推しの東京ドームLIVEの夜。
良い気持ちで酔いに任せて床に就いていたら、
推しに跨られていた。
というか、推しに襲われた。
唇を塞がれたところで、ようやく酔いが覚めてきたものの、
事ここに至って彼女が本気だと気付いた。
娘のように、妹のように接してきたつもりだった。
アクアの頃に抱いていた推しへの感情、母と思うべきかという迷いは12歳のアイと過ごすうちに薄れていった。
アクアの記憶、感情が薄れた訳ではない。
ただ、アクアの16歳の母である星野アイと、俺が今世で出会った12歳の傷だらけの少女アイは違う子なのだという「区別」が俺の中で生まれ始めていた。
2人のアイを同一視するのは、どちらのアイに対しても侮辱でしかない。
どれほど俺が悲しんだとしても、どれほど端から見れば悲しい幸福感だとしても、アクアの母であるアイは自分の中の本当の愛を見つけることが出来たことに満足して逝ったのだ。
そして、俺が出会った12歳のアイは母親に、大人に、世間に、社会に傷付けられて、怯え踠く子供だった。
だから、2度目の雨宮吾郎として、俺は俺の推しの子を憧れと同時に助けるべき子供と思うようになった。
庇護対象と言うのは烏滸がましい。
守ると言うには身の程知らずだ。
ただ、一人で彼女が羽ばたけるように、今度こそ忌まわしい因果に囚われることがなく、自由に何処までも羽ばたけるように微力ながら力を尽くした。
険悪だったB小町の初期メンバーのメンタルケアに努め、険悪でこそないものの距離のあった追加メンバーの子達との仲も取り持った。
無論、義務感や使命感だけではない。
多感で感受性の強い年頃の子達は、大人の下心を時に容易く見抜く。
打算、義務感のみの親切が時にストレートな悪意や敵意よりも心を傷付けることがある。
その点においては、ハッキリ言えば杞憂だった。
我が永遠の推しの子さりなちゃんの布教活動によって、最推しこそアイではあるが、B小町の箱推しと自負出来るほどには俺は彼女達の魅力をわかっているつもりだった。
こんなオッサンに推されても嬉しくはないだろうが、俺は出来る限り自分の気持ちが誤解なく伝わるように、何度も何度も俺の気持ち、俺が思う彼女達の魅力、アイが一人の普通の少女であり引け目を感じる必要などないことを伝え続けた。
高峯さんに食欲がないと相談されれば栄養学的にも問題のない料理を作り、食べさせた。
ニノちゃんに買い物に付き合ってほしいと言われれば一日中付き合った。
渡辺ちゃんが家族が恋しくなったからと言って家に来た時には一晩中話し相手にもなった。
芽依ちゃんに歌のレッスンの一環だから付き合ってほしいとカラオケに誘われればオールで付き合い、そこで彼女の数々のラブソングに聴き入り涙したりもした。
ありぴょんは少しおませさんながら、女優に興味があるらしく、少女マンガやドラマのセリフの練習に付き合ったりもした。
きゅんぱんは微笑ましくなるほど無邪気に映画や遊園地に連れて行ってほしいとねだられたので、娘が出来た父親気分で何処にだって付き合った。
彼女達それぞれとの時間は彼女達の抱える悩みを僅かなりとも軽減できる手助けが出来たと思えるだけではなく、俺自身が彼女達の魅力を再確認することも出来た。
彼女達と向き合うようになってから、B小町の子達は度々ケンカをするようになった。
時には取っ組み合い、掴み合いに至ることもある。
ハラハラしていると、社長は笑って「ケンカなんて随分長いことしてなかったからな。互いに腹を割って話せるようになったってことだよ、先生」などと言っていた。
事実、ケンカの後の彼女達は以前にも増して輝きを放つようになった。
レッスンを見ている俺にもその輝き、気迫は十分過ぎる程に伝わってきた。
アイは言うまでもなく、誰もがまるで俺の胸ぐらを掴んで「私だけを見ろ!!!」と吠えているのかと錯覚しそうになる程だ。
眩しい…
心から彼女達の輝きに圧倒された。
失礼だが、壱護さんは今まで何をしてきたのかと言いたくなる。
これほど輝ける子達をどうしてああまで燻らせていたのか。
