6:00〜6:30 朝の準備
6:30〜7:00 朝食の準備、子ども達と朝食
7:00〜7:45 子ども達の支度後保育園まで送る
8:15 帰宅
8:15〜8:30 妻と共に事務所へ出勤
8:30〜9:00 メールチェック
9:00〜13:00 仕事
13:00〜14:00 昼食
【6:00 起床】
目覚ましが鳴る前に目が覚める。
体内時計であるといえばそこまでだが、どれだけ眠る時間が短くても必ずこの時間に目が覚めてしまうせいで、熟睡出来ている気がしない。
若干の気だるさが残る身体に鞭打って起きあがると、傍らの妻を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出す。
「んん…」
僅かにアイが身じろぎする。何も纏っていないむき出しの白い肌が寝室に差し込む薄明かりにぼうっと浮かび上がる。
赤い実が新雪に零れ落ちたように、胸元に刻んでしまったいくつもの痕が、所有の証と主張しているようで気恥ずかしい。
というか大丈夫だよな。
胸元開ける服とか滅多に着ないし…大丈夫だよね?
【6:00〜6:30 朝の準備】
シャワーを浴び終えると、ベッドの下に散らばった下着とシャツを身につける。
昨日着替えたばかりのシャツだから全然汚れていないので問題は無い。
というか、シャワーを浴びて寝る準備をしたのに「おかわり」を求めてくるウチの奥さんはいささか雌豹が過ぎる。
君「もうダメ…死んじゃう」って言ったよね?
汗だくで寝るのが嫌だからって一緒にシャワー浴びたよね?
何で回復しちゃうのかな…
呑気に眠るアイの頬を軽くつついてから、彼女の下着を簡単に畳んで側に置いた椅子の上に置いておく。
今日は面接も打ち合わせもないので、スラックスと簡単なワイシャツで良いか。
青色のオックスフォードシャツを選ぶ。エメとルビーが選んでくれたやつだ。
スラックスはめんどくさいので黒でいいか。
洗顔と髭剃りを手早く済ませる。髭はあまり生えないから楽でいい。
アクアだったときもほとんど生えなかったっけ。
そもそも髭が濃くなるような年齢になる前に死んだんだけど。
頭がしゃっきりしたところで朝食の準備。
の前に、ベッドの脇のゴミ箱を片付けるのは忘れない。
昨夜の夫婦間コミュニケーションの名残であるティッシュと家族計画(使用済)の山を可燃物の袋に入れて封をしておく。
これをゴミ箱に入れっぱなしにすると大変だ。
この前、ウチの天使ちゃん達がゴミ箱の中身をじっと見ていた時は血の気が引いた。
「パパ、これなぁに?ティッシュがいっぱいだよ」
「ああ、そうそう、ちょっと鼻をかんだんだ」
ルビーは風邪と聞いて心配そうな顔してくれたっけか。
本当に優しい子で、涙が出そうになる。
「この風船みたいなのは何?」
「えっと、膨らませるのに失敗したんだ」
「中になんか入ってるよ?」
「エメちゃん、触っちゃダメだからね」
「えぇ〜どうして?」
エメラルドはこてんと首を傾げていたけれど、心なしか目が笑ってなかった。
紅葉のような柔らかくて小さな手が使用済み家族計画(夫婦円満)を摘んで、澄んだ瞳で僕の顔と見比べる様は血の気が引いた。
心の奥底の更に底をこじ開けて見通すくらい、澄んだ大きな瞳が俺を責めているように思えたのはやましさのせいだったろうか。
いや、やましいことなんて何もしてないんだけど。
夫婦だからね。寧ろグッドコミュニケーションだったから。
アイ構想の雨宮エンジェルスはまだ早いけど。
【6:30〜7:00 朝食の準備、子ども達と朝食】
レタスとトマトとキュウリのサラダを用意する。
エメとルビー用にコーンをたっぷりかけてやる。
昨日の夜に準備しておいたフレンチトーストをバターたっぷりで焼いてやる。
おちび達の分は食パン2分の1枚。俺は1枚と2分の1。
「パパぁ〜おはよう」
「パパ、おはよう!」
「おう、おはよう」
沸かした湯でインスタントのコーンスープを作り終わる頃に、ウチの可愛い天使ちゃん達が起きてきた。
「お、顔も洗ってきたのか?偉いぞ」
頭を撫でてやりながら、僅かに濡れた髪を拭いてやる。
幼い子供の髪って何でこう細くて柔らかいんだろうな。
アイドルや女優が高い金をかけてこまめにメンテをしてもナチュラルな子供の髪質には遠く及ばないのだから。
「パパ、お皿出しておくね」
「ありがとう。でも気を付けろよエメ」
「うん、大丈夫」
「私もやる!やるよパパ!!」
「ルビーもありがとうな」
自分の皿の用意を始めるエメに倣って慌ててルビーも用意し始める。
すぐに姉の真似をする姿は実に可愛い。
まだまだ幼いのにこういうところが本当に手が掛からない。
ルビーは俺の前世と事情が一緒なら(多分)小学生くらいの子の生まれ変わりなのだろうが、それを考慮しても手が掛からない。
エメラルドも同様だ。
もっと二人ともわがまま言ってもいいんだぞ?
