は頭からつま先までしっかりと紫煙を纏っていた。