さりな「どうしたのせんせ?」   作:FOOO嘉

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おまわりさん、こっちです。


前世でメフィストしたからって今世でメフィストする必要は無いけど、それはそれとして、多分他の奴とメフィストしたら少しモニョる。

 

あかねの存在を忘れたことはなかった。

星野アクアにとって、彼女は間違いなく大切な人の一人であったし、星野アクアが取り返しのつかないほど傷つけた人の一人でもあったから。

恋なんて感情ではない。けれど、紛れもなく大切な宝物を想う気持ちとして自分の中に残っている。

償えることがあれば償いたいと心から思う。

再び雨宮吾郎としての生を得て、何の因果かアイと夫婦になってからずっとその思いに変わりはない。

だけど、贖罪の機会は永遠に来ないこともわかっている。

こちらの世界で出会うあかねは、自分の知っている黒川あかねとは違うのだとわかっている。

それでも、放っておけないと思うのは、きっとあの子のことが自分の心の奥底の手の届かない部分に傷となって疼き続けているせいだ。

今でもあかねの泣き顔が心に焼き付いてしまっている。

時と共に少しずつ薄れつつあったその泣き顔が、再び鮮明な形を持って僕を責め立てている。

消えない罪の証のように。

 

 

 

というか…

 

 

「くすん…すん…ひっく…」

 

 

現在進行形で、今、目の前で泣いている。

黒川あかね(6)が。

 

「あぁ~~…っと…どうしたのかな?」

「ひっく…うぅ…く」

 

泣き止んでくれないかなぁ~~黒川あかねちゃん(6)。

声を掛けた俺が不審者みたいになっちゃうからさぁ~~

そもそもアイの現場に来たのが運の尽きだった。

アイが俺の作った弁当を忘れたという連絡がミヤコさんから入ったのが2時間前。

別に、気にしなくていいと言った俺に対して、「嫌だ!ゴローのご飯じゃなきゃ食べない。ゴローのご飯以外はガラスの破片塗れだもん!!」とミヤコさんの電話を奪ったお姫様(経産婦)の我儘が爆発。

嬉しいけど、その発言はあらゆる飲食関係の人達の誇りと尊厳に唾を吐く行為だから、もうちょっとボリューム下げなさい。

ともかく、アイは俺の作った弁当を食べると言ってきかない。

しかも、俺に届けて欲しいときたものだ。

なんて我儘お姫様(母乳の出は快調)なんだろうか。

今まさにエメとルビーにミルクをやって、可愛らしいゲップを出させたところだというのに。というか、大人しくミルクを飲んで、ねんねするうちの天使ちゃん達きゃわわ過ぎる。

賢くて可愛くて聞き分けが良くて、そんな愛しすぎる存在がこの世に降臨していることが俺には不思議でならないのだが、それに比べて母親の聞き分けのなさ。

しかし、我儘を言うことが少なかったアイの我儘は可能な限り聞いてやりたいというのが、親心ならぬ夫心である。

そして、何よりもこういった珍しいアイの我儘が聞き入れられなかった時のあの子のパフォーマンスの低下っぷりはヤバいのだ。

なので、壱護社長から直々に「すまねぇ先生…行ってやってくれねーか。エメラルドとルビーはうち事務所に連れてきてくれりゃいいからよ」との嘆願もあって、弁当を鞄に詰め、まさにおねむだったエメラルドとルビーをチャイルドシートに乗せて苺プロに向かったのが1時間前。

運良く事務所には社長の他にめいめいときゅんぱんがいてくれたのが幸いした。

社長を信用していないわけじゃないが、多忙極まる社長一人に双子の赤ちゃんの面倒を見てもらうのは忍びないし心配だったからだ。めいめいときゅんぱんは快く引き受けてくれた。

 

「ゴロー先生のお願いなら全然オッケーですよ……私の娘になるかもしれないし」

「赤ちゃんには今の内から慣れておいた方がいいですから。…いずれ必要になる日がきますし」

 

温かい言葉に目頭が思わず熱くなった。

嘗てアイと距離があったB小町の子達が、アイの娘を自分の子のように可愛がってくれる姿に。いつか自分も母になる時が来ると未来を見据えてなお明るい姿に。

 

 

B小町

 

箱で推してて

 

良かったな

 

 

感動の余り、思わず一句詠んでしまった。

 

「ありがとう、このお礼はまたするから。何でも言ってくれ」

「「ん?今何でもって?」」

 

めいめいときゅんぱんに礼を言ってすぐにアイの現場に走らせたことで、なんとか休憩時間に間に合った。

泣きださんばかりに礼を言ってくるミヤコさんを宥めるのを尻目にアイは上機嫌で弁当を頬張る。自由人かな?

