三民族の共和国+α召喚   作:騎兵主義者

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第4話:闖入者と政治的接触

 

 

 

 公都クワ・トイネ 蓮の庭園 政治部会

 

 中央暦1639年/救世主暦1955年1月27日

 

「お待ちください!部会に招集されておらぬ方はお通しできません!」

 

 マイハークから馬を飛ばして街道を走り、“公都クワ・トイネ“は政治部会の会場である“蓮の庭園“に到着したノウカは葉巻を吹かしながらエルフの女性職員が蓮の庭園に入ろうとするノウカを押し留めようと試みる。

 しかしその企みはノウカが蒸気機関の如くもうもうと吐き出す紫煙に彼女が巻かれてしまったことで失敗に終わり、ノウカがずかずかと蓮の庭園に闖入することを許してしまった。

 さて、エルフの女性職員を物理的な意味で煙に巻き、副流煙をたっぷりと浴びてしまったがために咳き込む職員をすり抜けてずかずかと闖入したノウカは外務卿の“リンスイ“が声を荒げるのを気に留めず、上辺だけは丁寧に取り繕った挨拶を返す。

 

「何事かっ、第2艦隊司令!!貴様はお呼びでないわっ!!」

「これはこれは外務卿、ご機嫌いかが?」

「おやめなさい、外務卿。急務の要件とお見受けします、報告を」

 

 そのようなやり取りがヒートアップする前に、クワ・トイネ公国の首相“カナタ“はノウカの言葉に反論を加えようとしたリンスイ外務卿より先手を取る形で窘め、闖入者であるノウカの様子から何かしら急を要する事態が発生したと判断を下し、ノウカに報告をするよう促す。

 自国のトップであるカナタにそう促され、ノウカは粛々と報告を述べる。ノウカの述べた内容を聞いた政治部会のリンスイ含めた閣僚は矢継ぎ早に捲し立てる。

 

「報告いたします。現在、第2艦隊が臨検している大型船の艦隊が転移国家を名乗り、マイハーク及び我が国に対する複数回の領空侵犯への公式に謝罪したいとのこと。また、獣人やエルフが乗員として大型船に乗り込んでいたとの報告も入っています」

「転移国家だと!?国名は!?」

「国名は三民族の共和国です」

「三民族の共和国だと!?そんな国など知らん、追い返してしまえ!」

「あのような敵対行動を繰り返しておきながら謝罪をしたいなどとは、いったいどのような了見か!?」

「だが獣人やエルフが兵士の中にいるんだろう?ならばロウリアよりは話ができると考えた方が良いのではないかね?」

 

 斯くして政治部会は紛糾するが、ノウカは自国を取り巻く状況を淡々と説明した上で、最後に強くカナタ首相へ決断を迫る。

 

「皆様方はそうおっしゃいますが、現時点において我が国を取り巻く諸国の状況として。まず同盟国の“クイラ王国“は飛竜を持たぬ貧しい国ではあるが、天然の防塁と山岳地帯での作戦行動に長ける獣人部隊を保有し、難攻不落とも言える彼の地を攻め落とすには相応の準備と流血が必要。そのためにロウリア王国は優先目標を我が国に絞り、さらには近年より軍船を大増強し、我が国との国境に圧力をかけてきている。

 このような状況で、三民族の共和国とことを構える余力は我が国に存在しません」

「………首相、ご英断を」

 

 ノウカの言葉、そして説明と彼の真剣な表情、重い声色はカナタが三民族の共和国から訪れた使節との会談を執り行うことを決意させるのに十分であった。

 他の閣僚は彼の選択に驚愕するが、さもありなん。

 そもそも敵対的行動とも言える領空侵犯を数回繰り返しておきながら、領空侵犯は自分たちが行なったことだと自供した上に謝罪したいとの申し出があったとして、さらに付け加えるならば領空侵犯をされた側であるクワ・トイネは元々緊張状態で警戒心もとにかく高まっているような状況であったのもあれば、謝罪を受け入れる選択を取ったカナタ首相は他の閣僚からすれば勇敢にも思われよう。

 

 

 

 

 

 マイハーク沖 レヒスカ王冠領海軍 本国艦隊 マウォレヒスカ

 ↓

 マイハーク港

 

 ところ変わりてマイハーク沖。

 三民族の共和国を代表する公使のルイザ・ヴィエロポルスカとその随行員2名の合計3人からなる使節団と、使節団の輸送と護衛を担うマウォレヒスカ乗り込みの海軍銃兵*1の兵士5人、そして水先案内人として乗せたミドリら3名からなる合計11人の人員を乗せたルテニア公国製水陸両用トラックが装甲艦“マウォレヒスカ“の装載艇格納庫よりクレーンで水面に降ろされた後、ミドリの案内を受けて2基のスクリューを唸らせながらマイハーク港へ入り、上陸可能な地点から王冠領海軍の兵士や使節団は三民族の共和国に住まう市民として初めてクワ・トイネ公国の大地に降り立つ。

