三民族の共和国+α召喚   作:騎兵主義者

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第6話:クワ・トイネ公国使節団と共和国大セイムと脂の木曜日

 

 

 

 中央暦1639年/救世主暦1955年2月5日

 

 共和国内では四旬節を直前に迎えた木曜日の今日は、脂の木曜日と呼称され、祝祭日とされている。

 事実、共和国新王宮のすぐ前にある大広場を見やれば、屋台が並び、民族も種族も多様な人々が賑やかで楽しげに散策し、食べ歩きをしている。

 共和国市民がそんな賑やかな日常を楽しむ中、クワ・トイネ公国使節団は本日開かれる共和国議会の一つ、“大セイム“を見学する予定ではあるが、その“大セイム“がまだ開いていない以上、待つしかないわけで。

 

「おはようございます、皆さん。本日皆さんには共和国議会を見学していただく予定ですが、議会が開くまで大幅に時間がかかるので、それまで皆さんに護衛付きでの自由行動が許されます。それから腕時計と財布、現金と防寒具を皆さんに配布しますので、配布された現金を使って色々とこの街を見て回るのを推奨します。

 少なくとも街を見て回って、土産物や資料を購入していくくらいには困らない額は入っていますが、金銭管理には気をつけてくださいね。

 それから最後に、12時30分までにはここに集合してください。これで注意事項は以上になります。皆様、良き一日を!」

 

 その待機時間中、使節団を離宮に閉じ込めるのもいかがなものかと考えた共和国外務省の配慮もあって、防寒具に腕時計と共和国紙幣及び硬貨*1が色々と美術館や屋台等を見て回る分には困らない量詰められた革財布と革バンドの機械式腕時計が配られ、最後に集合時間を伝えられた一行は護衛付きで自由行動を許される。

 

 

 

 

 

 三民族の共和国 レヒスカ王国 共和国直轄領 ヴァルショヴァ

 

 クワ・トイネ公国使節団の1人、ヤゴウは護衛としてルテニア公国軍から派遣されたという羊系獣人の兵士を引き連れ、配布された分厚めのコートに身を包んでヴァルショヴァの街を見て回っていた。

 途中で自動販売機に2ズウォティ硬貨と50グロシュ硬貨に20グロシュ硬貨を一枚ずつ投入して購入した瓶入りのシトロン風味の炭酸飲料を飲みつつ、ただひたすらに街を歩いて回る。

 そんな彼に声を掛けるものが1人。どうやら今ヤゴウが通りがかった通りの角でカフェを開いているらしく、そこへ1人でも多くの客を呼び込む為、黒いエプロンを掛けて、宣伝用のカードを道ゆく人に配る猫獣人の少女は彼へ声をかけたようだ。

 

「そこのお兄さん、ウチのポンチキはいかが?最高に軽くていくらでも食べられる大きなポンチキが一個1ズウォティ80グロシュだよ!それから濃厚なミルクの甘味を味わえる自慢のソフトクリームもあるし、クッキーやケーキなんかも甘くて美味しいのがたっぷりとあるよ!」

「ふむ………あー、お嬢さん。君の働いているお店はどこにあるのかな?」

「もちろん!ウチの店はあそこの角っこにちんまりと構えてますよ!ウチの食べ物はどれも最高に美味しいのでお試しあれ!」

 

 と、そんな具合に無い胸を張って自身の働くカフェを宣伝する少女の口車に乗せられ、興味が湧き始めたヤゴウは少女の口車に乗せられ、カフェへ足を運ぶことにする。

 

 

 

「………いらっしゃい、好きな席に座りな」

 

 落ち着いた雰囲気のカフェに入り、カウンター席に腰掛けたヤゴウは、「岩から削り出したら人になった」と言われればそのまま信じてしまいそうなくらいに物静かで無愛想な大男のウェイターに、呼び込みをしている猫獣人の少女が宣伝に出した料理らしきものの名前を出して注文する。

 少なくとも彼はどこに行っても漂う甘い匂いや、料理の匂いで兎に角腹を空かせていたのだ。

 

「えーっと、ポンチキにおすすめのケーキをお願いします」

「飲み物は注文するか?」

「でしたらコーヒーというものを一杯、ミルクと砂糖を入れたのをお願いします」

「わかった、少し待て」

 

