三民族の共和国+α召喚 作:騎兵主義者
中央暦1639年/救世主暦1955年2月15日
三民族の共和国 レヒスカ王国 王冠直轄領 ヴァルショヴァ 共和国新王宮 追跡者の間
先日の蒸気機関車による小旅行と軍事演習の視察を経た上で、情報の整理や方針を固めて協議に向けての準備を終えたクワ・トイネ公国使節団一行は遂にこの日。共和国新王宮に備えられた、リェタヴァ大公国の風景や街並みと文化をモチーフにした“追跡者の間“にて、三民族の共和国側の実務官僚と実務者協議を行うことになった。
「転移前、共和国は保護国と旧保護国を含め、一年で概ね7225万9318トンの農作物を諸外国から輸入しておりました。当然ですがこれは複数の国家との交易によって賄っていたものであり、貴国のみを交渉対象とはしていません。
ですが、我々はこの状況を打開するために相応の対価を支払い、また貴国からの要求に対し一定の譲歩を行う用意があります」
まず最初に、農務省のルテニア人行政官が代表者として共和国全土が輸入によって賄い、必要とする農作物の品目をまとめたリストを全員に配布し、それを参考にしつつ説明を始め、最後にクワ・トイネ公国を否が応でも協議の席につかせる一言を放つ。
開幕からクワ・トイネ公国にとって有利な条件──そもそもクワ・トイネ公国の大地は女神の祝福によってか害虫や病害などが起こらず、手入れなしでも穀物が生えるような土地──であり、食料自給率は100%をはるかに超えているクワ・トイネ公国にとって共和国の提示した数量をクワ・トイネ一国で余裕を持って賄えるのだ。
ただし共和国が求めているのは米やモロコシ、とうもろこしのような一部を除いた──例えば小麦やライ麦のような──穀物ではなく、共和国や保護国、旧保護国で栽培ができないか、賄いきれない農作物である。それ故に一応クワ・トイネ公国がなくても栄養事情の偏りこそあれど、一応飢えることはないのだ。………ただし、食文化や食生活がどのようなことになるかについては目を背ける必要があるが………
まあ結局のところとして、クワ・トイネ側としてみれば、リスト内の作物に関してはよくわかっていないものもあるが、量自体は十分賄えるのもあってか、自信をたっぷりと込めてヤゴウは断言する。
「そうですね………正直に言いましょう。貴国が求める農作物、その品目の多さに戸惑っています。なにぶん我々にとって聞いたことのない品もありますので、それらを除くか、あるいは代替品で良いのならばになります。ですが、貴国の提示した輸入量を我が国だけで十分賄うこと自体は可能になります」
と、ここまで力強く述べたヤゴウは驚く共和国側を手で制し、クワ・トイネの抱える問題に触れていく。
そもそも、共和国とクワ・トイネ公国とでは技術発展度の差があり、特にインフラに関しては雲泥の差があるのだ。しかも、仮にインフラ整備をせずに輸出を要求する場合、技術発展度から逆算した軍備なども鑑みるとクワ・トイネ公国は定期的な輸出に割り当てる馬や馬車が、確実にクワ・トイネ公国軍と共和国向けの輸送用とで需要を食い荒らしかねないのだ。
であるからこそ、ここでヤゴウは何がなんでも共和国の進んだインフラを手に入れ、更には自分たちで自立できるようにするためにも畳み掛ける。
「しかし、我が国にはこの提示された量の農作物を定期的に運び出す設備を持ち合わせておりません。ですので、我が国としては貴国へインフラ整備の協力を要請したいと考えています。
我々が貴国にインフラ整備への協力を要請する上で要求するのは4点。
まず1つ目に鉄道の敷設。2つ目に道路整備。3つ目が港湾の拡張・整備。最後にこれら整備したインフラを我が国が維持し続けるための人材育成・教育と技術輸出。この4点になります」
そうヤゴウは畳み掛けて、カップに入った紅茶を啜る。
そこに1人のリェタヴァ人航空省官僚が要求に出た整備するインフラ──つまりは空港──を1つ付け足す。ごもっともな理由を付け加え、最後の一押しに共和国からの援軍を派遣しやすくなると囁いて。
「………ふむ、でしたらあなた方のその要求に、我々から1点付け加えてもよろしいですかな?」
「何か不備でもありましたか?」
「いえ、ただそこに空港の整備も付け加えていただきたいだけです。空港を作ったならば、貴国からの輸出ルートが増える上に、人材の交流がしやすくなりますよ?