 なお上陸に際して水陸両用車を使用することになった理由だが、単純に艦隊を編成する艦艇の規模に対しマイハーク港が小さすぎた為である。

 合計20門の55口径420mm砲を5基の4連装砲塔に収めている上に、防御力や速力まで高性能を叩き出すように設計されたマウォレヒスカ級は遠目に見ればスラリとして洗練された美しさがあるものの、近くから見れば実に馬鹿げているほどに巨大なのだ。

 

 閑話休題。

 無事クワ・トイネの大地に降り立った一行は水陸両用車の助手席に座るミドリの案内を受けながらゆっくりと車を運転し、クワ・トイネ公国の海軍基地へ踏み入れる。

 そこからミドリはマイハーク沖で王冠領海軍の艦隊共々クワ・トイネ海軍の第2艦隊をマイハーク港もしくはマイハーク港近くへ入港させるように命令を出し、これまで行動を共にしていた2名のクワ・トイネ海軍兵を基地で降ろすついで、公都クワ・トイネに使節が移動手段を持ち込んで到着したことを伝えると、使節の道案内をするよう命令を受ける。

 

「ご苦労だった、諸君。諸君らは第2艦隊の帰港までここで待機せよ。私は公都へ彼らと共に行く」 

「ミドリ船長、その公都には何があるんです?」

「我が国は貴国の謝罪を受け入れる為の会談を開くので、あなた方を会談の開かれる公都まで案内するようにと仰せつかったのです」

 

 これによって一行からは2人減るが、それ自体はミドリにとっても共和国の使節達にしても大したことではない。

 ミドリにとっては今自分が乗っている水陸両用車や、マウォレヒスカをはじめとする共和国海軍の艦艇に舌を巻いていた。

 これまで彼が乗ってきた従来の馬車と違い、この“BTMA“*2と呼称されている車両は水上をクワ・トイネの軍船よりも早く*3航行したかと思えば陸上に上がり、そのまま馬車よりも快適かつ高速で移動できるBTMAの性能に。そしてこれを大量に生産し、大量に軍へ配備させることが可能な共和国の技術力と生産力、経済力を恐ろしく、そして味方に回ったことを考えると頼もしく思っていた。

 

 そのような思いを抱えるミドリをよそに、海軍銃兵の1人はミドリの道案内を受けながらBTMAを運転し、他の4人は共和国軍の標準装備であるwz. 48/50自動小銃を両手で支えながら通り過ぎる周囲の様子を眺めていた。

 

 そんな一行は無事に事故を起こすことなく公都クワ・トイネに到着し、海軍銃兵の兵士達とミドリを置いて外交官達は政治部会の会議室へ、会談の為に足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 公都クワ・トイネ 政治部会 会議室

 

 クワ・トイネ公国の首都である公都クワ・トイネ。その政治を司る政治部会の使用する建物の一角に存在する会議室で対面するように、共和国の使節とクワ・トイネ公国政治部会の一員は揃っていた。

 彼らがここに揃った理由はただ一つ、三民族の共和国とクワ・トイネ公国との会談が開かれるからである。

 

「今回は我々の不手際により意図せず7回に渡って貴国の領空を侵犯し、貴国の主権を侵害した件に関して三民族の共和国を代表して謝罪すると同時に、このような謝罪の場を設けて頂いたことに感謝します」

「こちらもクワ・トイネ公国の代表として、公に貴国からの謝罪を受け入れます。その上で、貴国についての誠実な説明をしていただきたい」

「ええ、それは我々としても必要なことであると判断しております故、こちらの配布する資料を用いて説明させていただきます」

 

 口を開くのは共和国側で、まずは領空侵犯に対する謝罪から入り、カナタ首相は謝罪を受け入れた上で共和国側に説明を要求する。

 その要求は共和国側も事前に予想していたので手際良く随行員がクワ・トイネ公国側に資料を配布し、全員に資料が行き渡ったのを確認すると共和国の代表者としてルイザ・フランチシュカ・ヴィエロポルスカは自らが生まれ育った祖国である三民族の共和国についての説明を始める………前に、一つの問題が浮かび上がる。

 そう、クワ・トイネ公国側は誰1人として共和国が使用する文字*4を読めないのである!