 無愛想なウェイターに、ちゃんと注文が通っているのか半信半疑のヤゴウではあったが、無事に注文が通り、ウェイターがキッチンの方に歩いて注文を書き留めたメモを厨房の料理人に渡し、丁寧な手つきでコーヒー豆を挽き始めたのを見てヤゴウは彼の評価を「ただ仕事に実直なだけの誤解されやすい人間」に書き換える。

 ウェイターがコーヒーを淹れて、注文した料理ができるまで道中の書店で購入した共和国軍についての本に目を通してみる。とは言っても共和国で使用される文字やそれで表記される言語を読めるわけでは無いので、写真やイラストのあるページとスペック表にだけ目を通す形にはなっているが。

 先に届いた香り高く、少しの酸味とフルーティーな香りのするミルクと砂糖でマイルドになったコーヒーを啜り、ヤゴウがじっくりと彼なりに共和国軍の情報が載った本に目を通しているところへ、とうとう注文した食事が届く。

 

「………あんたが注文したものだ。ポンチキは揚げ終わるまで時間が必要だから、少し待て」

「ああ、ありがとうございます」

 

 まず最初に届いたものは“謝肉祭のバラ“*2が3個と、“カルパトカ“*3の大きめなスライスが一切れを綺麗な赤い装飾の入った白い皿に乗せられたものであった。

 注文したものが届いたと理解したヤゴウはまず最初に謝肉祭のバラに手を伸ばす。

 

「おぉ………なるほど。これは確かに薔薇と呼ぶのも理解できますが、菓子をここまで綺麗なものに仕立て上げるとは………」

 

 まず手に取った謝肉祭のバラを目で見て楽しみ、菓子ながら凝った造形に感嘆しつつ一口齧ってみる。

 生地はサクサクと軽い口当たりで、そこまで甘くなく、むしろさっぱりとしたチェリージャムもあって非常に食べやすいものであり、ついつい残り全ての謝肉祭のバラまで手を伸ばしてしまった。ヤゴウはどうにも物足りなさを感じながらコーヒーで一息入れてカルパトカをフォークで切り分け、切り分けた分をフォークで刺して口へ運ぶ。

 

「ふむ、こちらのカルパトカも生地は軽いですが、クリームは濃厚ですね。でも一緒に挟まれたマーマレードのおかげで飽きやすいというわけでもなく、これもまたいくらでも食べられそうなケーキだこと………」

 

 謝肉祭のバラやカルパトカのような軽くて食べやすいスイーツがクワ・トイネに上陸したらご婦人方は食べすぎちゃって仰天しそうだなどと考えながらも、ヤゴウはパクパクとカルパトカを食べ、途中コーヒーを飲んで舌をリセットしつつ、あっという間に大きな一切れだったカルパトカも食べ終える。

 

「しまった。これだけおいしくて食べやすいんだったら、もうちょっと欲張った方が良かったなぁ………」

 

 そうしてすっかり空になった皿と、残りわずかになったコーヒーを飲み干してからにしたカップを見やり、指をスイーツと一緒に置かれた紙で拭きながらヤゴウは一言呟く。

 物足りなさをたっぷりと声色に乗せて、カロリーや使用されている砂糖の量など気にせずに呟いている彼は幸せ者なのだろう。多分、きっと、メイビー。

 

「あんたの注文したポンチキだ、揚げたてで熱いから気をつけろよ」

「これはどうもご丁寧に、ありがとうございます」

 

 と、そこにポンチキが5個盛り付けられた紙皿を持ってあのウェイターが現れ、ヤゴウの目の前にそれを置き、空になったカップと皿を片付ける。

 件のヤゴウはといえば、ポンチキを一つ手に取ろうとするが、揚げたて故の熱さから取り落としかけたので少しばかり時間を置いて、冷めた頃合いに手を伸ばす。

 

「おぉ………これは生地のふわふわとして軽い食感に、あっさりした甘味の強くないジャムがちょうど良いアクセントになって………もう少し、もう少しだけ追加しましょう」

 

 一つ手に取って食べてみれば、これまでのように軽い口当たりでやはりすぐに食べ尽くしてしまって物足りなさを感じるが、今のヤゴウは甘くて美味しいスイーツと共和国全体を包む脂の木曜日の雰囲気で財布の紐が緩み、甘みを求めて追加注文を頼む。なお護衛のルテニア公国兵もしれっと空いている席に着いてヤゴウや他の客と同じようにスイーツを楽しみながら紅茶を啜っている。