 

「ねぇーねぇー、ゴローも収録見ていってよ。それで帰りはデートに行こう?」

「怖いもの知らずなの君?」

 

アイドル引退したとはいえ、まだ世間的に結婚も子どもも発表していないのに、どんだけ豪胆なんですかうちのお姫様は。

とはいえ、我儘お姫様状態のアイを宥めるのは容易ではなく、ミヤコさんに少しだけ席を外してもらい、アイがひとまず納得するまで“全力で”ご機嫌を取るはめになった。

 

 

 

…控室にファブリーズがあって本当に良かった。

 

そして、服の乱れを直して、そっとアイの控室を後にした帰りに目にしたのが、黒川あかね(幼)だった。

素通りしようとしたよ、最初は。

そもそもこの子の運命は星野アクア()と関わったことで大きく狂ったんだから、関わり合いにならないに越したことはない。

俺とは関わらない場所で、どうか幸せになってくれれば良かったんだ。

しかし、鼻を啜って、目をぐしぐしと擦って泣いている黒川あかね(ロリ)を放っておくことが結局俺には出来なかった。

 

自販機から買ってきたりんごジュースをあかねに手渡すと、俺はゆっくりと彼女が落ち着くのを待つ。

これって、知らないおじさんが幼女を物で釣ってる光景?そんな不安が脳裏をよぎったので、極力「私、黒川あかねの親戚の叔父さんですが何か?」感を出しておく。

あかねはちびりちびりとりんごジュースを飲むと少し落ち着いたらしい。

ひとまず泣き止むと、ぽつりぽつりと何があったのかを話してくれた。

どうやら、今日はドラマのオーディションがあったこと、同じオーディションを受けるのが憧れの有馬かなとあって、控室に行って話をしたらしい。

 

そういえば聞いたことがあった。絶賛荒んでいた頃の有馬に塩過ぎる対応をされたことが軽いトラウマになったことを。そのせいで厄介ファンから反転アンチになったことを。

もっとも、あかねは自称反転アンチの厄介ファンでしかなかったが。

しかし、俺が知ってるこの世界の有馬は多少その辺がマシになっているはずだ。

俺が言った言葉が影響を与えたと思えるほどおこがましい人間ではないが、何らかの気付きの切っ掛け程度にはなったかもしれない。

 

そこであかねは、有馬にお揃いの髪型と帽子を披露したところ、

 

『はぁ?私の真似とかやめてよ。マジで気持ち悪い』

 

と吐き捨てられたらしい。

 

「ひどいよ…わたし、わたし、かなちゃんに憧れてたのに」

「あぁ…そっかぁ…」

 

あっちゃぁ…

叩かなかっただけマシなのかもしれないが、感情的に怒鳴られるより、マジなトーンで静かに気持ち悪いって言われる方がキツイ気がする。

何やってんのアイツ。

というか、歴史が変わっても初対面でバッドコミュニケーション叩き出せるこいつらがある意味凄い。

一瞬でも、和気藹々と仲良く微笑み合うあかかなを想像した自分が馬鹿だったよ。

けど、有馬の気持ちもわかる。

端から見ていても、今アイツはこれまでの自分を顧みて、必死に変わろうとしていることがよくわかる。

それは、たまにアイのマネージャーとして顔を出す俺ですら感じるのだから、共演者や製作者達にはより如実に伝わってくるだろう。

たかだか5歳かそこらの子が、今までの自分の行動を反省して、変わろうと藻掻いている姿は健気で、胸に来るものがある。

実際、この前一緒に飲んだ鏑木さんは「自分の娘とあまり変わらない年ごろの子が、ああも頑張って成長しようとしてる姿を見るとね…らしくもなく涙腺に来るんだよ」と潤んだ目で杯を重ねていた。いや、マジでらしくねーな。

 

