キース・ホワイト的な。
僕は自分が特別だと気付いていた。
施設の子供達は馬鹿ばかりだったからなのかもしれない。
大人しくしていれば施設の大人達が僕だけを贔屓にしてくれたからかもしれない。
周りの人間がそう言うから間に受けたのかもしれない。
でも、僕の中に確信があったもの確かだ。
僕は周りと違うのだと。
劇団に入ったのは勧めがあったからというのもあるけれど、自分の才能を生かすのは当たり前のことだと、僕自身も感じていた。
何より、施設から抜け出して一人で生きていく術として、芸能界ほど年齢を問わずに独り立ち出来るチャンスを得られる世界はない。
劇団というのは不思議なところで、学校では関わる機会のない年上や年下と、時には対等に接し、競い合う場所だ。
そこでも僕は周りとは違う存在だった。
演技の才能があるとそこでも言われた。
賢いとよく褒められた。
美しいとも言われた。
美貌も才能の一つだ。
特に周りを見下したかった訳ではないけれど、自然と僕は周りよりも上なんだと思うようになっていた。
ただ、どれだけ賢いと言われても僕はまだ子供だった。
人には上と下があると理解しつつあっても、それは
才能の有る者と才能の無い者
美しい者と醜い者
賢い者と愚かな者
この程度の区別しかないと思っていたのだから。
人間にはまだ僕の知らない区別があった。
その人はお世辞にも才能がある人ではなかった。
話せばそれなりに面白く、場を盛り上げてくれる人ではあったけれど、その人の劇団での扱いは「軽かった」。
それは、その人自身もわかっていたのだろう。
僕や、他にも才能があると言われる人を時々嫌な目で見ていた。
エサにありつけない野良犬のような目で。
その人は女癖が悪く、女の人が多く集まる場所に飲みに行くことが多かった。
僕が劇団に入った頃からはその傾向が顕著になったらしい。
『おい、上原の奴また餌場に行ってるらしいぜ』
『光が入ってから増えたな』
『まぁ、自分より才能の有る若い奴が増えれば焦るだろ。アイツいくつよ?』
『けど、アイツ付き合ってんだろ?あの女優の ──── 』
聞こえてくる嘲笑混じりの陰口。
大人が思っている以上に子供は大人の言葉を聞いているし、意味がわからなくとも覚えてもいる。
才能が無く、女にだらしない男。
それが上原さんへの僕の評価だった。
それ以上の人物像の深掘りをする気も起こらなかったし、する価値もないと思っていた。
けれども、上原さんが付き合っている女性を知って、僕は少しだけ驚き、彼への評価を上げた。
人気の演技派女優が彼の相手だったからだ。
興味があった。
僕の目から見た上原さんは大して魅力のある人にも思えなかったのに、彼女のような、姫川愛梨のような女性が恋人に選ぶだけのものがあるのかと。
賢さや美貌、それに才能といった価値しか知らなかった僕にとって、それ以外の価値があるのかという驚きがあったからだ。
衝撃と言っても良かった。
だから、劇団で僕はそれとなく上原さんに聞いてみたのだ。
「凄いですね上原さん。姫川愛梨さんとお付き合いしてるって聞きました」
上原さんはわかりやすいほど気分良さげに顔を緩めた。
自分より遥かに才能も美貌も持っているはずの僕に尊敬の眼差しを向けられたのだから。
彼の満たされる機会の少ない自尊心が満たされているのが手に取るように伝わってきた。
僕は得意になった彼が任せるままに喋らせた。
『才能のある連中はいつも同じような連中と張り合ってるからよ、俺みたいなのが逆に落ち着くのさ。適度に馬鹿にできて、肩肘張らなくてもいい男が』
それは馬鹿にされて生きていくことじゃないのだろうか。そんな生き方が楽しいのだろうか。
僕の抱いていた疑問が彼にはどう見えたのかはわからないが、上原さんはニイィッと嫌な笑い方をした。