エメはまだまだ甘えん坊のパパっ子なのか、お風呂は絶対俺と一緒じゃないと嫌がるから、そういうところは年相応で可愛い。
果たして、パパと一緒にお風呂に入ってくれるのは後何年なのか…考えると泣きそうになるので考えることを放棄する。
「エメは蜂蜜、ルビーはシロップな。今日は生クリームもあるぞ」
「やった〜!!」
「太らないかな」
双子なのに正反対の反応。
可愛い。
無邪気に喜ぶルビーも可愛いが、一丁前に体重を気にするおませなエメラルドもいとかわゆし。
「エメラルドは全然ほそっこいだろう。むしろもっと食べてほしいくらいだ」
「…エメがぷくぷくになってもパパ嫌いにならない?」
「なるわけない。むしろ可愛いから大好きになるぞ」
「その方が魅力的?」
「ちょっとふっくらしてるくらいの方が個人的には好きだな」
「ふっくらしてるエメ見たい?」
「うん、見たい見たい」
「興奮する?」
「するする…ん?」
え、なんて?
「ママも昔よりぷにってるもんね」
「それママに言うなよ。泣くから」
ほっぺたに生クリームを付けながらなんてことを言うんだルビーは。
アイは気にしてるんだから。ご飯食べる量は特に変わってないけど。
本人曰く「運動量を増やしてる」とのことだが。
それについては、同意だが体重が減っているのはむしろ俺のような気がする。
【7:00〜7:45 子ども達の支度後保育園まで送る】
「おはようございます!!!雨宮さん」
「おはようございます、先生」
エメラルドとルビーを保育園まで送り届ける。
いつもながらエメラルドとルビーの先生は明るく活気に満ちている。
「迎えに行くのは4時頃になると思いますが、子供達のことよろしくお願いしますね」
「はい、任せてください!!雨宮さんだけの子供じゃないですものね!!」
そうだ、エメラルドとルビーは僕だけじゃなくアイにとってもかけがえのない宝物だ。
当たり前のことだけれど、こうして言語化されると改めてそのことを実感する。
握られた手から伝わる熱は、そのまま彼女の熱意の表れなんだろう。
「「チッ…」」
エメとルビーが先生を見上げて舌打ちをした気がした。
【8:15 帰宅】
保育園から帰宅すると、アイがフレンチトーストを頬張っているところであった。
「おはよう、アイ」
「ゴロー!おはよ!!」
頬に付いた生クリームを指で拭ってやる。
「あ…ありがと」
「ルビーも同じことしてた」
「もう、子どもと一緒って言いたいの?」
「可愛いって言いたいの」
「……ふへへ」
ルビーとそっくりな顔で、ルビーと同じ振る舞いをしていることが母娘なのだと改めて実感して、微笑ましくなってしまう。
アイはあざとい振る舞いを計算してやれる賢さがあるが、一方でこういう風に自然とあざとくなってしまう時も少なくない。
この子は自分が思っているほどずるくもなければ計算高くもない。
年相応かそれよりもずっと抜けていることも多い。
それは一度目の雨宮吾郎の時、そして星野アクアだった頃には見えていなかった面だ。
この子は周りが「普通ではない子」を自分に望んでいることを無意識に察知して、そう振る舞っているだけで、周りや自分が思っているよりもずっと普通の女の子だ。
「アイ、サラダも食べる。フライドオニオン掛けてやるから」
「う…わかった」
「それから今日のお弁当は野菜炒めと漬け物だから、残すなよ?」
「はーい」
そして、普通に好き嫌いもする。
【8:15〜8:30 妻と共に事務所へ出勤】
アイを乗せて苺プロの事務所に行く。
以前は俺をマネージャーという扱いにして、送迎していた苺プロだったが、最近になってアイはとうとう結婚を公表した。
というか、アイはずっと公表したがっており、何なら東京ドームのLIVEで発表するつもりだったらしい。
流石にそれだと暴動が起こるリスクがあるために止められたらしいが。
というか、それって18歳の頃の話じゃないよね?