以前までの俺には迷いがあった。
こんなにも眩しい子達のそばに俺なんかがいてもいいのかとも思った。
何故、復讐なんぞにこの手を汚してきた俺が3度目の人生を送る機会を得たのか。
さりなちゃんを救うことも出来ない無力な俺にそんな価値はない。
そう思い続けてきた。
せめてアイの死の運命を変えることが出来れば、その使命感だけが俺を突き動かす原動力だった。
けれど、それは違った。
もちろん、アイの死の運命を回避することも大切だが、それは一部でしかない。
アイの幸福、死の間際に愛をようやく知るのではなく、当たり前のように友達と笑い合い、ライバルと競い合い、仲間と輝き、そしていつか当たり前の恋をして、普通の子供を産み、平凡な幸せを見つける。
その手助けをすることが俺の使命なんじゃないか、アイだけでなく他のB小町の子達は各々が自分の輝きを放つようになってから、俺はそんなことを考えるようになった。
『俺は君の力になるために生まれたのかもしれない』
ふと、誰かにそう漏らしたことがあった。
思わず口を突いて出た言葉に、相手はポカーンとしていた。
それはそうだろう、こんなアラサーのオッサンが運命めいた、オカルトかそうでなければ夢見る少女のようなことを言えば誰だって呆気に取られる。
気持ち悪がられなかっただけでも僥倖というものだ。
けれど、運命なんて言葉嫌いだが、そう思わずにはいられない。
些細な影響かもしれないが、俺の存在がB小町の仲を深め、輝きを増すことでアイをより眩しくさせたなら、彼女に俺の知ってる彼女よりもアイドルにやり甲斐や夢を抱くことが出来たのなら、俺が再び雨宮吾郎として生まれ変わった意義はあったんじゃないだろうか。
そう思っていただけに、目の前の状況を上手く整理出来ない自分がいた。
押し付けられる柔らかな感触に流されてしまいそうな自分を奮い立たせる。
掴めてしまいそうなほど薄い腰に手を置くと、アイを引き剥がそうとするが、首に回された腕の力は強く華奢な身体はびくともしない。
「ん、んっ…ん…ゴロー…」
切なげに溢れる吐息と共に紡がれる言葉。
不慣れな呼吸。
不器用に何度も押し付けられる幼い口付けに、沸騰しかけた頭が徐々に冷静になっていく。
キスの拙さが、そのままアイの幼さを表しているようだ。
このまま僕が流されてしまえば、彼女はいつか後悔する。
不確かな感情のままにカミキヒカルと性行為を行い、結果16歳にしてシングルマザーになった
酒の回っていた身体も、少し酔いが覚めたのか言うことを聞くようになってきた。
アイの細腰に添えた手に力を込めると、アイを引き剥がす。
一瞬、悲しげなアイの目と視線が絡み合った。
親から引き剥がされた幼い子供のような表情に胸が痛む。
「アイ、君が何を焦っているのかはわからない。けれど、もし、君が今からしようとしてる行為が何らかの理由で僕を繋ぎ止めようとしているなら今すぐ止めるんだ」
「嫌だった…?せんせーは…」
じわりと、普段は星の煌めきのように輝く瞳に涙の幕が下りる。
あぁ、僕は君にそんな顔をさせない為に今ここにいるというのに。
自分の不甲斐無さに腹が立つ。
「嫌とかそういうことじゃない。君が僕にするのは間違っているということだ」
「間違って…る?」
聞いたこともない言葉を聞かされたように、アイの瞳が不安げに揺れる。
つくづく僕は何をやっていたのだ。
こんなにもあどけない少女に教えるべきことを教えられていないじゃないか。
「君は以前僕に言ったことがあるね。性行為を教えてほしいと。覚えているかい?もっと君が幼かった頃だ」
アイはこくりと頷く。
今でも思い出す。
好奇心に彩られた瞳、無垢な口調で尋ねられた言葉の秘めたおぞましさに。
「君は僕がダメなら社長に教えてもらうと言ったね」
「それは…」
「いや、怒ってるんじゃない。知らないというのはそういうことなんだ。君に罪はない。悪いのは教えるべきことを教えていない僕達大人だからだ。あの時僕は自分を大切にしてくれと言った。それだけでいいと思っていた。僕のミスだ。君に嫌がられようとキチンと説明すべきことだったのを先送りにしてしまった…」