 

 とまあ、こんな具合にヤゴウと護衛のルテニア公国兵は後のことやカロリーのことを考えずにただひたすらにスイーツを存分に楽しみ、道中で資料などを購入したのもあって軽くなった財布とは対照的に、彼が両手からぶら下げた紙袋に入っている荷物は多くなったものの、彼はにこやかな笑顔を浮かべている。

 晴れ晴れとした表情で軽い足取りのヤゴウは、レヒスカ王国の接頭辞にクソがつくほど寒い2月の真っ只中に濃厚で細長いソフトクリームを食べ歩きしながら護衛任務をこなしているルテニア兵を連れて共和国新王宮へと戻る。

 

 

 

 

 

 三民族の共和国 レヒスカ王国 共和国直轄領 ヴァルショヴァ 共和国新王宮 “大セイム“議事堂

 

 バルバラ・ザーポリャ離宮の広間に集合したヤゴウやハンキ達クワ・トイネ公国使節団の一行はヴィテニスに率いられて共和国新王宮を歩き、共和国の方針を決めるべく上院や下院関係なく議員や政府閣僚、そして国王や大公などが集う“大セイム“が開かれる議事堂に到着する。

 一行は議事堂の4階にある貴賓席に座り、議場を見下ろしながら“大セイム“が開かれるのを待つ。

 

 少し待った後に、ゾロゾロと入ってきた共和国議会の上院や下院の議員と軍の将校や政府閣僚といった関係者が席に座り、最後に代表責任者として若きルテニア公が代表席に着席する。

 全員が着席し、開会時間になったことを認めると、司会者を務めるリェタヴァ人の議長“ヴァルデマラス・アンドリュカイティス“が席から立ち上がり、堂々と力強く大セイムの開会を宣言する。

 

「皆様お揃いのようですので、これより共和国市民が信仰するすべての神と精霊、そしてただいまここにおわしまするルテニア公“ムスティスラフ6世“の名の下に第312回共和国大セイムを開会いたします!」

 

 議長の力強い宣言が終わると議員達は拍手を送って彼の仕事を讃え、自分たちの職務である議場での議論に取り組む。

 議長は淡々と議題を告げ、共和国外務省を統括するリトヴィン人の“シャルヘイ・ブコウスキ“外務大臣に説明するよう指示する。少なくともこの議場においてはレヒスカ王にリェタヴァ大公、そしてルテニア公の誰よりも議長であるヴァルデマラス・アンドリュカイティスが一番権力を握っているのだ。

 

「それでは本日の議題ですが、『クワ・トイネ公国との国交開設に関連する一連の諸条約・協定』になります。“シャルヘイ・ブコウスキ“外務大臣、本日の議題について説明をお願いします」

「はい、現状共和国外務省ではクワ・トイネ公国と国交を開設するにあたって、即座にというわけではありませんが、共和国は食糧の輸入を必要としています。ですが、クワ・トイネ公国側は以前の領空侵犯やクワ・トイネ公国側からの証言により技術レベルは基本的に中世以前ですが、魔法で一部を補っていることが判明しています。

 これらから鑑みるに、我々がクワ・トイネ公国に食糧の輸出を要求し、代金を支払ったところで生産地での流通・輸送網には問題があります。そこで、国交開設に際して無償援助でのクワ・トイネ公国へ鉄道の敷設と港湾および道路の整備を行うと同時に、現在クワ・トイネ公国は友好国の“クイラ王国“と共に国境を接している隣国である“ロウリア王国“と緊張状態にあるとのことですので、クワ・トイネ公国およびクイラ王国に対してバーター取引(物々交換)による軍事援助を行うべきではないかと判断しています。

 また、クイラ王国には所有者不明の油井が存在しており、これによって石油の存在が示唆されているため、共和国の軍備や産業を維持する上でクイラ王国をクワ・トイネ公国諸共我々の側に組み込む必要があるとも考えています」

 

 共和国がこれまでに情報を収集し、判明した限りのことをまとめた資料片手にリェタヴァ大公国出身の野牛系獣人で、二本の角を側頭部から生やした大柄なリトヴィン人の外務大臣は列席する人々に向けて淡々と報告と提言を述べる。

