さりな「どうしたのせんせ?」   作:FOOO嘉

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私は睨みつける。

憎むべき敵を。

生まれて初めてだ。

そうか、これが「憎悪」という感情なんだ。



むにっで むちっで ぴちっで ぷりって みちっですって?

 

 

私は睨み続ける。

 

憎しみを込めて。

 

敵のような存在を見るように。

 

いや、まさに憎たらしいのだ。

 

そう、まさに敵なのだ。

 

憎くて憎くて仕方ない。

 

敵だ敵。

 

白雪姫のお母さんが鏡に「お前の娘の方がフレッシュで可愛いから」って煽られた時はこんな顔してるのかもしれない。

 

別に白雪姫のお母さんの役作りじゃないけど、欲しい答えがもらえなくてふへーふまんなのは同じか。

 

八つ当たりしたくなるという点だと私も白雪姫のお母さんも同類だ。

 

うちの子達はどっちも白雪姫みたいに可愛いんだけどね。

 

それはともかく、私は鏡に写る私を睨みつける。

 

赤をメインカラーにピンクのミニスカートが特徴的な私のアイドル衣装。

 

赤いニーソックスなんかがたまらないというファンもいた。

 

それを身に纏った私は、自慢じゃないがやっぱり完全無敵のアイドルだ。

 

ただし、一つ気になる点がある。

 

 

むにっ

 

 

そんな音と共に、赤いニーソックスにかるく乗っかる太股のお肉。

 

 

むちっ

 

 

そんな擬音が聞こえてきそうな、ぱつぱつになったウエスト。

 

おかしい。

 

たしかにタイトなコスではあるのだけれど、それはもっと、こう

 

しゅっとしているものだった筈だ。

 

むちぃって、ぴちぃって、ぷりって

 

そういう擬音ではなかったはずなのだ。

 

それはアイドルからしてはいけない擬音なのだ。

 

 

「落ち着こう私。私はアイ。20歳。完璧で究極のアイドル。

 

 私は雨宮アイ。可愛くて幸せなゴローの奥さんで、可愛い双子のママ」

 

 

ちなみに、先日芸能界復帰。

 

アイドルは引退したので、女優業をメインにやっていく予定だったりする。

 

復帰1作目は五反田監督の映画。復帰1作目だから、端役なんだけどね。

 

本当はもう少しゴローとお家でイチャイチャしてたり、

 

ルビーとエメラルドが大きくなる様を堪能したり、

 

ゴローが他の女に靡いたりしないようにヌチャヌチャしたりしたいのだけど。

 

社長に言ったら「お前3人目作る気かバカヤロウ」と叱られた。悲しい。

 

とりあえず自分が何者であるのかは再確認できた。

 

再確認した上で、私は目の前の現実と戦わなければいけない。

 

赤いコスのせいで、ハムとかソーセージを連想してしまう。

 

私が着てるのは18歳の時、東京ドームのライブで着ていたものだ。

 

2年前。

 

たったの2年前なのに随分昔に思える。

 

懐かしいな。

 

ライブ後にゴローのところに突撃したんだよね。

 

18歳でライブを成功させて、一番のアイドルになったら結婚してくれるって言ってくれてたもの。

 

少し、ゴローの言葉と違ったかもしれないけど、大枠は間違ってないはず。

 

「そんな、だってたかが2年だよ?」

 

鏡の中のむちっ、ぷりっ、ぴちっなアイが愕然としている。

 

出産後の体型が変わらないように、運動は妊娠中からずっと適度にしてきたのに。

 

確かにダッツは止められないけど、毎日パクパク食べてるわけじゃない。

 

育児だってカロリーはかなり使うし、運動量としては結構なものだ。

 

これは何かのオカルトなんだろうか。

 

コスを脱ぐと、そのまま考え込む。

 

締め付けられていた身体が解放の喜びを訴える。

 

もしかして、記憶が薄れているだけで、元々こうだったのでは。

 

そうだ、私は元々こんな拘束具のようなものを着て歌って踊っていたんじゃないだろうか。

 