俺の首に回されたアイの手がするりと俺の胸元に落ちる。
「白状するよ、君に嫌われたくなかったからだ。男というものを嫌いになりかねないことを口にして…君に嫌われるのが怖かった」
男の欲望の汚さにアイが気付くことで、無防備な彼女が警戒心を持つことを望みながらも、同じ男だからと彼女に嫌悪の対象として見られるリスクを恐るあまり、俺は大人としての責務を先延ばしにしてしまった。いつか壱護さんがそれとなく教えるだろうと、他人任せにしていた。
なんてズルい男なんだ俺は。
かつて、アクアだった頃に復讐の道をどうするかあかねに委ねかけた頃と何も変わってはいない。
幸い、あの時はあかねが無意識に抱いていた俺の依存心を指摘してくれたから、自分で復讐の道を選ぶことが出来た。あかねには感謝しかない。
「いいかい、君がしようとしてる行為は誰かを繋ぎ止める為とか、自分の感情を試すような手段としてすべきことじゃない。ましてや、単なる欲望の捌け口になんてもっての他だ」
ギュッとアイの手が俺の服を握りしめる。
男である俺にようやく怯え始めているのだろうか。
どの口で言っているんだろうな俺は。
自分は散々自分の感情の意味もわからずに求められるがままに行為に溺れてきたこともあるくせに。
「この行為の先にあるのは妊娠だ。大した理由も、覚悟もなく子を授かることほど悲しいことはない。生まれた子にとっても、産んだ母親にとってもだ…」
「せんせのお母さんは…」
「言ってなかったかい?僕を産んで死んだよ。出産というのはそれだけ女性にとって危険で大変なことなんだ。正しく命を賭けた行為なんだ。だから、君には曖昧な気持ちでこんなことはしてほしくないんだ」
「でも、ゴローだっていっぱいしてきたんでしょ?」
「あぁ…」
「ッッ!」
服を握り締める手の力が増す。
肉欲に溺れていた男に対する嫌悪感なのか、それとも自分のことを棚に上げて説教をしてくる大人への怒りなのだろうか。
そういえば、アイに何人の女と付き合ってきたのか正確な人数を教えてほしいと言われたことがあったっけか。
思い出せるだけ一夜限りの相手を除いて伝えたらビンタされたのは、ルビーを彷彿とさせる潔癖な年頃の少女らしい反応だった。
しかし、アレのせいでアイの貞操観念が緩くなっているのだとしたら、悪手でしかない。
「いっぱいしてきて、だからそれがどれだけ虚しくて、自分を擦り減らしてしまうのか、女性を傷付けてしまうのかわかっているつもりだ。俺は、アイにだけはそんなことをしてほしくない。押し付けがましいのはわかってる。けれど、君には親愛の情を勘違いして、それを繋ぎ止める道具に自分自身を貶めてほしくない。君のような子がそんな簡単に自分の身体を道具にしてしまえば、あらゆる男達が放っておかないだろう。それこそ、薄っぺらな耳触りのいい言葉で君に近づいて、君を欲望の対象として貪り尽くそうとする男が後を絶たないだろう」
「…どうして?私なんて」
「君がどうしようもなく魅力的な女の子だからだ」
「〜〜〜〜〜ッッッッッッ」
「そんな連中に食い物にされる姿を…俺は見たくない…勝手なのはわかってる。でも、僕は…君が心から愛して、その人の子供を欲しいと思える人と出来れば身体を重ねてほしい」
握り締められていたアイの手がゆっくり解かれ、皺の出来た服がへにゃりと力無く歪な形のまま解放される。
アイが納得をしてくれたのと同時に、今までのような無邪気な笑顔をもう向けてもらえないのではないかという不安が過ぎる。
今更だ。
何を女々しいことを考えているんだ僕は。
「私が間違ってるって…言ったよね?」
そっとアイの手が俺の肩に乗せられる。
「何も間違ってないよ?」
「アイ?」
「だって、じゃあやっぱりゴローにしてほしいので間違いないよねぇぇ〜〜!!」
思い切り押し倒された。
同時に、ぐちゅりとした感触が顔にのし掛かる。
汗の匂いと、酸味を帯びた据えた匂い。
濡れた下着越しにアイの秘所が顔に押し付けられているのだと気付いた。
口を、鼻を塞がれて息が詰まりそうになる。