 しかし、これはクワ・トイネ公国側にとってはたとえ外務大臣の発言がプラン程度のものであったとしても、僥倖に他ならないものであった。少なくとも共和国は、たとえ一部だけがそう言っているのだとしても、軍事援助に前向きではあるのだから。

 そこに1人の褐色で頭に布を巻きつけた髭面の男が二本指を立てて発言権を求める。議長はすぐさま彼の要求を認め、発言権を求めた本人は席から立ち上がって外務大臣に質問を飛ばす。

 

「共和国保護国、“ジェハルナシール部族連合国“代表、“アル・ガマリー氏族“、“アニスル=ラフマン・アルサフラ=アルシャルキア“族長、発言を許可します。但し反論があった場合は発言者が話し終えるまで待機するように」

「確かに、これまで我々“ジェバルナシール部族連合国“のような、三民族の共和国からの庇護下にある保護国にとって、食糧供給の維持は重要な事項です。

 これまで共和国は少なくとも、本土においても保護国においても、大規模な飢饉が起きようと餓死者は出してきませんでした。これは共和国の美徳でもありますが、そもそもは我々保護国と交わした“共和国保護誓約“によるものでもあります。

 そして現在、共和国はこれまで我々保護国に対しての食料供給の安定が揺らいでいると言える状況にある。そうですね?ブコウスキ外務大臣、回答をお願いします」

「えー、確かにアニスル=ラフマン族長のおっしゃったことは事実である。

 しかし、しかしだ!すぐに食料が途切れるというわけではなく、少なくとも5ヶ月、5ヶ月の間ならば備蓄などを使って維持することは可能だ!その間にクワ・トイネ公国と国交および通商条約を締結し、迅速な食料供給の安定化を行う必要があると認識している。これで十分か?」

「ええ、十分で………「ブコウスキ外務大臣!!他国から食糧を輸入するとは言うが、それは我が共和国の農民達から仕事と食い扶持を奪うことにはならないのかね!?」………不埒者め!!」

 

 族長から飛んで来た質問に淡々と答え、族長も十分な答えを得られたと判断して感謝の言葉を述べようとしたところで、割り込んで発言するものが1人。外務大臣は割り込んだ無礼者を睨みつけ、族長は忌々しそうに憤りを隠しもせず一言こぼす。

 割り込んだ無礼者、あるいは不埒者だが、彼は若いレヒスカ人の共和国下院議会の一員であり、極右政党“レヒスカ・ファランガ党“に所属し、「排他主義と異民族の虐殺を是とするかの総統を賛美している」との噂が広まっている………少なくとも良い噂の無い、一般的な人間の青年であった。

 そんな青年が科学的根拠など存在しない農法を導入するべきだのなんだのとご高説を振るい、賛同を求めるが、この議場において共和国法よりも効力を発揮する法の一つである「他者の発言を遮るなかれ」を破った彼に対する議員達の反応は当然ながら冷淡なものであった。

 

「いいですか?現在農民達は今この瞬間も共和国の為に食糧生産に励んでいます!そんな彼らを信じようとせずに、なぜ他国から食料を輸入するなどと言う彼らの生活を脅かしかねない暴挙に及ぶのですか!?我々は────────!!」

「なあ君。君のような若者が元気なのは結構なことではあるのだけれども、幾ら何でも他人が発言している真っ最中に割り込むのはいかがなものかと思いますよ。それともファッショのクズはそんなことを教わらないのですか?もしくは学校で教育を受けるのは何かしらの陰謀が裏にあるから嫌だ、と公教育を拒否したのです?

 だとしたら申し訳ありません、謝罪いたします。君の親御さんがとてつもなく品性下劣な上に平気な顔して他人の何もかもを踏み躙るような知性が少々足りていない輩なのは知っていましたが、まさか君までそうだとは思わなかったものでしてね」

「スニジャーナ議員、“あれ“と同じような阿呆は私も西部戦線で見たことがあります。私の知見からすると、あれは救いようの無いろくでなしです、それも国王陛下の温情で延命されているのを知ろうともしない、救いようの無い反逆者です。私としてはあんなのさっさと絞首台に吊るしてやることこそ真の温情だと思いますが」

 

 そんな冷え切った空気の議場に、1人の言葉が響く。

 ルテニア人でケンタウロスの共和国下院議員、“スニジャーナ・ベリャフスカ“が新雪のように白く長い結った髪を軽く揺らしながら、微笑みを浮かべつつその美貌に見合わぬ毒を盛大に吐き散らかす。