だとしたら、こんな服をアイドルに着せる佐藤社長は救いようのない変態だ。

 

あの年で金髪で髭でサングラスだったから、怪しいとは思っていたけれど。

 

きっとそうだ。

 

あの変態社長によって12歳から私は苦しくてキツキツな拘束具を着せられて歌わされていたに違いない。

 

そう思うと、そうだった気がしてきた。

 

苦しいことが当たり前になりすぎて気づかなかったんだ、自分がどれだけおかしな環境にいたのか。

 

お母さんとの暮らしが相当イカれてて、ロクデモないものだったと今ならわかるのと同じだ。

 

ゴローとの幸せで甘い生活を送るようになって、私は初めて自分がピッチピチな変態拘束具を強いられていたことに気付けたんだ。

 

 

 

「……だぁう」

 

か細い、気のせいか気遣わしげな小さな声にハッとなる。

 

ベッドの上でエメラルドが私を気まずそうに見ている。

 

そういえば、元々はエメラルドを寝かしつける途中だったんだ。

 

ルビーならすぐにぎゃん泣きして放置されている寂しさを訴えてくるんだろうけど、エメラルドは手がかからない。

 

私はつい愛娘を放置して、忌々しい鏡の中のむちっぷりっぴちっと睨めっこしてしまっていたようだ。

 

「ごめんね〜エメ〜寂しかったよね。ママったら駄目なママでごめんね。自分が太ったなんて勘違いしちゃった」

 

ミントグリーンのベビー服を着たエメラルドを抱き上げると、ミルクの香りのする頭に軽くキスをする。

 

ふわふわのエメラルドの黒髪が頬をくすぐる。

 

そこで、私はエメラルドの小さな手が抱えているものに気づく。

 

それは私のスマホで、何の偶然か、エメラルドは私の画像を開いていたらしい。

 

ちょうど、今私が着ていたコスを身に纏った私。

 

東京ドームライブの記事のようだ。

 

わぁ、18歳の私ってば、やっぱりとってもきゃわ………ん…?

 

そこで私は信じ難いものを目にする。

 

18歳の私。

 

18歳のアイ。

 

「あれ…?エメ…これって私?」

 

「あう…」

 

エメラルドはぷいっと目をそらした。

 

あれ?

 

あれあれ?

 

あれあれあれ?

 

うちの子達はいつだって私が見つめると、うれしそうに目をキラキラさせて見つめ返して笑ってくれるのに、おかし〜ぞ〜?

 

「え?本当に。あ、でも今も変わらないよね?」

 

「ぇ…ぇぁ…だぁ…」

 

赤ちゃんでも気まずいって顔するんだ、と私は母親になって何度目かの驚きを知る。

 

 

むちぷりぴちなんかじゃない。

 

すらっとしてしゅっとしてふわっと軽やかな18歳のアイ。

 

全く、これっぽっちも拘束されている感の無い、寧ろちょっと余ってるんじゃないかってくらい、余裕に着こなしている私がいた。

 

何で

 

何で何で

 

何で何で何で

 

何で何で何で何で

 

何で何で何で何で何で

 

何で何で何で何で何で何で

 

何で何で何で何で何で何で何で

 

答えのない思考の迷宮に陥ってしまった。

 

だって、ふと…ふ、太る理由が全然わからない。

 

これっぽっちもわからない。

 

やばい、泣きそう…

 

「あう…」

 

エメラルドまで心配そうな顔してるよ。

 

ごめんね、ママが泣いたらエメラルドも心配だよね。

 

うん?

 

心配っていうか、気遣わしげなんだけど。

 

こう視線が「ドンマイ」って言ってる気がするんだけど、気のせいだよね。

 

下着姿のまま、へたりこんでしまう。

 

ショックでたてない。

 

当分立ち直れる気がしない。

 

 

「おーい、アイ。ご飯出来たぞ〜〜」

 

「はーーい!!!」

 

 

あ、ゴローが呼んでる。

 

行かなきゃ!!!!!