辛うじて鼻の位置をずらして呼吸をするのと、「あんっ」という短いアイの悲鳴が同時だった。
「だってさぁ。私社長好きだし、大事にしてくれる人だって思ってるけど、社長にこうしたいなんて全然思わないもん。汗まみれの恥ずかしいところをこんな風に押し付けたいと思わないもん」
ぐりぐりと口の上で濡れた下着越しに温かく柔らかな感触が擦り付けられる。
LIVEで激しく動いたためにたっぷりの汗を吸い込み、何時間も熱がこもり蒸れた性器の匂いは良い匂いであろうはずもないのに、それは蠱惑的で脳を蕩かす匂いだった。
「カミキくん?あの子は顔が綺麗で、顔の作りならせんせより綺麗で好きな形をしてるけど、キスしたいとか全然思わないもん」
顔にのし掛かっていた圧力が消える。
代わりに汗ばんだアイの、普段の小悪魔のようなものではない、余裕なんて一切ない少女の顔が俺を見下ろしていた。
「そういうことじゃないの?ゴローが言ってるのって。好きとか好ましいとか、そういう気持ちになる人は他にいても、こんな風にしたい人ゴローだけだよ?」
唇が再び押し付けられる。
ペロペロと、温かく濡れた舌が唇を、頬を、顎を舐める。
「ゴロー、好き。好き。好き。ゴローとだけしたい。ゴローじゃなきゃ嫌」
せんせから彼女のお話を聞くたびに胸がモヤモヤした。
最初は遊んでくれなくなる、構ってくれなくなるのが面白くないからだと思ってた。
だから彼女と別れたと聞くと訳もなく心が弾んだ。
私をほったらかしたからそうなるんだと、いい気味だとすら思った。
嫉妬、というのは知っていた。
めいめいから借りた少女マンガで、女の子が、男の子が、好きな子に抱く感情だと理解はしていた。
でも、自分のこととしてそれは結び付いてなくて、知識でしかなかった。
知識が体験と結び付くようになったのは多分合宿の頃からだ。
顔の知らないどこかの女の人じゃなくて、高峯とか芽衣に優しくしているせんせの姿を見た時にようやく気付いたのだ。
知らなかったんじゃない、気付いていなかっただけ。
胸のモヤモヤも、弾むような気持ちも、それは私がずっと欲しかった嘘じゃなくて本物の感情だった。
それを呼ぶ名前がそうなんだと知らないせいで、とっくに手にしてたものに気付かなかった。
せんせに付き合ってた人の人数を聞いてみた。
両手の指で足りなくて、しかも、せんせの表情から多分付き合う事はなくても「そういう」関係になってた人はもっといたんだと知った時は思わずせんせの顔を引っ叩いていた。
悔しくて、妬ましくて、涙が出そうだった。
私の知らないせんせを知ってる女がそれだけいることが許せなかった。
私と出会う前、私がまだやっと読み書きが出来るようになった頃の出会いのことで怒るなんてきっと凄い理不尽なんだろうけど、許せないものは許せなかった。
そして、私は以前せんせに半分冗談で口にした言葉を思い出した。
せんせがダメなら社長に教えてもらおうかな。
まだ今より子供の頃の自分のセリフとはいえ、その時の自分を張り倒したくなった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
せんせにそんな子と思われてたら?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
知識で知ってる。
裸になって、キスして、おっぱいや色んなところを舐めたり触ったりして、それで、子供を産むところを見せて、そこに…
せんせを思って擦るとすごくふわふわして、ビリってなって、何も考えられなくなるそこを、せんせ以外の男の人に見せる?そんなの死んでも嫌だ。
私の知らないゴローを知ってる他の女全員引きずり出して、一人残らず◼️してしまいたいくらいなのに。
ゴローにも見せてない私をゴロー以外の男になんて絶対に見せたくない。
私に誠心誠意を尽くして、私を説得しようとしてくれていた人を見下ろす。
この期に及んで、私が押し倒してる理由に気付かないヒドイ男。
いつまで娘扱いのつもり?
いつまで妹と思ってるの?
