三民族の共和国+α召喚 作:騎兵主義者
中央暦1639年/救世主暦1955年2月3日
クワ・トイネ公国の首都である公都クワ・トイネ郊外にある飛竜隊の基地にて。クワ・トイネ公国において各部門でのスペシャリストから選抜されたクワ・トイネ公国使節団の一行は三民族の共和国から来ると言う迎えを待っていた。
「三民族の共和国は空路での迎えをくれると言っていたが、もしや領空侵犯を行ったあの鉄竜かその仲間に乗るのかのう?」
「さぁ………ですが彼の国は鉄の巨大船や鉄竜、それから彼女らが会談に赴く際に使った陸を走れる船のような乗り物のように高い技術力を持っているでしょうし、空を飛ぶ何かを使うのでしょう」
事前に共和国へは空路で向かう手筈になっていると聞かされてはいるものの、どのような手段で向かうことになるのかまではいまいち実像をつかめていない彼らは推論しながら時間を潰す。
そんな彼ら、そしてこの基地を使う飛竜隊の兵士らは空から大きな物体が現れるのを目にする。
それは、鯨が大海を悠々と泳ぐように、この広い蒼穹を飛んで現れたのだ。
その大きな物体───リェタヴァ大公国の国営航空会社であるLDKOL*1が運航する飛行船“アンターナス・リューテカイティス“は、その堂々とした姿をクワ・トイネ公国に見せつけ、静かに滑走路へ着陸する。
「鉄の大型船に鉄竜と来て、今度は空飛ぶ鉄の鯨が来る、と………もしや彼の国では鉄の獣がそこらを闊歩しているのでしょうか?」
「それもあり得るのう。しかし三民族の共和国が魔境であったとしても、あるいは何を求めるにしても援軍か、もしくは技術だけでも持ち帰らねばならん」
「ええ、それは確かに我々の仕事です。ですが、私は仕事だとかそう言うのを抜きにして、三民族の共和国がどのような国なのか非常に気になるんですよ。もしかしたら我々では想像もつかないような建物だったりが立ち並んでいる可能性がありますからね!」
使節団の一員にして軍務局から外務局へ出向中の“ハンキ“将軍と外務局職員の“ヤゴウ“は滑走路に着陸し、一時的な係留のために動き回る乗組員達の様子を眺めながらまだ見ぬ共和国の風景を想像し、好奇心を掻き立てていく。
そんな使節団一行の前に、1人のスーツ姿で背中から白い鶴の翼を生やし、整えられた銀髪と柔らかな顔つきが特徴的な細身の好青年──“ヴィテニス・マチュリス“*2──が現れ、使節団一行を飛行船へ案内する。
「初めまして、こんにちは。クワ・トイネ公国使節団の皆様ですね?これより皆様を我が三民族の共和国へとお連れする飛行船“アンターナス・リューテカイティス“に案内致しますので、私の後にしっかりとついてきてくださいね!」
ヴィテニスの案内を受け、恐る恐るといった様子で使節団一行は飛行船の乗客用ゴンドラから乗りこみ、割り当てられた部屋や備え付けのカフェやレストラン、バーといった機内にも受けられた設備を案内される。
巨体故か豪華な内装をしていてもそれなりに納得はしている様子だったが、彼らがこの1日で一番驚いたのはこの巨体を浮遊させ、推進させる原理についてであった。
「………ところで、この飛行船とやらはどのようにして動いておるのじゃ?」
「ええ、基本的には浮遊ガスと呼ばれる………軽い空気、特殊な空気を気嚢に封じ込めることで浮揚し、推進に関してはこのゴンドラに設置されたガソリンエンジンでプロペラを回すことで移動しています。それ以外は船と大して変わりません。例えばこの部分ですが、これは言わば船の舵です。
結局のところ、飛行船というものは船の構造が反転して、ついでに空を飛ぶようになったくらいのものですよ」
広々としたゴンドラに設けられたラウンジ。そこで使節団一行に向けてヴィテニスはラウンジに飾られている飛行船の模型を使い、飛行船についての説明をしていく。