 

 

「うわぁ…」

 

気のせいか、エメラルドが引いたような声を上げた気がしたけど、たぶん気のせいだ。

 

 

 

「どうだ、美味しいか?」

「う〜ん、おいしい〜〜。ゴローのご飯いつもおいしい〜〜」

「ならよかった」

 

結婚して、子どもを生んでから我が家の料理は専らゴローが作ってくれる。

 

ゴローは元々はそんなに料理が得意じゃなかったらしい。

 

一人暮らしが長いから、それなりに作れると思うんだけど、ゴローが言うにはテキトーらしい。

 

外食で済ませるか、お総菜で済ませるか、そんなところだという。

 

結婚して、私が出産を控えて大変だったのもあるけど、私が美味しそうに食べるのが嬉しくてつい張り切って作るようになったらしい。

 

「この鶏肉のやつ美味しい〜これ、大好き」

「棒々鶏か。前に中華食べに行った時、凄く気に入ってだろ」

「覚えててくれたんだ。あ、この梅肉のソースで食べるのも美味しい」

「さっぱりしてて食べやすいだろ。アイ梅干し何気に好きだもんな」

 

ちょっとぉ〜何このダンナ様〜

 

私が好きな料理覚えてて、ちゃんと作れるようにするとか可愛いんだけど。

 

奥さんへの愛情が深すぎない?

 

こんなに愛されまくってる幸せな奥さんがホントにいるの?

 

え〜どこにいるのかなぁ。

 

どこどこ?

 

どこに〜いるの〜?

 

 

 

 

って、ここだったね☆

 

ここにいたわ〜

 

ゴローにメロメロに惚れられてしまってるお嫁さん、ここにいました〜☆

 

「んん〜〜美味しい〜〜幸せ〜〜ゴローの愛情たっぷりの料理幸せ。私、今めっちゃゴローに愛されてる」

「ん、ま、まぁ喜んでくれて何よりだよ」

 

 

きゃわ

 

 

何なのこの人。

 

私より一回り近く年上の大人の男のくせに、照れてるよ。

 

頬を赤くして照れてるよ。ふざけてるの?キスするよ?

 

ありぴゃんとかめいめいが居たら一服盛って既成事実作りに来るところだった。

 

いや、マジで。

 

あの子達やりかねない。

 

B(ぶっちぎりでヤベェ)小町は伊達じゃない。

 

 

「アイ、ご飯おかわりいるか?」

「食べる〜!!」

「ははは、たんと食べろ食べろ」

 

 

ま、B(蛮族)小町の人達のことはどうでもいいや。

 

ちょっと未開の人達とは私たち夫婦は文化圏が違うからね。

 

秒で私の興味はゴローがよそってくれたご飯に向く。

 

棒々鶏のピリ辛も、すっぱめの梅肉も、白米が進むよね〜

 

ゴローはルビーにご飯を食べさせてやりながら、ぱくぱく食べる私を嬉しそうに見つめてる。

 

料理の隠し味は愛情って、子どもの頃に聞いた時には「バカじゃないの?」って思っていたけど、今は納得しかない。金言だ。

 

私を優しい目で見つめるゴローの愛情を感じながら、ゴローが作ってくれたご飯を食べる。

 

どんな料理よりも美味しい。

 

ご飯が倍は進むね、これは。

 

 

「ぁう…」

 

私を心配そうに見つめるエメラルドと不意に目が合った。

 

エメラルドの目は私と、私の手の中の ─── もう既に3分の1にまで量を減らした ─── お茶碗を行き来していた。

 

どうしたんだろ。

 

そんな心配そうな。

 

というか、エメラルドは「え、マジかコイツ」っていう目で見ている。

 

何を心配してるんだろう。

 

私はご飯を食べてるだけなのに。

 

そう、ただ3杯目のご飯を食べているだけ。

 

3杯目。

 

3杯。

 

3……

 

 

『アンタね、炭水化物って太るのよ?そんなことも知らないの?』

 

先日、現場で一緒になった天才子役とか言われてる子のバカにしきった言葉がふとよみがえる。

 