 

「………この文字、我々には何かが書いてあることはわかりますし、違う言語であることも理解はできますがの。ただこの“赤い盾の中に金の王冠を被った白い鷲“の紋章*5と、“白馬に跨って剣を振り上げた騎士“の紋章*6が記載された書類の数字だけであれば我々は解読や理解はできますぞ」

「へ?」

 

 そのことを外務卿のリンスイが共和国側に伝えれば、ルイザ達共和国使節団は盛大に困惑するしかなく。

 そもそも口頭でのやり取りに関しては問題無く十分意思疎通ができていたところで、突然自分達の使う文字が分かりませんとなれば困惑するのも無理はない。

 

「我々としてはあなた方も我々の使うレヒスカ語を話しているので、我々の使う文字のどれかは読めるだろうと思っていたのですが………」

「私からするとあなた方は世界共通語を話しているように聞こえますぞ」

「あぁ………なるほど。それでは口頭での説明に切り替えたいと思います」

 

 ただしルイザや随伴者は経験に関しては(共和国基準で)熟練でもなく、未熟でもない中堅ではあるが、無能ではないのですぐに口頭での説明に切り替える。

 ついでにクワ・トイネ側へインパクトを叩きつけるため、一種の国力の指標として昨年度の共和国における粗鋼生産量を出す。

 

「我が三民族の共和国は貴国の東北東、約1000km程の地点に存在し、共和国本土及び保護国の合計で273万8216平方キロメートル程の国土と、約3億5228万人の総人口を抱え、また一年間の粗鋼生産量は概ね4631.3万トンを誇る、元大陸国家になります」

「その海域にそのような国家が存在しているなど聞いたこともないですぞ!それに、あなた方の仰る事は本当に事実なのですかな?我々からしてみれば、もしかしたらあなた方はおとぎ話をもとにしたホラ話を吹聴している可能性もあるのだからの」

「………ふむ。確かにあなた方の疑念は極めて真っ当かつごもっともな意見ですし、我々としてもこのような現象が起こるまでは信じなかったでしょう。

 ですが、原因こそ判明していないものの、客観的な事実や科学に基づいた調査の結果として、我々はこの世界に国土………実際には本土と保護国、旧保護国諸共元々存在していた世界からこちらへ転移してしまったのです」

 

 ルイザの説明が終わり、リンスイは疑義を表情と声色に浮かべる。

 それ自体は真っ当なものであるし、共和国側からしても同じ状況に陥ったらそのようになりうるので、特に反論はせず、現時点で判明していることをベースに共和国の成り立ちや存在は事実であると述べる。

 もちろん同じようなことを繰り返し言ったところで信用してもらうのに不十分である事はわかりきっているので、最後の一押しとしてクワ・トイネ公国からの使節団派遣を提案する。

 

「もちろん、このような説明を繰り返したところであなたがにとってそれは真実か嘘であるかの判別はできないでしょう。ですので、我々はあなた方クワ・トイネ公国が我が国へ使節団を派遣する場合、それを迅速にお迎えし、受け入れる用意は常にできています。ご足労をかけることにはなるでしょうが、それでもどうか使節団の派遣をお願いいたします」

 

 この共和国側からの提案をカナタ首相は即座に受け入れることにし、リンスイ外務卿は驚く。ただそれを無視してカナタ首相は話し続ける。

 

「良いと思います」

「なっ!?」

「共和国は強力な竜や艦船を有し、可能であるというのに我々を威圧することもなくあくまでも我々と対等な立場であろうとし、また使節団の皆様の誠実かつ礼節ある振る舞い。これは我々があなた方を信じ、あなた方の提案を受け入れるとともに、あなた方の国の姿を、文化を知りたいと思います」

 

 そして最後にカナタ首相はこれまでの共和国側の振る舞いと話し方から使節団派遣を推し進める理由を答え、クワ・トイネ公国側の閣僚を納得させる。

 

「リンスイ外務卿、少なくとも私としては共和国は信用に値すると断言できるでしょう。彼らは強力な軍備を持っているが、それを理由に脅迫をせず、あくまでも穏当かつ平和的に我々と関係を持つ事だけを求めているのです。でしたら我々としてもせめて彼らの国へ使節団を派遣する必要性があるでしょう」

 

 斯くして、共和国と異世界国家とのファーストコンタクトは平和裡に終わったのである。 

 

 

 

*1
他国の海兵隊や海軍陸戦隊、海軍歩兵に相当する

*2
BTMAはБроньована Транспортна Машина-Амфібія/Bron’ovana Transportna Mashyna-Amfibiya(水陸両用装甲輸送車)の頭字語。ルテニア公国製

*3
ただし早いと言ってもBTMAの水上速力は最大で14ノットほどであるが。

*4
主に共和国本国での公用語の表記及び正書法はラテン文字(レヒスカ語、リェタヴァ語、リトヴィン語ワチンカ)もしくはキリル文字(ルテニア語、リトヴィン語タラシケヴィツァ)である

*5
レヒスカ王国の国章

*6
リェタヴァ大公国の国章

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