自称ヒーラーの男 作:呪いの石仮面
独自解釈入ってます、はい。
「………」
骸の前で佇む青年。
ここは吉野順平の家。
別れてから翌日のこと。吉野順平の監視をしておこうと単独で家へと足を運んだ彼は、そこで異様な気配を感じ取った。
家周辺をうろつく呪霊を祓い、中へと無断で侵入。
部屋を一つ一つ確認していくと……寝室に横たわる女性。
下半身がなく、腰あたりからぐちゃぐちゃと内臓がとび出たそれ。
辺りには氷や保冷剤等ぶちまけられていて腐食が進まないようになっている。
吉野凪。
吉野順平の母親。そんな彼女が虚ろな目で上半身のみの姿でそこにはいた。
吉野順平はこの家にはいないようだ。
早速彼はスマホを取り出し、早速電話をかけた。
「建人さん、乙です」
『……君ですか。どうかしましたか』
「吉野順平の家に今います。そこで彼の母親が死んでいました。残穢が残ってることから呪霊の仕業ですねこれ」
『……なるほど』
そんなことを言いつつ家の中で見つけたとあるものを視界に入れる。
「それから宿儺の指もありました。これに呪霊がおびき寄せられたと思われですね」
『……ほんとですか?』
落ち着きのある声。しかし、その奥底には驚きも混じっている。
「……これは俺の判断ミスです。ツギハギ呪霊と吉野順平は繋がってます。さらに言うとツギハギ呪霊が宿儺の指をこの家に置いたんでしょう」
『……なんのために』
「さあ、それは俺にもさっぱり。……ただ、ユウジと吉野順平の会合がツギハギ呪霊の狙いだとしたら?しかもユウジじゃなくてその中身に用があるとしたら?」
『……宿儺関連ですか』
「おそらくは……まあ、ひとまず俺はこっちで吉野順平の母親の蘇生を試みてみますよ。死んで時間が経っちまってますけど……可能性はゼロじゃないんで」
『……分かりました。何かあればこちらからまた連絡します』
そう言って切れる電話。
さて、スマホを仕舞った青年は早速吉野凪へと体を向ける。
死後10時間は経過してるだろう死体。
死後直後の遺体なら蘇生は楽ではあるが、これだけ時間が経っているとなかなか厳しいものがある。
体に触れ、まずは触診。
この青年、最近の頻発していた変死体に触れていて分かったことがある。
それが、"ガワと中の差"だ。これがなんなのか、正体は分からない。
だが、この死体は今までの変死体と明らかに違う部分がある。
「……普通、だな」
"中が変更されていない"のだ。
つまり、変死体を作り出した者とは違う別の存在による襲撃ということ。
直接手を下していない。その周到さに敵の厄介さに苛立ちを覚える。
ひとまず、そんなものは置いておいて、彼は治療を始めた。肉体の修復は容易だ。
だが"中"がダメだ。"中"が既に死んでいる。ガワを治しても"中"を蘇生させなきゃ人は蘇らない。
今まで蘇生に成功していたのは、"中"が少しでも息をしていたからだ。
しかし、"中"の蘇生技術なんてものは彼には無い。
こんなケースは初めての青年。
だがしかし──
「感謝だな。俺にもまだ伸びしろがあったってことだ」
気合十分に彼は腕まくりをした。
術式を発動。その術式の解釈を広げていく。今までのやり方じゃダメだ。"中"まで浸透させ修復させる。
彼は人の死に無頓着だ。
呪術師という死と隣り合わせの世界で人の死にいちいち反応していたらしんどいという理由で誰が死のうとも気にすることなどなかった。
しかし、こうして気心の知れた仲の人物が理不尽な死に方をしていい気持ちになるはずもない。
歯を食いしばり、額に浮かぶ脂汗。
久しぶりだ。これ程まで術式を酷使して命を救おうとすることなんて。
どれだけ時間が経ったか。
荒れる息を落ち着かせ、汗を拭う。
1時間強。この時間を彼は常に全開で術式を発動させていた。
それの甲斐あってか吉野凪の体は元に戻っている。もちろん"中"も。
「はぁ……はぁ……はぁーー!……マジしんど」
あとは呪力による心臓マッサージを施すだけ。"中"とガワに合計2回。
"中"への干渉は思ったよりも骨が折れた。
人とは少なからず呪力を持っている。
つまり吉野凪にも呪力は宿っており、無意識で誰もが生得領域を持っている。生得領域とは言わば心の中。
彼は自身の術式を応用し、自身の生得領域と吉野凪の生得領域を繋ぎ合わせた。それを経由に吉野凪の"中"へ干渉。修復を施す。
まさしく外科医が大掛かりな手術をするレベルの集中力。
さらに呪力の消費が凄まじい。彼は自身の術式により呪力を確保する術があるため何とかなったが……他の術師にこの一連の作業と同じようなことができるかと聞けばまず無理だろう。
「ヒーラー役としては……はぁ……はぁ……及第点だろ……」
息を整え最後のひと仕事。
"中"とガワの心臓マッサージ。もう一度生得領域を繋ぎ"中"へ干渉。
一度覚えてしまえば容易いこと……とは言いきれない。が、それでも、スムーズに作業を施す。
吉野凪の体が跳ね顔色に生気が宿る。
あとはガワの心臓マッサージと呼吸の確保。いつぞやの映画館で学生に施したような作業を終え、青年は倒れ込むように椅子へと腰かけた。
「いっちょ上がりーっと……あー疲れる」
頭に手を当て、焼き切れそうな脳を回復させていく。
そういえばとスマホを取りだし起動。七海から何か連絡が来てないかの確認を──
「やべ、着信クソ来てた」
治療に夢中で気づかなかった。
10件近くの着信。最後には焦れったくなったのかメッセージアプリにメッセージが飛んできていた。
【用事が終わりましたら里桜高校へ向かってください】
「……ふぅー、仕事が多い」
そんな愚痴を吐くが、自分の判断ミスで起こった不始末でもある。
青年はため息をこぼした。
無理やり?よくわかんない?俺も。
まあいいじゃないですか。原作はあんなに人の心ないんだからこういう作品でくらいハッピーを目指させてください。