変わろうと足掻いている有馬にとって、今までの自分は否定したい対象ともいえる。

つまりは「黒歴史」だ。

そんな黒歴史有馬かなちゃんなりきりセットを身に着けてきた黒川あかねちゃんは、有馬からすれば黒歴史が話しかけてきてるとも言える。

まぁ、やめてくれとなるし、それを差し引いても有馬かなの性格的に自分の真似をしてくる子にドン引かないとも限らない。てか、俺の知ってる有馬なら「はぁ?私のストーカー?キモ」くらい言いそうだ。アイツはファンを大事にするとか、自分と同じ髪型をする子に「やっだ~恥ずかしい~でも嬉しい~」なんて愛想良くするタイプじゃない。そんな奴ならあそこまで空回って苦労はしなかったろう。

 

 

「黒川さん…だったかな」

「…はい」

「黒川さんは有馬かなが好きかい?」

「好き…でした。でも、今は」

「きら…わからないかな」

 

こくんと、ゆっくりとあかねが頷くのを見ると、自然と安堵の溜め息が零れた。

嫌いと口にしなかった。そうハッキリと言葉にすることで、未だあかねの中の形を持たない感情に「嫌い」という形を与えてしまうことを避けたかった。

勝手なエゴかもしれないが、こっちの世界のあかねと有馬にはもう少し仲良くしてほしい。

そもそも、あの二人の不和の原因の全てを理解しきれていない俺には、何をどうすればいいのかはわからないが、現状少なくともあかねには有馬を「嫌い」という感情を植え付ける真似はしたくはなかった。

 

「じゃあ、黒川さんはどうして有馬かなが、君に冷たい態度を取ったと思う?」

「かなちゃんが…ひどい子…だから」

「他には?」

「ほか……私が、かなちゃんなんかよりちっとも凄くない子だから」

「凄くないっていうのは、演技かな」

 

あかねは、俺の放った言葉の意味を咀嚼するように、暫く俯くと、首を横に振った。

思わず笑みが浮かぶ。

幼くてもあかねは賢い子だ。

幼いながら、あかねは有馬に対して「格」というものを抱いてるのだ。それは演技力の問題ではない。有馬の知名度や、芸能界での立ち位置と、自分の立場を比較した上でこの業界における「格」というものを意識しているのだろう。

 

「俺はね、黒川さんより少しだけ有馬かなのことを知ってるんだ。だから、俺の推察だけど…推察ってわかる?」

「なんとなく…ですけど」

「そっか。そう、俺の推察だと、有馬は黒川さんだから嫌な態度を取ったんじゃないんだと思うよ」

 

涙の幕が下りたままの大きな瞳を丸くして、あかねが見上げてくる。

普段は内気で恥ずかしがり屋なところがあるくせに、自分が知りたいこと、聞くべきと思ったことを聞くときは大きな目を見開いて真っ直ぐにこちらを見てくる。

そういえば、有馬の子どもの頃は知ってたが、あかねの幼い頃を見るのは初めてだったが、俺の知ってるあかねによく似た仕草に微笑ましさを覚える。

 

「黒川さんは、もし、自分のことが好きだっていう子が、自分の真似をしてきたらどう思う?」

「えっと……今までそんなことなかったけど…でも、はずかしい…です」

「じゃあ、例えばそうだね、黒川さんが前髪を切りすぎてしまったとする」

 

ぱっと思わず自分のおでこに手を当ててしまうあかねきゃわ。

 

「黒川さんはそれが嫌で嫌でしょうがない。できれば時間を戻してしまいたいくらいだ。そんなときに、黒川さんと同じ髪型をしてきて、お揃いって言ってきたら、黒川さんならどう思う?」

「えぇ…はずかしいよぉ…はずかしい…です」

 

 

やぁだ、何この子可愛い。

 

 

想像したのか、白い頬を赤くして俯くあかねに父性がズンドコ刺激される。

今すぐ養子縁組して年頃まで大事に育てて泣きながら嫁に送り出すところまで想像してしまった。

 

「そうか。それが黒川さんの考え方なんだね」

「はい」

「じゃあ、有馬はどう考えたんだと思う?」

「かなちゃんが…ですか?」

 

暫く考えて、あかねは首を傾げた。

 

「よくわからないです」

「どうして?」

「だって…あ」

 