『そんな悲しそうな顔するなよ。こっちだって嫌な気分じゃないんだ。才能の有る女が自分のものになってるのを見ると、自分の価値も重みを増したような気になるんだよ。そういう凄い女をモノに出来てる俺も凄い奴に思えてくるんだわ』
自分より才能のある人間を自分のものにすることで自分の価値に重みが増す。
そんなことを考えたこともなかった。
同時に哀れだと思った。
そんな、他人の価値に自分の価値を委ねるような生き方、惨めでしかない。
才能も美貌もなく、知性もないこの人はそういうふうに生きるしかないのかと、他人事のように哀れに思った。
それから、僕は度々上原さんから話を聞いていた。
興味はあったが、以前のような新たな価値観を見つけることが出来るとか、そういう理由ではなく、自分とは無関係な生き物の生態を観察するような面白さとして。
とある舞台の打ち上げの夜だった。
僕の出番は無かったけれども、姫川愛梨を交えた食事会にと上原さんに誘われたのだ。
姫川愛梨を見せびらかしたいのだろうなと、子供の僕でもわかった。
日頃上原さんを馬鹿にしている人達が、上原さんを妬みの目で見ていた。
普段彼らを見る上原さんそっくりな目を彼らがしているのが面白かった。
なるほど、上原さんが言っていたのはこういうことなのか。
確かに、姫川愛梨は綺麗な人だった。
そんな彼女を侍らせている上原さんは間違いなく普段の誰からも軽んじられる上原さんではない。
それが姫川愛梨のもたらした重みだとしても。
そんな大人達の醜さや浅ましさを見苦しいと笑って見ていた僕はきっと油断していたのだろう。
大人達が酔い潰れていく中、気付けば僕は姫川愛梨にのし掛かられていた。
『ふふ…彼に聞いてた通り、綺麗な子ね』
舌なめずりをする姫川愛梨に、僕は生まれてから一度も感じたことのない初めての感覚に囚われた。
僕の美貌に目を奪われる女の人を見たことは何度もある。
そこにねっとりとした感情を載せている人も何人もいた。
そういう趣味なのだと、理解しているつもりだった。
けれど、目の前の姫川愛梨はそんな人達とは根本的に違っていた。
僕を性の対象とか綺麗なものを愛でるような目ではなく、もっと底の知れない目をしていた。
『ほーんと、綺麗…汚れを知らないのね…こんなくだらない集まりに来た甲斐があったわ』
上原さんと付き合ってるんじゃないんですか?
そんなことを僕は聞いたと思う。
僕の声が震えているのを、姫川愛梨は心地良さそうな顔で聴いていた。
『ああ、そういえばそうね。丁度いいのよ』
丁度いい?
初めて耳にする言葉に戸惑う生徒に、優しく教える教師のように姫川愛梨が僕の頬を撫でながら囁く。
『覚えておくといいわ。一度でも他人の価値に自分の価値を委ねた人間は、二度と戻れなくなるの』
指先で僕の髪を絡めながら愉しげな声が響く。
『手放せば自分の価値が軽くなると知ってるから。ああいう手合いの男は都合が良いの。私が何をしても逆らわないから』
喉の奥で嗤っているのがわかった。
『それに割と面白いのよ?いい女をモノにしてる自分に酔ってる男を眺めてるのはかなり笑えていい暇つぶしになるし、色々と感情を揺さぶる実験台にもなるし』
薄明かりの中で光る姫川愛梨の目は、人間というよりも蛇か何かのように見えた。
『今興味があるのは君。君みたいに綺麗で穢れのない子はきっと…美味しいんでしょうね』
才能の有る者と才能の無い者
美しい者と醜い者
賢い者と愚かな者
この程度の区別しかないと思っていた,
人間にはまだ僕の知らない区別があった。
食う者と食われる者
僕は才能があって、賢くて、美しかったのかもしれない。
だけど、僕は食われる者だった。
その人に会ったのは、ある舞台稽古の帰りのこと。
「あんま遅いと家の人心配するんじゃないかい?」
遅くまで残っていた僕にその人は気安い感じに声を掛けてきた。
