さりな「どうしたのせんせ?」   作:FOOO嘉

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アイちゃんは普通の女の子です。



アイドルの「天才的なアイドル様」までの小刻みなリズムに合わせた凄まじき上下運動誉高い。オラ、パパになんだよあくしろよ。

愛されることを知らなくても、愛することを知らなくても、いつか知ることが出来る。

そう信じて生きてきて、裏切られても頑張って、苦しくても頑張って。

そしてとうとう私は出会うことができた。

私を愛してくれる人。

私が愛せる人。

涙が出るほど幸せだった。

眩暈がするほど幸せだった。

覚めない夢のように幸せだった。

幸せ過ぎて怖いくらいに幸せだった。

だから、私は自分がちゃんと愛せているのかよく考えていなかったのかもしれない。

愛されることも愛することも知らない私は、上手に愛されるための上手な愛し方を知らなかったのかもしれない。

だから、ゴローは嫌になったのかもしれない。

私に飽きたのかもしれない。

それともうんざりしたのかもしれない。

もっと、若くて、愛されることが上手くて、若くて、愛することが上手な子に惹かれたのかもしれない。

 

そう思うだけで、涙が出て、身体が震えて、足元から地面が無くなったように、奈落に落ちてしまうような絶望感に襲われた。

 

 

 

「アイ…これはどういうことだい?」

 

ゴローはいつものように、穏やかな眼差しで私を見つめる。

ベッドの上で、ゴローのお腹に圧し掛かる私を、彼はただ静かに見上げる。

私の大好きな知的で優しくて、何処までも深い眼差しに、それだけで身体の奥が熱くなる。

そう、たったそれだけで、私の全身が彼を求めてしまう。

彼無しではいられないほどに、私の身体は隅々までゴローの愛で満たされてしまった。

だから怖いのだ。

 

「ゴロー…最近、私のこと構ってくれないよね?」

「そんなことないだろう?」

「あるよ」

「僕はいつだってアイを」

「ウソ」

 

ぽかりとゴローの胸板を叩く。

 

「ウソじゃないよ。僕がアイにウソなんてつかないってわかってるだろ?」

「ウソウソウソ!ウソだもん」

 

ぽかりぽかりと何度も叩く。

彼の引き締まった身体には、私の癇癪なんてルビーやエメラルドがじゃれつくのと同じようなものだってわかってる。

ゴローはいつも私のことを「可愛い猫みたいだね」って言ってくれる。

彼にそう言われて、頭を撫でられると、私は飼い猫のように甘えてしまう。

夫婦は対等であるべきなのかもしれないけれど、私は抗えずにいつも彼に甘えて、そして甘やかされている。

ゴローにとって私は子猫に過ぎないのかもしれない。

だから私がぽかぽかと殴っても痛くも痒くもないことはわかってる。

だけど、そうせずにはいられない。

愛を知らない頃には我慢できたことが、愛を知ってから我慢できないことが増えた。

自分の中に容易く呑み込んで、笑顔の仮面で誰にも悟られることがなかったような悲しみ一つ一つに、感情が抑えきれなくなってしまった。

不満を言わずにいられなくなって、それを彼にぶつけてしまわずにはいられなくなってしまった。

愛を知ったことで、私は弱くて、幼くなったのだ。

いや、もともと、私は大人なんかじゃなかった。

子供のまま大きくなってしまったんだと、こんな時に私は自分の歪さに気付いて、うんざりする。

ただ、ゴローと出会って、彼に包まれて、子供のままでいることを許されているうちに、勝手に大人になったと思い込んでしまったのだ。

彼の言う通り私は「可愛い子猫ちゃん」のままなんだ。

 

 

「かなちゃんとおままごとやってたよね!かなちゃんがママ役でゴローがパパ役!!」

「いや、それは」

「あかねちゃんと楽しそうにお喋りしてたのも知ってるんだからね。夜遅くまで通話してたじゃないの!!」

「あれはだって」

「それだけじゃない、この前はMEMちゃんと二人きりで個室で色々してたのも私知ってるんだからね!!」

「待て待て待て、それは…」

 

 

ゴローの言い訳を遮るように彼の唇にそっとキスをする。

これも彼に教えてもらったことの一つ。

言葉をキスで封じる、彼の手で大人の女にされた私の知る、大人っぽい振舞いの一つ。

ゴローは眉を寄せて私を見つめる。

きっと駄々を捏ねる子供に手を焼く親というのはこういう顔をしているのだろう。

心がちくんと痛む。

彼にこんな顔をさせたいわけじゃない。

困らせたいわけじゃないのに、口をついて出るのは些細なヤキモチ。

だけど、言葉にしてから初めて気づく。私はそんな些細なヤキモチの積み重ねで今、こうしてみっともなく取り乱しているのだ。

 