なお模型を用いて説明している理由だが、単純に気体袋内のガスタンクやエンジンの収められたゴンドラに関しては安全面の理由等から機関員以外の立ち入り禁止が徹底されていることに加え、激しい剣幕で警備員に追い返されたため、使節団へ実物を見せることができないからである。
水素で浮かぶ硬式飛行船を飛ばし続けるためには、仮にも国営とはいえど航空会社の一平社員が使節団や自国の外交官どころかリェタヴァ大公や他国の王家、更には教皇や神すら尻を蹴飛ばして追い返すくらいの気概を徹底させなければ、高い安全性を成り立たせることはできないのだ。
とまあそんなことはさておいて。ヴィテニスや航空会社職員による割り当てられた部屋の案内を終え、しばしのフライトを使節団一行はそれぞれのやり方で過ごす。
ある者はレストランで出される食事やスイーツ、あるいは酒や紅茶のような飲み物に舌鼓を打ち、ある者は劇場で映画や音楽を鑑賞したり。またある者は部屋の机に向かい、日記を記したりといったように共和国に到着するまでの時間をゆったりと過ごす。
クワ・トイネ公国から旅立ち、飛行船は三民族の共和国の首都であるレヒスカ王国の王冠直轄領“ヴァルショヴァ“から北にいくらか離れた軍の飛行場目指して飛び続け、平穏無事に目的地であるレヒスカ王冠領空軍が管理する空軍基地の近くまで悠々と高度6500mの暗くなった空を飛行していた。
そんな飛行船“アンターナス・リューテカイティス“を出迎えるはレヒスカ王冠領空軍が防空用に配備する高出力のルテニア公国製ジェットエンジンを3基と、可変翼を備えている全天候仕様の超音速迎撃戦闘機“RWD-50“3機からなる1編隊である。
3機の戦闘機は尾と主翼の付け根からオレンジ色の炎を噴きつつも、飛行船の周囲を一糸乱れぬ編隊を組んで旋回したのち、高空へ飛び上がる。
そんな王冠領空軍戦闘機の歓迎を受けたハンキやヤゴウ達クワ・トイネ公国の使節団一行は、ジェットエンジンの奏でる甲高い爆音が遠ざかる中、さらなる高みへ飛び上がる3機の隼を見上げる。
「わっはっは!元気な若造どもめ!」
「………あっ、あれは一体!?」
「ヴィテニス殿、今の鉄竜はなんだったのじゃ!?もしやアレがマイハーク上空を飛んだと言う鉄竜かの!!」
「
さて、しばし空を眺めていた使節団一行だが、一番早くに気を取り直したハンキ将軍はヴィテニスに先程の“鉄竜“──RWD-50戦闘機──はクワ・トイネ公国の領空を侵犯したと言う“鉄竜“──正確にはPZL.67B爆撃機──と同じものかと問いかけるが、ヴィテニスからはリェタヴァ語での否定の後に、答えが返ってくる。
ヴィテニスの答えを聞いたハンキの脳裏にはもはや最初に戦闘機の姿を見た時のような少年時代の好奇心は無く、ただただ抵抗も出来ずに撃墜されることしかできない、無力な飛龍の姿。そして、飛龍達が撃墜される中を我が物顔で堂々と飛び行く戦闘機の姿だけであった。
王冠領空軍の戦闘機隊による“歓迎“を受け、明確に共和国と自国との技術や国力の差を見せつけられた使節団一行は意気消沈しかかっていたが、そんな彼らの沈み込んだ気持ちは三民族の共和国の首都である“ヴァルショヴァ“の新たな名物でもあり、周囲の古くからある建物と同じようなゴシック様式をベースにした荘厳な雰囲気と、静かに佇みながらも雄弁に共和国とは如何なるものかを語る、高さ650mもの共和国が誇る戦禍からの復興の象徴にして共和国の威信と意地の象徴たる超高層建築物“共和国文化・科学・学術宮殿“の勇姿に大いに驚かされ、吹き飛ばされている。
なおレヒスカ人の………特にレヒスカ王国の首都にして長い歴史を誇る古都“クラコヴィア“の住人達はこの共和国文化・科学・学術宮殿の存在を好ましく思ってない。ただしこれに対してニュートラルな感情しか無い、一般的リェタヴァ人であるヴィテニスは「やっぱあれいつ見ても馬鹿馬鹿しいくらいにでかいな」くらいのことしか思っていない。