それに、あなた方を悩ませているロウリア王国があなた方へ攻撃を仕掛けたとしても、空港があれば我々共和国から派遣する軍も展開しやすくなります。ですので、空港の整備も追加したというわけです」
そう言い切った航空省の官僚はクワ・トイネ側に微笑みを向け、要求内に空港整備を付け加えることを進める。
なお件の航空省官僚がこれを言わなかったところで、共和国としては空港開設も整備の一環として行う予定ではあった。
つまりは特にここで伝える必要性自体はなかったりするが、外野からの余計な口出しを防ぐために付け足されたということである。
まあ何はともあれ。かの航空省官僚の発言に、「三民族の共和国は我々の味方についてくれる」との意を汲み取ったクワ・トイネ側は少しだけ踏み込む。
「………なるほど、それは有事の際………例えば我々が侵略を受けた場合、あなた方の援軍を期待しても良いということですかな?」
その踏み込んだ内容に対し、共和国側の1人である戦争省勤務の士官は微笑みを浮かべて、オペラ演者のように勿体ぶって答える。
「もちろんですとも!我々共和国にとってあなた方は重要な存在であり、更には我々がかつて保護国としていた国々にとっても重要な存在なのです。
で、あるが故にたとえ我々が動けなくとも、かつて我々の保護国だった国々は食糧供給の安定を維持するために軍を確実に派遣しますし、我々が大いに動ける状況ならば早期の共和国遠征軍や軍事顧問の派遣、共和国軍において保管されている装備の供給もあります。
然るに、我々が動けなくとも、援軍は必ず到着しましょう!そう、必ず、必ず援軍は到着するのです!」
そこまで演説の如くかの士官が弁舌を振るったのち、両者に沈黙が訪れるが、少し間を挟んでからクワ・トイネ側は希望に満ちた顔付きで共和国側を見据える。
少なくとも、ロデニウス大陸は愚か全世界で進んだ技術と軍備を持つ三民族の共和国やその旧保護国が有する軍がクワ・トイネの味方についてくれるのだというならば、彼らに後顧の憂いは消え去ることになる。そうなれば彼らにとって悩み事が消えて、憑き物が落ちた彼らと共和国との協議は少しずつ加速し、まとまっていく。
中央暦1639年/救世主暦1955年2月19日
クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会 蓮の庭園
短いようで長いような三民族の共和国での滞在を終え、クワ・トイネ公国使節団は行きと同じく飛行船に乗って故郷クワ・トイネの大地に帰還する。
手土産は三民族の共和国で入手した資料や、共和国で学んだ知識と経験。そして三民族の共和国とクワ・トイネ公国間での国交に加えて装備の供与や軍事顧問の派遣を含めた種々の軍事援助に、インフラ整備の支援と通商条約であった。
そのことを知った政治部会はこのような条件を纏めた使節団一行に褒賞を与え、昇進も行われた。
具体的にはハンキ将軍が共和国への駐在武官に任命されたり、あるいはヤゴウに共和国との外交を取りまとめるポストが与えられたりと言った具合である。
斯くしてクワ・トイネ公国、遅れてクイラ王国は三民族の共和国と国交を結び、更には共和国から様々なものを取り入れることで爆発的な発展を遂げることとなったのである。
具体的には鉄道敷設や道路の整備によって交通の利便性が向上して国内における人の移動が活発化し、港湾の整備によって従来より多くの輸出入が可能になり、空港の整備によって人材の長距離移動が盛んになっている。
また、人材面での交流も進み、技術や文明の発展もさらに進みつつある状況であった。
しかし、クワ・トイネやクイラにとって肝要な要件である共和国軍の派遣は行われていなかった。
精々が共和国軍からの軍事顧問か、あるいは旧保護国の軍の派遣と駐留である。
しかし基本的に、前線に立つことになるのは、共和国軍から供与された装備で武装し、──クワ・トイネ公国とクイラ王国の両国共同で共和国軍のものを参考に制定された──“中央暦1639年度共通軍制“で再編されたクワ・トイネ公国軍やクイラ王国軍であった。
だが両国にとって問題になるのは陸軍ではなく、海軍や空軍の内情になってくる。
まず海軍だが、これは共和国から退役予定もしくは予備保管の艦艇を供与することになっていたものの、水兵や士官の教育が完了していないため、現状は従来の帆走船と装備を用いている。
次に空軍の創設も計画されているものの、まずパイロットや整備兵の志願者を集めるところから始めねばならず、竜騎士を持たないクイラ王国はまだしも、少数ながら竜騎士を保有しているクワ・トイネ公国においてはそれら竜騎士からの反発が起こっていた。
なおその反発は最終的に訓練途中のクイラ王国空軍パイロット候補生が操るレシプロ式の中等練習機を相手にした模擬戦で敗北した為に抑え込むことには成功したが、それでも空軍に関しては彼らにとって未知の分野と差異がないために、一定の規模までは作り上げても、拡充には難しいところがある。
それでも、上記のような問題がありつつもロデニウス大陸において、クワ・トイネ公国とクイラ王国は新たな日を迎え、どんどんと発展を進めていったのだ。
しかし、侵略を目論み、すでに実行へ移しかけていた存在がいて、それの行動が止められなくなっているのも事実である。