 

「私がゴローの一番なんだから…」

 

 

一息にシャツを脱ぎ、ベッドの下に放り投げる。

 

 

「私以外の子を見るなんて、絶対許さないからね!」

 

 

未熟で、幼い私は、こうすることでしかゴローを繋ぎ止められない。

その夜、私は泣きながらゴローと身体を重ねた。

 

彼は、優しくそんな私の涙をぬぐって、悲しみを受け止めてくれた。

 

 

 

 

 

目を覚ますとゴローの姿はなかった。

時計は昼近くを指していた。

スマホを見ると、ゴローからのメッセージが一件。

 

 

『よく眠ってたから、起こさずに行くよ。子供達も一緒に事務所に連れていくから。今日はオフだし、ゆっくり休んでて。ご飯はラップして冷蔵庫に入れてあるから。味噌汁もあるから、温めて食べるように』

 

 

彼らしい簡潔で、それでいて優しさと思いやりに溢れた文面に心が熱くなる。

心地よい気だるさと充実感が腰回りに感じる。このまま二度寝をしたい欲求が湧き上がるけれど、せっかくのオフに家に一人きりじゃ味気ない。

というか、ゴローとエメラルドとルビーが事務所にいるんだもん、私だけのけものみたいなのは寂しい。

そういえば『寂しい』なんていつから、ハッキリと自覚するようになったんだろう。

ゴローと出会う前から感じていたのに、あの頃の私は自分の感情をそう呼ぶことさえ知らなかった。

 

 

ゴローと出会って、私は愛を知って強くなった。

だけど、同時に弱くて、脆くて、もしかしたら子供になってしまったのかもしれない。

 

そうだとしたら、雨宮吾郎という人は、なんて罪な人なのだろう。

 

『国民的なアイドルのアイ』をただの弱い女の子『星野アイ』にしてしまったのだから。

 

ゴローの作っておいてくれた朝食を食べ終えると、足早に事務所に向かった。

 

 

今会いに行きます。

 

アイなだけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、顔色悪いわよ?」

「ん~…寝不足でな…」

 

寝不足の頭では文字も数字も上滑りしていく。

何も頭に入ってこない。

というか、腰も痛い。

事務所のソファは柔らかく、もういっそこのまま眠ってしまおうかという誘惑にかられてしまう。

 

 

「なによ、夜更かし?おじさんってば年齢も考えずに夜更かしして翌日に響くんだから」

「おじさん呼びは…まだ30代だから」

「立派なおじさんでしょ?年齢一桁の私たちから見ればおじさんじゃない。ていうか、黒川あかねにもおじ様呼びされてるのに、今更何ショック受けてるのよ」

「おじさんとおじ様の間には、分厚くて高い壁があるんだよ…」

 

話が聞こえていたのか、事務机で作業をしていた壱護さんが深く何度も頷いていた。

アンタをおじ様呼びする子いるのかよ。いくらか払ってのプレイとかじゃなくてか?

 

「もう少し自分の年齢を考えなさい」

「考えてるつもりなんだけどね」

「自分が思ってるより若くないのよ先生は。医者の不養生って言葉知ってる?」

「肝に銘じておきます」

「よろしい」

 

ふんと、鼻を鳴らすとかなは台本に目をやる。

ぴしゃりとした物言いは俺の記憶にあるかなと変わらなくて、年齢は全然違うのについ嬉しくなる。

言葉はぶっきらぼうながら、かなの優しい気遣いにうっかり抱きしめてしまいそうになる。

危ない危ない。

素直度が俺の知ってる世界のかなより上がっているロリかなの破壊力にはいつもひやひやさせられる。

推しが性格も身体も可愛くなったら更に推せるよね。

だけどね、仕方ないよね。

だって、推しが可愛いんだもん。

推しが自分の傍で、めちゃくちゃ可愛いこと言ったら、それはもう壊れるて。

 

 

「そういえば、部屋が煩かったわね。アイとケンカでもしたの?」

「ケンカ…というか…」

「?」

 

何をしていたかなんて言える訳がない。

相手は8歳児。

ナニをしてたなんて言えるか。

 