貴方の中にずっと住み続けてる
自分で言ったくせに。
『大人ねぇ…まぁ、自分の夢を叶えて、夢で自分を食わせてやれてるなら既に君は立派な大人だけど。
東京ドームライブまで辿り着いたアイドルはもう子供もなんて呼べないわな』
自分でそう言っておきながら、ドームLIVEまで達成して、18歳にもなって、それでも子供扱いだなんて、そんな
汗で濡れた下着を脱ぎ捨てると、私はせんせーに曝け出す。
一番恥ずかしくて、一番大切なところを。
「ゴロー、私の初めてもらって?」
そこから先は私とゴローだけの秘密。
けど、一言だけ言うなら、めちゃくちゃ痛いのと気持ちいいのが一緒に来ると脳が溶ける。
「アイ、大丈夫か?」
「 ──── ん…ごろー?」
目を覚ますと、気遣わしげなゴローの表情が目の前にあった。
そんな曇った表情すぐに変えてあげたくてキスしてあげようとするけど身体に力が入らない。
身体を覆う激しい倦怠感。
けれど、満足感、多幸感も同時に身体を包み込んでいる。
頭の後ろにあるごつごつとした感触はすっかり慣れ親しんだゴローの腕枕。
寝辛いはずなのに不思議と気持ちが安らぐ世界で唯一の私専用の枕だ。
余談だけど、B小町パジャマパーティーの際に、お気に入りの枕の話になった時に、ゴローの腕枕と言った瞬間、顔面に枕を押し付けられてそのままマウントポジションに入られた時は危うく死ぬかと思った。「冗談冗談」と笑っていた高峯の目が鈍く光っていたのは今でも覚えてる。可哀想な高峯。これからも恒例のゴローの腕枕の感想を写真付きでLINEに載せてあげるね。
「私また気絶してた?」
「すまない。俺がもっと気遣うべきだったのに」
「えー、でもそれだけゴローが私に夢中になってるってことでしょ?」
汗でぬるぬるした感触を気にせずにゴローにぴとりとくっ付く。
「懐かしい夢を見たよー」
「どんな夢を見たんだい?」
「18歳の東京ドームLIVEの日の夢。ゴローに押し倒されて純潔を散らされた夜の夢」
「……記憶に改竄がありませんかね」
「でも、私の純潔を奪ったのはホントのことだよね?」
「はい」
申し訳無さそうに、しゅんとするゴローが可愛くてかぶりつくようにキスをする。
そこから、舌を潜り込ませて、ゴローの唾液を後を立てた啜る。
「んっふ…ちゅ、じゅるっ…れろ」
ゴローの舌を私の舌で絡め取って、転がすようにゴローの口内を貪る。
あの夜の私はこんなキスも知らなかった。
全部ゴローに教えてもらって、全部ゴローのために覚えたこと。
「ねぇ、ゴロー。またしよっか?」
「おいおい、起きたばかりだろう?もう少し休憩しないと。水も飲むだろ?」
「あー、欲しいかも」
ゴローは優しく微笑むと、私の頭を撫でる。
エッチなことを散々しておいて、こういう時に子供扱いするのはズルい。
私の中の恋人枠も兄枠も父親枠まで自分で埋めるつもりに違いない。私の愛情を全部独り占めする気に違いない。
しかし、仕方ない。
ゴローは私が大好き過ぎるのだから。
こんな重い愛情を持った人の面倒は、完璧で究極のアイドルである私にしか出来ないから困ったものだ。
そう思ってると、ゴローが少し意地悪く笑った。
「いや、余計な水分摂らないほうがいいかな?」
「……!?バカ!!ゴローのヘンタイ!!」
ゴローの言葉の意味に気付くと、ようやく火照りが冷めてきた顔に一気に熱がともる。
火がついたような羞恥心が込み上げる。
「いや、どっちかというと変態なのは…」
「もう〜〜いいから、お水取ってきて!」
笑いながら寝室を出ていくゴローの背を恨めしく睨む。
2年前の夜、私はゴローにそれはもう散々にいじめられ、結果的に愛情だけでなく色々なものを溢れさせてしまった。
涙とか涎とか汗とか、あとはまぁ愛液とか潮とか……それと、おしっこも。
それ以来今日に至るまで、毎回という訳じゃないのだけど、全盛期のイチローの打率くらいの割合でお漏らしをしてしまっていた。
いや、シモがゆるいとかじゃないからね。
一人でしててそうなったことなんて一回もない訳だし。