ララライの新しい人かなと思ったのは、すらっとした長身と整った顔をその人がしていたからだ。役者にしては、こう言っては何だけど知的な物腰だったし、大なり小なり役者が身に纏っている「目立ちたい」というオーラ、滲み出る承認欲求のようなものも見えなかったから演出とか脚本の人かとも思った。
僕の疑念を読み取ったようにその人は「ごめんごめん」と前置きして自己紹介をした。
差し出された手と、男の人の顔を見比べた。
彼は不思議そうに首を傾げる。
ようやく僕は彼が握手を求めているのだと知った。今までの僕の周りにこんな丁寧な物腰で握手を挨拶にしてくる人なんていなかったからだ。文化圏の違いみたいな。
僕は大人という者を下劣な者か悍ましい者として見ていたから抵抗はあったけれど、鏑木さんの知人には無難な対応をしておいた方が良いという打算を働かせる程度には理性もある。
おずおずと僕が差し出す手を、彼は微笑むとそっと握り返してきた。
「あ…」
思わず声が出ていた。
大きな手の感触は大人の男の人だけれど、握り方は優しく包み込むようで、警戒していただけに肩透かしを食らってしまった。
大人と握手をしたのは初めてではなかった筈なのに、僕は不思議なくらい驚いていた。
偉い立場の大人が紳士ぶって見せるポーズとして握手を求めてきたことがあるけれど、それとは違うと感じた。
僕を一人の人間として扱うような握手、目線は子供に対する大人なのに、一方で対等に扱うような、彼の手の感触や、視線、表情から読み取れたのはそんな印象だった。
それが僕と、雨宮吾郎という人との出会いだった。
「神木君、キャッチボールしようぜ」
「お医者さんて暇なんですか?」
雨宮さんはララライにやって来て、舞台稽古を見終わると、僕を遊びに誘う。
僕も家に帰っても仕方ないから、この暇を持て余してる可哀想な大人と遊んであげてもいいかなと思う程度には時間を持て余していた。
この前はカードゲームに誘われたし、その前はバスケだった。
カードゲームは僕の勝ちだったし、バスケも途中までは僕が押していた。いや、アレは子供の体力では不利なので明らかに雨宮さんが大人気ない。
僕が大人と壁を作り始めたことに気付く人は今までにもいた。
僕が施設育ちだからとか、大人に混じって役者として劇団に参加してるからと勝手に想像を巡らせて勝手に同情して、勝手に理解者面してくる大人はいた。
『神木、大人全員を警戒しなくてもいいんだぞ?俺のことは信用してくれて構わないんだからな』
何度その言葉を耳にしただろう。
その言葉を聞くたびに、僕はとびきりの笑顔で「ありがとうございます」と答えていた。無垢で、大人の優しさに感謝し、感動すらしている子供のように。そうすると大抵反応は2パターンだ。
自尊心、薄っぺらな道徳心が満たされて満足するか、僕への興味あるいは僕と関わりのある上原さん…というか姫川愛梨さんとの繋がりを期待する下心を覗かせるかのいずれかだった。
そんな浅ましい大人達の醜さ、くだらなさ、子供の僕にすら容易く見透かされて簡単に転がされる大人達の「軽さ」を見下すことで、僕は自分が彼らよりも優れている、存在価値に「重さ」があるのだと実感していた。
だけど、雨宮さんは少し違った。
「そんなこと言わないでくれよ。社長に参考までに舞台稽古見て来いって言われてさ。あんまり早く帰ると真面目に見て来てないって思われるだろう?」
パシンと心地良い音と共に僕の投げたボールが雨宮さんのミットに吸い込まれる。
「サボりじゃないですか。営業が公園で時間潰してるのと一緒でしょ。給料泥棒の自覚あります?」
「未来の人気役者の神木君と親交を深めてるから問題無いよ。このミットもボールも経費で落としてもらえるし」
雨宮さんがニヤリと笑ってボールを投げる。
「汚い大人だ。経費でって、この前の遊戯王カードも…」
掴み取るようにミットでボールをキャッチすると、すぐさま投げ返す。