何かに気づいたように、あかねは言葉を飲み込む。

 

「だって、黒川さんは有馬かなじゃないからね」

「はい」

「じゃあ、有馬かなが本当にひどい子なのかは、わからないよね」

 

あかねがおずおずと頷く。

 

「それに、黒川さんが凄くないから冷たくしたかもわからない、そうだよね?」

 

少し、ほんの少しだけ、あかねの瞳から悲しみの影が薄れたのを確認する。

 

「みんな、違うっていうのはそういうことなんだよ」

「みんな…違う」

「そう。俺は役者じゃないけど、役者っていうのは、そうやって自分と違う人のことを理解できる人達なんだと思うんだ。黒川さんは女優になるんだよね?」

「はい…なりたいです」

「そうやって女優の勉強をしていけば、色々な役の気持ちもわかるようになるよ。そうすれば、今よりもっと有馬かなの気持ちもわかるようになるかもね」

「なれるかな」

「なれるさ。その頃には、黒川さんは今よりもっと凄くなって、有馬かなともちゃんとお話できるようになるさ」

「本当に?」

「ああ。おじさんはね、有馬かなのことを少し知ってるけど、あの子は寂しがり屋だからね。黒川さんがお友達になってくれたらって、思ってるよ」

「私とかなちゃんがお友達?」

「ああ」

 

最後の最後まで見ることが叶わなかった、屈託なく笑い合う二人の姿。

別に自分と関わらなくてもいい、いつかそんな二人の姿を一目だけでも見ることが出来たら、これは俺のそんな自分勝手な思いだ。

 

「おじさんはかなちゃんにどうしてそんなに優しいんですか?」

「んーーー…そうだな、それはね、おじさんもあの子のファンだからだよ、黒川さんくらいね」

 

笑いかけてやると、つられたようにあかねが嬉しそうな笑みを浮かべた。

さっきはスルーしてこうかと思ったが、この笑顔が見られたのなら、立ち止まった甲斐もある。

俺は胸にこみ上げる満足感に突き動かされるように、あかねの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

さてと、あとはさっきからこっちを不安げな目で見ているあかねのお母さんと、その隣で鋭い眼光で様子見している職務熱心な警備員さんにどうやって事情を説明するかだな。

 

 

 

 

かなちゃんと初めて会った日のことはよく覚えている。

酷い言葉と共に、拒絶されたことを。

だけど、あの頃のかなちゃんがどれほど芸能界という世界で苦しんでいたのかを知るにつれて、かなちゃんに抱いていた反発は薄れていった。

きっと、かなちゃんには余裕がなかったんだ。

今までの自分を変えようと足掻いて、藻掻いて、何が正解かを手探りで進み続ける日々に疲れていて、そんな時に能天気にかなちゃんの真似をする私が現れたことに、かなちゃんは腹立たしくて、苦しくて、何より恥ずかしくて仕方がなかったんだろう。

 

ごめんね、かなちゃん。

 

私、何にもわかってなかったね。かなちゃんだって私と同じ年の子どもなのに、私なんかよりずっと苦しくて辛いなかで頑張っていたのに、私全然そんなことも想像できてなくて。

 

それを気づかせてくれる切っ掛けになった人と出会ったのも、同じ日だ。

雨宮吾郎さん。

泣いてる私を慰めてくれた優しいおじ様。

あの日、おじ様に言われて、私は心理学の本を読んで勉強することにした。

かなちゃんへの反発心じゃない、女優になるため、かなちゃんの気持ちを理解できるようになるため。

おじ様がいなかったら、私はもっとかなちゃんへの気持ちを拗らせていたかもしれない。

役者以外のかなちゃんの活動だって、許せなくて、認められなくて、反発しかできなかったと思う。

 

おじ様はかなちゃんのファンだという。

私もかなちゃんのファン。そういうと、おじ様は「じゃあ、俺たちは仲間だな。有馬かなファンクラブその1とその2」と笑っていた。

仲間。お友達。

私はあんまりお友達がいないけれど、大人の男の人がお友達になるなんて想像もできなかった。

その後、おじ様と劇団ララライでまた会うことになるなんて私は想像もしてなかった。

 

「よぉ、クロちゃん」

 