そもそもレヒスカ王国、リェタヴァ大公国、ルテニア公国の三国家で三民族の共和国を構成しているといえど、共和国の本質とは異民族同士で寄り集まっている程度のものでしか無いのだ。
閑話休題。
ついにヴァルショヴァの空軍基地に着陸し、共和国の大地にクワ・トイネ人どころか異世界人として初めて降り立ったクワ・トイネ公国の使節団一行。
王冠領軍の儀仗兵達による着剣した小銃とサーベルの敬礼に、二指の敬礼で二度目の歓迎を受けながら飛行船の乗客用ゴンドラから降り、ヴァルショヴァに滞在中寝泊まりすることになる“共和国新王宮“を目指して一向は使節団専用
トラムに乗って移動する暫くの間、ゆったりと流れて過ぎ去るヴァルショヴァの、想像していたのよりも案外自国の首都である公都クワ・トイネと然程──精々馬車や馬に混じってトラムや自動車、自転車やオートバイがあちこちを走り回っているぐらいしか──変わらない街並みを意外そうな表情で眺める。
「意外ですな。貴国は高い技術力を持つと言うのに、首都はどうにも………あの走り回っているものや、このトラムとやらを除けばどうにも我が国の首都と風景が変わらないように思えるのですが、これはどのような理由があるのでしょうか?」
「そうですね………言わば共和国の意地と象徴、とでも表現しましょうか。我が共和国が共和国であり続ける所以と言いますか………」
「なるほど………お答えいただきありがとうございます」
それを疑問に思った使節団の1人からヴィテニスは質問を受けるが、残念ながらヴィテニスはリェタヴァ人でトロハイっ子であり、レヒスカ人でもヴァルショヴァっ子でも無いので苦笑しながらなんとか答えを捻り出す。
そんなヴィテニスの回答に、質問者の彼は案内人のヴィテニスがこのヴァルショヴァに詳しいわけでないことを把握すると、少し申し訳なさそうに礼を述べて席に戻る。
そんな一幕がありつつも、活気溢れるヴァルショヴァの中心地を抜けて若干整えられた自然の中に堂々と構える共和国新宮殿前の大広場。その一角に離れ座敷のように設けられたトラムの駅へ一行を乗せたトラムが到着する。
「お、おぉ!?ヴィテニス殿、あの建物は我々が宿泊するという共和国新王宮ですかの!?」
「ええ、共和国新王宮で間違いありません。ただ正確にはみなさまが宿泊するのは共和国新王宮内の迎賓館“バルバラ・ザーポリャ離宮“になります。"バルバラ・ザーポリャ離宮"は自然豊かな心地良い場所で、住んでしまいたいぐらいには快適で素晴らしいところですのでお楽しみに!」
高さ自体も尖塔含めて250mと高く、装飾こそ少なめながらも荘厳さを醸し出す共和国新王宮に再び使節団一行は驚くが、足を止めたりはせずにヴィテニスとルテニア公国軍から派遣された衛兵の案内を受けながら共和国新王宮内を見て周り、最後に彼らが宿泊する迎賓館"バルバラ・ザーポリャ離宮"へ足を踏み入れる。
とうとう共和国新王宮は迎賓館のバルバラ・ザーポリャ離宮に辿り着いたクワ・トイネ公国使節団一行は荷物をルテニア公国軍の衛兵に任せ、離宮で働くシェフたちの手掛けた様々な美食に舌鼓を打ち、翌日の視察に備えて後は就寝するだけとなった頃。
使節団一行は共和国新王宮の庭園に面した広間で備え付けのソファや安楽椅子に腰掛けながらジャムや酒を入れた紅茶を啜り、ふわふわとした軽い食感のポンチキ*3や鳥のミルク*4を摘んで、一息ついていた。
「わしは驚き疲れた、もういちいち驚かんぞ!」
そんな中、この日最後の驚愕を大浴場で体験し、つい先ほどまで大浴場のサウナで大量に汗をかいていたハンキ将軍がバスローブ姿で広間に現れると氷で冷やされたバケツの中に並べられた瓶飲料の中から炭酸水の瓶を一本手に取り、キャップを外して中身を口に含み、炭酸が口の中で弾ける感覚を楽しむ。
また、ヤゴウはお土産に絵葉書を一枚持って帰ろうとして、どの絵葉書にするかで悩んでいた。
この2人のように、使節団一行はめいめいのやり方で就寝までの時間を潰し、あるいは早々に就寝して明日の視察に備える。