ゴローが妙に気にかけてたので、出会う前から私の中の好感度がマイナスだった子が言い放ったのだ。

 

ゴローお手製のおにぎり(3つ目)を頬張っている私に向かって、心底呆れたような顔で。

 

 

「あぁぁーーーーーー!!!!!これかぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

「うぉ!?」

「ばぶっ!?」

 

突然の私の大声に、ゴローと、うっとりした顔でゴローに抱っこされてたルビーが同時に飛び上がる。

 

「何、どうしたのアイ?」

「これだったんだよ、ゴロー」

「ちょい、ちょい待ってくれ。何?え?どうしたの」

「だから、ご飯」

「おかわりか?」

「わーい…じゃなくて、これだったんだよゴロー!!!」

 

身振り手振りでゴローに伝える。

 

むちっ、ぷりっ、ぴちぃってところを。

 

ゴローは理解したようにうなずくと、少し困ったように笑う。

 

うっかりしてたと言いたそうな、ちょっと気まずそうな顔。

 

「それは悪かったな。俺ももっと気をつけてやればよかったな」

「う〜〜謝らせたいわけじゃないけど。だって、私がパクパク食べちゃったのが悪いから。でも、う〜〜」

 

そんな、しゅんとされたら、何もいえないよゴロー。

 

本当は「言ってよゴロー!!」って文句を言ってやりたかったのに。

 

 

「…ゴローは気にならなかったの?私が…その」

「別にそもそもお前は痩せてて心配なくらいだったからな。初めて会った時なんて、お前カリッカリだったからな」

「うぅ…」

 

反抗期、警戒心の塊だった頃のやさぐれ星野アイ(12)はちょっと今となっては軽い黒歴史だ。

 

ゴローはそんな私の心情を見抜いてるのか、目を細める。

 

膝の上に乗せたルビーの髪を指で梳きながら、懐かしむように笑う。

 

「昔はお前白米苦手だっただろ?」

「……うん」

「砂とかガラス片が入ってるんじゃないかって、いつも不安になるって言ってたの、よく覚えてるよ。12歳の女の子が当たり前にご飯を食べられないことが信じられなかったし、哀しかった」

 

ルビーが嬉しそうにゴローを見上げる。

 

見下ろしたルビーにほほえみかけると、ルビーがゴローに頭をこすりつける。

 

ルビーの無垢でまっすぐな感情表現が可愛くて仕方ないのか、お返しのようにゴローがルビーに頬ずりをする。

 

ルビーが喜びの声を上げる。声って言うか奇声だけど。

 

まるで親犬と子犬のじゃれあいに心が和む。

 

「その時に思ったんだ。俺が必ずこの子が美味しそうにご飯を食べられるようにしてあげよう…って」

 

すこーんと、頭のてっぺんからお尻まで衝撃が走ったような気がした。

 

「だから、つい、アイが元気で、幸せそうにご飯を頬張ってる姿が嬉しくて、何も言えなかった。ごめんな」

 

この人が、そんな頃から私をそんな風に思ってくれていた事実を、今知ってしまって、そんな新事実をお出しされたら、感情が溢れてしまう。

 

「ずるいよ、ゴロー…そんな風に言われたら何も言えないよ」

「大人はズルいんだよ、わかったら観念してくれ」

「はーい」

 

 

結局、私はおかわりしたご飯はきちんと平らげた。

 

 

だって、そんな激重愛情を摂取してしまったら、私にどう抗えようか。

 

 

抗えるはずがない。

 

 

そして、食後のまったりタイムをゴローの膝の上で過ごしながら、一つの真理に気づいた。

 

 

摂取カロリーを減らせないなら、消費カロリーを増やせばいいことに気づいたのだ。

 

 

消費カロリーをなぁぁ!!!!

