三民族の共和国+α召喚   作:騎兵主義者

7 / 20
第7話:共和国の剣、共和国の盾。そして蒸気機関の唸り声

 

 

 

 中央暦1639年/救世主暦1955年2月6日

 

 共和国の大地を踏み締めてから2回目の夜を過ごし、朝食を摂って着替えた後に庭園側の広間に再び集った使節団一行は、今日の案内役にもヴィテニスがつくのだろうと思いながら待っていた。

 もちろん、彼らのもとにやってきたのはヴィテニスであった。そして昨日に起こった議場での騒動があったと言うのにも関わらず、なんともないように振る舞うヴィテニスに、使節団一行は詰め寄って質問を浴びせかける。

 

「ヴィテニス殿、共和国の議会ではあのような騒ぎはよくあるものなのですかな?」

「ええ、あれはまだおとなしい方ですよ。それこそ時には乱闘騒ぎになって流血沙汰になった挙句、衛兵にその騒ぎに関わった多くの議員が議場から叩き出されて議事の進行が進まなくなったり。あるいは今よりもずっと昔のことですが、議会での結果に満足しなかった貴族がロコシュ(強訴)を起こしたなんてこともありましたよ。

 まあ、これでも昔よりは落ち着いているらしいですね。時間が空いた時にでもずっと昔の頃を知っている人に聞いてみれば、きっと面白い話が聞けると思いますよ」

「えぇ………………」

「嘘でしょう………?」

 

 ヴィテニスから語られる遥か昔の共和国議会の姿に、三民族の共和国へ「理性ある科学文明国家」であるという夢想を抱いていた使節団一行はその夢想が打ち砕かれ、信じられないような表情を浮かべる。

 そのような冷めた空気の中、ハンキ将軍はこの議会の混沌とした状況を実際に見てなんとか出てきた感想を呟き、その呟きにヴィテニスは具体例を出しながら一応団結することもあると笑う。

 

「こんな状況で良く貴国は命脈を保ってきたものだのう………」

「ああ、外敵がいればちゃんと一致団結して抵抗しますよ?事実、我々が元いた世界で起きた先の大戦においてもそのようにして二方面から襲いくる敵軍を首都まで攻め込んでなんとか叩き潰しましたし!」

 

 飄々と笑うヴィテニスの姿に、使節団一行は揃って引き攣った笑みしかできなかったが致し方なし。

 そもそも本来議会とは理性によって舌戦を交わす場であり、クワ・トイネ公国の政治部会もそれに近いものだ。

 それが三民族の共和国になるとなぜか理性によって舌戦を交わすどころか、まさかまさかの議場で。そう、よりにもよって共和国の命運すら左右しかねないようなことを論ずるような大セイムの議場が、拳や足技飛び交う戦場に変わることがあるのだ。一応規則として「致命傷負わすべからず」や「殺すべからず」、「急所狙うべからず」といったものはあるが、「格闘するべからず」とは書いていないのだ。一応「武器を用いて決闘するべからず」や「治療目的以外の魔法使うべからず」とはあるが、気休め程度でしかない。

 それでもこれまでの大セイムにおいて、歴代の乱闘騒ぎで死者が出なかったのは、なんとかこれらの規則と議員達の殺意を抑え込む自制心と医療従事者の奮闘。そして衛兵が撃ち放つ空砲の薬莢に、歴代議長が酷使しすぎて壊れた数多のガベルや打撃板で出来た薄氷の上に成り立っているのだ。

 

 

 

「………そういえば今日は三民族の共和国軍が行う演習を見に行く予定でしたよね?」

 

 と、散々共和国議会のことを話していたが、不意に使節団の1人がこの日の予定を思い出し、ヴィテニスや他の使節団の面々にそれを話す。

 当然ながらヴィテニスはこの用事を忘れておらず、しっかりと自身の職務を果たすべく行程を説明するべく口を動かす。

 

「ああ、そうでした。本日皆様には共和国軍による軍事演習の視察が予定されています。今回皆様が目にするのは共和国の剣にして、共和国の盾でもある共和国の陸軍と空軍の戦力になります!