会うたびに、おじ様はそう呼んで私の頭を撫でる。

「クロちゃん」とあだ名で呼ばれるのは初めてで、嬉しくて、少しくすぐったい。

私もいつしか「雨宮さん」から「雨宮のおじ様」と呼ぶようになった。

雨宮さんだとよそよそしいけど、名前で呼ぶのは恥ずかしい。「おじさんでいいよ」と言われたけれど、おじさんとかおじちゃんと呼ぶにはスマートでカッコいいから、私は最近読んでいた小説で主人公の令嬢が自分を幼いころから可愛がってくれている親戚の叔父さんに対して使っている呼び方をしてみた。

おじ様は、私が「おじ様」と呼ぶ度に、何かを噛み締めるような顔をする。

最初は、嫌だったのかなと不安になったけれど、嫌な気持ちを我慢してる顔ではなかった。

こみ上げる感情を噛み締めるような、そんな表情。

おじ様にはいろいろ相談に乗ってもらった。芸能事務所でお母さんが選んできた事務所を話したら、凄い勢いで反対された。

よくわからなかったけれど、「8:2」とか「パワハラ」って言葉を持ち出してお母さんと話していたのを覚えている。

結局、私は苺プロに入ることになった。

そこは入ってびっくり、かなちゃんの所属している事務所。

事務所で会った時のかなちゃんは可愛い小さな女の子二人と歌を歌っているところだった。

私を見てかなちゃんはぽかんとしていたけれど、私だってかなちゃんがまさかいるとは思ってもみなかった。

最近、かなちゃんが今まで所属していた事務所を移籍したとは聞いていたけれど、移籍先がここだなんて夢にも思わなかった。

ちらっとおじ様を見ると、悪戯が成功した子どものように笑っていた。

やられた。

まんまとおじ様の思惑通りにびっくりしたことが悔しかった。

だけど、それ以上に嬉しかった。

私のためだったんだ。

おじ様が必死にお母さんと話し合っていたのは、私をおかしな事務所に入れないようにするため、それから私を苺プロに入れるためだったんだ。

 

「俺はかなちゃんのファンだけど、女優黒川あかねのファン第1号でもあるからね」

 

リップサービスなのかもしれないけれど、その言葉は泣きそうになるくらい嬉しかった。

 

「ロリに目移りしてんじゃないわよ先生。奥さんに刺されるわよ、鳩尾のあたりを」

「怖ぇよ。箇所を具体的に指摘するなよ」

 

かなちゃんは少し面白くなさそうだったけれど、きっと自分のファンが奪われることで、自分の必要性が下がることが怖いんだろうなと、今の私にはよくわかった。

かなちゃんは可愛いなぁ。

 

 

 

 

 

【後日】

 

「この前の生放送見ましたかおじ様」

「ああ、録画してあるから見るか?」

「是非!」

「ああ、ここだな。歌詞間違えてんのな。ライトでわかりにくいが、一瞬顔色変わってるよな」

「音程が一回ズレるんですよね。でも、その後すぐに立て直したのは流石はかなちゃん」

「生放送ですぐにミスを頭から消して軌道修正するなんて、なかなか難しいだろうに」

「それに、歌のレッスンの成果が出てるんですよね。今CD音源聴くと全然別物っていうか」

「だから今企画が出てるんだよ。ピーマン体操リバースって」

「なるほど。かなちゃんの現在の歌唱力でもう一度ピーマン体操をリリースするんですね」

「しかも、8歳のかながあの恰好をするんだ」

「ギリギリですね」

「ギリギリだな」

「でも、バラエティー適性が認知されてる今のかなちゃんなら恥ずかしがりつつも最高のパフォーマンスを見せてくれるんじゃないですか」

「そこらへんは心配してないな」

「でも、かなちゃん凄く恥ずかしがりそうですね」

「なんだかんだで引き受けてくれるとは思うけどな」

「羞恥心を抑えながらピーマン体操をするかなちゃんですか…」

「いいな」

「いいですね」

 

「アンタら、人の家(雨宮家)で人のライブシーン見ながらオタトークするのマジで止めてくれる?ホント、頼むから…」

「よう、かな。ピーマン!(挨拶)」

「かなちゃん、ピーマン!!(挨拶)」

「ちょっと二人ともツラ貸しなさい」

 