 

 

 

そんな訳で、しっかりとしっとりとしっぽりと運動を終えた私は、心地よい気怠さに身を浸しながら、ゴローの胸板に頬を乗せる。

 

私の可愛い天使ちゃん達はそっこうで眠らせた。

 

ルビーはすんごい抵抗してたけど、エメラルドが抱き枕にしてるうちに眠りに落ちた。

 

抱き枕っていうか、何か柔術の寝技にも見えなくもなかったけど。

 

きっと気のせいだろう。

 

聞き分けの良い子どもを持つと"こういう時”非常に助かる。

 

 

 

ゴローの少し骨ばった手が髪を撫でていく感触にうっとりと感じ入る。

 

長い指が私の髪のなかをくぐっていく。

 

ゴローが私の長い髪を好んでいることなんて、とっくにお見通しだ。

 

「なぁ、アイ」

「ん〜?」

「どうして、急に太ってるとか気にし始めたんだ?」

「……だって」

 

 

あれは、ゴローと久しぶりのデートの時だった。

 

子供達をミヤコさんに預かってもらい、夫婦水入らずのデート。

 

私が出演した映画を見て、カフェでお茶をして、他愛の無い話をしていた。

 

ルビーが甘えん坊で可愛いこと、

 

エメラルドがなかなか母乳を飲んでくれないこと、

 

映画の感想とか、この前現場で会った芸人がテレビと違ってめちゃくちゃ静かだったこと、

 

五反田監督のお母さんが現場にまでお弁当を持って来て微妙な空気になったこと、

 

話題は事欠かない。

 

いつも家で一緒にいるけど、外に出かけて恋人気分でデートをしてると、胸の中に甘酸っぱい幸福感で満たされて、私はこういう時間も大好きだ。

 

 

「ゴロさん」

 

そんな私の乙女気分に水を差す声、無粋極まりない声が一気に私の幸せ気分をぶちこわした。

 

「おう、ヒカル君か」

「ゲッ…」

「この辺だったか大学」

「そうだよ。ゴロさんの母校だもん。ゴロさんは今日はお休み?」

「そうよ、見てわからない?ゴローは私とデートなんだよ?」

「……あぁ、いたんだ、こんにちは星野アイさん」

「ヒカル君?」

「こちらこそ、ウチの主人がお世話になってます、改めまして雨宮アイですカミキヒカルさん」

「アイ?」

 

ふわっふわの蜂蜜色の髪を女の子かってくらい長く伸ばした、顔だけはやたらと綺麗だけど、胡散臭い笑みを絶やさない、というか存在自体が胡散臭い男、カミキヒカルだった。

 

「相変わらず詐欺師みたいに綺麗な笑顔だねヒカルくん」

「アイ?」

「そちらこそ、相変わらずゴロさんにべったりだね。今からでも養子縁組したらどうだい?」

「ヒカル君?」

 

はぁぁぁ〜〜〜!!!

 

相変わらず嫌な男だ。

 

嫌な男っていうかムカつく。

 

何か大嫌いだった12歳の星野アイの別進化形態みたいで大嫌いなんだよね。

 

「ふ〜ん、映画見てきたんだね」

「アイが出た映画なんだよ。この子役の子がまた良くてね」

「有馬かなか…人気だよね」

「ああ、最近の俺の推しだ」

「ふふ、ゴロさん若い子ホント好きだね」

「ちょっと止めてくれる?俺が社会的に死んじゃう言い方」

「その時は僕が面倒見てあげるよ」

「怖い怖い。冗談に聞こえないから」

 

たぶん冗談じゃないよゴロー。

 

私がこの子を嫌いなもう一つの理由がこれだ。

 

ゴローを隙あらば奪おうという匂いをひしひしと感じる。

 

ゴローは女の子大好きだけど、年下に甘いし、押しに弱いし、腹が立つことにヒカル君は女の子と見間違える美貌だ。

 

私としては、警戒を怠らずにはいられない。

 

「もちろん、俺の一番の推しはアイだけどな」

「んもう、ゴローったら」

 

隙あらば嫁好きアピールとかさぁ。ホントしゅきしゅき、ゴローへのしゅきが止まらない。

 

「ふぅ〜〜ん…まぁ、アイさんは確かに、凄い才能だものね」

 

ヒカル君はぴりっと裂け目が生じたような笑みを浮かべる。

 

ゴローに向ける美少年を自覚し尽くしたあざとい笑みと凄い違い。

 

そっと、私にだけ聞こえる声で囁いてくる。

 

「でも、ゴロさんの伴侶としては…品性も知性も女性としての重みが足りないかな。

 

 あぁ、身体の方はやたらと重みがありそうですね」

 

 

殺そうかな?