「かなちゃん、ふうふにはね、いろいろあるんだよ」

「色々って何よ」

「かなちゃんにはまだ早いか~」

「3歳児のくせに…ちょっとルビー。アンタの姉やっぱり年誤魔化してるでしょ」

「うちのおねえちゃん、心はおばさんだから」

「ルビー、後で面貸しなさい」

 

 

俺が思ってる以上に、うちの天使ちゃん達はおませさんらしい。

今度から、もっと音には気を付けないといけない。

ていうか、あのマンション壁厚いんだけどなぁ…

 

 

「なんだ、先生。夫婦仲は相変わらず良好かよ」

「社長、子供の前だから」

 

良好ではあると思うんだけどねぇ。

たまにアイは不安定になる。

昨日がまさにそれだった。

夕食後、妙に眠くて横になっていたらいつの間にか眠ってしまった。

 

 

『ゴロー…最近、私のこと構ってくれないよね?』

 

 

んで、起きたら奥さんが跨ってたわけよ。

シャツ一枚の薄着でね。

そう、シャツ一枚。

下にも何も履いてないの。

ムーミンママが裸にエプロン一枚なのに対して、うちのママは裸にシャツ一枚よ。

目が合うと、アイの頬が上気して、その反応はもうエロ可愛いんだけどさ、跨ってるところがね、うん。

なんていうか、びっしゃびしゃ。

じょびじょばっていうかね。パブロフの犬みたいなアレね。

 

アイちゃん23歳だものね。

若さ全開だからね。

全開っていうか、全壊。

 

僕はね、構ってないなんてこと全然ないんですよ。

っていうか、その前の夜だってね、愛し合ったわけですよ。

ただ、最近仕事が忙しくてめちゃくちゃ疲れてたので、普段3回のところを2回くらいで勘弁してもらってただけなんですよ。

だから訴えたわけです。身の潔白を。

僕はいつだってアイを愛してると。というか、時間的にも体力的にもアイに完全に縛られてるわけなんだが。

 

『ウソ』

 

ドスっとアイさんの拳がめり込みましたわ。

アイドルって体力凄いの。もう、マジで。

アイは元アイドルだけどレッスンも走り込みも欠かさないし、その上でタレントやってるから、衰え知らず。

 

『ウソじゃないよ。僕がアイにウソなんてつかないってわかってるだろ?』

『ウソウソウソ!ウソだもん』

 

げんこつっていうか、ハンマーパンチ。

MMAのパウンド。

B小町だときゅうぱんも得意だったかな。いつだったか、何が原因か分からないけど、B小町がケンカになった時、きゅんぱんが見事なパウンドをメイメイに食らわせてたっけ。

結局、一瞬の隙を突いてメイメイの足関節で形勢逆転…からの、乱入したアイのボマイェが二人を沈めたわけだが。

アイはあの時にちゃんと見て学習してたんだね、きゅんぱんのパウンドを。

流石は才能と学習能力の塊。

ゴロー感服。

 

俺はたまにアイのことを「ネコ科の動物だねまるで」と呆れ半分称賛半分に言う。

俺も星野アクアだった頃に「豹のようにしなやかで色気がある」と言われたことがあるが、アクアの母でもあったアイならばさしずめ黒豹だ。

アイはまさに黒豹だ。

美しく、しなやかで、色気があり、強く、狂暴で肉食だ。

骨までしゃぶりつくすどころか、ボリボリいかれるレベルだ。

僕がそうアイを言うときは大体ギブアップ寸前なので、宥める為にアイの頭といい、喉といい、背中といい、脇腹といい、とにかくなでる。

おーよしよしよし、おーしゃしゃしゃと。

 

そんな我が家の黒豹ちゃんがご立腹なわけで、もう、お腹の上でドスドスグチャグチャニチャニチャブッシャーァァァなわけだ。

どったんばったん大騒ぎ。

アイちゃんは髪を振り乱して、嫉妬の限りにぶちまける。まぁ、そんなアイも可愛いのだけれど。

いや、ぶちまけるっていうのは言葉をね?

 

 

『かなちゃんとおままごとやってたよね!かなちゃんがママ役でゴローがパパ役!!』

 

いや、それは君乱入してきて、ママからパパを寝取るパパの会社の部下役やってかなと大喧嘩してたよね。

 

『あかねちゃんと楽しそうにお喋りしてたのも知ってるんだからね。夜遅くまで通話してたじゃないの!!』

 

あれはだって君ずっと隣で聞いてたじゃないか。何もやましいことないの知ってるじゃないの!