それだと結婚どころかつきあってもいなかったから違うよね?
まさか先に既成事実(事実じゃない)を作るつもりじゃなかったよね?
聞いてもアイは目を反らすだけで答えてくれない。なんてFREEDOMな子だ。
今朝はニノちゃんもたかみーも仕事で朝からいない様だ。
旧B小町はそれそれが得意分野で着実に自分のポジションを確立しつつあって何よりだと思うが、せっかくアイの仲の良い友達になれただけに寂しくもある。
社長に挨拶すると自分のデスクに向かう。
ミヤコさんがいないのを少し残念に思う。昨日からかなの遠方でのロケに随伴してそのまま泊まっているから仕方がないのだが、前世で母のように慕っていたせいか、顔を見れないと少し寂しいなと思ってしまう自分はもしかしたらマザコンなのだろうか。
「ゴロー、ミヤコさんがいなくて残念?」
「まぁ、ちょっと」
「へぇ…?」
奈落のような目をしたアイがちょっぴり怖い。
【8:30〜9:00 メールチェック】
収録に出かけたアイを見送るとメールのチェック。
先日の健康診断の結果が、医師の所見と共に来ていた。
これは後で要確認だ。懸念があるとすれば、幼くしてウチの事務所でもアイに次ぐ忙しさを誇るかなの健康。飲み過ぎの壱護さんは…まぁ一応心配だ。
他にメールは3通。
1通目は鏑木さんからのオファーの依頼のメール。
何で俺のPCにって、それは俺自身へのオファーだからだ。異色の経歴の人間を紹介するプロフェッショナル的な番組だ。俺自身にそんな特筆すべき価値があるとは思えないが、鏑木さんの魂胆はわかっている。俺に取材をすることで必然的にアイやB小町のメンバー、そして有馬かな、MEMちょといったタレントを露出させることが出来る。それもあくまでも俺に対するオファーだからギャラは知れている。こんなオッサンの取材をするだけで、アイ達をタダ同然に番組に出演させられるんだから、コスパが良いにも程がある。
ドラマにサブキャラとして出演してみないか云々は社交辞令だろう。前世では俳優をしていた俺だから、少なからず興味もあるが、そもそもがアイに言われた言葉と復讐の為に志した道だから、執着と呼べるほどのものはない。そもそも今の医者としても一人の人間としてもアイや苺プロの人達を支えられる仕事をおざなりにするほどの意欲はない。
それにしても鏑木さんも酔狂な人だ。こんなオッサンを捕まえてテレビに引っ張り出そうとするなんて。素人がテレビに出て物珍しさで受けを取る時代は終わったというのに。
2通目はかなのお母さんから。
色々問題も多い母親だが、かなと距離を置くことで自分を見つめ返した結果なのだろうか、初めて会った頃に比べて随分と落ち着いた印象を受ける。元々が自己投影や自己愛も強いが娘の才能を信じている愛情深い人でもあったのだろう。娘の近況について色々と尋ねてくる様子に思わず頬が緩む。前世では母親との関係修復を半ば諦めていた有馬を知っているだけに、こうしたところに喜びを覚える。
勿論、俺の知っている有馬と、かなは違うのはわかっている。こんな感情は俺の自己満足でしかない。有馬は俺の知る限り最後まで母親と分かり合う様子はなかった。芸能界という人間の混沌を煮詰めたような場所に長くい過ぎた彼女は人との関係に良くも悪くも割り切ることを覚えてしまった。割り切ると言えば聞こえは良いが、諦めが早くなったとも言える。
今は雨宮家で生活しているかなだが、いつか母親と一緒に生活出来る日も来るかも知れない。
そんな未来に想いを馳せつつ、かなの母親からの「お礼も兼ねて一度お食事でもしませんか」というお誘いに空いているスケジュールを確認して伝えておくことにした。
3通目はMEMのお母さんだった。
MEMのお母さんとは俺のよく知る信頼出来る医師を紹介してからも、頻繁にメールのやり取りをしている。
彼女の体調が心配なのもあって、彼女が構わなければ定期的に連絡をしてほしいとお願いしたのだ。スマホの番号を教えては妙な下心があると疑われかねないので、会社のPCのアドレスを伝えておいた。