 まず最初に、共和国新王宮から自動車に乗ってヴァルショヴァ軍用駅に移動し、そこから我々の目的地でもある演習場行きの軍用列車に乗り換え、演習場にて演習の観戦をする、といった形になります」

 

 ヴィテニスから説明を受けながら一行は自動車に乗り込み、軍用駅目指してエンジン音を立てながら通りを走る。

 

 そうして車で暫し揺られた末に軍用駅に到着した彼らは車から降りて物資や軍用車両、兵器といった荷物の積み込みを容易にするために幅が広く取られたコンクリートのプラットホームを歩き、一行が乗り込むことになる将校専用車の前まで辿り着く。

 尚機関車1両を含めて34両の内、進行方向に6両連結されている将校専用車の先頭には大量かつ高速な物資輸送の為に流線形の美麗な外装を施されたガーラット式*1の、軌間2460mmという広軌で敷設された軌道に合わせて大きく強力なボイラーを備える蒸気機関車が発車の時を待っていた。

 

 なお共和国の鉄道においてはトラムにおいても一般の鉄道においても、標準軌と呼称される軌間1435mmの鉄道線路が一般的である。ただしレヒスカ王国及びリェタヴァ大公国の一部やルテニア公国では現在広軌である1520mm軌道から、標準軌の1435mm軌道への張り替えが進められている。

 

 と、そんな共和国の鉄道事情は置いておくとして。

 蒸気機関車や列車というものを初めて目にした使節団一行ではあったが、彼らはそこまで驚くわけではなかった。構造や原理を聞くまでは。

 しかし蒸気機関車というものの詳細を知るにつれ、彼らは違う意味で驚き、思索する。「運行するのに電気が必要な電車と違って、蒸気機関車を使っての鉄道運行ならば人員を育成して必要な機材を揃えて、線路を敷けばすぐにクワ・トイネに鉄道を導入できるのでは?」と。

 事実彼らの考えは当たっているし、共和国としてもクワ・トイネやクイラに鉄道を敷設する場合、導入が容易な蒸気機関車もしくはディーゼル機関車から先に導入していくことは決定事項となっている。

 クワ・トイネ公国使節団一行はクワ・トイネ公国が迎えるであろう、蒸気機関の唸り声が響き、白い蒸気の立ち込める新たな明日を夢見ながらも将校専用の客車に乗り込み、割り当てられた個室に備え付けられた席に座る。

 

 広々とした個室の、腰掛ければ体が沈み込む、実に快適なシートの座り心地に快適さを感じている一行だったが、ようやく荷物と兵士の積み込みが終わり、彼らが乗っている列車の発車を告げる。

 ついに走る時が来た事を喜ぶかのように蒸気機関車は汽笛を高らかに鳴らし、蒸気を吹き出して少しずつ車輪を動かして目的地である演習場まで向かう。

 専用のダイヤに従って途中にある駅を止まることもなく通過し、軍用列車は白い煙を煙突から噴き上げて走る。

 自動車とはまた違った乗り心地、そして街中ではない共和国の風景を、使節団一行は窓に張り付いて眺め、少しの列車旅を楽しむ。

 

 

 

 

 

 このように3時間程の小列車旅行を楽しんだ演習場近くの軍用駅に到着した彼らは列車に積み込んでいる兵士や将校、兵器が降ろし終わるのを待つため、停車後も車内に留まり続けていた。

 そんな彼らは兵士が降車し、プラットホームが空いたのを確認すると客車から降り、案内役だと言うルテニア公国軍の、マゼピンカ(Mazepynka)と呼称される群青色の少し変わった形状をした軍帽を被り、同じく群青色の軍服に身を包んでいる草原精霊人*2の将校──“ルスラナ・ポフレブニャク“大尉──が彼らを出迎える。

 

「初めまして、クワ・トイネ公国使節団の皆様。本日皆様の案内役を務めることになりました“ルスラナ・ポフレブニャク“と申します。早速ですが、皆様を観測所までお連れいたしますので、わたくしの案内に従ってください」

 

 一応ヴィテニスの現在の職務は外務省から派遣された案内役ということにはなっているものの、そもそも彼が詳しいのは技術的なものであって、軍事的なものにまでは詳しくないのだ。そのために、より詳しい軍事関連の情報の説明等については少なくともヴィテニスより詳しい専門家である軍の将校であるルスラナ・ポフレブニャク大尉に一任している。

 そんな事情がありながらも、案内をヴィテニスからルスラナに変えて一行は駅を離れ、再び車に乗り換えて演習場内の一角に聳える観測所へ移動した。

 