 

『それだけじゃない、この前はMEMちゃんと二人きりで個室で色々してたのも私知ってるんだからね!!』

 

配信の機材の設定を手伝ってただけだから!!

その後の配信ゲスト君だったでしょ!!

言い訳というか、真っ当な弁明を言おうとしたら、噛み付くようにキスをされたよ。

キスっていうか、貪るっていう行為よねあれ。

ずじゅるるるるってキスは音立てないよね?

言葉どころか息すら塞がれたんだけどね。

 

『私がゴローの一番なんだから…』

 

すっかり汗ばんだシャツをアイが脱ぎ捨てた時もう観念したね。

黒豹のスイッチが入ったんだなってわかったもん。

もう舐められるわ噛まれるは吸われるは凄まじき上下運動だわ。

15分無制限ラウンドだわ。

お腹いっぱいになられた黒豹ちゃんが眠りにつく頃には朝ですよ。

ええ、満足してくれたなら良いんですけどね…

 

 

 

 

「くぁ…っ」

 

何十回目かわからない欠伸がつい漏れてしまう。

並の30代より若作りだとは思ってるが、20代前半の女の子の体力に張り合うと、やはり無理が祟るわけで。

というか、今でこれなら30代のアイの性欲って……わ、わぁ…

 

「先生」

 

少しだけ慄き泣きそうになっていると、くいくいと袖を引かれる。

 

「どうしたかなちゃん?」

「先生、やっぱり少ししんどそうよ?」

 

かなが眉を寄せて心配そうに見上げてくる。

こいつは俺がアクアだった頃もルビーの体調を気に掛けてくれてたな。

意外と面倒見が良い子だと思ってはいたが、恐らく自分がかつて味わった苦しさや辛さを知ってる人間に味わって欲しくないのだろう。

要は、優しさの示し方が少し下手くそなだけなのだ。

意地っ張りで不器用な子なのだと最近になってわかった。

本当にもっと早くわかってやれたら、アクアだった頃にもっと支えてやれていたのかもしれない。

 

 

「少し寝た方がいいんじゃないの?」

 

 

感傷的になっていたせいか、俺を見上げるかなに、嘗ての有馬が重なる。

 

 

「ほら、膝枕してあげよっか~~?」

 

 

自分の膝をぽんぽんと叩きながら揶揄うように意地悪く笑う様は、俺を「あーくん♪」と揶揄い交じりに呼んできた有馬そのものだ。

寝不足と疲労で回らない頭に、今の推しとかつての推しのツープラトンはとんでもない破壊力だった。

 

 

「そうする」

「みゃ゛っ!?」

 

 

秒で横になった。

 

まだまだ柔らかさより固さの残る子供の膝の感触を感じながら膝の上から見上げてみると、有馬は真っ赤になって固まっている。

馬鹿め、大人を揶揄うからだ。

わからせなければならない、疲れ切って脳がバグった大人は時として愚かな行動を突拍子もなく取るということを。

 

 

そう、時としてバグった脳は実に愚かな行動を取らせるのだと、俺自身が深く痛感した。

 

というか、現在進行形で痛感している。

 

 

 

 

 

 

「ゴロー……?」

 

 

 

目を見開いたアイの姿を見やりつつ、俺はそっと目を閉じた。

処刑を待つ囚人というのは多分こんな気持ちなんだろうなと他人事のように思いながら、この一瞬だけは、推しの膝枕に酔いしれることにした。

 

 

 




★雨宮アイ
雨宮家の黒豹。もうええじゃろ?家族計画の見通しは立ったけぇ、第三子を孕んでもええじゃろ?と言わんばかりに、「着けない、休まない、容赦ない」という三つのないを実行。
いずれ野球チームが作れるくらい子供が欲しい。
チーム名は「アマミヤエンジェルス」と決めている。メジャーかな。


◯有馬かな
吾郎先生のことはあくまでも歳の近い父親、或いは歳の離れた兄と思っている。
アイのことは才能もあるし尊敬もしているが、1人の男に入れ込んで何もかも見失いがちなところはちょっと女として余裕が無いっていうか?もう少しそこは男を追いかけるより追われる女たれっていうか?蜜に群がる蝶じゃなくて、群がられる蜜を湛えた花であれっていうの?そんな感じのことを思ってる。
有馬さんもしかして今鏡ご覧になって喋ってます?






・雨宮吾郎
もう、カラッカラ

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