雨宮さんと遊ぶまでキャッチボールなんてやったことがなかったのに、すっかり投げるのもキャッチにも慣れてしまった。
「神木君たらブラマジガールに目がなくてと説明したら納得してくれたよ。男の子なんだなって」
「僕の評価が知らないところで酷いことになってる!?ていうか、ブラマジガールが好きなの雨宮さんでしょ?わかりやすいロリッぽい趣味で」
「ブラマジ可愛いだろ!サラサラ金髪に明るくてミニスカートだし!ロリ好きだからとかじゃねぇから! ──── うん、違うヨ?」
「何で自信なさそうなんですか。ていうか、未来の人気役者って何です?」
「?そりゃ神木君のことだろ。君なら人気役者になるだろ」
放られた滑らかな弧を描くボールを取ると、雨宮さんを見つめる。
雨宮さんは不思議そうな顔でミットを構える。
「どうした?」
「いえ…このまま僕が役者辞めたら雨宮さんは単に子供と遊んでサボってただけになるなって」
「辞めるのかい?」
強めに投げる。
割と全力だったのに、雨宮さんは「お、いい球」なんて余裕を崩さずにキャッチするのが大人と子供の差のようで少し悔しい。
「このまま続けていても、僕は僕の存在価値の重さを実感出来ません」
近づいてくる大人達を見下すことで、彼らより自分の方が優れていると優越感に浸ることは出来ても、僕自身の価値が高まるわけではない。
姫川愛梨に餌として食われた僕の価値が高まるわけでも、僕という存在が重くなるわけでもない。
僕は、僕の価値に、存在に、命に重みを与える術を見つけられないでいる。
あるいは姫川愛梨が僕から奪ったように、僕も誰かから存在の重みを奪うことでも出来れば ────
「自分が自分を見捨ててる限りは何処に行ったって変わんねーぞ」
「え?」
雨宮さんの言葉に思考が断ち切られる。
今までに見た事がないくらい真剣な顔で雨宮さんが僕を見ていた。
決して下心とか害悪なんてない、切実で必死ですらある真剣な眼差しに僕は背筋に甘い痺れのようなものを感じた。
「誰もが自分が重いか軽いかなんて、実感しながら生きてる訳じゃないけど、少なくとも、自分くらいは自分を重いと思ってなきゃ、何処まで行っても借り物の重みしか感じられない…と思うけどな」
貴方に何がわかるんだ。
そう言おうとして、何も言えなくなる。
──── 自分が自分を見捨ててる ────
その言葉に僕の言葉は封殺されてしまった。
だって、それは僕にも実感のある言葉だったから。
姫川愛梨に食い物にされた日以来、僕は食われる側でしかなかった僕自身に失望していたから。自分で自分の存在の呆気なさに絶望すらしていた。
雨宮さんの言葉はそれを見抜いてるようだった。
「役者を続けることが全てとは思わない。やりたくないなら辞めればいい。自分の道を自分の意思で決められなかった人間なんて、空っぽで哀れだぞ?」
その言葉に自嘲じみたものを感じたのは気のせいだろうか。
少なくとも彼の言葉には口先だけのものじゃない確かな重みがあった。
「……雨宮さん、少し僕のお話、聞いてもらってもいいですか?」
「ヒ〜カル〜サッカーしようぜ。キーパーは泰志君がやるから」
「磯野〜みたいなノリで来るのいい加減やめましょうよ…」
雨宮さんが友達の五反田を誘って稽古後に遊びに誘って来た。
こうして、稽古後に遊びに誘われるようになってもう四年近くが経つ。
いつものメンツに五反田監督が加わるようになったり、たまに上原さんのお子さんの大輝君が加わる事もある。
大輝君は少し不思議な子で、ぼーっとしているけれど時折凄まじい集中力を持っていて、才能のある人間特有の輝きと掴みどころのなさがある。おそらく上原さんではなく、母親に ──── 上原愛梨に似たのだろう。
雨宮さんは僕と上原愛梨との間にあった話を聞いてドン引きしていた ──── 上原愛梨に。