 演習場内の一角、鉄骨とコンクリートでできた高さ30mの観測所。

 そこで使節団の一行は演習開始までは部隊の配置等で時間が空いている為、暖房の効いた観測所の一室にて今回の演習で行われる作戦の想定や投入される兵力に、それら投入された共和国軍部隊が装備している兵器といった諸々の説明を受けていた。

 この演習においては、投入された部隊はどれも戦歴豊富な精鋭部隊であり、装備しているものも共和国軍において新しいものか一般的なものであった。そしてクワ・トイネ公国はそういった装備を計画されている軍事援助において受け取ることは不可能であった。そもそもの問題として、そういった最新の装備に関しては特に共和国軍へ割り当てる分すら更新途中で足りていないのだ。

 

 まあ、そんな共和国軍の装備事情は置いておくとして。

 やっとこさ始まった演習は、まず最初に攻撃側と指定されたルテニア公国軍の155mm榴弾砲による準備砲撃から始まり、次にルテニア公国軍が保有するT-44Bを装備した戦車連隊による、仮想敵部隊とされたリェタヴァ大公国軍保有の遠隔で操縦されている40TL III*3戦車をその鋳造製椀型砲塔に載せた100mm砲で撃ち抜く。

 当然ながらルテニア公国製の長砲身100mm砲から放たれるAPDS(装弾筒付徹甲弾)の直撃を40TLの装甲板で防げるわけでもなく、そのまま撃破される。

 更には前進するルテニア公国軍を援護しているレヒスカ王冠領軍の双発複座レシプロ重戦闘機、PZL.63Bが機首に固定された2門のwz. 50機関砲から30x210mm弾を、主翼付け根に4挺取り付けられたwz. 44機関銃から16.5x116mm弾を地上の陣地目掛けてじょうろのように曳光弾や徹甲弾に榴弾をとにかくばら撒き、更には胴体と主翼の爆弾倉からぱらぱらと爆弾を落としていく。

 そんな重戦闘機や攻撃機、戦車連隊を守るのは、ジェットエンジンの甲高い騒音を立てて高空を征くリェタヴァ大公国軍のANBO-XLVI(46)戦闘機である。

 砲撃の振動で地軸が揺れ、立ち上がる硝煙で認識が崩れ、航空機がひらひらと舞い飛ぶ戦場を見て、クワ・トイネ公国使節団一行はこれまで知っていた戦争というものの何もかもが共和国とクワ・トイネとでは圧倒的に違うことを知り、共和国と敵対することほど愚かなことはないだろうと直に感じる。

 

 

 

 しかしそれと同時に、彼らは心無しかこの力を得られることをありがたくも思っていた。何せこの世界での列強国かそれ以上に強力であり、頼もしく思える存在であるのだから。

 それに加えて、もし共和国からの支援を得られたと仮定するならば、厄介な隣人であるロウリア王国と軍事的に渡り合える上、鉄道の敷設や港湾や道路といったインフラの整備などが実行されればクワ・トイネの爆発的な発展すら見込めるのもあるだろう。

 そう判断した彼らは、三民族の共和国と早期に国交を結ぶことを当座の目標とし、そのために何をするべきか、何ができるのかを考え始める。

 

 

 

 演習が終わりに近づく頃、使節団一行は決断を下し、ヴィテニスに対してある要求を伝える。

 

「ヴィテニス殿。実務者協議を行いたいのですが、手配などはできますでしょうか?」

 

 

 

*1
関節式機関車の一種で、本来蒸気機関車に必要な炭水車の機能を2つある足回りの台枠に担わせているタイプのもの。尚状況によっては別途で炭水車や水槽車を連結することもある

*2
草原や平原地帯にルーツを持つエルフ(精霊人)。一部羊や牛のそれに似た角を持つ。エルフの中では体格と膂力や身体能力に優れる

*3
TLは「〜トン級レヒスカ戦車」を意味するTonowy Lechiskiの頭字語。IIIは3度目の改修を受けたことを表す。




 本文中に「〜地軸が揺れ、〜認識が崩れ」とあるけど、誤字じゃないので誤字報告は許してクレメンス。
 一応補足としては、「作戦の軸が揺らぎ、戦闘の認識が崩れる」的な意味でそうしたんすよ………
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。