絶対に原因の八割はゴローにあると思う。
ゴローはいくら私が「ダメ」「止めて」「ムリ」「許して」と懇願しても決して止まらない。寧ろ懇願してからが本番みたいなノリだ。
なので、結果的に私は電気を流されたカエルみたいにみっともなく足を開いて、ビクビク痙攣した挙句に色々と飛び散らせてしまう、スプラッシュさせてしまうのだ。
けれど、私とてやられっぱなしではない。
あの夜、決めきれずにいた勝負を今夜つけるのだ。
そっと、ゴローの買ってきたゴムに財布に忍ばせていた針を突き刺すと、元の並びに戻す。
ゴローは産婦人科医らしく、避妊には慎重だ。
ホテルの備え付けのゴムは信用していないのか、必ず買ったばかりのゴムを穴が無いか確認して使う。
しかし、そんなゴローにも油断はある。
何度かエッチをして、休憩に入った瞬間、ゴローに隙が出来る。
優しいゴローは、散々ヒイヒイ鳴かせた負い目からか、休憩に入ると甲斐甲斐しく私に尽くしてくれる。お水を取ってきてくれたり、身体を拭いてくれたり、シーツを替えてくれたり。
そして、飲み物を取りにキッチンに向かっている今が最大のチャンスだ。
けれど、私はここで安心はしない。
万が一にもゴローが違和感を持ってしまえば、今後はより油断が無くなる。つまり、決めるなら手を抜かず一気に決め切るしかない。
いつ?
今でしょ。
ゴローの飲みかけていたコーヒーに私はこっそり入手した液体を注ぎ入れる。
用法はよく確認してないから、とりあえず全部。
どれほどの効果があるのかはわからないけれど、試してみる価値はあるだろう。
何せコレは媚薬らしいのだから。
少しでもゴローの警戒心を更に緩める手助けになればいい。
「アイ、お水持ってきたよ」
「ありがとうゴロー。ゴローも喉乾いてるでしょ?はい」
冷たい水のペットボトルを受け取ると、ゴローの飲みかけのコーヒーを代わりに差し出す。
「サンキュ。ん…?なんか苦くないか?」
「コーヒーなんてどれも苦いじゃん」
「そうじゃなくて…」
「ま、いいじゃん。それより、続き…しよ?」
「せっかちだな…また漏らすなよ?」
「バカ!」
そう言って、私が粗相して恥ずかしくて泣きそうになってるの見て興奮してるのわかってるからね?
そんなことを思いながら、私はいたいけな彼女を貪りしゃぶり尽くす悪い男の唇にキスをした。
媚薬、超効いた。
【とあるアイドルの述懐】
なんてことだろう。
用意しておいた媚薬が無い。
今日のレッスンまではあったのに。
クソが。
高い金を出してようやく入手した一品だったのに。
計画だって立ててた。
きゅんぱんがアイを引き付けて、その隙にありぴょんがゴロー先生を連れ出す。
渡辺の用意していた車に先生を乗せて借りていたマンションに連れ込む。
もちろん理由はゆっくり、他人に聞かれる心配が無いところで相談したいことがあると言えば優しい先生は着いてくる。
以前先生に教えてもらった料理を逆に披露するという恩返しも兼ねた高峯のおもてなしで先生を完全に油断させる。
そして、私の用意した媚薬の出番だ。
みんなには順番に回すという約束で協力も漕ぎ着けた。
ゴロー先生のおかげで手に入れた私たちの一体感と、諦めない気持ちが生み出した共同作戦。
【作戦名:B(媚薬)小町】
まぁ、一服盛って先生は独り占めするつもりだったんだけどね。
それなのに、その作戦の要の媚薬が無いのだ。
犯人はわかってる。
親譲りの手癖の悪さを発揮しやがった:B小町が誇る不動のセンタークソビッチアイだ。
やりやがったあの女。
クソ、流石は無敵のアイドルとでも言おうか。
出し抜くつもりが、まんまと出し抜かれた。
けど、これで終わりじゃない。
だってゴロー先生が言ってたもの。
『君にはアイには無い君だけの輝きがある。だから、アイの存在に心を折られて諦めるなんてして欲しくない』って。
うん、わかってるよ先生。
私諦めないからね。
例え、アイが先生と子供を作ったとしても。
諦めないから。
絶対に。
絶対に。