メールを見る限りは体調は良好の様だ。
MEMの母親からも「お礼も兼ねて一度家にいらしてください。息子達もお会いしたいと言ってます」というお誘いがあった。確かに、最初に面談して病院に口利きをした医師としても、姉の職場の人間としても、弟君達は俺から聞きたい話が山ほどあるのだろう。空いているスケジュールを確認して伝えておくことにした。
メールのチェックを終えると、仕事に取りかかる。
送られてきた診断結果に目を通していく。かなの健康は一応問題ないが、若さで乗り切れている部分もあるかもしれないので、後でかなからもヒアリングが必要だ。
かなの睡眠時間と食事にはかなり気を付けているから、俺の知る有馬より将来的には発育が良くなるかもしれない。
しかし、集中するときにおしゃぶりをくわえているのを見たことがあるから、メンタル面についての懸念は残っている。
それを見た黒川がかなのママになろうとしていたのは、メンタルの問題なのか性格の重さなのかわからないが、推しと推しが仲良くしてくれているのなら、まぁ、悪くないかな…という厄介オタクな自分もいる。
それから壱護さんの肝臓の数値がちょっと良くない。
あの人ストレスと飲酒量が比例するからな。
もしあの人に何かあると、この苺プロを支えていくのはミヤコさんになる。俺の知る苺プロよりも規模がデカくなっているこの事務所の社長という重責をミヤコさんの細腕に担わせる訳にはいかない。
ミヤコさんのためにも、苺プロのためにも壱護さんには健康でいてもらわないといけない。
有馬かなに加えMEM、黒川あかねが所属することになった苺プロは嬉しい悲鳴を上げている。
女優から子役、バラエティにも相性が良いタレントに加え、アイがきっかけで繋がっていた劇団ララライとのパイプも黒川が入ったことで強固なものになった。そしてネットアイドルのMEMちょをかわぎりにネット分野にも更に力を入れていくつもりだ。
ネットといえば、ミヤコさんがスカウトしてきたダンスの振り付け師をしていた「彼」だ。スカウトというかミヤコさんに惚れ込んで移籍してきたのだが。元々B小町のトレーナー兼振り付け師として声を掛けていた彼だったが、せっかくなのでとMEMのアイディアで、ファンが踊れるような振り付け動画も上げることになった。
とても紳士で仕事に妥協を許さない信頼出来るプロフェッショナルな彼だが、唯一の欠点として、人前に顔を晒すことが恥ずかしいらしい。
レッスンで教えるのは平気だが、自分に向けられる視線が「観客」のものになると話は変わる。
そんな彼に「だったら被り物でもしたらどうかしら?ヒヨコとか可愛いんじゃないかしら」と女神ことミヤコさんの一言。
ぴえヨンの誕生である。
いやいや、それがきっかけだったのかよ。ミヤコさんスゲーな。ドル箱スターの誕生だよ。
【9:00〜13:00 仕事】
頼まれていた動画の編集作業を行う。
今日はMEMのコスメチャレンジとニノのダンス動画。
拙いコスメに悪戦苦闘するMEMの姿に微笑ましさを覚える。
ニノは久々のダンス動画だが、アイドル引退後もレッスンを欠かしていないせいかダンスに衰えはない。声優業において知名度が上がりつつあるニノだが、顔出しの動画の需要は声優という職業に関しても年々高まってきているため、かなりの視聴数が見込まれるだろう。
演じているキャラのコスプレをしてダンスをさせたらどうかという壱護さんのアイディアは些か親父臭いと思うものの、ニーズは高そうでもある。
社長は僕から頼めば二つ返事だと笑っていたが、そんなに汚れ仕事を僕に押しつけたいのだろうか。
通常のユーチューバーであれば自分で編集をするか、編集を依頼するのであろうが、コストカットも兼ねてウチの事務所では動画の編集作業の多くを俺が行う。