 スニジャーナが毒を吐きに吐いた後、従軍経験を持つ上に戦歴豊富なレヒスカ系少数民族であるカシェビア人の“オドラン・マリノフスキ“議員が直接的な嫌味を投げつける。

 

 

 

 

 

 このようなことが起こったものだから、一時は壮絶な論争が巻き起こり、あわや大セイムは中止となりかけた。しかしながら議長は騒ぎ立てるもの全員に対し口をつぐむように何度となくガベルを打撃板に叩きつけて要求するが、効果がないと見ると近くの衛兵へ、彼が携えている着剣した小銃で空砲を一発撃つように命令する。

 繰り返しになるが、この議場においては議長であるヴァルデマラス・アンドリュカイティスがこの場にいる誰よりも。そう、今この場に限って言えば、議長である彼はルテニア公よりも、リェタヴァ大公よりも、レヒスカ国王よりも強い権力を持っているのだ。

 そんな彼の命令は上官どころか国王や大公、公の命令も同然であるので、ただ粛々と命令に従って小銃のボルトを操作して薬室を開放し、先端が潰された独特の形状をした空砲弾を一発薬室に押し込み、薬室を閉鎖して安全装置を解除し、銃口を天井に向けて構え、最後に引き金を引く。

 

 

 

 乾いた、腹に響くような重い銃声が議場に一度鳴り響くとたちまち議員達は動きを止め、議場に沈黙が生まれる。

 空砲を撃った衛兵はボルトを操作して空の薬莢を排出し、撃つ前と同じように小銃を携えて直立不動で元の仕事に戻る。

 なお、銃声を生まれて初めて耳にしたクワ・トイネ公国使節団の面々は突如鳴り響いた銃声に驚き、慌てた様子でヴィテニスを質問攻めにしている。

 

 閑話休題。

 議長は再びガベルを叩いて自身に注目を集め、今回の騒動を引き起こした張本人にして反逆者疑惑のある青年に議場からの追放と下院議員としての資格停止の二つの処分を下す。

 青年は衛兵に両脇を固められ、無意味な抵抗をしながら議場より叩き出される。そうして少なくとも問題の種を一つ潰したところで、議長は本題へ話を戻すよう議員達に指示する。

 議長の指示を受け、議員達は自分たちの本来の仕事に戻る。

 

 そうして途中長い休憩時間を挟みつつも、ついに議場では1つの選択と、2つの条約が生み出されんとしていた。

 生み出されたものは、三民族の共和国とクワ・トイネ公国との国交開設、共和国とクワ・トイネ公国との通商条約、そして共和国からクワ・トイネ公国に対する軍事援助と集団的自衛権に関する条約であった。

 途中大セイムではよくある騒動こそ起こったが、無事に議会が終わったことに議長や衛兵、そして若きルテニア公と一部の議員達は安堵していた。少なくとも議論ができなくなってしまい、挙げ句の果てには乱闘が起こってしまうよりは、どんな結果になるにしろ、騒動が起こったとしても無事に議会が終わる方が良いのだ。

 

 この結果にはクワ・トイネ公国の使節団一行は大いに喜び、飛び跳ね、歌い出すものまで出ていた。そんな彼らの熱は冷めることを知らず。バルバラ・ザーポリャ離宮では皆喜びの余り大量の酒を呑み、幸運にも翌日に酔いを持ち越すことはなかったものの、それでも結構な惨状ではあった。

 

 

 

*1
共和国で流通している通貨にはレヒスカ王国発行の“ズウォティ“/“グロシュ“、リェタヴァ大公国発行の“リェタス“/“ツェンタス“、ルテニア公国発行の“フリヴニャ“/“シャーフ“の3種類がある。なお貨幣価値は全て同じとされている。そのためズウォティ、リェタス、フリヴニャの3種類が混じっていても問題なく会計可能。

*2
油の木曜日に作られる揚げ菓子で、卵と小麦粉、塩と砂糖に少量のスピリタスを加えた生地をバラ状にカットして成形したものを油で揚げ、中心にジャムなどを乗せて粉砂糖をまぶしたもの

*3
シュー生地2枚でカスタードクリームとマーマレードを挟んだもの

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