 






●雨宮吾郎(35)
泣きじゃくる黒川あかねと遭遇。かなの好感度修正余裕でした。
ギャラ8:2で搾取する事務所にあかねを入れてなるものかと奔走。
とりあえず、恋愛リアリティーショーに出る可能性の芽は潰さないとね。
自分の見てないところでアイキャンフライされたら寝覚めが悪い。
有馬かなファンクラブ会長(副会長はあかね)であり、黒川あかねファンクラブ会長。
有馬かなファンクラブは公式に存在するが、歌やバラエティー進出を挙げて、落ち目と揶揄するような奴らは本当のファンじゃねーとばかりに、雨宮吾郎と黒川あかねによって立ち上げられた真のファンクラブ。主な活動は雨宮家での有馬かな出演番組、ドラマ、バラエティー、歌番組を鑑賞しつつ、改善点を分析しつつ彼女の成長を論じる。有馬かなの目の前で。

あかねを「クロちゃん」と呼ぶのは、星野アクアの元カノのあかねとは違うというケジメ。


黒川あかね(8)
かなちゃんと同じ事務所に入って、仲良しの雨宮のおじ様と楽しく推し活。
緻密な役柄の研究と解釈に裏付けされた解像度を基に、のびのびとした演技力でララライの将来期待のエースと目されている。
元劇団員ということで、カミキヒカルと会ったことがある。
その際の感想は「この顔で中身がおじ様みたいだったら良かったのになぁ」であった。


有馬かな(8)
ドラマにバラエティーに歌番組と、精力的に活動しているが、そこは少女の体調管理に敏感な壱護社長、かなちゃんの睡眠時間は確保されています。
ゴロー先生が自分以外の幼女も推しにしたことで、「この人、いつかお縄に付かないといいけど…」と雨宮母娘が母子家庭になる未来が来ることを危惧している。誤解だよ。
空いた時間にルビーとエメラルドの歌の練習に付き合ってあげている優しいお姉ちゃん。
「ルビー、お前その歌唱力でアイドル目指すってマジか」とルビーの歌唱力に戦慄。
エメラルドは多少上手いが、「ま、所詮はどんぐりの背比べね」と鼻で笑ったところ、エメラルドの見事なレイン・メーカーが炸裂した。


雨宮ルビー(3)
推し(アイ)にダンスを見てもらい、推し(ゴロー)にキスをしてもらい、推し(アイ)に抱っこしてもらい、推し(ゴロー)と一緒に寝る生活を満喫。
日常生活が推し活という生まれながらの強者であり、生まれた理由が推しが推しに寝取られた結果という生まれながらの上級者。
将来は勿論アイドルになるのが夢。
伸ばした髪をパパに乾かしてもらうのがお気に入り。

有馬かなトークであかねと盛り上がる様を見て、彼女の瞳は何処までも深く黒く昏く染まった。

「せんせ…推し増しにも程があるよ?」


雨宮エメラルド(3)
乳臭いガキ(ルビー)を呆れつつも見守る大人のレディー(3歳)。
女は雌豹!
雌豹なら紫!!
とばかりに豹柄とスケスケ紫の子ども用パンツをポチッた結果、家族会議。
前世の兄との関係を知っているため、兄(現父)が黒川あかねを事務所に連れてきた際には、110番を押すべきか暫し悩んだ。
その後、節度を守って仲良く推し活をする二人を見て一安心。

「信じてたよおにいちゃん」


雨宮アイ(23)
黒髪美幼女あかねちゃん登場に、夫への嫌疑を深める。
フレッシュか?フレッシュがいいのか?20過ぎたら旬が終わってるのか?
「ローティーン以下はさりなちゃんが最推しだから安心してくれ」というゴローの一言により、ひとまず納得。


その弁明を聞いていたルビーとエメラルドはニチャァァと笑っていた。


エメラルドが雌豹女児パンツをゴローのアカウントでポチッたせいで、雨宮家では被告人ゴロー、弁護人不在、即時判決が下される実質魔女裁判が開かれた。
起死回生の一手、「社長がかなに履かせたらどうかって、この前の飲みの席で言ってたんだ」と酔い潰れた社長にすべての責任をおっかぶせる神の一手。
社長は暫くアルバイトの斉藤君になった。
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