そして怒ってもいた。
だけど、僕に対して必要以上に同情する訳でもなく、ひとしきり怒った後に静かに聞いてきた。
『それで、どうする?』
その言葉の意味をすぐには上手く飲み込めなかった。
『性被害者として上原愛梨を訴えて、けちょんけちょんに上原愛梨の評判を叩き落としてやるか?時間が経ってるから罪に問えるかは難しいかもしれないが、スキャンダルとしてダメージを与えることは出来る。こんな言い方は嫌かもしれないが、君のような綺麗な子なら説得力は俄然増すしマスコミが放ってはおかない。もちろん、君自身のイメージダウンもあるだろうが加害者と被害者じゃあイメージダウンの重さは比較にならないだろうし、本来男の性被害の立証は難しいとされてるが子供なら話は別だ』
それとも、と雨宮さんは続けた。
『上原愛梨“ごとき”にいちいち気にするだけ時間の無駄だって思うか?ショタコン女如きに神木ヒカルの存在価値は少しも損なわれてないって…コレは口で言う程簡単じゃないけどな。泣き寝入りと言われればそこまでだ。くだらない男の意地の問題でしかない』
雨宮さんは正義か意地か、ルールか感情の問題だと定義付けた。
『雨宮さんはどうすべきだと思いますか?』
『自分で決めるべき問題だと思うけど…その前提での俺の意見としては…』
僕は思わず笑ってしまった。
僕は自分の性格は結構捻くれてると思っていたけど、雨宮さんも相当だと、彼の答えを聞いて笑ってしまうほどに。
「おい、サッカーなんてここ数年やってねーぞ…つか、運動自体…」
キーパーグローブ代わりの軍手をはめておいて、往生際悪く五反田監督はブツブツ文句を口にしている。
「いつも引き篭もってんだから、丁度いいでしょ。お袋さんからも『ウチの子と遊んでくれてありがとうね吾郎君』ってお礼言われたぞ俺」
「五反田監督まだ実家にきせ…住んでたんですね」
「今寄生って言い掛けたろ?クソ早熟ボーイ」
「泰志君さぁ、子供部屋おじさんも大概にしないと。映画以外世間知らずだからいつか悪い女に騙されそうで心配だよ俺は」
「役欲しさの未成年の女優の子とスキャンダルになりそうだね」
「泰志君チョロそうだもんな〜」
「私、監督の映画のエッジの効いたところ好きなんです〜って言われたらすぐに気分良くなりそう」
「わかる」
「人の心配より自分の心配しろよ。お前ら絶対に女難の相があるだろ。特に雨宮、お前油断してると刺されるか監禁されるからな。女転がすのも程々にな…」
「よーし、ヒカル〜サッカーしようぜ。PKで。ボールは泰志くんな」
「正にボールは友達だね」
「おい!地味に怒ってんじゃねーよ!!図星指されたからって」
雨宮さんと遊ぶようになって、五反田監督とか悪くないマシな大人もいるんだと知った。
当たり前なんだけれど、あの頃の僕はどれだけ賢ぶってもやっぱり子供で世間知らずだったんだ。
そして、大人の数だけそれぞれの事情がある。
お母さんが自分を産んだと同時に死んでしまった雨宮さん。
親元でいい歳して寄生してる五反田監督。
無自覚に色んな女の子達をその気にさせて、いつか誰に刺されるか監禁されるか密かにトトカルチョの対象になっている雨宮さん。
先日美人局に引っ掛かって半泣きで逃げて来た五反田監督。
決して、僕がありきたりな環境とは思わなかったけれど、色々な事情があることもまた事実なのだということを知った。
ある時、そんなことを話したら雨宮さんは優しく微笑んで僕の頭を撫でた。
『自分の痛みを取るに足らないなんて思うのはダメだ。痛みは大事なシグナルだからね。
それをなんてことはないと無視して取り返しが付かなくなった患者を僕は何人も見てきた。
だけど必要以上に悲観する必要もない。自分の痛みは自分にしかわからない。けれど、頭を抱えてるのは自分だけじゃないと思えたら、独りじゃないと思うと、少し救われるだろ?