大枠をタレントが考え、俺が精査しながら叩き台を作り、タレントと詰めていき、社長やミヤコさんのチェックをもらうという感じだ。
回りくどいが、以前アイやめいめい、きゅんぱん、B小町の子達それぞれに編集を任せたらカメラアングルの悪さなのか、絶妙に俺が映り込んでしまい、タチの悪い匂わせ動画のような有様になってしまった反省を生かしてこのような体制になった。
一流のタレントが必ずしも一流のクリエイターになれるとは限らない。
そんな当たり前のことを実感したものだ。
アナリティクスを見ると、ニノちゃんのチャンネルは男性視聴者が8割以上だ。
ニノちゃんがB小町時代からのファン層から導線をつなげていることと、アニメファンの層が増えているから男性層が多いのも頷ける。
一方でMEMのチャンネルは男性視聴者が38%に対して女性が62%と、ニノちゃんに比べると明らかに女性層が多い。
コスメやネイルアート、ダンスの動画を上げているから概ね予想通りではある。男性視聴者の大半が20〜30代が多いのが少し嫌なものがあるが。
今後は歌ってみたも上げていくつもりだから、男性層が増えると思うが、それに応じて卑猥なコメントが増えていくであろう。
現に、ニノちゃんのチャンネルには男性視聴者らしきセクハラじみたコメントが多く寄せられている。MEMのチャンネルにしても、高校生が
本人は冗談のつもりだろうが全く笑えないセクハラおやじのようなノリのコメントだ。そういうコメントを削除し、ブロックしていく。
前世でのMEMのチャンネルはリスナーの民度が高く、彼女自身そういう類のコメントを上手く捌いてはいたが、それが悪意に対して痛みを感じないという証左にはならない。MEMは他者の痛みや苦しみには敏感なくせに、自分の苦しみや痛みを隠すことが上手い娘だった。ましてや、今のMEMは16歳になったばかりの子どもだ。だからこそ、大人が事前に悪意から守らなければならない。
痛みを知らなければ強くなれない、過保護にすれば成長は遅れる。
それは正論ではあるが、まっとうな学生生活を送っていれば受けるはずのない悪意をぶつけられるのがこの業界だ。
まだ子どものくせにと侮り見下すくせに、もう大人なのだからと我慢や責任を強いる連中の悪意など経験値に数える必要もない。
そんなものは追々知っていけばいいことだ。
【13:00〜13:50 昼食】
アイのお弁当にいれ損ねた野菜のかき揚げの残りをカップ蕎麦にぶち込んで食べる。
揚げたてサクサクの天ぷらも好きだが、衣がふにょふにょになった天ぷらを浸してもろもろにして食べる天ぷら蕎麦も絶品だと思う。
行儀が悪いが食べながらアイの出演する生放送をチェック。嘗ては社会性の欠片もなかったアイが◯子の部屋にピンで呼ばれるようになるとはな…と感慨深くなる。
『アイさんはご結婚なさってらしたんですってね』
『はいそうなんです。本当は早くファンの皆さんにはお伝えしたかったんですけど、ダーリンがもう少し落ち着いてからにしようって』
『あらあら、ご主人のことダーリンなんて呼ばれてるの?』
『はい!』
初耳です。
『ご主人はアイさんのこと何とお呼びに?』
『んー、基本はハニーですね』
初耳です。
『あと、2人きりだと子猫ちゃんて呼んでくれますね!』
初耳です。
『まぁ、お熱いのですねお2人はとてもアチチな仲でいらっしゃるのね』
『それはもうアチチ過ぎてベロンベロンです』
火傷して皮めくれてますよねそれ?
【14:00】
10分後、トレンドのトップが『ダーリン&ハニー』『2人はアチチ』『子猫ちゃん』『アイの旦那』で占められることになった。
尚、ヒカル君から『アイがハニーなら、僕のことはダーリンて呼んでくれてもいいですよ、ダーリン』とメッセージが届いた。
流石はヒカル君。日本ではハニーは女性に対して、ダーリンは男性に対して使うものと認識されているが、本来は共に男女関係なく親しい間柄に使う言葉なのを理解しているのか、と少し感心してしまった。