 

 

 

 

「 ──── っていうことがあってね」

「ヒカル君…」

 

アイから聞かされた話に、頭痛を覚える。

 

同時に、心から納得した。

 

アイが抱いたであろう殺意と怒り、反発心。

 

それ故に認めたくない事実を目の当たりにして、必要以上に打ちのめされたのだろう。

 

仲良くなってほしいとは思わないけれど、ここまで険悪になったらなったで、非常に不安だ。

 

本当はアイとヒカル君 ──── カミキヒカルには一生面識無く終わってほしかったんだけれど。

 

「アイ、何度も言うけど、俺はアイが太ってるとは思わないよ。寧ろ、抱き心地は今の方が好きだから」

「ん〜信じる。でも、やっぱりショックだったんだよ。アイドルの衣装がキツかったんだもん」

「入らなかったのかい?」

「何とか入ったんだけど、もうね、キッツキツだったの。足とかおなかとか胸のとことか、むにっで、むちっで、ぴちっで、ぷりっで、みちって感じだったからさぁ、さすがに落ち込んじゃったよ」

 

 

……

 

………何ですって?

 

 

 

むにっで

 

 

むちっで

 

 

ぴちっで

 

 

ぷりって

 

 

みちっですって?

 

 

 

「アイ、頼みがある」

 

 

 

 

 

めちゃくちゃ大人のファン感謝祭した。

 






雨宮吾郎(32)
最近、妻が共演することになった天才子役のプレゼンを1時間かけて行ったところ、嫉妬した妻が引き篭もる。
ララライの新人子役のプレゼンの用意もある。
苺プロのオーディションに応募してきた中学生に見知った顔を見かけたので、どうしようか悶々と悩む。
それを見た妻が嫉妬して引き篭もる。


雨宮アイ(20)
夫の愛する女は自分だけという自信と飽きられたらどうしようかという不安の反復横跳び。
子役のプレゼンをされた時に生まれた疑念は、苺プロのオーディションを受けにきた性格の良さそうな中学生の女の子に夫がご執心なことで肥大化。
ロリコンの夫の心を取り戻すために体操服とランドセルで迫る。
夫の必死の説得でひとまず納得をするが、その夜の夫がいつもより元気だったため、やはり疑念は拭えない。


有馬かな(5)
最近のゴローの推し……と対外的に言ってるが、
ずっと前から推し。(かなちゃんが)生まれる前から推し。








カミキヒカル(19)
東京国立医大生
アイとのフラグをへし折ったゴローが、後に鏑木Pの伝手からララライに関わったことで知り合う。
憎い敵だったが、出会ったのは酷く傷ついてるのに傷ついていることの自覚の無い11歳の少年だった。
ずっと抱いていた迷い、「犯していない罪を問うべきか」は会った瞬間に霧散。
「磯野〜野球しようぜ」なノリで構っていくうちに懐かれた。
自分の命の重みは自分が変わることでしか変えられないっていう当たり前に気づく。
ゴローせんせー安心。
自分のような心に傷を負った子供の力になりたいからとゴローと同じ医学の道を志すようになる。
ゴローせんせーさらに安心。
ゴローせんせーの大学に入学。ゴローは大学名を教えた覚えは無いけど。
ゴローせんせー特に気にせず。
アイは女優としてアイドルとして、類稀な才能を持っていると思ってるが、それはそれとしてゴローの妻としては役者不足だと思ってる。
抜け目だらけのゴローせんせーの伴侶には、自分が納得出来るだけの人間的な重みを持った人であるべきなのでお人好しのゴローせんせーに代わって自分が見極めてあげるべきだと思ってる系男子。
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