焦らなくても、そうやってちょっとずつ自分を救っていけばいいんだよ』
その言葉こそ、僕にとって救いなのだと、きっと雨宮さんは知らないんだろうな。
「お疲れ様、アイ」
稽古を終えた私にせんせがタオルとドリンクを差し出してくる。
ララライで演技の稽古をするようになって一年近く経つけれど、ようやくついていけるようになったという手応えを感じる。
せんせが「私のため」にララライの稽古の雰囲気や人間関係を下見していたのだと初めて聞いた時は、やはりそこまでせんせの心を私色に染めてしまった責任を取って、雨宮アイになるしかないと決意したものだ。
せんせは「B小町もいずれアイドルとは違う道を進む日が来る。その時にララライと伝手があると何かと便利だろ?僕に出来るのはこれくらいだから」なんて言ってたけれどさ、ホント照れ隠し?スキャンダル防止?箱推し気取り?わざわざ「B小町」なんて主語を大っきくするもんだからみんな勘違いしてるよ?思い込みが強い子達だからさ、みーんなB小町のところを自分の名前に置き換えて「ゴロ先生…私のために…」なんて記憶を改竄してるよ?その気もない子達をその気にさせるなんて、ほーんとゴローはいけない人だ。
でも、そういう優しくて照れ屋でちょっぴり悪い男なところもしゅき。しゅきしゅき大しゅきすぎる。
金田一さんと私の演技について話をしているしゅきぴ…じゃなかったゴローの横顔を見つめていると、ゴローさんに男の子が近づいてきた。
「ゴロさん」
「ヒカル君、お疲れ様。この前の舞台見たよ。すげぇ良かった」
せんせは親しげに笑みを向けるのは、神木ヒカル君。
せんせと知り合った時期は結構前、といっても私の方が長いけど、それでも子供の頃から知ってる仲なのか、非常にせんせは気安い。
というか、ララライの下見に来てた時ずっと遊んでたらしい。キャッチボールとかサッカーとか遊戯王とか。何それズルい。男同士の付き合いってやつ?気に食わない。
いや、気に食わないのは男同士の入り込めない付き合いだけじゃない。
「ふふふ、ありがとう。聞いたよ?わざわざ一般抽選でチケット買ったって。言ってくれたら送ったのに」
「いやいや、それはファンとしてフェアじゃないだろ」
「……またそういう…生真面目だなぁゴロさんは」
気に食わないのはこの神木ヒカルだ。
なんだそのメスの顔は?
なんだその距離の近さは?
なんだそのねっとりした目は?
なんだそのわかり合ってる感は?
「ね、ねぇ、せんせ。そろそろ帰…」
「ゴロさん、この後久しぶりにサウナ行かない?」
「サウナかぁ…いいなぁ〜最近行ってなかったからな」
「じゃあ行こうよ、“2人"で。じっくり、しっとり、ねっぷり、裸の付き合いを…ね?」
「はは、ヒカル君もサウナの魅力がわかったんだな?じゃあ焼肉行ってからサウナ行くか!!」
「そ、そうだね。精を付けてから行かないとね?」
気付いてゴロー!!
わかったのは、サウナの魅力じゃなくてゴローの魅力だから!!
神木ヒカルはチラリと私を見ると、
──── フッ…
と鼻で笑った。
あの笑み知ってる。
負け犬を見下す時のやつだ。
そうか、そうなんだ、やっぱりコイツは敵だ。
私の敵だ。
『存分に君が上原愛梨のことなんて小石に躓いたほどにもならないって顔で人生を謳歌するのはどうだ?
ただし、上原愛梨にいつでもお前を破滅させてやれるんだからな?って見せ付けてやりながら。
本当に破滅させるのか、嬲り続けるのかは好きにすればいい。君にはそうする権利がある。
ただし、一つだけ約束してくれ。
君は君自身で自分の価値を見つけて、自分の人生をちゃんと生きること。他人に自分の命の重みを委ねたりしないで。それが約束出来るなら、俺は助けになるよ』
『ふふん、良いね。いつでも破滅させてやれるって見せ付ける意地の悪さが気に入ったかもね』
★神木ヒカル(カミキヒカル)
11歳で姫川愛梨に食われて以来、大人の女が嫌い。
ゴローと出会って、女に縁の無い人間、女難の相がある人間、女を食い物にする人間、食い物にされる人間と、様々な関係性があると知り、だんだんと「まぁ、野良犬に噛まれたみたいなものか」と思えるようになっていく。
メルト君的な心境と同じ。
それはそれとして、女はあんま好きじゃなくなってくる。
ブロマンス良いよね。
上原大輝君は、お父さんでなくお母さんに似てよかったね、性格はどっちにも似ないでねと思ってる。
最近のお気に入りは(ゴロさんと行く)サウナ。
雨宮吾郎
カミキヒカルには監視目的で近付くも、根がお人好しなのと、家庭環境から共感を抱いたのが運の尽き。
遊び友達になるうちに復讐心が仕事放棄した。
いやそもそもコイツの復讐心は職務放棄の契約不履行だった時期の方が長いからね。
ゴロー的にはアクア時代と今世の人間は同じスペックの別人認識。
未来トランクスと現在のトランクスみたいな。
☆星野アイ
ゴローが自分を好きなのは知ってる。
知ってて素直になれない大人だと思ってる。
香に対する冴羽獠みたいなアレ。
それはそれとして内外に敵が増えてて焦ってる。
B小町、カミキヒカル、芸能関係者、ワンナイならアリかなと思ってるミヤコさん等。
五反田監督はこの状況を「アイ包囲網」と呼んでいる。
まぁ頑張れ完璧で究極なアイドル様。
️上原愛梨(旧姓:姫川愛梨)
男は老いも若きも自分の芸の肥やしであり、快楽の捌け口であり、糧であると考えている毒婦。
大輝を産んだ後も、若干ダメンズ好きという愛嬌も持ち合わせたトップ女優という肩書きと共に芸能界を順風満帆に生きていた。
縁のある劇団に出入りしている医者にいつの間にか息子が懐いており、都合の良い子守りが出来たし、イケメンだし、そういやまだ医者は食ったことなかったなと舌なめずりをしながら近付いたところ、その医者が子守役に神木君まで連れて来て内心焦る。
しかも、「いやぁ、大輝君の持つ才能はお母さん譲りなんですかねやっぱり。それとも、お父さん譲りなんですかね?モテそうですから上原さんも気を付けないと。今は物騒だから、悪〜〜い狼に食べられちゃいますからねぇ?」と笑顔で言われて血の気が引く思いをする。
更に「ヒカル君も、それからウチの子達も、これから役者で頑張っていくみたいなんで、その時は色々と末長くよろしくお願いしますね?」と優しく手を握られながら言われて、心臓を握られる感覚を覚える。
軽井沢には注意しようね?
・上原清十郎
托卵(され)マン。
でも、意外なことに子煩悩なことが子供が生まれてから発覚。
女遊びに注いでいた情熱を子育てと役者活動に向けるようになる。
知らなければ幸せな事実があるので、知らないままでいられると良いね。
知ったこっちゃないけど。
・上原大輝
パッとしねぇ俳優の父とスゲェ女優の母を持つ。
役者になるかは決めかねてる。
よく遊んでくれるゴローに懐いてるが、作画の都合か伏線なのか、父親よりも自分と似ているゴローが本当の父親なのではないかと内心疑っている。
それ、黙っておこうね。
ゴローせんせ監禁されちゃうし、最悪お母さんが東京湾に沈められちゃう。オッ◯タクシーみたいに。